トムとフラン   作:AC新作はよ

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短いけどキリいいから一旦お出しするやで。
ペース遅いわね、遅い……次はもうちょい早く書きたい……。


第四話 日本の英雄と、その相棒

「ううぅーーーー………!!」

 

ある日の夏休み、とある武家屋敷の蔵の前。

一人の幼いウマ娘の少女が、積み重なった瓦を割ろうと右手を掲げている。

 

「………やぁ!!」

 

裂帛の気合と共に手刀がぺちん、と瓦に振り下ろされるも、一枚も瓦は割れなかった。

 

「んぅ、なんでわれないの……」

 

幼女の耳が垂れ下がり、割れてくれない瓦にうらめしそうな視線を向ける。

そこに後ろから一人の少年が現れた。

 

「あれ?まだ帰ってなかったのか?」

「あ、さっきの……」

 

幼女は、この少年に見覚えがあった。

今日入門した道場で、稽古相手を務めてくれた同い年の少年。

その少年が、幼女の前に積み重なる瓦を見て、呆れた声を出した。

 

「お前、瓦割りはまだ早いだろ」

「……わってみたいの、せんせいみたいに」

 

幼女は母の紹介によりこの道場に入門し、道場主による薫陶を受け、余興として50枚の瓦を一撃で粉々に砕くのを見せられ目を輝かせた。

強いウマ娘に憧れを持つ幼女にとって、道場主は正に強いウマ娘の体現として映った。

だからこそ家族の迎えが来るまで、蔵でこっそりと瓦割りに挑戦していたのである。

 

「……仕方ねえか。じいちゃんも怒んないだろ」

 

しょんぼりと耳が垂れ下がったままの幼女に、軽く頭を掻いた少年は蔵の中に入っていく。

 

「……どこいくの?」

「ちょっと待ってろよ……えーと、あった」

 

蔵から出てきた少年の手には、二つのグローブが収められていた。

瓦割り用の保護具である。

 

「トウカねえちゃんは素手でやってたけど、あれはちゃんとウマ娘の力が使えるようになってからだ。これ着けとけよ」

「う、うん……ありがとう」

 

少年の言う通りに幼女が保護具を身に付ける横で、少年も保護具を手に嵌めた後に瓦の前に立った。

 

「ウマ娘の試割りはコツがあるんだよ、見とけよ?」

「うん」

 

少年が手を掲げ、右足を前に、左足を後ろに開いて構えを取る。

 

「大人のウマ娘は腕の力も強いから、腰から力を伝えるだけで簡単に割れるけど……子供のウマ娘は足から力を伝えるんだ。ウチの姉ちゃんがさ、これ上手いんだよ」

「あなたもおねえちゃん、いるの?」

「おう、お前もいるのか?」

「うん!だいすき!!」

 

姉の話になった途端に幼女は機嫌を直して、嬉しそうに耳をぴこぴこと動かした。余程姉が好きな様子である。

やっと笑顔になった幼女を見た少年はほっと息を吐いた後、右足を上げ、着地と同時に手刀を振り下ろした。

 

「……せいっ!」

「わあ!!すごい!!」

 

少年の手刀で、瓦が左右に分かたれる。

幼女がきらきら目を輝かせ、少年に尊敬の眼差しを向けた。

 

「こんな感じで、足を使うんだ。やってみろよ」

「うん!やってみる!」

 

「オーイ!プイ!帰るぞー!!」

 

そこで、幼女を呼ぶ声が屋敷に響いた。どうやら家族の迎えが来たようである。

 

「っと、迎えか……明日でいいか。トウカねえちゃんに瓦割りやりたがってたって言っといてやるよ」

「もう!おねえちゃんいいとこなのに!」

「しょうがないだろ……お前、プイって言うんだな」

「うん、あなたは?」

 

 

 

「──トモヤだよ。明日も来いよ!」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「蔵の前で、トモちゃんに瓦割りのコツを教わって……覚えてる?」

「覚えてるぜ……まさかプイちゃんがシスターさんの娘で、あの日本の英雄とはなあ。丁度その話を姉貴としててさ、偶然思い出せたんだよ」

「もうレースは引退したけどね……プイって呼ぶ人は少ないから……ちょっとまってトモちゃん、母さんと知り合いなの!?」

 

東京は府中市、東府中駅からほど近い場所に居を構える旧家、小栗家。

道場を有する武家屋敷の、手入れが行き届いた日本庭園を眺望できる客間の縁の下にて、智哉とディーは旧交を暖めていた。

 

「ああ、アメリカで会って……なんか不味かったか?」

「う、ううん、母さんはいつもトラブルを起こすから……何か迷惑かけてないかな、って……」

「あー………結果的には助けてもらったからな。感謝してるよ」

「何かはしたのね……ごめんね……」

 

まさかの再会だった。

幼少期に夏休みに祖父を訪ねて来日した際、毎年会っていた同年代の少女がアメリカで出会った超気性難シスターの娘であり、かの日本の英雄と呼ばれたウマ娘という事実に智哉は驚きの声を上げた。

日本の英雄の事はよく知っていたし、研究対象として何度もレース映像を観ていたが、それがあの大人しそうな少女と同一人物とは思ってもいなかった。

 

「母さんは後で私が怒っておくとして……トモちゃん、すごく背が伸びたんだね。呼び方変えた方がいい?」

「好きな呼び方で問題ないぜ。俺は変えた方が良いか?」

「今のままでいいよ」

 

お互い、既に自己紹介は済ませている。

その時にディーの連れが、メイドと姉をナンパしようと試みたが未遂に終わっていた。

智哉の名前をフルネームで聞いた瞬間、ディーは何故か顔を一瞬曇らせたが、首を振り何事も無かったかのように振る舞った。

 

「トモちゃん、五年生の時から来なくなっちゃったけど……何かあったの?」

「……色々あってさ、親父と欧州のあちこちを移動してたんだ。それから英国で統括機構のトレーナーになって、去年まではアメリカにいた。で、今年は半年間こっちでサブトレとして働く事になってる」

「えっ、トモちゃん、トレーナーさんなの?なんで日本でサブトレやる事になってるの!?」

「色々あったんだよ、マジで……」

 

遠い目をする智哉に同情の視線を向けた後、ディーはとある人物に合図を送る為に、背後の様子を伺った。

 

「けっ、イチャイチャしやがって……あ、メイドのおねーさん、お茶おかわりください」

「自分で淹れろ」

「来てもらったのに悪いわねー豊原さん、トウカ姉さんもおじいちゃんも出稽古でいなくて」

「いえ、事前に承知の上です。あなたの美しい心を乱す事など何もありませんよ、ミッドデイさん」

「美しいって……やだー!上手い事言うわねー豊原さん!」

「ぶっ!?……は、ははは」

 

ディーと智哉の背後、客間の中には相棒と姉、そしてジュドモントの姉妹とメイドが和気藹々と団欒している。

相棒はメイドの塩対応を受けてターゲットを姉に限定しており、姉と話す時だけキラキラと光輝くような全力の二枚目モードを見せた。長くは保てない。

照れる姉から肘で小突かれ、予想外に効くその威力に相棒は震え上がった。

 

まともに仕事をする気が無い相棒にディーがジト目がちの視線を送ると、相棒が気付いて視線を送り返してくる。

 

(何やってるの?真面目にやる気ある?後で蹴るから)

(ま、待て、これは大事な情報収集だぜ……お前から見て、どうだ?)

 

相棒からのアイコンタクトに対し、ディーは少しだけ首を横に振る。

 

(トモちゃんは、絶対に違うと思う)

(……そりゃお前は昔馴染みで贔屓目に見てるからだろ?要観察だ)

 

ディーに対して相棒も首を振り返し、そして隣に座る智哉の背中に目を向けた。

 

(偶然にしては出来すぎだろ。英国、アメリカの事件と来て、日本にも現れるとはな)

 

相棒──豊原武尊は日本中央競バ会(U R A)所属にして、日本一のトレーナーの名声を得ている敏腕トレーナーである。

それと共に彼は生家のとある家業により、さる高名なウマ娘の下で日本国内のウマ娘犯罪を追い、解決する役目を持っていた。

 

(久居留智哉……英国、ジュドモント令嬢誘拐事件の当事者で、アメリカのキーンランドレース場、トレーナー席での凶行にも居合わせた唯一の人物……しかも、トレーナー資格取得後に一度もウマ娘と契約しておらず、素行不良により統括機構より処分を受けている……ジュドモント家に取り入ったのが先か後かはともかくだ、こういう経歴を持ったヤツが腐ってカルトの紐付きになるってのはよくあるケースで、国際ウマ娘警察機構(I C U O)の要注意人物指定もされてる……捜査の手が入らない理由はわかんねーけどな)

 

家業により横浜の事件に立ち会った二人は、カルトのテロ対策の協力者を求めて来た先に、この疑惑の人物とばったり出会ったのである。

なお国際ウマ娘警察機構(I C U O)は泣く子も土下座する世界的な気性難警察ウマ娘集団である。

そんな集団にマークされているという事は首に死神の鎌が触れているのも同然だった。本人は知る由も無いが。

 

(同姓同名の別人、ってセンもあるにはあるが……状況的に本人だな。経歴も同じで、例のお嬢様もいると来たもんだ)

 

豊原達の座る客間の少し離れた所には、優雅にティータイム中のジュドモントの姉妹と給仕を行うメイドがいる。

 

(しかしまー、俺も色々ウマ娘は見てきたが……とんでもねーな、ウワサ以上の天才だ。この完成度は誰か指導してるヤツがいるっぽいけどな……それに妹もトレーナー次第だが……)

 

クラブ選手権の怪物と呼ばれる姉と、ヨークシャー州のポニースクールの生徒である妹を一目見て、その秘めた才能を看破した豊原は内心で舌を巻いた。

若くして数多の名ウマ娘を見てきた豊原にとっても、相棒であるディーにも匹敵し得る才能を持っている逸材であると共に、成長期のウマ娘の指導ができる優秀なトレーナーの影を感じている。

そして妹も、豊原の眼には才能を秘めた原石として映っている。

 

(ジュドモント家のお嬢様ならそういうツテはいくらでもあるか……妹の方はこれからってトコだが、タテさんがこういうタイプを鍛えるのが好きなんだよなー。後は十年後に期待、だな)

 

子供は当然守備範囲では無いが、豊原から見ても二人とも将来は美人に育つ事間違いなしの原石だった。

豊原が姉妹の評価を終えた所で、視線に気付いたフランがにこやかに笑みを返した。初対面の相手がいるので令嬢然とした仕草である。

 

「……あら、何かご用ですか?豊原トレーナー」

「っと、わりーな嬢ちゃん。職業柄、ウマ娘を見るとどれくらい走れるかつい見ちまってよー、悪い癖だぜ」

「気になさらないで、トレーナーはそういう者だと父からも聞いています」

「嬢ちゃん、そのトシでしっかりしてんなー……これはただの興味本位だから別に答えなくてもいいんだけどよー、あっちのにーちゃんとはどういう関係なんだ?」

 

ただの雑談と強調しつつ、豊原は件の疑惑の人物、智哉とフランの関係を聞いておこうと話題を振った。

もし件の人物がカルトの紐付きだったなら、この稀代の才能を持つ怪物と契約した場合ジュドモント家がカルトの根城になり、彼女自身もカルトの広告塔にされてしまう懸念があった。

 

豊原の話を受けて、フランは縁側から庭園に移動している智哉の背中に目を向けた。ディーとの思い出話で盛り上がり、こちらの声は届かないだろう。

フランは、智哉に隠している想いがある。嘘を付く事もできたが、智哉の事で嘘は付きたくないと考えたフランは一瞬、躊躇した後に目を僅かに渦巻かせて、か細い声で語り始めた。

その姿に、豊原は一瞬息が止まる。かつて一度だけ、とあるウマ娘と契約解除した際にその顔を見た事があった。

 

 

「───恩人、です。返し切れないくらいの……わたしは、どう返せばいいのか……ずっと探しています」

 

 

「……無理して答えなくていいぜ。踏み込んだ話題だったな」

 

フランの様子に、姉は一つ思い当たることがあった。

 

(フランちゃん、誘拐の時とか統括機構の処分とか、うちの馬鹿の事でやっぱ色々気にしてるのね……ノーブルちゃんの事では怒ってるのに、プイちゃんと仲良さげにしてるのはヤキモチ焼いたりしてないし……うーーーーん)

 

うんうんと唸る姉を他所に、ノーブルはフランの顔を見て首を傾げた。

 

(トモヤさんが姉さんの恩人なのは聞いてるけど……何があったんだろう)

 

急に背後が静かになった事に智哉が気付き、縁側から戻ってくる。

 

「そろそろウチの家族と藤花さんが帰ってくる頃だけど……なんかあったか?」

「あんたは戻ってこなくていいのよ!」

「いてえ!何で蹴るの姉貴!?」

 

姉の八つ当たりを受けた智哉は蹴られた足を抑えながら、豊原の近くに座る。

 

「っと、どうもっす」

「うん?あー……タメ口でいいぜー」

「そうか?さっきプイちゃんとも話したけど、明日からサブトレとして学園で世話になる久居留だ。豊原さんの噂はアメリカでも……」

「やめろよー、野郎のおべっかなんて聞きたくねー」

「うぜえ……」

 

智哉の自己紹介を聞き流しながらも、豊原はついでとばかりに智哉の事情も聞いておこうと口を開いた。

アメリカで一度も契約していない智哉は、トレーナー名鑑に名前が残っていない。

どこのチームに所属していたかも、現地に行っていない豊原は把握していなかった。行くチャンスはあったが、嫌な予感を覚えてアメリカ出張を後輩に丸投げした。

哀れな後輩は帰国してからもしばらくは「みんなでうまぴょいすると尊いんだ。絆ゲージが高まるんだ」等とよくわからないうわ言を繰り返す機械になっていたので、行かなくて良かったと思っている。

 

「そういやよー、お前アメリカでどこのチームの世話になってたんだ?アメリカのジュドモントとかか?」

「カルメットだ。先生の紹介で世話になってた」

「ほーほー……丁度その頃のカルメットつったら、ジョー・ヴェラスが重賞のトロフィー荒稼ぎしてた頃だなー、お前会った事あんのか?てか先生誰よ?」

 

元々は渋々トレーナーになった過去を持つ豊原だが、ディーと契約する前に味わった挫折以来、レースにかける想いは強い。

世界各地のトレーナーの育成論やレースの研究も欠かさず行っており、アメリカの怪人のレースは特に注目していた。

一度、機会があればレースについて語り合ってみたい、とも思っている。自分と近い理論と理想を持っていると感じていた。

 

「まあ姉貴と契約してたし……会った事はあるな……先生はジョエル・ガスデン先生だ」

「おー、あのトボけたおっさんか。あのおっさん適当な癖に食わせ者で参るよなー」

「ああ、うん、先生はちょっと適当すぎるんだよな……尊敬してはいるけど」

 

智哉の師、ガスデン理事の名前を聞いた時点で豊原は眼の色を変えた。有益な情報である。

 

(あのおっさん、適当だけどトレーナーとウマ娘を見る目は間違いねーぞ……そこらの凡骨トレーナーにわざわざ紹介状書くようなマネは絶対しねー……こいつ、まさか相当やるのか?なら何故契約していない?)

 

統括機構の重鎮にして、チーム・クレアヘイブン代表のジョエル・ガスデンと豊原は以前、担当の欧州遠征時に邂逅している。

適当な事をぼやきながらも、推薦するから欧州でトレーナーをやってみないかとスカウトまで受けていた。当然断った。

飄々としつつも好感を覚える人物ではあるが、多忙な有力チームの代表が、実力の足りないトレーナーに紹介状を書くのは豊原からしてはあり得ない話である。

 

(……おっさんがカルトの協力者ってのは絶対に有りえねーが……まさかなー……一応その可能性もあるよなー、そうなるとコイツのアメリカでの行動、全部理由付くんだよなー……)

 

思考を深める中で、明晰な頭脳を持つ豊原は一つの疑惑に思い至った。

考え直してみると目の前の青年のアメリカでの経歴が、ある人物と時期も場所も、全てが一致する。

豊原は智哉に話を聞いておいてよかったと息を吐いた。いつ仕掛けてくるかもわからないテロリストへの焦りから、強引な手段を取る事も覚悟していたからである。

 

(まー、まだ要観察人物だが……確かめるのは簡単だ)

 

思考がまとまり、何をすべきかを決めた豊原は智哉に向き直って、にかっと笑って見せた。

 

「なあ、サブトレやるんだってなー?誰かについたりすんのか?」

「ああ、さっきも言ったけどそういう事になってる。誰かに付くかは明日理事長とたづなさんに会ってからだけどな」

「そりゃーいい、じゃあ明日……俺も学園には顔出すからよー」

 

 

 

 

 

「お前、俺のトコ来いよ。男のサブトレ使うのは滅多にないんだぜー?感謝しろよ」

日本編、結構話数かかりそうだから、帝王賞を区切りに一旦キャラ紹介してもいいですか?主人公とヒロインの現状とかも書いていきたいなって……。

  • いる
  • いらない
  • 全部終わってからでいいッス。早く書け。
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