統括機構理事会は現在、混沌の中にあった。
ジュドモント家令嬢の襲撃事件から端を発す、アスコットポニースクールに潜む大きな闇、大規模な汚職が発覚したのだ。
事のあらましは、主犯格の一人であるアスコット校長による、生徒とのタンパリング斡旋であった。
本来、統括機構トレセン学院におけるトレーナーとウマ娘の契約は、入学後に面談もしくは校内レースによる直接スカウトのみが許されている。
対して主犯一味の手口は、生徒の個人情報及び行動範囲をトレーナーに流出、偶然を装う形で生徒に接触させる手法をとっていた。超名門の生徒をスカウト合戦に参加せずにスカウトできるのである。スカウト成功時には莫大な謝礼が主犯一味に支払われていた。
加担していたトレーナーには契約の強制解除、資格剥奪等の厳重な処分が課された。
中には慣例としてルール違反と知らず謝礼を払って接触していたトレーナーさえいた。事の規模の大きさが察せられる一例であった。
発覚はとある人物による通報であった。アスコットAクラスの元教師である。
彼女はショックでひきこもっていたのではなかった。娘が危険に晒されている事を知った父に軟禁されていたのだ。
彼女は持ち前の熱意と正義感で父にブチ切れて扉を破壊、父をぶっ飛ばしながら脱出した。
その後警察機構に直行。事情聴取で「これくらいやらないとあの子達に、フランちゃんに顔向けできない」と供述していた。
この彼女の意気に応えたのが、腕自慢かつ気性難揃いの警察所属の特殊部隊ウマ娘達である。
上官トレーナーの「まだ行っちゃだめだって!お前ら!ステイ!」という半泣きの制止を無視して、高飛びの準備をしていたアスコット校長を緊急逮捕。その場での"尋問"を持って背後関係を精査し、そのまま一味の確保に動いたのだ。発覚から一日足らずのスピード検挙であった。愚かなヒトミミは腕自慢のウマ娘に絶対に敵わないのである。しかし始末書の山に警察ウマ娘達は泣いた。いくら強くても始末書には勝てないのである。上官トレーナーは減俸で泣いた。彼は給料を満額貰える方が珍しいのだ。
アスコット校長は、手口の常態化による発覚を避ける為に自らの手駒を用意しようとした。それが件の元教師である。しかし彼女は教師としての適性には欠けていたが熱意と正義感の人物であった。今回の一件の後に警察ウマ娘となる。
そして校長は、高飛び前の最後の一稼ぎとしてジュドモント令嬢の誘拐を企んでいたのである。稀代の天才であり、かの伝説のダンシングブレーヴと並ぶ入試成績であったからだ。彼女の身柄一つで莫大な金額が動くのだ。
しかしそれは、とある少年の機転により失敗した。彼は重傷を負ってしまったが。
襲撃者は、森の中にいた二名、最初に接触した六名及び町中に配置されていた五名もまとめて検挙された。
襲撃者の基本装備は誘拐用のスタンガンと手錠で、拳銃を所持していたのは手薄な森側に配置されていた二名のみであった。簡単な仕事だと思っていたと襲撃者は供述した。少年はやはり不運だった。
そして統括機構理事会は今、地獄絵図と化していた。
いつもの通り余裕ぶっこいていた我らが生徒会長は、襲撃を受けた二人の名前を聞いて紅茶を噴き出した上でカップが手元で超震動を起こし、全部膝にぶちまけながらも意味深な事を言おうとして失敗。
嫌味眼鏡は眼鏡がずれたのを直さないままアスコット校長を慰留した理事長に嫌味を連発。
たまたま来ていたヘンリー理事は腰が抜けて白目になり天寿を全うしかけた。「死ぬ前にあの娘のブロマイドが欲しいのう。ダメ?儂理事なんじゃけど…」とぬかしていたからまだ生きそうである。
その他理事も阿鼻叫喚である。
そして流石にこれ隠せねーべどうすんのとなり、理事長が矢面に立ち、謝罪会見の運びとなった。
その理事長は今、
「もうやぁぁぁだあああぁぁぁああ!!!!!もう私辞めるぅぅぅぅぅううぅう!!!!!」
理事長室で全力で駄々をこねていた。
無理もない事である。彼女はスケープゴートである。
「我慢してください、ウェルズちゃん。これも理事長のお仕事ですよ」
美貌の秘書が理事長をなだめる。しかし無理筋であった。
この二人、人前とは口調が違うが実は学生時代の先輩後輩の間柄である。理事長が後輩、秘書が先輩であった。
「だって慰留した私が馬鹿みたいじゃん!もう私引責辞任していいじゃん!絶対辞めるううぅぅうぅう!!!!」
「仕方ないでしょう。まさかあんなに迅速に動いてたのが自らの火消しだったなんて…」
アスコット校長の火消しは本当に迅速であった。汚職にさえ手を染めていなければその手腕は有能だったのだ。
「だってさあああ!!嫌味眼鏡は嫌味しか言わないし!!!!ジジイはたまに来ては欲しい娘のグッズせびるだけだし!!!ガリレオはいっつも意味深な事言うだけだし!!!!他の理事は巻き込まれるの嫌がって何も言わないし!!!!セシル君とミル姉と私だけじゃん!!!ちゃんとやってるの!!!!」
理事長、魂の叫びであった。ストレスが溜まりすぎている。
ミル姉は二人でいる時だけの秘書の愛称である。
「でもガリレオちゃんはしっかり生徒会長のお仕事してますよ。ちょっとかっこつけたがるのが珠に瑕ですけど」
「そういうとこも嫌なんだよあいつうううう!!!私の話ちゃんと聞けよおおおお!!!ニジ姉帰ってきてよおおおお!!!!」
ニジ姉とは、先代理事長である。寿退職し、現在日本に在住しているイケイケの娘がいる。
「ニジ先輩は無理でしょう?ウェルズちゃんががんばらなきゃ。ね?」
「そう言うならミル姉がやってよおおおおお!!!!もうやだああああ!!!!」
ここまでの会話で、理事長は理事長室のソファーに顔を埋めて足をばたつかせながら駄々をこねていた。秘書の顔を見ていないのである。青筋が入っているのを見ていない。
突然、理事長は視界が明るくなるのを感じた。
首を、母猫が子猫を持ち上げるように引っ張りあげられたのだ。
「ウェルズちゃん、いい加減にしましょうね?」
「あっ、ミル姉怒ってる…?」
ここでようやく理事長は察した。秘書の逆鱗に触れたことに。
秘書の顔は笑っていた。だが顔全体に青筋が浮かんでいた。
理事長は顔面蒼白となった。怒った秘書は怖すぎるのだ。
「ウェルズちゃん、理事長が私に内定しかけた時に、やりたいやりたいって駄々をこねたのは誰だったかしら?」
「私です…」
「ニジ先輩が私に秘書をやってほしいと頼まれたのは、誰が心配だからかしら?」
「私です…」
「謝罪会見、やるわね?」
「やります…」
この後、理事長は謝罪会見で伝説の号泣会見を行った。動画サイトで散々ネタにされた。
ちらっと書いたけど警察機構にもトレーナーいると思うんですよね。
絶対苦労してると思う。