トムとフラン   作:AC新作はよ

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ウゲースマホだと読みにくいのに今気付いた。台詞の行間調整します。


第十三話 いかにして彼は彼女と走るか

翌日、クイル・レースクラブ練習場。

4人は、再び練習場に集まっていた。

 

「んじゃやるか…」

「トム、あさからげんきがないわ」

 

朝から憂鬱そうな智哉に、フランが心配そうな声をかける。

 

「うじうじしてないで覚悟決めな。パパといた頃は色々やってたみたいだし、今更普通の人間のフリしても遅いわよ」

 

フランの横にいる姉の態度は辛辣であった。

弟の事情を知っている上で、持てる力でベストを尽くさないのが気に入らないのだ。

 

「うるせーなわかってるよ。フランには力になるって約束したし…」

「あんたに普通は無理だって散々言ったでしょ」

「…何の話だ?」

 

姉弟の要領の得ない言い合いに、メイドが口を挟む。

 

「今からやる事見てればわかるわ。トム、タイムはあたしが計るわよ。300でいいわよね?」

「ああ、頼む」

「あっ!トム、そういうことなの?」

 

智哉の事情を知っているフランが、これから何が起きるのかに気付いた。

 

「おう、今日は母さん曰く、一本やって大丈夫そうならって事だけどな」

「トムとはしれるのはすてきだわ!」

 

両手を挙げてはしゃぐフランの頭を智哉が軽く撫でてから、スタート地点に着く。

 

「待て、お前は人間だろう。いくら混血でも…」

「まあまあ、見てりゃわかるって」

 

制止しようとするメイドを姉が後ろから押しながら、3人が300m地点を目指し智哉から離れていった。

 

(こうやって走るの久しぶりなんだよなあ。あのじいさんの時といい、姉貴に仕組まれてる気がしてならねえけど…)

 

ゴール地点の姉に目を向ける。

最近何かと裏で動いている気がするが、姉は本当に父の跡を継ぐ為に障害競走のトレーナーになる気があるのかと智哉は疑問に感じていた。

家で試験対策をしている素振りも無い。外出先でしているのかもしれないが。

姉が智哉の視線に気付いたのか、手を振ってくる。

 

「いつでもいいわよー」

 

(いや、フランの力になるのは俺が決めた事だ。今はそれでいいか)

 

考えを振り払うと、智哉はスタートを切った──

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「流して23秒ね。まあまあじゃない?」

「おっ、25秒くらいと思ったんだけどな。これならいけるな」

 

姉の持つストップウォッチを横から眺め、智哉が満足げな顔で応える。

 

「トム!すてきだわ!とってもはやいわ!」

「いやーフランがすげえのは確かだけど、流石に六歳児には負けねえよ」

 

「…いや、ちょっと待て。おかしい」

 

唖然としたメイドの呟きに3人が振り向く。

この人のこんな顔見るの初めてだな、と智哉は思った。

驚愕の表情のメイドが、智哉を指差す。

 

「お前は人間か?」

「ひどくないっすかその言い方…」

「うちの弟はかなり血が濃いらしいのよ。子供の頃はよくあたしの相手させてたし」

 

姉の補足を聞き、メイドが腕を組んで言葉を噛み締める。

 

「…成程。これなら本格化した競走バの、軽い調整の相手程度ならできるな」

「できるわね。でもこいつ、普通でいたいとか言ってやりたがらないのよ。うちのクラブの子達にも隠してる。バカでしょ?」

「バカだな」

 

一刀両断であった。智哉は少しだけ傷付いた。

 

「言いたい放題じゃねえか…」

「ミディおねえさまもサリーも、おばかっていうのはいけないわ」

 

「いえ、お嬢様。これは言わねばなりません」

 

智哉に向き直り、メイドが告げる。

 

「ミッドデイにも言われているだろうが…お前がこれから目指す世界は、使える物であれば全てを使い、全てを擲ち挑まなければならない世界だ。でなければ、競走バの横に立ち、支える資格などない」

 

 

「最終的に、お前のその信条とやらのつけを払うのは、将来のお前の競走バだからだ」

 

 

真剣な表情であった。競走バとしての、競走にかけた先達としての忠告であった。

あんたに何がわかる、と智哉は言う権利も理由もあった。だが言えなかった。

父と共にいた頃は、世話になった父のチームのために協力していた。

恩を返したかったからだ。

しかし前回の老紳士、今回のフランへの助力、最近になって二度も自分の意志で、そうしなくてもいい事で信条を裏切っている。

自分でもわかっているからだ。過去から逃げているだけだとわかっているからだ。

 

(きっついな、ぐうの音も出ないってのはこういう事なんだな…)

 

このメイドの発言は、智哉の心に響いた。

 

「…何も言い返せねえよ、サリーさんの言う通りだ」

「…ふん、少しは自分を客観的に見れるようだな」

 

そう言ったきり、踏み込みすぎたと感じたメイドはそっぽを向く。

 

「すべてをつかい、すべてをなげうつ…」

 

そして、この言葉はフランの心にも響いた。

 

「ほら!湿っぽいの終わり!フランちゃんとトムは併走の準備ね」

 

ぱん、と手を叩いた姉が、ストップウォッチを手に取りメイドの横を通る。

 

 

横切る際に、小声で「ありがと」と言いながら

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「トム!もういっぽん!もういっぽんやりたいわ!」

「ぜえっ、フラン、ちょ、もう、よくね?しぬこれ」

 

結果として、智哉とフランの併走は無事に完了した。

そして大丈夫どころか、互角以上に走ってくれる智哉にはしゃぎ倒して何本も併走を強請った。

智哉は死んだ。

 

「運動不足ねー、明日からあんた早朝ランニングね」

「情けない奴だ」

「これ、まじきついわ…毎日やんのかこれ…」

 

智哉は軽く絶望した、幼女の回復力を侮りすぎていた。

 

「フランちゃん残念だけど時間よ。代わりに朝トムとランニングする?」

「やりたいわミディおねえさま!」

「じゃあ決まりね。あたしも行きたいんだけどね、そのうちね」

 

当人の意思の介在しないところで早朝ランニングが確定した。智哉は絶望した。

 

「…何だかんだ言っておきながら、最後までお嬢様に付き合う、か…」

 

そう呟いたメイドは蹲る智哉の横まで来ると、

 

「おい」

 

脇腹を軽く蹴り上げた。

 

「いてえ!何すかいきなり!」

「認めてやる。今のお嬢様にお前は適任だ」

「…へ?」

 

「お嬢様を任せよう。トム・クイル」

 

渾名呼びではあるが、初めて名前で呼ばれた事に智哉はぽかんと、メイドを見上げた。

その一瞬、メイドの口角が上がっていた。

 

「サリー、ぶつのはいけないのよ」

「あれくらいぶつにも入りませんよお嬢様、さあシャワーを浴びましょうね」

 

フランを伴いメイドは久居留邸に戻っていく。

智哉は今見た物が信じられず、固まっていた。

 

「なあ姉貴…今サリーさん笑ってたか…?」

「あたしもフランちゃん以外に笑ったの初めて見たわ…」

 

姉も、固まっていた。それほど衝撃的な出来事であった。

 

「だよなあ…俺達も戻るか…」

「あ、あんたはまだやる事あるわよ」

 

智哉がようやく起き上がろうとした所を、姉が制止する。

 

「ん?フランの練習はもう終わりだよな?」

 

姉は、親指でクラブハウスを指した。

智哉はその瞬間全てを察した。姉に、やはり昨夜から嵌められていたのだ。

 

クラブハウスの窓に、この時間はまだいないはずの、練習生達がいた。

 

「あ、姉貴てめえ…」

「あっちゃー見られちゃったわねー!これで走らないといけないわねー!」

 

姉は笑っていた。悪魔のような笑みであった。

 

「昨日から!!!こうする!!!!つもりだったろ!!!??」

「みんなー!!!今日からトム先生が併走してくれるわよー!!!」

「やめろ!!!!!!」

 

姉の呼びかけに応じてクラブハウスから歓声が聞こえる。

 

「じゃ、あとがんばって」

 

いつの間にか、確実に逃げ切れる位置にいる姉に智哉が怨嗟の声を上げた。

 

「絶対許さねえからな姉貴!!!!」

「まーまー良い機会じゃん。クラブの子にはあたしも今度付き合ってあげるから」

 

「今日!!!!やれよ!!!!!」

「今日は用事あるのよ。じゃあねー♪」

 

姉はそう言い残すと、久居留邸に脱兎の如く駆けていく。

 

(結局嵌められてたんじゃねえか。良い機会ではあるけど…)

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、練習生全員と併走させられた智哉は、やっぱり姉貴許さねえからな、としばらく根に持つのだった。




トッムにイキらせようとしたらいつの間にか説教されてた。
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