トムとフラン   作:AC新作はよ

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というわけで五話やで。


第五話 誇り高き武門の一族

十一歳になるあの頃、トムと出会ってから五年目。

今年で十年目だから、ちょうど折り返しに当たる年。

あの頃のわたしは、早く大人になりたい。早く学院に入りたいといつも思っていた。

 

そう思うようになったきっかけが、九歳の時。

 

アメリカで、あの結婚騒動が終わった後──日本のトレセン学園の保健室で眠り続けるトムを見て、わたしは大切な人が誰かに傷付けられ、不当に扱われている事に強い怒りを覚えた。

 

……それで秋川理事長にはちょっと迷惑かけちゃったけど……でも、あれはわたしは怒って当然だと思う。

なのに、トムは何ともないように、「なんとかなるから」とわたしを抑えてくれた。

 

結局、時期が変わっただけでトムは日本でサブトレをやる事になった。

日本での日々は、わたしにとっても得難い出会いがあって、結果としては日本に行ってよかった……のかな……トムはやっぱりひどい目に遭っていたけど……。

 

理事長室でトムになだめられた時、わたしは冷静じゃなかった。

 

もう、気付いていたから。

 

 

トムは普通の男の人、普通のトレーナーとは違う──特別な才能を持った人だって。

 

 

それまでのわたしが、会って話した事のあるトムと家族以外の男性は、家宰のじいや、デンおじ様、それとお父様の親友のミハイルおじ様と、ヴィアちゃんの幼馴染のルークさんに、クラブの監督を務めるジェームスおじ様と息子のヨシュアさん、そしてチーム・クールモアのライエン・モアトレーナー……あとはリックお兄様だけど……リックお兄様の話はやめておこう。

 

みんな、立派な大人だったり、すごい才能を持っている人。

 

だから、六歳の頃の幼いわたしは、男の人ってみんなすごいんだと勘違いしていた。

おかしいと思い始めたのは、お父様とサリーに付き添われて初めて行った統括機構の夕会だった。

 

『お前、かわいいじゃん、つきあえよ!!』

 

どこかの貴族の子息。

 

『君の走り方はまだ粗がある!私の指導を受ければまだまだ速くなれるぞ!だからこの書類に今すぐサインしなさい!!』

 

わたしに将来の契約を迫る、どこかのトレーナー。

 

『な、なんだよブス!お前なんて全然好みじゃないからな!』

 

よくわからない悪口を言う、同い年の男の子。

 

わたしは訳がわからなくて、ただ首を傾げるだけだった。

この後、サリーとエクスちゃんがやってきたら、みんな転んだり顔を青くしてどこかに行ってしまった。

 

そして、この時の経験から、九歳の頃にアメリカに行った時に、トムは普通の男の人、普通のトレーナーじゃないと気付いてしまった。

 

アメリカで大人気の、怪人トレーナー。

トムが変装した姿はたった三年でアメリカで大きな実績を残し、世界中から注目されていて、わたしは誇らしくなった。

競バ雑誌では、トムが変装した怪人の話題は毎週尽きる事がなくて、街頭テレビに怪人が映れば、街を歩くウマ娘みんなが足を止めて画面に食いつく。

 

嬉しかったし、わたしのトレーナーよ、と自慢したくなったけど、わたしはそこで気付いてしまった。

 

──普通の男の人は、こんなにウマ娘の注目を集められない。

 

──普通のトレーナーは、たった三年でこんな実績は残せない。

 

気付いた時、わたしは一つの事実に罪悪感を覚えた。

 

 

──この評価を受けているのは、トムじゃない。ジョー・ヴェラスという覆面トレーナーという事実に。

 

 

英国に帰ってもトムは契約できないし、アメリカにいても評価されるのは怪人トレーナーとしての姿。

 

家の使用人からも、トムの評判は良くない。

こんな事もあった。

 

『……あの!フランお嬢様!!』

『どうしたの?』

『使用人の身で、出過ぎた事かもしれませんが……彼とお会いするのは、どうかお止めください!!』

『……彼って、トムの事?どうしてそんな事を言うの?』

『彼はアメリカで、トレーナーとして一度もレースに参加しておりません!そのような怠惰な人間が、大切なお嬢様と契約するなど──』

 

この後、サリーがこのメイドを止めてくれて、わたしは話を全部聞くことはなかった。

おばあ様に相談してみたら、「少し、教育する必要がありますわね……逃がしたら困りますわ」と微笑みながら言っていた。こわかった。

 

でも、彼女は何も悪くない。何も知らない人はそう思って当然だから。

 

そうさせたのは、わたし。

あの選抜戦でわたしを助ける為にトムは乱入して、そして統括機構から六年間の契約禁止という重い処分を受けた。

特別な才能がある大切な人の、大事なキャリアを積む期間をわたしは奪ってしまった。

 

だから、日本にいた頃のわたしは、早く学院に入りたくて仕方なかった。

 

クラブで走って勝利しても、トムの実績にはならない。でもせめておば様への恩返しになればトムは喜んでくれると思ったから、わたしはクラブで結果を残し続けた。

お金で返そうなんてできない。わたしの家のお金であって、わたしのお金じゃないから。それにトムはきっとお金には困ってない。

 

 

トムには言えなかった、なんて言うかわかってたから。

 

『そんな事、気にしなくていい』

 

こう言うと思ってたから。

 

 

六歳の頃のような、自暴自棄な気持ちではなかったけど、わたしは焦っていた。

 

子供のわたしでは、トムに何も返せない。だから早く大きくなりたい。

 

学院に入って、トムと契約して走ればわたしは恩返しができる。みんなトムを評価してくれる。

 

でも、そんな先の事でいいのかな、今のわたしでも、トムに何か返せるものが無いだろうか。

 

 

そう、いつも自問自答していた。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

平安時代より続く士族の系譜、小栗家。

常陸小栗氏の流れを汲み源平合走、南北朝の走乱にも出走し、源平の大競走においてはかの平氏最強のウマ娘である平教経麾下で一ノ谷記念にて義経公と鎬を削り、その武名を遺す由緒正しき武門の一族である。

系譜としては藤正小栗氏と呼ばれ、代々のウマ娘の当主はその速さから天翔けるウマ娘を意味する天という二つ名を時の帝より授かり、襲名する仕来りとなっていた。

 

久居留家との関係は当時の天の兄が、武者修行も兼ねた英国での遊歴中に出会った超気性難との結婚騒動に端を発す。

大事な兄様を取り返したくば遠い英国まで来いという超気性難の挑発に乗り、当主自ら郎党を率いてのヒートレース勝負で怨敵たる超気性難が仕掛けた落とし穴を用いた罠により不覚を取って以来、立場としては久居留家の下に置かれ分家とされている。

当時の天は卑怯者と超気性難を誹り、再戦を要求したが「一ノ谷記念の逆落としで義経公と渡り合った誉れを持つ当家が、落とし穴で遅れを取るとは何事か」という先代の大喝により負けを認めた。超気性難はこれを夫から聞き及んで罠を仕掛けるに至ったのだ。最低の女である。

 

その小栗家の現当主、当代天が英国からの食客一行を屋敷の奥の間に招き、上機嫌で歓待の挨拶を交わした。

 

「うむ!よく来られた、本家のお歴々に英国の大家の姉妹よ!この小栗藤花並びに小栗家一同、逗留中は不自由なきよう取り計らおう!!」

 

奥の間の高座にて、黒紋付の羽織姿という正装で呵呵と笑う小栗家当主、小栗藤花。

武門の棟梁たるに相応しい、威風堂々とした気骨のウマ娘である。

鹿毛の髪を短めのポニーテールにまとめ、中心に一本線の細い流星。

その体躯は日本のウマ娘離れした大柄かつ、肩幅が広い。

手足も長く、走れば正に天の二つ名通りに長いストライドで飛ぶように走る。

かつては彼女も競走バとして、かの永世三強と呼ばれた伝説の三ウマ娘の一角だった。

「闘将」の名を冠し、藤正菱と呼ばれる家紋をあしらえた紫色の陣羽織の勝負服を着込み、日本競バ界に天下布武を謳った現役時代の彼女と流星の貴公子、緑の刺客、犯罪皇帝といったライバル達との激戦は現在も語り草となっている。

 

「エート……この度は、お招きいただきありがとうございマス、わたしはフランシス……」

 

日本語で当主名代としての名を使い挨拶しようとするフランを、藤花が手を挙げて止めた後に英語で語りかける。

 

「フランよ、堅苦しいのはよい。知らぬ仲でもないんだ。我が家と思って過ごしてくれ」

「でもトウカお姉様、ちゃんと日本語でご挨拶したいのよ」

「で、あるか!日本語も随分と話せるようだな。勉強してきてえらいぞ」

 

挨拶は終わりとばかりに当主は高座を降り、フランの横にどかっと座って頭を撫でる。

その尊大な態度に似合わず、人好きのする笑みを浮かべる彼女は子供好きで人懐っこい人物である。

現役時代もそのレース中の姿とこの人の良さのギャップで老若男女問わない人気を得ていた。

この当主とフランの交流を見て、ノーブルがきゅっと唇を噛む。

 

(姉さん……もうあんなに日本語話せるのね…わたしは……)

 

天才肌の姉は、要点を掴むのが上手く勉強も苦にしない。対して自分はまだ片言すらおぼつかないし、ヒアリングも苦労している。

両親から姉と比べられた事はない。それでも姉といると、自分は不出来だと自覚してしまう。

姉との差が、ノーブルの心を苛んでいた。

 

「お主がフランの妹君か。名は何と言う?」

「エット……ワタシ、ノーブルミッション…言いマス」

「で、あるか!お主もよく話せるものだ。誉めてつかわす。陽子と智哉によく学び、良いウマ娘になるのだぞ」

「一緒に勉強しましょうね、ノーブル」

「………ええ、姉さん」

 

藤花が今度はノーブルに目を向け、日本語での挨拶に目を細めてその頭を撫でる。

その際に姉の言葉に一瞬眉を顰めるノーブルに気付くも、あえてそれを見過ごした。

それを解決するのは本家の役目だと聞いている。

陽子は姉の戸籍名である。

 

「うむ、うむ……二人は是非とも我が姪御の友となってくれると嬉しい。今は学校だが…夕餉の時にでも紹介しよう」

 

満足気に頷いた後、藤花は今度は本家の姉弟に目を向ける。

 

「智哉よ、アメリカでは随分な目に遭ったようだな?折角の機会だ、自分の身を守る為にも、陽子と共に我が流派を改めて修めていきなさい」

「そうっすね、藤花さん……じいちゃんが怖いけど」

「……稽古の折にはなるべく私も同行しよう、陽子も危ないと思ったら止めてやってくれ」

「はーい、トウカ姉さん」

 

藤花から薫陶を受けた後、姉はきょろきょろと辺りを見回した。

 

「あれ?そういえばおじいちゃんとおばあちゃんは?」

「別室で武豊殿とディーからの用件を聞いている。恐らくディーの再入門の話だと思うが……武豊殿の方は何故来たのかは聞いておらんな」

 

知らない日本語が出てきて、フランが興味を示した。

 

「ブホウどの?豊原トレーナーの事かしら、トム?」

「後で教えるよ、ちょっと長い話になるからな」

 

智哉とフランの仲睦まじい様子に満足気に頷いた後、藤花は立ち上がった。

今回のジュドモント家の姉妹の逗留にあたり、小栗家一同は英国の大家と繋ぎを得るチャンスと意気込み、全身全霊をもって持て成す準備を進めている。当主自らも家伝の古流走法まで持ち出し、二人の指導に参加する予定である。

 

「うむ……智哉、これから二人の指導はお主がやるのだろう?しっかり務めるように。あの御夫人の眼鏡に叶えば立派にむ……げふん!おっといかんいかん!」

「えっ、今何か言いかけたっすよね?む、って何すか……?フランのばあちゃんもそんな事言ってた気が……」

「なあに、気にするな!おっと、武豊殿に後で来てくれと言われていたな!では失礼するぞ!」

 

何かを誤魔化すように、藤花はそそくさと奥の間から去って行く。

しん、と静まり返った部屋の中で、智哉は首を傾げて疑問符を浮かべる。

つられて姉妹も首を傾げ、それを見て姉が笑う。

 

こうして、終始和やかな様子で姉妹は小栗家に迎え入れられたのである。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「と、言うワケで……あんた達にも協力してもらえねーかと、俺達はこうして来たってワケだ」

 

小栗邸の客間にて、豊原は対面する、合流した藤花含む三人の人物に横浜港での事件を語った。

警察の捜査機密に当たる為に仔細を省き、テロリスト達の戦力、そして彼女達の残した挑戦状についての要点のみを伝えている。

 

「ふーむ……これは確かに難儀な事件だ……くくっ」

 

久居留家の日本の分家である小栗家に伝わる小栗心当流師範にして、智哉と姉の祖父である久居留斗日哉が言葉とは裏腹に、楽しげにくつくつと笑った。

 

「おいじーさん……笑い事じゃねーんだぞ」

「おっと、すまんな豊原の小僧。この太平の世で、そのような真似をする者がおるとはな……長生きはするもんだ」

 

(このじーさん、頼もしくはあるんだが……どう見ても表社会の人間じゃねーんだよな)

 

御年七十になるとは思えない黒々とした黒髪の、死線を幾つも潜り抜けたかのような眼光鋭い偉丈夫である。

父と並ぶとまるで兄弟のようだった。久居留家の男はそのウマ娘の血ゆえ老化が遅い。

統括機構の障害競走トレーナーとして、その古武術の腕前を活かした独自のトレーニング方針で実績を挙げたが、トレーナーである前に武道家だった彼は息子である伝蔵がトレーナー資格を取るや、すぐに家督を譲って日本へ移り住み、各地を巡っては道場破りや果し合いに精を出している。

 

「ああ、やっぱりあたしのトビーは良い男だねえ……しかしまあ、小学校が狙われてるかも、ってのは気になるね」

 

黒鹿毛をシニヨンにまとめ、ウマ娘競技の正装を着込んだウマ娘がうっとりした表情で祖父の腕に絡みつく。

姉の面影のある輝く快活な瞳、姉との血縁を感じさせる均整の取れたスタイルの、勝ち気なウマ娘。

智哉と姉の祖母、久居留照須子・オーエンその人である。

 

元競走バであり、帰化前の名前はテレサ・オーエン。実家は英国で大手スーパーマーケットチェーンを営んでいる。

現役時代は英国で走り11戦5勝、G1クイーンアンステークスを制し、引退後に日本で最もウマ娘がいる地方、北海道にある国有機関のウマ娘トレーナー組合である日本ウマ娘トレーナー協会(J U T A)からの招致を受け来日、かのTTGと呼ばれる三人の伝説のウマ娘の一人を幼少期より育て上げてトレセン学園へ送り出す等、多大な実績を上げた。

夫である二人の祖父と出会ったのはその頃だった。

ある日、北海道で散策中にヒグマに襲われた祖母を、修行で山籠り中の祖父がヒグマを一撃の元に倒して助けたのが二人の馴れ初めである。

なお祖母は猟銃資格を持っており、狩猟は英国時代からの趣味である。猟友会にも籍を置いている。

現在はトレーナー業も引退し、夫と分家に身を寄せて悠々自適の身である。

 

豊原はいちゃつく夫婦に辟易としながらも、先程から気になっていた事を口に出した。

 

「なあ、さっきから気になってたんだけどよー……あの嬢ちゃん達、まさか留学か?」

 

先程出会ったジュドモントの姉妹について、豊原は懸念点があった。

日本ではまだ小学生であろう二人の少女が、このタイミングで来日している。

そして、横浜港で挑戦状として残された物はウマ娘が通う小学校の名簿。

余りにも状況が揃いすぎていた。

 

「そのまさかだよ、しかもその名簿の学校にウチから通うのさ」

「だよなー……帰国させる事はできねーか?」

「それは無理な相談だね、あの子達のばあさんとは旧知でね……それに、ウチの孫が残るならフランは帰らないだろうねえ」

 

祖母は一年と少し前、日本滞在時よりフランとは親交があった。

素直なフランを気に入り、それはもう猫かわいがりしていると共に、フランの智哉への強い執着にも気付いている。

フランの出自を聞いた祖母はすぐさまジュドモントに嫁いだ知り合いに連絡を入れ、それから数度の協議の末、今回の姉妹の来日に協力関係を築くことになっていた。

 

「あー……帰らねーだろうなあ、あの嬢ちゃん」

 

客間での雑談で、智哉との関係を訊ねた時のフランの表情を思い返し、豊原はどうしたものかと額を抑える。

そこで、先程から腕を組み、黙って話を聞いていた藤花が声を上げた。

 

「ふむ……銃器での武装はどうでも良いが、ディーが後れを取る程の強者に、影から影へ移動して神出鬼没……か。G案件だな、武豊殿?」

 

藤花の口から、警視庁の機密案件の符丁が出た事に驚いた豊原は、げっ、と声を上げてその顔を眺めた。

驚きの表情の豊原に、藤花はにやりと笑って見せる。

 

「で、あるか……その様子だと武彦はお主に伝えておらんようだな?あの御仁の協力者が、誰だったかを……」

「あ……あー!そういうコトかよ!ったく言えよなーあのクソ親父」

 

藤花の話を聞いて、合点がいったとばかりに豊原は手を叩いた。

豊原の父である豊原武彦もかつてウマ娘事件を追う立場にあり、その際には古武術の達人ウマ娘の相棒と活動していたと彼は上司から聞いた覚えがあった。

その古武術の腕前もさることながら、ディーと同じ立場にあったという藤花に豊原は期待の眼差しを向けた。

 

「なら話は早えーな、似たような事件はあったのか?」

「そうだな、影ではないが……言うならば夢、であろうか」

「夢……だと?」

「うむ、夢だ……トレセン学園で、集団昏睡事件があったと聞いた事は無いか?」

「あー、幸永のとっつぁんから聞いた事あんな、それで?」

 

豊原に話の続きを促され、藤花は遠くを眺め、過去を懐かしむような目で語る。

 

「あの伝説の芦毛対決の前年……日本中央競バ会の略称がURAに決まる前だ、ルドルフが一線を引いた後の中央はレース人気の陰りと共に、裏社会のごろつき共がレース賭博を仕切り、私と武彦がどれほど検挙しようと八百長が横行していた。ウマ娘達の夢が汚されていると……彼女は考えた」

「彼女?会った事あんのか!?」

「……全ての日本のウマ娘の母のような、優しい方であった。だから、ウマ娘達を……夢の無い現実にいるくらいならいっその事と、悪夢を見る事のない世界で、楽しくレースができる夢を見せようとしたのであろう。昏睡していた生徒とトレーナーは皆、夢の世界にいたからな」

「……どうやって、解決したんだ?そもそもだ、そんな相手倒せるのか?」

 

豊原の問いに、藤花は諸手を挙げて答える。

 

「お手上げだ。夢の世界に行った私は、襲い来る夢の番人と闘ったが……これがキリが無くてな。だから……」

「だから?」

「番人をやり過ごし、走り抜け、彼女の前に立って訴えた。レースから、日本のウマ娘から、夢を失わせないと……私も、武彦も、その先の世代も、と」

「……その言葉が、届いたのか」

「うむ……見守っているから約束を守れと言い残して、彼女は夢の世界の崩壊と共に消えていった。その後は、昏睡していた者達も目覚めて、彼女との約束を守るべく私と武彦は奔走し……ごろつき共を一掃した。止めを刺したのはシスターサンディ殿であったが」

 

藤花の意外な発言に、説明を豊原に任せ、沈黙を保っていたディーが驚愕の声を上げる。

 

「えっ?母さんが!?」

「うむ!ファーディナンド殿の事件は覚えていよう?あの事件のごろつき共は生き残りでな……国家の大事と、慎重に事を進めようとしたのだが……その前にシスター殿が乗り込んで行った!あれは痛快であったぞ!どこかで見守っている彼女も、腹を抱えて笑っているであろう!!わははは!!」

「あっ、母さんが帰国しそうになった事件……」

「サンディさんが滅茶苦茶に暴れた事件かよ……あの頃、クソ親父が死にそうな顔であちこちに電話してたんだよなー……」

 

超気性難シスターが過去にやらかした蛮行が、まさかの繋がりを見せた事に豊原とディーは当時を思い出して唖然とした。

アメリカと日本が断行寸前まで行った大事件である。引き金を引いた当のシスターはつい最近もやらかしている。気性難は走り出すと止まれないのだ。

大笑した後、藤花は羽織の袖に手を突っ込み、話を締めにかかる。

 

「私から言えるのは、彼女のような存在が相手であるなら一筋縄ではいかんぞ。それと……強さだけでは解決せん、かもしれんな」

「強さ、だけでは……」

「うむ、ディーよ……その仮面の強者とやらを相手取り、手を出せなかった理由を考えてみなさい。見覚えは無かったか?」

 

ディーは藤花の問いかけに対し、もう一度黒仮面の姿を思い返す。

 

(長身の、黒鹿毛で……あの流星は……ッ!?)

 

一人、思い当たるウマ娘の姿が浮かぶも、それだけは有り得ない、そんな事をするウマ娘とは断じて違う、とばかりにディーは強く首を振ってその考えを吹き飛ばした。

これ以上考えたくないと思考を止め、藤花に返事を返す。

 

「……わかりません。ただ、殴りたくない、とだけ……」

「ふむ……では我が家からは内弟子に周辺の巡回をさせるとしよう。それと、フランとノーブルの警護だが……」

 

ディーの意図を読み、話題を変えようと藤花は今できる事、不審者の警戒についての話を始める。

そこで、豊原が手を上げた。

 

「そうしてもらえると助かるぜー、んで、もう一つあんだよ」

「何だい?言ってみな」

「おーテスさん、丁度あんたとじーさんに聞きたい話題なんだよ」

「ほう?言ってみろ、小僧」

 

 

 

 

 

 

「あんたらの孫、過去に何があった?言える範囲で教えてくれ」

日本編、結構話数かかりそうだから、帝王賞を区切りに一旦キャラ紹介してもいいですか?主人公とヒロインの現状とかも書いていきたいなって……。

  • いる
  • いらない
  • 全部終わってからでいいッス。早く書け。
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