トムとフラン   作:AC新作はよ

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読み返したら主人公出てないから閑話になってもうた。


閑話 老紳士は何を知るか

『八歳~九歳の部1200mは6枠エスティメイトが勝利を収め、続いて──出走しました!!ポニーステークス六歳~七歳の部1000m!このレース、注目の未来の名バは一体誰でしょうか!解説のガリレオさん!!』

『──3枠のナサニエル。彼女は素晴らしい輝きを持っていますね。まるで──』

『おおっとお!抜け出したのは4枠ドバウィゴールド!西地区のクラブのエースです!』

『私、まだ喋り終わってないんだけど…』

 

アスコットレース場で開催される今回のポニーステークスは、グランドスタンド前の直線、通称ニューマイルコースのみを使って行われている。

直線のみでカーブの無い楽なコースという印象は間違いである。

1000mは最初に15mもの高低差の坂路からスタートされるのだ。

選抜戦に出れる程の名バの卵達にも過酷なコースだった。

 

──ただ一人を除いて。

 

(グッド。はんろはもんだいない)

 

予定通り先行のバ群につけ、悠々と坂路を上っていく眠た目のウマ娘。

その一人、幼女ナサである。

持ち前のスタミナとパワーで確実に好位置につけ、周囲を伺う。

 

(ためしたいことがあるから、ラチにつける。あの4わくのチームメイトふたりが、かならずあれをやる)

 

『3枠ナサニエル!ここでなんとラチに体を寄せます!これは一体!?直線のみのコースで何故こんな事を!?』

『なるほど…大一番でまさか自分を試すとはね。まるで私の妹のようだ』

『ガリレオさん!解説になってません!』

 

(きた。クラブさっぽう)

 

ラチにつけたナサに対して見計らうかのように、4枠ドバウィゴールドと同じクラブの二人がにじり寄る。

クラブでの常套手段、垂れたペースメーカーによるブロックである。

これが競走バシップを重んじるポニースクールと、選抜戦の枠を争い合う勝利至上主義のクラブの大きな違いであった。

生徒会長ガリレオの妹は、このなんでもありの気風を好んで自らクラブの道を選んでいる。

そして、ナサは試したい事があるために、自らこの状況に飛び込んだのだ。

 

(このままださないよ!)

(おぎょうぎのいいスクールのこには、ぬけれないでしょ!)

 

見事にナサを囲んだ二人が嘲笑う。

しかし、その笑みはすぐに驚愕に変わった。

 

──二人の隙間を、ナサがすり抜けた。

 

(なにいまの!?)

「むりー!」

 

ナサが手応えを感じてふんすと息を吐く。

あの幼き王者との交流戦以来、取り組んでいた事が実を結んだのだ。

 

(できた。おうさまきどりステップ。ちょっとかすったから、ようれんしゅう)

 

控室で中継を見ていた王者が「我のわざをぬすみおって!おのれナサニエル!!でもあっぱれである!」と声を上げた。ナサには聞こえていないが。

 

(ためしたいことはおわった。しかける)

 

ぐん、と残り300mでナサが速度を上げる。

己の最大の武器、長いロングスパートに入ったのである。

 

『おお!!ここで3枠ナサニエルがぐんぐんと上がっていく!!しかしこれは仕掛けるのが早すぎるのでは!?』

『いえ、あの子はこのままゴールまで行けますよ』

『やっと解説いただけました!!確かに勢いが衰えません!!そのまま先頭をとらえにかかる!!』

 

ナサに捕捉された4枠ドバウィゴールドが、必死に逃げ切ろうと根性を見せる。

しかし、無駄なあがきとなった。

 

(この4わく、たぶんほんとうはにげじゃない。ここはクラブのわるいところ。ブロックがあるから、さしやおいこみだとエースになれない)

 

 

 

『そのまま一気に差し切ったああああ!!見事なロングスパートで!!1000mを勝ったのは3枠ナサニエル!!』

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「うわあー!今の子のバ群の抜け方、すごいですねー!見てた?シャカール!」

「今の足捌きは…こんな感じか?ブロックは甘ェけど、バ群を抜けるだけなら十分使える…本場は技術面で進んでるな…」

「…シャカール~~?」

 

一般入場不可のVIP用ラウンジ席から立ち上がり、先ほど見たステップを検証するギザ歯の親友に腹を立てた麗しき公女殿下が、親友の耳を引っ張って抗議する。

こうなった親友は戻ってこないからというのもあった。

 

「何だよいってェな!今いいとこなんだよ」

「そうやってまた私の話を聞かないんだから!もう知らない!」

 

ぷい、と拗ねて可愛くそっぽを向く殿下を見て、ギザ歯のウマ娘──エアシャカールが顔をしかめる。

 

(めんどくせェ、また拗ねやがった…それに何でオレが、こいつの公務にここまで付き合わされてんだよ…SPさんも何も言わねェし…)

 

公女殿下こと友人ファインモーションから「公務で帰国するから一緒に来ない?本場のレースも観れるよ!」と誘われた時は、本場の技術を目の前で観れるとシャカールは喜んで飛び付いた。

先日英国から帰国した、違う視点からウマ娘の限界を追うマッドコンビから「シャカール君!英国で良いものを見たよ!もし行くならこの人物を捕獲して──」と自慢気に話されたのもあったからだ。

なお後半は、またマッドな事言ってやがると聞き流した。

しかし、日本を離れた飛行機の機内から違和感を感じた。

まずSPが公務のスケジュールの相談に来た。

旅費を負担してもらっている負い目から、シャカールはその論理的な思考を用いて時間の削減、無駄を省いた調整案を提案した。何故かそのまま通った。

入国してからも、ここからは別行動かと思いきや、そのままアイルランド大公の居城へと案内された。

大公陛下とその奥方、つまりファインの両親に、謁見の間ではないプライベートな居室で挨拶を受けたのだ。

ここでシャカールはこの友人に嵌められたと悟った。そのままなし崩しに全ての公務に同行している。

ちなみにファインのトレーナーは、仕事が溜まっているから行けないと言って同行していない。

アイツ、逃げやがったんだな…とシャカールが気付いた時にはもう遅かった。

楽しみにしていたレース観戦は、これからやっと観れるという有様であった。

 

「オイ、ファイン、お前何がしてェんだよ」

「…どういう事?」

「どういう事じゃねェよ。オレをここまで付き合わせて、何がしてェんだって聞いてんだよ」

 

シャカールが、ファインのここまでの我儘三昧に抗議の声を上げる。堪忍袋が限界に来ているのだ。

 

「…言わなきゃダメ?」

「ダメに決まってんだろ。お前のワガママならオレはもう帰る」

 

親友が怒っている事に気付いたファインが、耳をしゅんと垂れさせながら俯く。

確かに、我儘を言い過ぎた自覚があった。嬉しくてはしゃぎすぎたのだ。

 

「ごめんね、シャカール…私ね、見て欲しかっただけなの…」

「…何をだよ?」

「大切な私の国、大切な私の国民、みんな大事な私の全部を。ごめんね。はしゃぎすぎてわがままばっかりで」

 

公女殿下ファインの目的は、ただそれだけだった。

大事な親友に、自分の好きなものを知って欲しかった。見て欲しかっただけだったのだ。

本当は自分のトレーナーも連れて来たかった。断られてしまったが。

この気持ちを受け止めたシャカールが、バツが悪そうに頭を掻く。

 

「…帰りの飛行機の便、私が用意するわ。迷惑かけて…」

「あァァァァ!うるせェ!」

「えっ、シャカール…?」

 

シャカールが頭を掻きむしりながらファインの言葉を遮る。

まず自分に腹が立った。そして何故かこの友人の落ち込む姿を見ていたくなかった。

こんな事を言わせた償いをしなければならなかった。

 

「ラーメン!!」

「えっ、どうしたの?」

「食わせてェんだろ!!お前のラーメンを!!お前の国のヤツらに!」

「う、うん、でも時間が…」

 

「一時間だ!一時間だけ屋台を開けるようにSPさんと調整してやる!!お前は今すぐ仕込みに入れ!!それと次来る時はお前のトレーナーも連れてくるぞ!!オレからも言ってやる!!」

 

このウマ娘とは思えない程に男前の発言にファインの頬が紅潮し、うれしさで目が潤む。

この親友を連れてきてよかった。シャカールと友達になれてよかったと、心から思った。

そのまま気持ちを抑えきれずに、ファインがシャカールに抱き着く。

 

「ありがとうシャカール!大好き!!」

「時間ねェって言っただろ!離れろって!!」

 

 

──このやり取りを、VIPラウンジの片隅でレースそっちのけで凝視する老紳士がいた。

 

 

「おお…あれが我が盟友デジたんが常々言っておったシャカファイ…ゴネにゴネてVIP席で観覧できてよかったわい…もう、思い残す事は何もない…」

「じいさま不敬にも程があるだろ。逝ってねえで帰って来い」

 

日本のウマ娘愛好家よりいつも聞いていた、見たくて堪らなかった悲願の光景を遂に拝めた老紳士ことヘンリー理事が涅槃に旅立つのを、久居留家当主こと伝蔵が止める。

両親がトレーナー席を訪れた目的が、このヘンリー理事とその同行者達であった。

トレーナー席に向かったところ、VIP席におるから来いと連絡が入り、理事のゴリ押しで席を取ってここにいるのだ。

 

「父さん、VIP席に行きたがったのはこの為ですか…」

「うふふ、お義父さんは本当に仲の良いウマ娘を見るのがお好きね」

 

ヘンリー理事の同行者は、息子セシルとその妻だった。

つまり、フランの両親である。

フランの母と智哉と姉の母、元々二人は学院時代の友人であった。

先に交際していたセシル夫妻に頼み込んで母を障害競走に連れてきてもらい、交際に至った経緯があるのだった。

 

「俺とサッちゃんの席までわりいなじいさま。カイちゃんとセシルもいるって事は、俺達の目的はわかってんだな?」

「…席は気にせんでええわい、一人二人増えようが変わらん。それよりもエイベル、なんでお主までここにおる?」

 

同行者は、もう一人いた。

オブリーエン家当主、エイベル・オブリーエン──

統括機構の重鎮二人が、VIP席に揃っていた。

 

「…ご老公、セシル君。お二方に苦言、いや非難を言いに来ました」

「エイベル先輩…」

「ほう、言うてみい」

 

常時冷静なエイベル理事が、珍しく端から見てもわかるほどに怒っていた。

娘からの報告で、信じがたい話を聞いたからである。

眼鏡を持ち上げてから、言葉を続ける。

 

「なぜ、お孫さんが選抜戦に出ているのです?なぜ止めていない?」

 

嫌味眼鏡と揶揄されているエイベル氏であるが、その実はウマ娘第一主義を掲げたウマ娘をこよなく愛するトレーナーである。

冷酷なだけの人物に名家の当主、ひいてはチーム・クールモアを率いる事など不可能なのだ。

その自らの主義に重ねて見ても、ヘンリー理事の孫への対応は看過できないものだった。

 

「やっぱりあの通達はお主の横槍か。ようやるもんじゃな」

「ああすれば、出場を取り止めると思ったまでですよ。それよりも質問に答えて頂きたい。答えないのであれば、私が働きかけて彼女を失格にします。例えお孫さんが快復しつつあったとしてもです」

 

有無を言わせない、強い意志を感じる言葉であった。

その言葉を受けて、ただのウマ娘大好きジジイの眼光が、名伯楽と呼ばれたトレーナーのものへと変化する。

 

「のうエイベル、セシルとデンゾウもじゃな。運命を信じた事はあるか?」

「じいさま突然なんだよそりゃ」

「意味がわかりませんが」

 

怪訝な顔をする二人を見て、ヘンリー理事が笑みを深くする。

 

「ウマ娘にはの、あるんじゃよ。運命。儂の孫には少々早すぎたがの…」

 

この言葉を聞いたエイベルが即座に席を立つ。

話にならないと退席しようとしたのだ。

 

「まあ待たんかエイベル。今止めると後悔するぞ」

「話になりませんね。ご老公には引退をお勧めします」

「もうほとんど引退しとるようなもんじゃ。それよりも今回だけは儂を信じてみんか?きっとええもん見れるぞ。滅多に見れんもんがの」

 

一度だけ立ち止まって考え込んだ後に、エイベルはVIPラウンジを後にした。

いなくなったのを確認してから、名伯楽がただのウマ娘狂いのジジイに戻る。

 

「おお怖っ、あの坊主いつの間にあんな覇気出せるようになったんじゃ…娘とちゃんと向き合っておらん癖に」

「言いたい事大体エイベルに言われちまったなあ。セシルも何か知ってるみてえだけど吐かねえしな」

「あはは…すいません…」

 

伝蔵がセシルを睨みつけ、睨まれた当人が肩身を狭くする。

妻とメイドにも散々非難されて最早立つ瀬が無い身であった。

 

「伝蔵さん、サマーちゃん。私は主人を信じる事にしましたわ。この人、フランの事が何よりも大事ですもの」

 

フランの母、カイ夫人が優しい目で夫を見つめながらそう語る。

しかし義父には辛辣な目を向けた。

 

「でも、お義父さんはいまいち信じられないわ。普段が適当すぎます」

「ええー、儂がんばっとるのに…」

 

がっくりとヘンリー理事が肩を落とす。

理事会でのグッズ要求、チーム運営を息子に投げての気に入ったウマ娘のライブ追っかけ、余罪は大量にあった。

気を取り直して、老紳士が言葉を繋ぐ。

 

「儂から言える事は、後はデンゾウんとこの坊主次第じゃな。今はそれだけで許してくれんか」

「うちの息子が、ですか?」

 

母が首をかしげ、ジジイがその首傾げかわいいのうと思ったが、すぐに真顔に戻り頷き返す。

隣の伝蔵がその瞬間すさまじい目で睨んできたからだ。

 

「うむ、儂と知りつつ啖呵を切りよった坊主じゃ。何かあったら動かん訳が無い」

「いやじいさま何言ってるかわからねえけど、俺の息子ヘタレるぞ」

「うちの息子、逃げれる時は逃げる子ですけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっまじで?儂信じたらダメじゃった?」




王様ステップ(金レアスキル):バ群から抜けやすくなる(効果大)
サポートカード:「幼き日の王者」エクセ??????ンより獲得。
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