今回の話本当はお出しするのはまだ早いけど…。
私は、フランス生まれのウマ娘。名前はダーバー。
大好きなお母さんと二人、パリで仲良く暮らしてる。お父さんはいない。
お父さんがいないのはちょっと寂しい。でも、お母さんはその分いっぱい私を愛してくれた。
どこにでもいる普通のウマ娘だけど、私には一つだけ、他の子と少し違う所があった。
私のお母さんは、人間の女の人。
私は人間から生まれたウマ娘だった。
珍しい事なんだけど、私以外にもそういう子はいる。二軒隣のお家の子もそうだった。
お母さんから聞いた話だと、先祖返り?って言うんだって。
私のお父さんのお母さんがウマ娘だから、きっとその血が私をウマ娘にしてくれた、とお母さんは言ってた。
私のお父さんって、どんな人なんだろう。
*****
「いってきまーす!」
「気を付けていってらっしゃい、
私は、学校帰りにパリのロンシャンレース場の近くにある、ウマ娘のレースクラブでレースの練習をしている。
走るのは大好き!レース観戦も大好き!
私もいつか、サンアン学苑のウマ娘になってロンシャンレース場で走りたい!私の夢!
ロンシャンレース場の正門前を横切る時、私はいつも立ち止まって、ここにある彫像を見上げる。
フランス最高のウマ娘、伝説のグラディアトゥール。
女神エクリプスの生まれ変わりとまで言われた、フランスの大英雄。
フランス生まれなのに英国の三冠ウマ娘!イギリスのダービーまで勝っちゃうなんてすごい!
お母さんが読んでる新聞で見たけど、本人はまだ生きてるのに自分の像が作られてすごく恥ずかしいんだって。ちょっと笑っちゃった。
かっこいいなあ、私もいつか、ダービーで走ってみたいなあ。
「やったー!一番!」
「むりー!ダーバーちゃん速すぎだよー」
うれしいことに、私はレースの才能があるみたいだった。
たまに負けちゃう事もあるけど、クラブだと一番の方が多い!先生も学苑に行けると太鼓判を押してくれた!やった!
でもこのクラブ、王様がつくったすごく月謝の高いクラブなんだって。
うち、そんなにお金あったのかなあ。
毎月、お母さんにお手紙が届くけど、あのお手紙もなんだろう?
*****
それから数年が経ち、私は念願のサンアン学苑に入学できた。
本当にうれしい!私の夢の一つが叶った!
サンアン学苑は本当に広くてすごい。フランス全土に三つの敷地があって、イギリスのトレセン学院にも負けてない。
しかも私はシャンティイ所属!パリから近くて良かった!
トレーナーはすぐに見つかった。アメリカから来た変なおじさんだけど。
「よし、練習はここまでだ」
「えー!まだやれるよ」
「ダメだよ、ほら帰るぞ。今日も飯食わせてやるから」
トレーナーは、アメリカから来てすぐに私の模擬レースを見に来て、私はその場でスカウトされた。
私、レースで良いとこ一つも無かったのに、一位の子に目もくれずに私の所にやってきた。
変なおじさんだったけど、私もなんとなく、この人がいいなと思ってスカウトを受けた。
このおじさん、本当に変。
「……何で、食べずに私ばっかり見てるの?」
「うん?気にするなよ。ほら、これも食べろ」
「……トレーナーの食べる分、なくなっちゃうよ」
このおじさん、私によくご飯を奢ってくれるんだけど、いつも自分はほとんど食べずに私が食べてる所をずっと眺めてる。
うれしそうな、楽しそうな、幸せそうな顔でずーっと見てるの!変なおじさん!ちょっと恥ずかしいしやめてほしい。
このおじさん、契約した時も変だった。
契約したから、私のお母さんに挨拶しておきたいって家まで来たの!そこまで普通のトレーナーはやらないよね?
しかもね、すっごいお洒落な恰好で、花束まで持ってた。
それで、家でお母さんと会ったんだけど、お母さんもちょっと変だった。
おじさんが、どうしてもお母さんと二人きりで話したいって言うから、私は家の外で待ってたんだけど、挨拶が終わって家に入ったらお母さんが泣いてた。
私はお母さんがひどい事を言われた!と思っておじさんに怒ったら、お母さんは私のトレーナーが見つかって感激しただけなんだって。
「この子をお願いします」って、何度もお母さんは泣きながら言ってた。
大げさだなあ、お母さん。
*****
私の競走生活の一年目は、順風満帆というわけにはいかなかった。
四戦して、三着までは頑張れたんだけど、一着は一度もとれなかった。
悔しい!もうちょっとなんだけどなあ。新聞のレース評論家のコラムでも、私には勝ち負けできる能力はあるって言われてるんだけど。
「うーん……」
「時の運、ってヤツだな……来年は勝てるよ、きっと」
「ありがと……ところでここ、私の家なんだけど」
一年走り切った私は、休暇も兼ねて里帰り…と言ってもシャンティイとパリは近いけどね。ともあれ家に帰ってたんだけど、何故かおじさんも当たり前のようについてきた。なんで?
「おいおい、堅い事言うなよ……レースでこうしたい、とかあるか?」
「
「あー……
学苑入りして競走バになれた私には、新しい夢があった。
名ウマ娘の証!
「あれはなあ……難しいぞ。一説には、ウマ娘が本当に求める物に応えて発現するらしい。欲しい物とかあるか?」
「ダービー勝ちたい!」
「それは欲しい物じゃなくて目標だろ……他には?」
「うーん……わかんない」
私の本当に欲しい物って、なんだろう?考えた事もなかった。
うんうんと唸りながら、色々と考えていたら、お母さんがお料理を持ってきた。
「さあ、夕飯にしましょう……トレーナーさんもよければ」
「ええ、ご相伴に預かれるのならば喜んで」
その日のお母さんのご飯は、いつもより美味しかった。
私の欲しい物って、なんなんだろうね、全然思い浮かばないや。
*****
二年目、クラシック期間に入った私は、まさに快進撃を遂げた。
二連勝からの二着!大きなレースも二つ勝った!
その後の三冠の一つ目は負けちゃったけど……うーん悔しい!
そして今、私は夢の舞台に立っている。
「ほら、緊張するなよ。手を握っててやるから」
「う、うん……ありがと」
おじさんに手を引かれて、私はエプソムレース場の中を歩いている。
ついにこの日がやってきた!おじさんは私のわがまま、イギリスのダービーを走りたいってお願いを叶えてくれた。
おじさんに手を引かれてると、不思議と私は頑張りたい気持ちが湧いてくる。なんでもやれる気がする。
それに、今日の私はすごく調子が良い!絶対勝てる!!
でも、ゲートに入って、いよいよレースが始まるその時、事件が起きた。
「おい、あそこのご婦人!銃を持っているぞ!」
「誰か止めろ!」
「警備員さん!危ない!避けて!」
銃声が、レース場内に響いて、コースを警備していたウマ娘の警備員さんが倒れた。
後でおじさんから聞いた話によると、ウマ娘の警備員さんは一命を取り留めたけど、脚を撃たれて走れなくなった。
警備員さんを銃で撃った犯人は、人間の女の人。
女性の参政権を求める団体の人なんだって。
この時代、選挙権を持ってるのは男の人と、ウマ娘だけだった。私のお母さんも選挙で投票できない。
去年のダービーでも事件があった。その時は女の人がコースに飛び込んで、競走バと接触して亡くなった。
今年の犯人の女の人は、その弔い合戦でこの事件を起こしたんだって。
すごく怖い、なんでこんな怖い事が起きるんだろう。
レースは発走が遅れて、レース場は異様な雰囲気に包まれた。
一番人気のイギリスウマ娘の子は気性が激しくて、警備員さんを撃った女をここに連れて来い、アタシが蹴り殺してやる、とずっと怒ってた。怖かった。
中止になるかも?とは誰も思っていなかった。ウマ娘のレースは、国威発揚の重大な行事でもあるから。
自国の速いウマ娘を示して、世界に大英帝国と女王陛下の威光を示す。イギリスのレースはそういう意味合いもあった。
そしてレースが始まり──私が勝った。
でもなんでだろう、全然うれしくない。
うれしくないよ、おじさん。
*****
その後、私はフランスに帰って、ロンシャンの大きなレースに出る事になった。
私のイギリスダービー制覇は新聞でも一面を飾った!あの日は色々あったけど素直に嬉しい!アメリカでもすごい大騒ぎなんだって。なんでアメリカ?
でも、私のダービー制覇は無かったことになった。
イギリスの偉い人が新しいルールを決めて、そのルールを私が満たしてないから。
誰でもわかる、簡単なルールだった。
人間から生まれたウマ娘はウマ娘にあらず、「半血」である、だって。
私のお母さんは人間の女の人だから、私もウマ娘じゃないんだって。
でも、私はウマ娘のはずなんだよ。力も強いし、足も速いよ。
でもイギリスだと私は人間で、レースへの参加も認めてもらえないんだって。
私の……お母さんを、大好きなお母さんを、否定したな。許さない。
だから私は、イギリスダービーウマ娘なんて呼ばれなくても構わない。
だって私はお母さんの娘なんだから。それが人間だと言うなら、私は人間でいい。
このイギリスの偉い人の作ったルールは、国際社会でとても非難を受けた。
女王陛下はこのルールを自分が外遊中に議会で通されて、すごく大変だったらしい。
最近のイギリスは領土問題を抱えてて、その上で私、他国のウマ娘にダービーを勝たれてしまったから、面子丸潰れになっちゃったからこのルールを急いで作ったんだって。
でもそんなの、どうでもいい。私はただ夢の舞台で走りたかっただけなのに。
レースがもうすぐ始まる。今日はフランス大統領が貴賓席に来てるし、なによりお母さんも応援に来てくれてる!お母さんの前で勝つんだ!
「……考え込んだりするなよ。とにかく目の前のレースに集中しろ」
「もちろん!がんばって……あれ、大統領が、席を立っちゃったよ?レース、はじまるのに」
今日は、1914年、6月28日。
この日、私の夢が終わった。
*****
「いいか、絶対にこの星条旗と、外套を外すなよ?次の検問を過ぎればノルマンディーだ。そこで匿ってもらえる」
「う、うん……お母さん、大丈夫だよね?」
「先に到着してるはずだ……二人とも、俺が絶対に守ってやる、心配いらない」
あの日、ロンシャンの大きなレースの日に起きた事件をきっかけに、大きな戦争になった。
二つ隣の国の偉い人が、ウマ娘の暗殺者に殺されちゃったんだって。
それがきっかけで、ヨーロッパ中が殺し合いの場になった。
暗殺犯は、人間の女の人から生まれたウマ娘だった。
それが、よくなかった。
だって考えてみてよ、人間とウマ娘が殺し合いになったら、絶対ウマ娘が勝っちゃうでしょ?
だから、戦争する国はウマ娘の兵士がいっぱいほしいんだけど、ウマ娘って喧嘩とか、誰かを傷付けるのが好きな子はほとんどいないんだよね。
──だから、人間生まれのウマ娘を徴兵する法律が決められた。
──「半血」は人間だから、徴兵しても良い、だって。
あの、イギリスの作ったルールが、戦争にちょうど良かった。
笑っちゃうよね。みんなあれだけイギリスを非難してたのにさ、ちょうどいいからってみんな法律で決めちゃうんだよ。
もちろん、私も徴兵の対象。違う国の誰かを、殺さなきゃいけない事になった。
だから、私を逃がそうと、おじさんは色々がんばって、私をアメリカに連れて行ってくれようとしている。
おじさん、なんでここまでしてくれるんだろう?おじさんもすごく危ないはずなのに。
戦争が怖くて仕方なかったけど、それもすごく気になってた。
「次!こちらで身分を改めさせていただく」
「よし、俺が話すから、お前は一言も喋らなくていいからな」
「うん……」
ここはまだ戦火の届かないフランス国内だけど、検問がいっぱいあって、逃げようとする「半血」を捕まえようとしてた。
ドイツ軍が強くて、前線にいっぱいウマ娘を送りたいんだって。
二軒隣の家のあの子、大丈夫かな?
「ふむ、アメリカ人トレーナー、と……その娘、と。確かに身元に不審点は無いな」
「ええ、正真正銘、私の娘です。通ってよろしいですか?」
おじさんが用意した私の身元証明は、なぜか兵隊さんも全く怪しんでなかった。
おかしいよね、私はフランス人のはずなのに。おじさんがすごいのかな?
「うむ、通ってよし!」
兵隊さんの許可が出て、私とおじさんは検問を通り抜けた。
よかった……お母さんと会える。おじさんも無事でよかった。
安心したら、外套がちょっと息苦しい。口元だけ開けていいよね?
ウマ娘の兵隊さん達の横を通り抜ける時、私は外套の顔の部分を少しだけずらした。
それが、失敗だった。
「……ダーバー、ちゃん?」
名前を呼ばれてびっくりした私は、慌てて声の方に振り向いてしまった。
──二軒隣の、あの子だった。
「ダーバーちゃん、だよね?どこに行くの?」
「おい、ダーバーだって!?お前がか!?」
「間違いない、ダーバーだ!新聞で見たぞ!!」
あの子の声をきっかけに、ウマ娘の兵隊さん達が、私とおじさんを取り囲む。
みんな、怖い目をしてた、私が憎くて、仕方ない目をしてた。
どうして?私が、ダービーで、勝ったから?
私が、みんなが戦争に行くきっかけになったから?
「お前、逃げる気だな!!お前が、お前がダービーで勝ったから、私達はこんな、こんな目に!!」
「お前だけ!お前だけ逃げるなんて許せない!」
一人の言葉がきっかけで私は、兵隊さんに押さえつけられて、殴られ、蹴られた。
痛い。でも、私は悪くない!私は、私はただ、夢を叶えたかっただけなのに!
「ダーバーちゃん、私ね……」
そして、二軒隣のあの子が、大きな銃を取り出した。
さすがに周りのウマ娘の兵隊さん達が騒めくけど、誰も止めようとしなかった。
「私ね……お花屋さんに、なりたかったの」
知ってる。小さい頃、将来なりたいものを話し合った。
「でも……でもね、来月にはね、訓練が終わって、戦争に行くの、お花屋さんに、なれないの」
虚ろな眼で、ぽろぽろと涙を零しながら、あの子は私に向かって銃を向けた。
その時、私とあの子の間に、誰かが飛び出してきた。
「逃げろ!マ・ピュ……!!」
銃声が一度だけ、空に響いた。
*****
「トレーナー!しっかりして!」
「無事……か?」
「うん、無事だから!トレーナーが、守ってくれたから!」
銃声がして、おじさんが倒れた後、無我夢中で兵隊さんの囲みを抜けた。
自分でも信じられないくらい、すごい力で兵隊さんを引き剥がして、おじさんを担いで必死で走って逃げた。誰もついて来れなかった。
そして、ノルマンディー近くの森の中で、おじさんを降ろした。
おじさん、怪我して、お腹から血が出てるけど……大丈夫だよね?
私だったらたぶん、銃で撃たれてもちょっとくらいなら大丈夫だし……「半血」の人間の私が大丈夫なんだから、同じ人間のおじさんも大丈夫だよね?
「怪我……は、ないか?」
「ないよ!ない!ちょっと殴られたけど、平気だよ!」
「そうか……そうか、よかった、なあ」
おじさん、やっぱり変だよ。
撃たれて痛いのに、なんでそんなに安心してるの?
なんで、そんなに、満足した顔をしてるの?
おじさんの血が、止まらないよ。どうしたらいいの?
おじさんの顔がちょっとずつ、青白くなってる。どうしたらいいの?
目がぼやけて、おじさんの顔がよく、見えない。
違う、もう誤魔化せない。本当は気付いてた。ずっと、わかってた。
「ねえ……トレーナー」
「ああ……どうした?」
「──お父さん、なんでしょ?」
嬉しいのに、なんだか恥ずかしくて、ずっと聞けなかった事。
この人はきっと、私のお父さん。
「はは……なんだ、バレてたのか」
か細い声で、おじさん、お父さんは、返事を返してくれる。
時間が、ない。全部、全部話さなきゃ。
「わかるよ……だってお母さん、トレーナーが挨拶に来ただけで……あんなに泣いたりしないし」
「そう、だな」
「それに、私が……ご飯、食べてるところ……見たがるのも、変だし。父親の顔ってヤツだよ、あれ」
涙をぼろぼろ零しながら、私は伝えなきゃいけない事を、お父さんに話していく。
「私のクラブのお金、お父さんが払ってくれてたんでしょ」
「ああ」
「私がダービーの後…落ち込んでた時も、ずっと私より落ち込んでたよね。あれで私、私がしっかりしなきゃって立ち直ったんだよ」
「ああ」
「さっきの言葉……
「ああ」
「ありがとう……大好き、私の……私の、お父さん」
そこまで話すと、お父さんは私の頭を撫ででくれた。
最期の力を振り絞っているようだった。
きっと、お父さんは最期に、何かを伝えようとしてくれてる。
全部、全部聞かなきゃ。お父さんの言う事だもん。
「いいか……誰も、憎むな」
「うん」
「誰も、恨むな……」
「うん」
「愛する人を見つけて……幸せ、に……」
そこまで言って、お父さんは何も言わなくなった。
安らかな、娘を守り切って満足した、父親の顔をしていた。
*****
それから、ノルマンディーで少し過ごしてから、私とお母さんはアメリカに行った。
お父さんは、フランスで眠っている。お母さんと二人で、海が見える丘にお墓を作った。
お母さんも私もいっぱい泣いたけど、二人ともお父さんの為にも前を向いて生きよう、と心に決めた。
お母さんに、どうしてお父さんだって教えてくれなかったの?って聞いたら、お父さんは私が可愛くて仕方なくて、練習中にお父さんって呼ばれちゃうとトレーナーとして厳しくできないから、私が引退するまでは内緒にしておこうって決めたんだって。またちょっとだけ泣いちゃった。
アメリカに行ったら、一つだけびっくりした事があった。
お父さんの実家、すごいお金持ちのトレーナーのお家だった。お父さんはその家の当主だった。
お母さんも実は、アメリカ生まれなんだって。え、じゃあ私は、アメリカ人ってこと?
お父さんは留学中にフランスでお母さんと出会って、そして恋をして私が生まれたんだって。
でも、お父さんのお家は、お嫁さんがウマ娘じゃないとダメなんだって。
お父さんは最初から家を継がずに弟、私の叔父さんに当たる人に家督?って言うのを譲ろうとしたんだけど、その頃にお父さんのお父さん、私のおじいちゃんが亡くなって、大きい家だから跡継ぎを誰にするかで揉めて、一旦お父さんが当主にならなくちゃいけなくなった。
それで、叔父さんにちゃんと当主を譲れるように家が落ち着くまで、お母さんはフランスにいてもらって、独身のフリをしながら私とお母さんを迎えに行く日を待ってたんだって。
お父さんの実家でお母さんと私はすごく優しく、良くしてもらった。
叔父さんもすごく私に同情的で優しかったし、お父さんのお母さん、おばあちゃんは会ったら大泣きしながら私を抱き締めてくれた。大好き。
アメリカでの生活は全く不自由なく、静かな毎日を過ごせた。家族も増えてうれしい!
何かやってみたい事があったら何でも言いなさい、と叔父さんに言われて、私は自分のやりたい事をじっくり考えてみた。
一つだけ、やりたい事があった。
*****
『……ではここに、ウマネスティ・インターナショナルの設立を宣言します。来賓の方々は是非、万雷の拍手を……』
いくつもの月日が過ぎた。
あの大きい戦争のあと、もう一つ大きな戦争が起きて、ようやくその爪痕が癒え始めた時代。
私は、一度目の戦争の後、フランスに一時戻っていた。
二軒隣のあの子、お父さんを撃った子は、戦争で亡くなっていた。お墓を訪れて、私は花を捧げた。
お父さんは、誰も憎むな、と言っていた。私はずっとその言葉を守り続けている。
フランスでは、私が在籍していたクラブの依頼で、少しだけウマ娘の子供にレースを教えていた。
その教え子の一人の娘がすごいウマ娘になったけど、私にはあまり関係無いかな。
でも、レースを教えるのは私がやりたい事じゃない。本当にやりたい事は今、目の前で実を結んでいる。
私は、アメリカでウマ娘の人権保護団体を設立した。
もう二度と、戦争に巻き込まれるウマ娘も、私のような思いをする子もいなくなるように。
大統領の支持母体でもあるから、結構影響力あるんだよ。
そして、私、
名前はウマネスティ・インターナショナルって言うんだよ。世界中の子供達を、ウマ娘を、守るための組織。
ここから、不幸なウマ娘の子供の為に指導員の派遣もできる。最近目をかけてるノーザンダンサーちゃんも将来はここに入ってくれると言っていた。
あの子が政界に行きたいなら、いっぱい贔屓してあげよう。
*****
そして、それから更に月日が過ぎ、私の人生を全うする時が来た。
悔いは無い。不幸な子が生まれないように、私は全力で取り組んできた。
お母さんが亡くなった時も泣かないように我慢した。私はもう大人だからね。
お父さんの言いつけは概ね守って来たけど、一つだけできない事があった。愛する人、探す暇なかったんだよね……忙しくて。
あ、待てよ、やっぱり悔いはあるや。
最近デビューした、イギリスの怪物って呼ばれてる子。
あの子のレース本当にすごいんだけど、それよりも……。
担当トレーナーの子がね!ちょっと冴えないけどお父さんによく似てるんだよね!!
怪物ちゃんよりもそっちの子ばかり目で追っちゃうくらい、お父さんによく似てるんだ。
隣にいる鹿毛の子によくとっちめられてるけど、ちょっと頼りなさげなのもお父さんに似てる。
ああ、残念だなあ、あの二人のレース、最後まで見たかったなあ。
とか、くだらない事を考えてたら意識が薄れてきた。お迎えが来たのかな。
本当に、満足した人生だった。
戦争の起きない世の中のために、私は尽力できた。はっきりそう言える。
一つ、やり残しがあるのなら……遠い昔の事だけど。
──
私の
競走バとしての私はもう遠い過去のものだけど、私はそこに至れないのだろうか。
望む物……欲する物が、私にあるなら……それは、ただ一つ。
──お父さんに、会いたいなあ。
日本編、結構話数かかりそうだから、帝王賞を区切りに一旦キャラ紹介してもいいですか?主人公とヒロインの現状とかも書いていきたいなって……。
-
いる
-
いらない
-
全部終わってからでいいッス。早く書け。