トムとフラン   作:AC新作はよ

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というわけでIFルートやで。
各神様組の動向とかこれで開示できるかなって……。


バッドエンド 世界再構築
結ばれなかった、約束


ケンタッキー州のとある地区。

アメリカ随一のウマ娘の人口を誇るこの州において最もウマ娘が少ない住宅街の道路に、一台の黒塗りのセダンが停まる。

脛に疵持つ者が好む車種のその車から、長年切っていないであろう野暮ったい黒髪の青年が降りた。

顔のパーツがバランス良く絶妙に配置された、異性の気を引くであろう端正の顔立ちの青年である。

特にウマ娘受けが良さそうなその顔貌に、180cmを超える長身。しかし目元が隠れるほどの長さの前髪がその魅力を隠している。

──その垂れ下がった前髪の隙間から覗く目は、どうしようもなく虚無を孕んでいた。

久居留 智哉19歳。選抜戦の当日、心に傷を抱えた少女から逃げて三年が経とうとしていた。

 

「トム、今回も助かったぜ。見たか?あのオヤジの顔」

「俺もういらないんじゃねえかなあ兄貴?トムがいりゃあ地上げなんて余裕だぜ」

 

仕事仲間の小男と大男のコンビが、青年の仕事振りを称える。

今回も、青年にとっては簡単な仕事だった。ニューヨーク州エルモントでの青果店の店主に対する恐喝。

目の前で律儀に買った商品の西瓜を握り潰して見せれば、たちまち店主は契約書にサインを書いた。

着の身着のまま渡米し、在留期間が過ぎた青年はとある富豪に拾われた。ウマ娘に匹敵するその身体能力は商売道具として高く評価されている。

ニューヨークでの仕事も一段落し、成果を上げた者への金払いが良い富豪の報酬でまとまった貯蓄を得た青年は、しばらく休みたいと伝えた。

ケンタッキー州を選んだ理由は自分でもわからない。何故かここに来るべきだ、という直感によるものだった。

そして、この地に仕事仲間からの好意ではるばる送迎され、たった今新居に到着したところである。

 

「……すんません、めちゃくちゃ遠かったっすね」

「気にすんな!俺たちも当分仕事はねえからな」

「どうせならケンタッキーでレースでも見るかい?兄貴」

「お!いいねえ!トム、お前もどうだ?」

 

「俺は、いいっす。苦手なんすよ、ウマ娘」

 

小男が煙草を取り出し、舎弟の大男に火を点けさせる。

この男は青年を高く評価すると共に、気に入らない部分があった。

 

「苦手ならそんな顔しねえよ。なあトム」

「……なんすか?荷物解きたいんすけど」

「まあ聞け。お前、足洗え。ここまででかいヤマばかり任せてたけどよ」

 

青年は見るからに一廉の人物である。ここまで堕ちてきては行けない人材だと思っている。

特に、孤児院のウマ娘の幼女を確保する仕事を青年は断固として拒否したのが気になっていた。

たまにアジトで流れるレース中継も必ず横目で見ていた。

英国から弟を探しに来ているという名ウマ娘の勝利インタビューには、明らかに動揺していた。

 

「まだ酒も飲めねえガキがよ、そんなもう人生終わったみてえな顔してんのが気に入らねえんだよ。お前もういいわ」

「あ、兄貴!勝手にそんな事言ったらフィクスさんが……」

「お前は黙ってろ。なあ、やりたい事あるんだろ?お前」

 

煙草をくゆらせながら返事を待つ小男に、青年が言葉に詰まる。

マフィアの幹部の癖に情けなく、頼りない男だと思っていた。

 

「……いいんすか?マフィアがそんな事言って」

「お前をウチの組に入れた覚えはねえ。ガキ使ってイキがってたなんてマフィアの面汚しもいいとこだぜ。足洗ってケジメ付けさせたら恥の上塗りだ」

 

吸い終わった煙草を指で弾いて、男が車のハンドルを手に取る。

 

「ま、考えとけ。携帯は捨てんなよ?」

 

そう言い残すと車を発進させ、道路の向こうに消えていった。

青年、智哉が頭を掻く。富豪の太鼓持ちの、小人物と思っていた相手に見透かされていた。

 

「やりたい事、か。逃げた奴にそんな資格ねえよ……」

 

新居へ歩きながら、物思いに耽る。

苦しんでも、涙を流しても、それでも前を向いて走ろうとする少女から逃げたあの日、自分は過去に縛られたどうしようもない人間だと確信した。

夢を持つ資格など無いと思っている。

それでもまだ、燻る何かが心に残っていた。自分を探し続けている姉の事も気がかりだった。

母には、年に一度だけ一方的な生存報告の連絡を入れている。親不孝者なりの誠意だった。

 

「……裏庭、何かいるのか?」

 

ふと、我に返る。裏庭から何やら地面を踏み鳴らす音と、子供の声が聞こえた。

新居に入らず、裏庭へ向かう。不法侵入者がいるなら対処する必要があった。

そして、異常な光景を見た。

 

「なんだこれ……」

 

裏庭の地面にくっきりとした足跡がいくつも残り、その中心に栗毛のウマ娘の少女が座り込んでいる。

何度も転んだのか擦り傷だらけで、悔しさからか涙を流し、それでも立ち上がり走ろうとする少女だった。

逃げたあの日が智哉の脳裏に浮かぶ。少女から目を離せない。

 

「見てろ……!絶対見返してやる……!絶対……!!」

 

少女が再び、走り出す。

 

「わぷっ!くそ……なんで、なんで走れないの……ボクの足、なんで!!」

 

強烈な一歩目の踏み込みで足跡を残して数歩で転び、また立ち上がる。

 

(これをずっとやってんのか?こいつ……蹄鉄も着けずに、かよ)

 

智哉が周囲を見渡す。無数の足跡が残っていた。

足跡に蹄鉄の跡が無いのを目ざとく見つける。トレーナーとしての本能がそうさせていた。

途轍もない脚力、圧倒的な才能の片鱗を残す足跡。燻る心に火が灯る感覚があった。

それはそれとして不法侵入の裏庭荒らしを咎める必要もあった。流石にこれを続けさせては荷解きどころではない。

少女に近付く。無我夢中の少女は、まるでこちらに気付いていなかった。

 

「おい」

「ひゃわあ!!?あっ、えっ、ごめんなさい!!ここ、誰も住んでないから……」

「住んでなくてもダメだろ……どうすんだよこれ………それよりも、お前」

「な、なに?」

 

「──走り方、全然ダメだわ。足見せてみろ」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

『トレーナーズカップマイル勝者はワイズダン!!これで20戦20勝!!アメリカ芝マイル路線において金字塔を打ち立てました!!来シーズンはこの戦績を引っさげてのダート路線挑戦が陣営の誇る天才、ミスターヴェラスより既に発表されています!来年もこのコンビがアメリカのレースシーンを大いに沸かせてくれる事でしょう!!』

 

「諸君!来年はダートで会おう!さらばだ!!」

 

神出鬼没、正体不明のアメリカ現役最強ウマ娘が観客の声援に応え、素早く踵を返す。

一番に勝利を伝えたい相手、彼女の最も信頼し、慕うトレーナーの元へ。

 

「待て、キサマ!!ダン先輩を……」

「アスリー、待て待て、今はダメだから」

「何故ですかアニ先輩!?アイツ、ダン先輩のトレーナーまで……!!」

「お前、まだ気付いてないの逆にすげーよ……」

 

出走していた後輩がそれを追うも、現役最強の親友が羽交い締めにして止める。

後輩はまだ気付いていなかった。鈍いにも程がある後輩である。

 

「トモに……トレーナー、勝ったよ!」

 

ワイズダンが、彼女のトレーナーである怪人に抱きつく。

それを怪人は、当然のように受け止めた。

二人が公私に渡るパートナーであるのは、公然の事実としてアメリカ全土で受け止められている。

 

<おめでとう。キャラが崩れているぞ>

「おっと!失礼、流石に取り乱してしまった。後で紹介したい子もいるんだ、いいかな?」

<ああ、モルという子だったな。会おう>

 

ウィナーズサークルでちょっとしたファンサービスをした後に、二人で控室に戻る。

怪人のパートナーは独占欲が非常に強い。信頼関係の構築に必要だ、アメリカでは当たり前だ等と言い包め、勝ったご褒美を要求するのだ。

 

「トモ兄、ほら、早く早く」

「毎回やんのかこれ?お前負けないからこれで20回目だぞ……」

「トモ兄、ボクが負けてもいいの?」

 

ダンの目が瞬時に光彩を失い、詰問モードに切り替わった。怪人もとい智哉はこれに非常に弱い。

哀れなヒトミミは現役最強ウマ娘に詰められたら絶対に勝てないのだ。

 

「そうは言ってねえだろ……わかったよ」

「えへへ〜〜〜〜」

 

智哉が腕を開いて待つと、ダンはすぐさまそこに飛び込んだ。

そして匂いをすんすんと嗅ぐ。これが智哉は苦手で堪らなかった。

何で嗅ぐんだよと聞いたら詰められたので、それからは黙って受け入れている。

 

「はい終わり、ライブ行って来い」

「え〜〜!もう!後でね!!」

<もうやらねえよ、いいから行って来い>

 

マスクを被り直し、ダンと別れて外に出る。

これから勝利トレーナーインタビューである。チームに所属していない二人はレースへの登録から取材対応、更には各用具の準備まで各自で行っていた。現在は専属契約したサブトレ二人に任せている。

 

(こうなる、とはなあ……わからねえもんだな)

 

あの日の裏庭での出会い、それから数年が経っている。

痛みは過去に消え、自分なりにやってきた事へのけじめも付けた。

マフィアと戦う怪人とその相棒の謎のウマ娘は一時期ニューヨークを騒がせ、話を聞きつけた大統領まで参戦しての大捕物、そして司法取引によりその罪は見逃されている。顔を出さないという条件付きでトレーナー資格の取得も許された。

たまにやってきてはサインを強請る大統領は頭痛の種である。

自分なりの恩返しとして刑期を終えたとある二人をサブトレとして迎え、充実した毎日を送っている。

 

(……姉貴にも、そろそろ連絡していいかもな)

 

きっと殴られるだろう。きっと泣かれるだろう。しかし、けじめは付けるべきだと智哉は考えている。

姉は現在、引退してチーム・ジュドモントのダンスインストラクターとして活動していると風の噂で聞いた。

あの少女も、教え子だと言うことも。

引きずっていた過去、自分は立ち直れた。

しかし、あの少女はどうなっているのかと最近考えることが増えた。

彼女のレースはいつも追っていた。それをダンに咎められようと。

最新のニュースで見た、彼女の姿が気がかりだった。

 

通路を歩く。その曲がり角に杖を持ち、ワイシャツとロングスカート姿の上にコートを羽織ったウマ娘がいた。

その顔を見て、智哉は動きを止める。

美しい少女だった。枝毛一つ無い、サイドを残し首までで切り揃えた輝く金髪に、整った優しげな青い瞳。小ぶりな耳。

レース中継で見た姿のまま、逃げたあの日から成長した姿の少女が、そこにいた。

 

<……君は>

「ジョー・ヴェラスさん、少しお話してもいいかしら?」

<…………ああ、いいとも。初めまして、ミス・フランケル>

「…………ええ、はじめまして、よね。ミスターヴェラス」

 

欧州屈指の名ウマ娘にして、ジュドモント家の次期当主、フランケル。

14戦11勝、その競走生活の終盤は勝ちに恵まれなかったが、それでも押しに押されぬ英国を代表するウマ娘である。

英国の若き天才と呼ばれるリチャード・バンステッドとは公私に渡るパートナーと言われている。

怪人が、少女の足元を見る。包帯の巻かれた痛々しい傷跡。ラストランの相手との、苦手な重バ場での激戦の末の敗北の結果だった。

 

<……脚は、大丈夫だろうか?よければどこか座れる場所で……>

「ここで大丈夫よ。時間は取らせないわ」

 

沈黙が流れる。何を言えば、何から言えばいいのか、怪人にはわからなかった。

フランケルが口火を切る。怪人が彼女のレースを追っていたように、彼女も怪人のパートナーのレースを欠かさず観ていた。

 

「……今日も勝ったのね。ワイズダンさん、凄いわ」

<ああ、ありがとう。しかし君も素晴らしいレースばかりだった。ここへは観戦かね?>

「ええ、友達も出てたから」

 

他愛もない話。お互い、伝えたい事を避けた会話。

フランケルは、怪人の正体に確信があった。何故か、そうとしか思えないという直感によって。

怪人が、言葉を繋ぐ。

 

<……怪我が治ったら、次走はレジェンドグレードだろうか?次も楽しみに……>

「引退するの。もう走れないから」

<ッ!!?本当、か?>

 

あっさりと言ってのけるフランケルに、怪人の言葉が詰まる。

怪人である事を一瞬忘れた返事だった。

 

「ええ、リハビリしたらまた走れるかもしれないけど……良い事無かったから。もういいの」

<……そう、か。では家を継ぐのだろうか?君は……>

「継がないわ。妹に任せるつもり」

<……何故だ?君は確かミスターバンステッドと……>

「それ、リックお兄様が流したデマよ。怒ってもやめないから……」

 

矢継ぎ早に、フランケルが怪人の質問を潰していく。

自分も躊躇していたが、時間が無いのに何を聞くんだろうこの人という不満が溢れかけていた。

 

 

「わたしね、六歳の頃からずっと好きな人がいたの。気付いたのは最近だけど」

 

 

そして、言いたい事をさっさと伝えた。これだけを言うために、アメリカまで来たのだった。

怪人が首を傾げる。自分だとは考えていなかった。

 

<そうかね。ではその人と?>

「もおおおおおお!!!マスクを取ってちょうだい!!!!」

「あっ!!ちょっ、いきなり何だよ!!?」

 

無理矢理素顔を晒させ、にこりとフランが笑う。予想通りの人物がそこにはいた。

 

「ほら、やっぱりトムだった」

「……何でわかるんだよ。久しぶり、だな、フラン。よく覚えてたな?」

「忘れる訳無いわ。それよりもね、トム。お願いがあるの」

「……いや、マジで何だよ……逃げた事は謝るから」

「あっ!そういえばトム、逃げてたわね!!もう!!!ミディお姉様にも謝って!!」

「姉貴は勘弁してくれねえかな……」

 

辟易とした智哉に対し、フランが笑みを深めた。

本人の自白により、強請るネタが出来た。ならば言うことは一つである。

 

「トム、ミディお姉様に言うわ」

「………その、心の準備ができたら俺から言うんで待ってください」

「じゃあ、雇ってちょうだい」

「……へ?」

「トムの、サブトレにしてちょうだい」

「は?いや待てフラン。何でそうなんの?」

 

意味のわからない要求に、智哉の頭に無数の疑問が浮かぶ。

フランの目が、渦巻いて圧を深めた。

 

「何でわからないの?いいから雇ってちょうだい」

「いや、ダメだろ……家には言ってんのか?」

「言ってないわ。お父様は絶対反対するから」

「言えよ!!!俺あんなでかい家敵に回したくねえよ!!!!」

「いいから!雇って!!!!」

 

フランが目を渦巻かせ、智哉に返答を迫る。

この剣幕に智哉は圧され、思わず返答を返す。

情けない、禍根を残すであろうその場しのぎの答えを──

 

 

 

「だ、ダンの許可が出たら…………………」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

<<英国世代移行フェーズ 実績の確認を行います>>

 

フランケル

戦績 14戦11勝 未達成

所在地 終生をアメリカで過ごす 未達成

ジュドモント当主 ノーブルミッション 未達成

 

<<続いて、フランケルの子孫の誕生フラグを確認します>>

 

クラックスマン……誕生せず

アダイヤー……誕生せず

ハリケーンレーン……誕生せず

インスパイラル……誕生せず

 

<<最後に、各地の移行フラグの確認を行います>>

 

日本……移行可能

アメリカ……移行可能

フランス……条件付きで移行可能

オーストラリア……移行可能

英国……移行不可

 

<<移行不可を確認しました・・・・・・・・・世界を、フランケル六歳時より再構築します>>

<<エラー発生、時空間に干渉する存在あり。ブラックリストに対象を登録>>

<<対象名 エネイブル>>

 

 

<<再構築完了https://syosetu.org/novel/277700/1.html>>

 

 

 

 

 

『これで、わかっただろう?君んちの子羊くんと、その血が必要なんだ』

『いや、君に聞かなかったのは悪かったと思ってるよ。でもね、こうするしかないんだ……』

『ゴドルフィンは大丈夫だよ。権能を使うときだけこうなるから……ヘロドにも、これは見せていないんだ。君に見せる意味を理解してくれ……いやホント、頼むから……』

 

 

 

『次は、協力してほしい。その、良縁は保証する……うん、本当に。だからこの通りだ───エクリプス』




バッドエンドルートはまたそのうち生えるかもやで。
とりあえず正史的なルートはそのうち書きてえなあ……。

これで章間エピソードは終わりで次から日本編書いてきますやで。
開幕からトッムは酷い目に遭うけど……いつもの事やし、ええな!
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