トムとフラン   作:AC新作はよ

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ごめん切りいいからここで。明日も投稿します。


第二十八話 いかにして彼は乱入させられたか

『さあ!今年のポニーステークスもついに最終レース!6歳~7歳の部ハーフマイルを迎えました!今年は12バの出走となりましたが4枠ロデリックオコナー!6枠7番ゾファニー!そしてクラブとスクール双方の無敗バと才能溢れる未来の名バが目白押しです!誰に注目されますかガリレオさん!』

 

『皆、素晴らしい輝きを持つ幼い才能ですが…私は2枠のフラン嬢を推したいですね』

 

『なるほど!ガリレオさん一押しのフラン嬢、中央地区のクイル・レースクラブ代表で加入からわずか二か月ほどですが…なんとここまで無敗!!1枠、地元アスコットポニースクール代表で交流戦無敗のエクス嬢との無敗対決に注目しましょう!』

 

選抜戦は6~7歳、8~9歳、10~11歳、の年齢別の3種目合計9レースが行われている。

12歳の部は存在しない。学院入りを目指す大事な時期であるからだ。

 

「戻ったぞ」

「ただいまー、会った感じ大丈夫そうだったわよ」

「おじゃまします」

「おう、お帰り。ナサも連れてきたんだな」

 

智哉は、パドックでフランを見守った後にゴール前の立ち見エリアに移動していた。

なるべく近い位置でフランを見てやりたかったのだ。

そこで姉とメイド、更に二人と地下バ道で合流したというナサを迎えて観戦に入る。

ゲート前のスタート地点では、一番乗りしたらしい小ぶりな流星の鹿毛の幼女が、地下バ道から出てくる出走バに一人ずつ挨拶を交わしているのが見えた。

 

「あれがエクスって子か。自信の塊みたいな子だな。ありゃ速そうだ」

「…あいつむかつくけど、たしかにはやい」

「ナサちゃんずっと負けたの根に持ってるわね…」

 

姉貴も似たようなもんだぞ、と言いたかったが智哉は我慢した。

口はワザワイの元という日本のコトワザを覚えた成果である。

 

「お前は大丈夫なのか?ミッドデイが無理矢理連れ出したと聞いたが」

 

メイドが智哉に声をかける。この二か月、智哉が憔悴していくのを見ていたからだ。

 

「結構しんどいっすけどね…悩むのは後でいいっす」

「なるほど、少しはマシな男になったようだ」

「あんたは悩まなくていいのよ!」

「いてえ!なんで今蹴ったの姉貴!?」

 

覚悟を決めた智哉に対して笑みを浮かべるメイドを見て、何となく腹が立った姉が智哉の脛を爪先で軽く蹴る。

智哉は何も悪くない。理不尽な所業であった。

 

「…きたよ」

 

ナサがいち早くフランの登場に気付き、全員が注目する。

 

──全員が見守る中、フランがその場に蹲った。

 

『おっと、スタート地点で誰か蹲っているようですが…』

『がんばれ…がんばれ…』

『ガリレオさん!?』

 

「あれフランちゃんでしょ!何があったの!?」

「お嬢様!!」

 

姉とメイドが叫ぶ中、智哉が原因を探す。

クラブでのレースで、フランが動けなくなる事は一度もなかった。

つまり、何かを見た、聞いたと判断したのである。

 

(応援席…!そういうことかよ…!!)

 

グランドスタンド最前列、智哉がそこに原因を見つける。

アスコットポニースクールの生徒達の応援席、フランへ声援を送る子供達がいた。

智哉が相マ眼で見た、フランのトラウマというバッドステータス。

彼女が立ち直っていない証拠がある。

この声援が劇毒となり、フランを苛んでいるのだ。

 

(やっぱり無理だったんじゃねえか!どうする…あそこにフランはもう置いとけねえ)

 

姉とメイドに目をやり、智哉は数秒間考え込む。

 

(…方法は、ある。俺マジでトレーナーになれねえかもなあ…)

 

覚悟を決めるために目を瞑ると、自然とフランと出会ったあの日を思い出した。

 

『わたし、フラン…おにいさん、おなまえ、なんていいますか?』

(あいつにまだ名前教えてなかったな。この後教えりゃいいか)

 

目を開く。覚悟は、決まった。

介入してでもあの場所からフランを連れ出す必要がある。

その為に何をするか、その覚悟を決めたのだ。

 

「姉貴、サリーさん。今からゲートまで走れるか?あいつが嫌がっても無理矢理でいい。係員に棄権を告げて連れ出してくれ」

「…わかった!あんたは?」

「その時間を稼ぐ」

 

この智哉の覚悟に対し、メイドが声を上げる。

統括機構主催レースの妨害をする、と今智哉は宣言したのだ。

その意味に気付かないはずがなかった。

 

「おい!お前、その行為の意味がわかっているのか!?それなら私たちが時間を…」

「俺が走るより二人の方が速いっすよ。それにそこまで大それた事はしねえっす。ほら、ゴール前のラチのあそこ」

 

智哉が指差した先に、二人の警察ウマ娘がいた。

ゴール前、重要地点の警備をしている二人である。

 

「あの二人にちょっかい出して、詰め所にでも連行されてきます。その間警備の補充入るまでは延期できると思うんで」

「そうか…それ以上の事はするなよ?いいな?」

「絶対乱入はダメだからね!絶対よ!」

「わかってるって。流石にやらねえよ」

 

姉とメイドはそう言い残すと、混雑する立ち見エリアをかき分けていった。

残った智哉が、ナサに目を向ける。

フランを心配し、不安そうな顔をしていた。彼女の為にも何とかしなければならない。

 

「ナサ、折角来てもらったのに悪いな。ちょっと行ってくるわ」

「ううん、ぼくもいく。フランのためになにかしたい」

 

智哉の言葉に対し、ナサが首をふるふると振ってから、智哉を見つめる。

絶対についていくという、強い意志を灯した目であった。

 

「…わかったよ。でも俺がやるからな」

「うん、じいじにすぐにおねがいするから、そこはまかせて」

「そういや、お前もあのじいさんの孫だったな…任せたぜ」

 

二人で、ゴール前に近付く。

途中でナサを待機させ、智哉が警察ウマ娘に声をかけた。

 

「おまわりさん、ちょっといいすか?」

「なんでありますか!?暴漢でありますか!?逮捕でありますか!?」

「えっやべえ何この人」

 

気性難であった。智哉は全力で逃げたくなったが、後ろで幼女ナサが見ていた。

逃げられない。現実は非情である。

 

「ごめんねー、こいつレース場の警備するのはじめてでさー。ところで君結構イケメンだねー。目つき悪めなのもいいじゃん」

「すんませんナンパはちょっと勘弁してほしいっす…」

 

もう一人はまともそうかと思いきや、職務中にナンパをしてくる軽薄さの持ち主だった。

智哉はウマ娘を眺めるのは好きだが、恋愛対象としてはやや守備範囲外であった。姉のせいである。

これどうしようと智哉が悩み始めた、その時だった。

 

「みんないけーー!!!」

「「「わーーーーー!!!!」」」

 

突然、智哉の後ろから、多数のウマ娘の少女達が警察ウマ娘二人に飛びかかった。

智哉が謎の闖入者の顔を見て絶叫する。知っている顔しかいなかったからだ。

 

「お前らなにしてんの!!?」

「せんせー!行って!フランちゃんのためでしょ!?」

「どこにだよ!!?行かねえよ!!そこまではしねえよ!!」

 

警察ウマ娘への襲撃者は、クイル・レースクラブの練習生達であった。

あの時、姉と智哉の会話でフランが走れないと聞いたアンナが、何かあったらみんなで助けになろうと声をかけていたのだ。有難迷惑であった。

 

「私こんなことしていいのかしら!!本当にいいのかしら!!?」

「こら!公務執行妨害であります!首謀者は誰でありますか!?」

「こらこらー、しょっぴくぞガキどもー」

 

智哉は頭を抱えた。

まるで運命が乱入しろとでも言っているように、お膳立てされてしまっている。

もみくちゃにされた警察ウマ娘のうち、気性難の方が智哉を睨みつけた。

 

「まさか首謀者はお前でありますか!!子供達を利用するとは卑劣漢であります!」

「いや違うんすよ!俺じゃないっす!」

「せんせー!はやく!」

「トム先生早くしてください!あと今から走れますか?」

「マジで勘弁してくれよお…」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

智哉に泣きが入った一方で、姉とメイドはスタート地点を目指している。

しかし、混雑する中を進むのに苦戦していた。

 

「あーもう!すいません通して!」

「……ミッドデイ、どいてくれ」

「サリー急いでんだから…あっ」

 

焦る姉がメイドの顔を見て真顔になる。

メイドの顔全体に青筋が浮かんでいる。ここに来て気性難モードに変わっていたのだ。

メイドが背を反らし、息を吸い込む。

 

「どけえええええェェェェェッッッ!!!!!!!」

 

グランドスタンドまで響く、大音量の怒号であった。

一瞬周囲がしん、と静まり、その場の全員がメイドに注目する。

メイドは、オークスウマ娘である。そして、ある事でも有名であった。

 

「おい、あのメイドって…」

「うわああサリスカだあああ!!!」

「道あけろ!!死にたくない!!!」

 

札付きの気性難だったのだ。メイドこと、サリスカの顔を覚えていた競バファン達が、まるで三国志の猛将を見たかのような恐慌ぶりで下がり、スタート地点まで一直線に道ができあがる。

 

「よし。走れるな?復帰に向けてトレーニングはしているんだろう?」

「…あんた、やっぱりすごいわ。今ならあんたも復帰できるんじゃない?」

「もうレースはいいんだ。それよりも急ぐぞ」

 

姉はかつてのライバル、一度も勝てなかった頃のメイドの姿を幻視していた。

二人でそのまま、拓けた道を走る。

この二人を、ゲートとゴールのちょうど中間点の立ち見エリアで見ている二人組がいた。

 

「ふえ~、おっきい声!」

「…あれは、ミッドデイとサリスカか。久しぶりに見るな」

「シーちゃん同級生だもんね~」

 

アホの子ライトと、その後輩シーちゃんであった。

ゴールまでしっかり見れる場所が良いと駄々をこねたライトによって、ここまで移動してきたのだ。

ライトが、ふらふらとゲートに進むフランを心配そうに眺める。

 

「あの子、大丈夫かなあ?」

「…ああ、心配だな」

「…おお~?シーちゃん変わったよね~。昔なら弱いヤツはターフに出てくるな~とか言うとこだよね」

 

後輩の変化を、アホの子がうれしそうにからかう。

突っ張っていた黒歴史を突かれてシーちゃんの顔に青筋が浮かんだ。

 

「ああ、きっと先輩のアホがうつったんだな」

「もうまたアホアホ言って!そこまでアホじゃないもん!それよりもついてく?面白そうだし」

「そうだな、何をやるのか見ておこう」

 

ライトとシーちゃんの前を横切るタイミングで、二人に合流するように横を走る。

二人に気付いた姉が走りながら声をかけた。

 

「あれっ、まさかライト先輩?てことはそっちはシーザ…」

「久しぶりだがやめろミッドデイ。私は今はただのシーちゃんだ」

「…ああ、あんたまた苦労してんのね。ライト先輩あんまりこいつに迷惑かけちゃダメよ」

「かけてないもん!」

 

現在進行形で迷惑をかけられているシーちゃんが抗議しようとした所で、スタート地点に到着する。

道さえ拓けていれば、名バ達にとっては大した距離ではなかった。

その時だった。

 

『──乱入者!ゴール前に乱入者です!大変な事になりました!』

「はあ!?あのバカ何してんのよ!?」

「とにかくお嬢様だ!そっちは任せる!」

 

乱入した智哉に姉が怒りの声を上げ、メイドがすぐさまフランを回収に向かう。

二人の動きを見て、シーちゃんが首を傾げた。

 

「何が起きているんだろうな?」

「…」

「…先輩?」

 

シーちゃんがライトに目を向けた瞬間、猛烈に嫌な予感が走った。

ライトの目が、普段よりもきらきらと輝いていた。

ライトは、アホの子である。時折突拍子も無い事をしでかす。

その予兆が今、現れていたのだ。

ライトが、乱入者とゲートで泣いている幼女を見比べる。

 

「これだ~~~~!!!!」

「おい先輩!?何をする気だ!」

「むぎゅ!これ邪魔!!!」

「手刀でロープを切っただと…!?」

 

手刀で綺麗に腰に巻かれたロープを切断し、ライトが脱走する。

そのまま小柄なライトはラチの上を器用に駆けて行った。目指す先は、ゲートの開放装置であった。

シーちゃんが目的に気付き、必死に追い駆けながら声を張り上げる。

 

「おい!やめろ!!それはダメだろう!!」

「ちがうんだよシーちゃん!!きっとこうなんだよ!!」

「ちょっと何してんの先輩!?」

 

ゲートに飛びつき、係員の制止すら追いつかないまま、ライトが開放装置に到達した。

そして満面の笑みを浮かべ──

 

「えい!!!あと旗!!」

「あ!!ちょっと君!!」

 

ゲートを開放した。そしてすぐさま旗係に飛びついて旗を奪う。

 

「ごー!!」

 

アホの子は、発走させたのだ。集中していた出走バの子供達はフランを除きそのままスタートした。

スタート地点は一気に混沌とした状況になった。地獄絵図である。

 

「あああああこのアホおおおおおおおお!!!!!」

「ひーひゃんいひゃい!いひゃい!!」

 

激怒したシーちゃんがライトのもちもちした饅頭のようなほっぺをひっぱり倒す。

激怒したのはシーちゃんだけではなかった。姉である。

しかし、怒りの矛先はシーちゃんであった。

 

「おい!!!シーザスターズ!!!お前ちゃんと面倒みとけ!!!!」

「あああフルネームはやめろおおお!!!」

 

名前を出されてシーちゃん、いやシーザスターズが悲鳴を上げる。

こんなん私のキャラじゃないと彼女は叫びたくなった。

"空に瞬く恒星"シーザスターズ──敗北は本格化前のメイドンのみ、クラシック二冠を達成し凱旋門賞も制覇した、歴代最強とも噂される欧州競バ界最強候補の一角である。

しかしアホの子当番であった。もう一度言うが最強バ候補なのにアホの子の当番なのだ。

 

「どうすんのよこれ!!!誰が責任とんの!!?」

「わ、私じゃない!!このアホだろ!!!」

「ひーひゃんいひゃいよう」

 

阿鼻叫喚であった。一瞬姉ですらフランの事を忘れてしまった。

そんな中、一つの変化が起きていた──

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様…その光は…?」

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