トムとフラン   作:AC新作はよ

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というわけで七話やで。伏線張ってた人やっと出せるやで。


第七話 小さなボスと、新たな出会い

気に入らない。自分にまず挨拶に来るべきなのに。

気に入らない。陽子姉さんも智哉兄さんもちやほやして。

気に入らない。この家の次のボスは自分のはずなのに。

 

(気に入らない!何よ、こいつら!!)

 

鹿毛を肩まで伸ばして切り揃え、赤白の模様に小さな簪が飾られたメンコを付けたウマ娘、グランプリボスは怒りに震えていた。

かの邪智暴虐の侵略者達を除かねばならない、と心に誓っていた。

まだ子供のボスには大切な客人等という事情はわからぬ。

ボスは、トレセン学園附属小学校に通う小学生である。ターフを駆け、子分を侍らせて暮らしてきた。

けれども自分の縄張りには、人一倍敏感であった。

 

「今宵は英国よりはるばる来てくれた客人を迎えた宴だ!!存分に楽しんでいってくれ!!今日より半年間家族になるのだ!遠慮はいらんぞ!!乾杯!!」

「かんぱーい!!トム、あんたもお酒飲めるんだから付き合いな」

「今日は無礼講と言われているからな、私も付き合おう」

「へいへい。二人共、箸の使い方わかるか?」

「使えるわ!練習してきたのよ」

「……私も大丈夫です」

「サンディ、ほら飲みな。レムの事はよくやったよ」

「いやあ、わりぃなテスばあちゃん。ダーリンも連れてくればよかったなぁ」

 

小栗家の広間は現在、英国よりの客人を持て成す宴が開かれていた。

当主である藤花の乾杯の合図により、がやがやと談笑の声が広間に響く。

姉がメイド、弟の二人とジョッキを合わせ、その横で姉妹が供された和食に舌鼓を打つ。

そこから少し離れた座卓の隅では、シスターが祖母の酌を受けている。

今回の事案ウマ娘来襲に際し、上手くやればタダ酒を飲ませてやるという約束によるものである。

事案ウマ娘も参加したがったが、藤花の無慈悲な学園への通報によりすでに連行されている。

現在は泣きながらサボった業務をこなしていた。哀れである。

 

「ぐぬぬぬぬ……」

「ボス、あの姉妹の姉、フランはお主と同い年だ。仲良くしてやってくれ」

 

当主の座る上座、その隣にボスはいた。

尊敬している名ウマ娘のお姉さんに、よく面倒を見てくれる優しいお兄さんの姉弟。

その横に座る姉妹を眺め、悔しそうに唸り声を上げる。

藤花がその様子を見て苦笑いを浮かべた。縄張り意識が強く、子分と内弟子にちやほやされている姪である。予想していた反応ではあった。

 

「こらこら、二人とも良い子なんだ。きっとお主の良い友になる」

「…………それを決めるのはボスよ、藤花」

「全く……まあいい、話せばわかる」

 

憮然としながら、ボスがそっぽを向いて返事を返す。

藤花は何も心配していない。姪は縄張り意識は強いし態度も大きいが、それだけの姪では無いと知っている。

去年、フランが小栗家に逗留していた一週間の間、ボスは冬休みで帰省していた。

去年から次期当主として小栗家に住んでいるが、まだ小学生である。長期休暇の間は藤花が気を使って親元に帰している。

 

「トム、これ美味しいわ」

「鯛のあら炊きとかまた渋いもん食ってるな……どれどれ」

「はい、あーん」

「おっ、悪いな……うん、美味いな。後でレシピ聞いとくか……」

 

智哉が、フランに直接箸で食事の世話を受ける。ボスのこめかみに血管が走る。

その隣でノーブルが破廉恥と小声で言った後に、ジョッキを傾ける姉に振り向いた。

 

「あの、ミッドデイさん、少しお聞きしたい事が……」

「んー?なになに?何でも言ってね」

「……一昨年のシンデレラクレーミング、ミッドデイさんも現地にいましたよね?」

 

ノーブルの発言に、姉は静かにジョッキを下ろした。

由々しき事態である。隣にこの話を聞かれてはならない相手がいる。

姉はアメリカでやらかした自らの失態を隠し切り、逃げる為の計画を立てている。

しかし、まだ実行に移していない。今の段階での発覚は何としても避けなければならなかった。

 

「え、えーっと……確か現地にはいた、と思うけど……ごめんねーノーブルちゃん、あたしお酒飲んでてよく覚えてないのよねー……あ、あはははは」

 

姉は真実を織り交ぜつつ、覚えていないと強く強調した。肝心な時に保身に走る女である。

返事を聞き、ノーブルはしゅん、と耳を垂れさせた。罪悪感を覚えた姉が「うっ」と声を漏らす。

 

「覚えてないのよねー、覚えてない、けど……ノーブルちゃん、何か聞きたい事とかあった?」

「……怪人さんのトロフィーを受け取った人、どんな方かご存じだったりしませんか?」

 

ノーブルの聞きたかった事とは、怪人からのスカウトを受けたウマ娘の素性についてだった。

キーンランドレース場での出会いから怪人に仄かな憧れを持っているノーブルは、怪人が自らスカウトする程のウマ娘がどのような人物か気になって仕方が無かったのである。

姉は図星を突かれたかのように顔を青くさせた。避けたい話題そのものだった。

ちらりと、念の為に弟の方を確認する。和食に興味を持ったフランに、座卓に並ぶ料理の解説をしていた。

今なら誤魔化し切れる、と確信した姉はノーブルに声を抑え、まくしたてるように語った。

 

「あ、あーーーーー……あ、あの子、速かったわよね。私はその、よく、知らないんだけど………も、元々ね、勝ち負け関係なくあの子をスカウトする事になってたのよ。で、その、今はカルメットでプロ入りも決まってて、チーフの指導でメキメキ実力を伸ばしてる……って聞いたわねーー」

「カルメットのチーフって、あのフレッチャートレーナーですよね?直接指導が受けれるなんて、やっぱりすごい人なんですね……」

「ううん、それは違うわよノーブルちゃん。その子はね……あのシンデレラクレーミングの数カ月前は、まともに走れない子だった。それをあの子は、自分の努力であんなに速くなったのよ……ってチーフから聞いたわねーー」

 

まるで本人を知っているかのような語り口だった。

姉は隠し事はできるが、嘘を付く事は苦手分野である。気風の良さが仇となっていた。

 

「努力……わたしも、努力すれば……でもミッドデイさん、なんだか詳しくないですか……?」

「えっ!?そ、そそそうかなー?いやもー全部聞いた話よ!あはは、あはははは……」

 

誤魔化すように笑い声上げる姉に、ノーブルが首を傾げる。

 

ついに、ボスの堪忍袋の緒が切れた。

 

立ち上がり、のしのしと五人を目指す。

それを見て、内弟子の一人が制止しようと声を上げた。

 

「あっ、お嬢!」

「いいんだ、行かせてやりなさい」

 

それを、藤花が止める。姪が何をするかはお見通しである。

ボスが近づき、五人の目の前で足を止める。

五人がボスに気付き、注目を浴びたボスが高らかに第一声を上げた。

 

「混ぜて!!!!このグランプリボスの子分にしてやるから!!!!」

 

この一声にフランとノーブルがきょとん、とした顔でボスを見上げる。

ボスは意地っ張りで、縄張り意識が強く、そして寂しがり屋な少女である。

この小栗家には同年代の友達がいない。子供はボスだけだった。つまり姉妹と友達になりたいのである。

自分を差し置いて姉妹と仲良さげにする姉弟に怒っていたのだ。まず紹介してよ、と。

フランがにこりと笑い、ボスの言葉に優しく返事を返した。

 

「ボスちゃんね!ワタシはフランケルよ。子分よりもお友達になりたいわ」

「えっと……ノーブルミッションデス。よろしく」

「よろしく!!!……座っていい?」

 

遠慮しがちにボスが姉弟に確認を取る。藤花の教育が行き届いており、こういうところはしっかりしていた。

姉弟がボスを見て優しく笑い、場所を空ける。姉としては怪人の話を有耶無耶にできて命拾いである。

 

「ああ、俺が動くからここに座っていいぜ、ボス」

「ボスちゃん、おいでおいで!」

 

おずおずとボスが座り、楽しげに姉妹と微笑み合う。

日本語での交流となったが、智哉と姉が間を取り持ち、つつがなく穏やかに姉妹と当主の姪、グランプリボスは交流を深めたのである。

 

 

「あっ、フランちゃん、後で二人で話したいんだけど……いい?」

「……?ええ、ミディお姉様」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「ごめんねーフランちゃん、おまたせ!」

「いいえ、ミディお姉様……話って、なにかしら?」

 

この日の事はよく覚えてる。

わたし達の歓迎会の後、就寝前の夜の縁側に、ミディお姉様とわたしは二人並んで座って月を眺めていた。

 

ミディお姉様は、ずっとわたしを優しく見守っていてくれた人。

だから、客間で豊原トレーナーに話したわたしの言葉で、わたしが抱える悩みに気付いていた。

 

「ねえフランちゃん、トムの事で悩んでる?」

「……ううん、ミディお姉様。何も悩んでなんて……」

「フランちゃんも嘘つくの苦手ねー、何も悩んでないならそんな俯いたりしないでしょ?」

「……っ」

 

ミディお姉様に内心を見抜かれたわたしは、思わず俯いてしまう。

わたしのせいで六年間も、トレーナーとしての時間を奪ってしまったトムは、ミディお姉様の大切な弟。

ミディお姉様に何を言われても仕方ないとわたしは思っていたけど、それでも尊敬しているミディお姉様に嫌われるのはとても辛くて、悲しい。

 

「あっ!違うのよフランちゃん!怒ってるとかじゃないからね?」

「……そうなの?」

「うん、だから……フランちゃんの悩み事、聞かせてくれる?」

 

でも、ミディお姉様は何も怒っていなかった。

怒られた方が楽だったかもしれないとわたしは思ったけど、抱えている悩みを、ミディお姉様に話していく。

 

「ミディお姉様……トムって、本当にすごいトレーナーなのね」

「そうなのよねー、あたしがアメリカにあいつを連れてったのって、それを確かめる目的もあったんだけど……予想以上にやるからびっくりしちゃった」

 

ミディお姉様も、トムが変装した怪人とのコンビで、グローリーカップを幾つも勝利している。

アメリカにトムを連れて行く時、ミディお姉様は「倍にして返す」と言ってくれた。わたしはトムが倍になったらどうなるんだろう?と楽しみに待っていた、けど……………その話は今はしたくない。

 

「アメリカに行った時、気付いたの。わたし、何も知らなくて……」

「……フランちゃん」

 

ミディお姉様が、優しく頭を撫ででくれる。

わたしは、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

 

「トムは、あんなにすごいのに……誰も、トムがすごいって知らないの。みんな、トムとわたしが契約するなんていけない、と言うの」

「まあ、仕方ないけど……フランちゃんは辛いよね」

 

 

「ミディお姉様……わたし、わたし……どうしたらいいの?どうやって、トムにお返ししたらいいの……?」

 

 

ミディお姉様は、ぎゅっと私を包み込んだ。

急に抱き締められて、びっくりしてわたしは声を上げる。

 

「ふえっ!?ミディお姉様……?」

「もー!フランちゃんかわいいー!」

「やめてちょうだいミディお姉様!まじめなお話をしてるのよ」

 

ぷんぷんとわたしが怒ると、ミディお姉様はわたしを開放して、優しく微笑んでくれる。

本当に優しい目だった。今でも、覚えているくらい。

 

「あたしが教えてもいいけど……フランちゃん、決心ができたらトムに言ってみなさい」

「トムに?でも、ミディお姉様……」

「大丈夫!あいつはフランちゃんの悩み事の答えを、ちゃんと持ってるから」

 

ミディお姉様はそう言うと、涙を優しく拭ってくれる。

少し、心が軽くなった気がした。

悩んでいる時、辛い時、悲しい時、いつもミディお姉様は相談に乗ってくれる。答えをくれる。

立派な大人で、尊敬できる先達の競走バ。トムと同じくらい、大切な人。

 

 

──この時の子供のわたしは、そう思っていた。

 

 

「わかったわ、ミディお姉様……ありがとう」

「うん……と、ところでねフランちゃん」

「……なにかしら、ミディお姉様?」

 

わたしは、まだ知らなかった。

ミディお姉様は尊敬できる人だけど、お酒で失敗して、調子に乗るとやらかして、肝心な時にいない人だって。

すごくダメな所もある大人で、肝心な時に逃げる人だって。

 

 

ゆるさない、絶対ゆるさない。今でも怒ってる。

 

 

「えーっとね、ちょっと書いてほしい物がね、あるんだけど……あっ!無理にとは言わないからね!で、でも書いてくれると、うれしいなーって……」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「トレセーン!!!ファイオー!!!!」

「ファイオー!!!!」

 

「久しぶりに来たけどなんやろなあ、会長が用事あるっちゅうて」

「本当に久しぶりだな、北原は元気かな……」

「私は呼ばれてないんだが?」

「ネイはんはほっとくとどっか行くやろがい!ええからついてきてや、学食おごるで」

 

翌日、トレセン学園。早朝ランニング中の生徒達のかけ声が響き、とある一派が何やら話しながら校門の先の並木道を歩く。

その少し後、大きな校門の前に智哉は到着し、手を上げる豊原に近付いた。

 

「よーう!来たな」

「ああ、悪いな案内してもらって」

「気にすんなよ、行こうぜ」

 

豊原と並んで門を潜り、噴水に向かって真っすぐ並木道を歩いて行く。

噴水の前、何やらフランス人の美少年が生徒達に囲まれているのを二人は見かけた。

 

「クリスくーんおはよー!ねえねえ次のレース担当してよ!」

「あー抜け駆け!!それなら私も!!!」

「皆さんおはようございマス、契約はチームを通してお願いシマス」

「そんな事言わずにー!」

 

生徒達に言い寄られ、困った顔の美少年。

 

「久居留、ここで待っててくれ」

 

そう言うと、豊原はそちらに足を運び、美少年の後ろから肩を組んだ。

 

「よークリス!今度合コン行こうぜ」

「わっ!?……トヨサン!」

 

突然肩を組まれて驚く美少年だったが、豊原と気付くや嬉しそうに笑顔を向ける。

現れた邪魔者に、美少年を囲んでいる生徒達からブーイングが飛んだ。

 

「わー出た!変態トレーナー!」

「クリス君を解放しろー!!」

「でも、ちょっといいかも……」

 

一人違う扉を開きかけている生徒がいたが、豊原は気にせず面倒くさげに生徒達をあしらう。

 

「あー?十年経ってから来いやガキ共、おら授業行ってこい!」

「きゃー!変態がうつるー!」

「ディーさんに言いつけてやるー!」

「この胸のときめきは何……?」

 

生徒達が校舎に逃げていくのを見届けた後、豊原は美少年から離れ、フランス語で語り掛けた。

 

「ったく……クリス、お前もあれくらいあしらえるようになれよなー」

「トヨさん、助かりました!ウマ娘の子には強く出れなくて……」

「ま、お前はそれでいいさ、また飯でもいこーぜ」

「トヨさんとならいつでも!」

 

尊敬の眼差しを向ける美少年と少し言葉を交わした後、豊原は智哉の方を指差した。

連れがいると伝えているらしい。目が合った美少年が会釈し、智哉も返す。

それから豊原が戻ってきて、近道らしい校舎の裏手に回った。

 

そこで、二人は強烈な悪寒を感じた。触れてはならない者がこの先にいる。

 

「あー……やってんな。いいか久居留、この先で起きてる事は無視して進めよ」

「お、おう……何だこの悪寒」

「お前もわかるのか……いいか、絶対に無視しろよ」

 

そのまま校舎の角に差し掛かる。

 

「トレーナーさん、言いましたよね?オルはあなたからスカウトするように、と」

「ちょ、ちょっと待って、それには理由が……」

 

首輪をつけられた童顔の青年が正座し、その首輪から伸びたリードを小柄なウマ娘が引っ張っている。

豊原は無言のまま、早足で横を通り抜けようとしていた。少しでも早くこの場から去りたい様子である。

 

「理由、ですか……トレーナーさん、オルはもうすぐ高等部に上がるんですよ?いつまで杖を持たない王のままにしておく気ですか?事と次第によっては……」

「いや、違うんだよ……スカウトはしようと思ったんだけど、ステゴさんがまだダメだって……」

「……アネゴが?何故……」

 

豊原に続いて智哉も横を抜けようとする際、横目で小柄なウマ娘に目を向ける。

灰色のインナーが入ったダークブラウンの髪、ダイヤモンド型の流星のメッシュが大きな特徴の眼鏡をかけたウマ娘だった。

一見すると優等生だったが、異様な雰囲気を纏っている。

ふと、見られた事に気付いたウマ娘がこちらに目を向ける。

 

「あっ、トヨさん、たすけ……」

「助けが必要なら、私がいますよトレーナーさん。何でもお申し付けください」

 

途方も無いほどの情念を込めた眼だった。関わらないでください、と目で訴えてきている。

寒気を感じた智哉は、小さく頷いて校舎の中に入った。

豊原と二人、息を吐く。

 

「あー……おっかねー」

「あれ、助けなくていいのか……?」

「いーんだよ……アイツはケンジっつーんだけどよー、ああなってるのは全部アイツが悪りーんだこれが……久居留、先達としての忠告だが……縁のあるウマ娘との約束とか出会いとかは忘れんなよ?じゃねーとああなるぜー」

「お、おう……」

 

そのまま、階段の前を通る。一人のトレーナーらしき人物が生徒と何やら話していた。

 

「……キミはもう本格化してるべ?レース出た方がいいっしょー」

「で、でも、私、契約を約束している人がいて……」

 

三つ編みの清純そうな生徒が壁を背にし、トレーナーらしき男が彼女の体の横の壁に手を当て、優しく話しかけている。

茶髪の、顔立ちは整っているが軽薄そうな男である。有り体に言うとチャラ男である。

少し化粧もしているようだった。特に目の下にコンシーラーを濃く塗り込んでいる。

 

「そいつは俺も知ってるけど、今年の試験落ちちゃってるんよねー……だからここは、オレとかどう?って話よ」

「でも、私、私……」

「あ、じゃあこうしない?予行練習ってヤツ」

「予行練習……?」

「そーそー!約束の前にさ、オレとトレーニングしてあいつをビックリさせちゃおう、ってヤツ!きっと喜んでくれるべ」

「れ、練習、練習なら……」

「おっ!前向きに考えてくれてる?じゃあ今日から……」

 

智哉が歩きながらうわっ、と声を漏らし、その横で豊原は誇らしげに頷いた。

 

「リューイチ、相変わらずだな……」

「知り合いかよ。あれ大丈夫なのか……?」

「あの生徒は模擬レースに出てない問題児でよー、あのリューイチってヤツがお節介焼いてんだよ。いっつも自分から損な役回りしやがってよ」

 

けっ、と悪態交じりに語りつつも、豊原の表情は何処か嬉しそうだった。

そんな場面だったかと智哉が首を傾げつつも、二人は理事長室に到着した。

扉を開き、秘書と理事長に挨拶する。

 

「歓迎ッ!!よく来てくれた久居留君ッ!!!!」

「どうもっす理事長、それにたづなさん。今日からお世話になります」

「ようこそ、トレセン学園へ!あら、豊原トレーナーもご一緒ですね」

 

ぺこりと頭を下げ、智哉は秘書と理事長に着任の挨拶を交わす。

豊原が、機先を制するように智哉の肩に手を置き、二人に堂々と言い放った。

 

「よーう、たづなさんにちびっこ、コイツ、ウチで使うぜ?本人の言質も取ってる」

「まあ!それなら話は早いですね、理事長?」

「待てッッッ!私は断固反対ッッッッ!!!」

 

「断固反対」と書かれた扇子を開き、理事長は抵抗した。

自らのやらかしで来る事になった大事な客人である。問題を抱える豊原の下で、万が一の事があってはならないと考えていた。

 

「豊原トレーナー!お前は今そんな状況じゃないだろうッッッ!!?久居留君はクリストレーナーに推薦したいッッッ!」

「あー?こんな状況だからだろ?おいちびっこ、後で聞くけどよー、とんでもねーヤツ連れて来たな?」

「ぐぬぬッッッッ!!!?」

 

豊原が言外に、智哉の素性について言ってきている事に理事長は言葉に詰まった。

しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。もう一つ腹案があったのである。

 

「だがッッ!お前に付けるサブトレは既に話がついているッッ!アメリカから打診があったッッ!!」

「ほー?コイツより上じゃねーといらねーよ。そっちをクリスに付けろよー」

「ぐぬぬッッッ!なら見てから判断してもらおうッッ!!!入ってくれ!!!」

 

理事長室の奥、応接室に繋がる扉が開き、一人の人物が入ってくる。

精悍な、浅黒い肌の男だった。また男かよ、と豊原が心の中で悪態をつく。

男は豊原と智哉の前に立つと慇懃に一礼し、顔を上げた。

 

智哉は妙な感覚を覚えた。豊原やオーストラリアの弟分、ルークに感じたような奇妙な、同類を見つけたような感覚だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ジョゼ、と申します。どうかお見知りおきを……ミスター豊原、そしてミスタークイル──」

日本編、結構話数かかりそうだから、帝王賞を区切りに一旦キャラ紹介してもいいですか?主人公とヒロインの現状とかも書いていきたいなって……。

  • いる
  • いらない
  • 全部終わってからでいいッス。早く書け。
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