トムとフラン   作:AC新作はよ

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第三十話 いかにして彼と彼女は名乗るか

『なんか光ってる乱入者がいるのにスタートしてしまいました!どうなってるの!??とにかく実況します!大きく出遅れたのは注目の一枠フラン嬢!えっ今度はこちらが光っています!!ガリレオさんどこ行ったんですか!?解説してください!!』

 

フランが、走り出す。驚異的な加速で一気に後続に間合いを詰めながら。

まず追いついたのはオコナーのチームメイトの二人であった。

彼女達は、フランと出会って変わりつつあるオコナーを勝たせてやりたかった。

そのために、後続で待っていたのだ。一番の脅威であるフランを。

 

(フランちゃんきた!ごめんね!)

(オコナーからはやるなといわれたけど!)

 

一枠のフランをブロックする為に体を寄せる。強豪チームの見事な連携であった。

それを察知したフランの目が青く輝く。

智哉から抜け出た相マ眼は、別の形でフランに宿っていた。

どこを走れば抜けれるか、それを教えてくれるのだ。

 

(トムのめがおしえてくれてるわ!でも!)

 

しかし、フランは導きに従わなかった。

そのルートではバ群に飲まれる。大きく出遅れた現状では、先頭に追い付けないからだ。

目から出る青い閃光の軌跡を残しながら、フランが急減速からの急加速でブロックを置き去りにする。稲妻のような直角軌道であった。

技術でもなんでもない、理不尽な才能のみでブロックをかわしてみせたのだ。

 

『なんというブレーキからの加速!まるで稲妻の如しです!!』

「むりー!」

「はやすぎるー!」

 

まず二人、そして一番開けている大外に進路をとる。

 

(このままいっきに!せんとうをめざす!トムのいるところを!)

 

このフランを、出遅れようが全てを蹂躙する怪物を、ジェシカは戦慄しながら眺めていた。

 

(何…何なのこれは…こんな怪物が…あの子と同じ世代だなんて…)

 

思わず、恐怖を抱いた。そしてわずかに絶望の気持ちも。

そして隣のエイベルは、かすかに笑っていた。

娘に勝ってほしい気持ちは当然ある。

だがこれ程の才能を見て心が昂っていた。トレーナーとしての血が騒いだ。

 

(欲しい…我がクールモアに迎えたい。あの少年、彼が恐らくあの少女の運命だ。ならば…)

 

そして悪だくみを始めた。友人の娘であろうと何としてもチームに迎えたくなったのだ。

 

 

目の前でフランが出て行ったメイドは、涙を流して絶叫した。

 

「あああああああお嬢様あああああああああ!!!!!!」

「サリーうるさい。気持ちはわかるけどね」

 

姉も、少し涙をこぼしていた。見た事がある奇跡をフランが起こしていた。

あの日、会長とアホの子の二度目の対決。

領域(ゾーン)に入り、いつも通りのつまらない勝利を確信した会長を破った、"空想的な輝き"(ファンタスティックライト)がそこにあった。

シーザスターズも、思わず口を開けながらアホの子の折檻を中断する。

 

「…先輩、これがわかっていたのか?あの時の先輩と同じだろう、あの現象は」

「シーちゃん痛いよう。私の勘だよう」

 

この奇跡を起こした一人、アホの子はべそをかいていた。しかも勘で行動していた。

しかし、ライトの勘はこういう時、必ずと言っていい程によく働いた。

この怪物を見て、シーザスターズの血が滾る。

彼女は、強者と走る事を何よりも望んでいた。その相手と成り得る相手が、また一人現れたと感じた。

 

(あの子がレジェンドグレードまで来るのに何年だ?私はまだまだ現役のはずだ。楽しみでならない…!早く、早く来い…!)

 

「あー!シーちゃんまた悪い顔してる」

「これは嬉しいだけだ。それよりも実行委員に謝りに行くぞ」

 

そう言ってシーザスターズがライトを担ぎ上げる。

もうレースを観る必要は無い。誰が勝つかはわかっていた。

 

「やだー!怒られるのやだああああ!」

「良い物見せてもらったからな。私も付き合おう」

「ホント!?シーちゃん大好き!」

 

二人はそう話し合いながら、ターフを後にした。

なんだかんだシーちゃんはアホの子にダダ甘であった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「ああ!あなた!あの子が、フランが走ってます。あんなに楽しそうに…」

「そうだね…やっと…やっとあの子が…」

 

セシル夫妻は、娘の走る姿を見て涙を流していた。

その様子を見ながら、老紳士、ヘンリー理事は懺悔をするように語り出す。

 

「…三女神の寵児には、守護者のようなものが宿る。心が傷付いたら、代わってあげられるようにの。前は、ブレーヴの時は、代わってしまって間に合わなかったんじゃ」

「ウマソウル具現化症、ですか?」

 

母が、何が起きていたのかの推論を述べる。それに対し老紳士が頷き返した。

 

「あの論文な、儂が出したんじゃよ。ブレーヴをアメリカから英国に連れて来たのは儂じゃからな」

「…そうだったんですね。じゃあ、ダンシングブレーヴは…?」

「儂が、あの子の運命だった幼馴染の青年から引き離した。イップス治療の為にの…」

 

老紳士が、俯いて頭を抑える。罪を、悔いているようだった。

伝蔵が、愛妻の言葉を繋ぐように尋ねる。

 

「…どうなったんだ?」

「アメリカで、あの子の最後のレース、TCターフで再会できたんじゃ。相マ眼を使って一流のトレーナーになっておった。そして、あの子が別人だと気付いて相マ眼で視た。視てしもうた」

 

老紳士が、自らの罪を告白する。苦渋に濡れた声だった。

 

「…ゴールで倒れて目覚めた時には、幼い無邪気な少女がおったよ。マリー病なんて嘘じゃ。今はヘイロー家と儂の援助を受けて、日本で青年と暮らしておる。幼馴染のあやつとグッちゃん、それとキングちゃんにしか心を開かんからの…」

「でもよ、だから今回は間に合ったんだろ?そんなもんわかりようがねえし、じいさまは悪くねえだろ」

「儂の罪なのは変わらん。すまんの、デンゾウ。お主達一家全員、儂の感傷に付き合わせたようなもんじゃ」

 

老紳士が、伝蔵と母に詫びる。自分の罪を言えなかったのと、智哉から離さなければ大丈夫という確信があった。

伝蔵から、変な目を持ってる息子を任せたいと話が来た時に、強い運命を感じたのだ。

目的は姉と伝蔵とは別だったが、自ら智哉を確かめるためにあの日、アリーナで会ったのだ。

そして、信じるに足る、孫の行く末を任せてもいいと判断した。

 

「おう…まあ言って欲しかったけどよ。特にサッちゃんが」

「そうですね…フランちゃんの治療、苦労したんですよ?」

「それは本当にすまん。この通りじゃ」

 

もう一度、老紳士が謝罪する。母には特に迷惑をかけた自覚があった。

 

「でもよ、うちの息子が逃げたり相マ眼を使わなかったら、どうするつもりだったんだ?そもそも頼めばよかっただろ?」

「先輩、それはですね。ダメだったら父さんと僕で何としてもお願いしていました。頼まなかったのは…」

「役目を終えた相マ眼は、その力を失う。あんな有用なもんを、孫の為に失えと頼むのは最後の手段じゃった」

 

伝蔵の疑問に対し、セシルと老紳士が応える。

智哉とフランは、友人同士の家族であったが会わせる機会が無かった。

智哉が居場所を転々としていたからだ。

友人の息子とはいえ接点すらない相手に、無理を言う事はできなかった。

 

「そうか…なるほどなあ。まああいつ、アレいらなかったし構わないぜ」

「それを知っとったらのう…」

「それよりも、だ。ウチの息子がここまでやったんだ。わかってんだろうな?」

 

伝蔵が有無を言わさぬ目で二人を捉える。

それに、セシルが強く頷いた。

 

「ええ…理事会でエイベル先輩とガリレオがちょっかい出してくると思います。でも全力で庇いますよ。それくらいはしないとトモヤ君に顔向けできない。フランにも嫌われますしね」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

『なんという速さでしょうか!?光り輝くフラン嬢が大外を物凄い速度で突き抜けていきます!まるで…彗星のようです!!』

 

「フランが…フランがはしってる…ぼくのほしが、かえってきた…」

「あいつ…走ってやがる…なんて速さだ…」

 

ナサはゴール前でぽろぽろと涙をこぼす。追い駆けてきたものが、ようやく帰ってきた。

智哉は何が起きたかよくわかっていなかったが、感動していた。

そして現状を省みた。なぜかレースが始まっている。ここにいるのは完全アウトである。

 

(やべえ…戻るか…)

 

とりあえずラチを跨いで戻ろうとしたら、警察ウマ娘が子供達を振りほどいていた。

 

「うりゃあああ!!どうでありますか!!また今度遊んであげるから大人しくしてるであります!!」

「うわー!おまわりさんつえー!かっけー!」

「今のまたやって!」

「また今度ねー。お仕事すっから待ってなー」

 

吹き飛ばされながらも大喜びの練習生達とは対照的に、智哉は顔面蒼白になった。

その時である。目の前に、黒鹿毛の麗人が降り立った。

グランドスタンドから飛び降りて来たのだ。そうするのがかっこいいと思ったからである。

 

「やあ、待たせたね」

「ガリレオ会長…」

「逮捕であります!乱入罪であります!」

 

いきり立つ警察ウマ娘の前に麗人が立ち塞がる。

この為に、麗人はここまで来ていたのだった。

 

「まあ、ちょっと待ってくれたまえ。せめてレースが終わるまでは。それまでの責任はこのガリレオが負うさ」

「そ、そうでありますか…?ならレースまででありますよ」

 

警察ウマ娘はちょろかった。

この気性難は会長のファンで、念願のレース場警備にやっと就けたのだ。

そして麗人が智哉に振り向く。

 

「という訳で、そこにいなさい。特等席で彼女を待つんだ」

「いや俺戻りたいなって…」

「ダメだよ?流石に空気読もうね?」

「ッス…」

 

有無を言わさぬ圧を感じて智哉が外ラチ側、つまりフランが進む大外に残る。

智哉は途端に恥ずかしくなった。

こんな所でレース観戦は未経験の領域であった。

 

「また、あの輝きを見れるとは、ね…」

 

ガリレオが感慨深く言葉を漏らす。

あの限界を超えた好敵手の輝き、自らを魅了した光をフランが放っていた。

 

(ちゅうだんにおいついた!まだあしはある!いけるわ!)

 

残り200m、フランは先頭を捉える事が可能な位置まで到達していた。

先頭は、オコナーであった。それをゾファニーとエクスが虎視眈々と差すタイミングを伺っている。

 

(すげえ!フランちゃんおいついてきたぞ!)

 

ゾファニーが、大外をぶち抜いていくフランに感嘆し、エクスがオコナーに仕掛ける。

 

(オーナーの娘!やっぱり来たですね!)

(ナサニエルとのたいけつで、かだいだったスタミナはきたえた!ここからしかける!)

 

エクスが、バ群を悠々と抜け、天性の末脚でオコナーを抜き去って先頭に立つ。

しかし、先頭に立ったのはほんの一瞬だけだった。

 

──金色の彗星が、エクスの横を突き抜けていく。

 

(うわあああフランちゃん光ってるです!!きれいです!!)

(なんだ…なにがおきたのだ!あやつ、でおくれていたではないか!!?)

 

大外から光り輝くフランが、青い軌跡を残してまとめて抜き去って行った。

エクスは屈辱を覚えた。抜き去る際にこちらを確認すらしなかった。

無敗の自分を、まるで当然のように置き去りにしていったのだ。

 

(ゆるせん!許せん!!また(・・)!我の前を走るのか!!貴様がいなければ!!)

 

エクスが何かに囚われたかのように、怒りを込めてフランを追い駆ける。

最大の切り札、二の足で追いつこうとする。

 

(…なんだいまのは!なにかが我のこころにいた!それよりもこやつだ!なぜこやつがこんなにはやい!?)

 

全く、差が縮まらない。

エクスは短いながらも今までの競走経験から、何か見落としが無かったか必死に探す。

そして、それを見つけた。

 

『え~なんだっけかな。フランク?たしかそんなん』

『いいわね?このフランって子には要注意よ』

 

(フランク…フラン…?いや、そうなのか?)

 

ここに来てようやく、エクスは名前の間違いに気付いた。

 

(なまえがちがうではないか!!!ばかもの!!!!)

 

エクスがあの軽薄な教師に憤怒する。自分が気付かなかっただけである。

全員抜きを達成したフランはもう、智哉しか見えていなかった。自分だけのゴールをひたすらに目指していた。

 

(いっちゃくよ!トム!ほめてちょうだい!うけとめてちょうだい!)

 

智哉は、猛烈に嫌な予感がしていた。

フランが物凄い速度で自分だけを見ながら突っ込んできている。

間違いなく一着だろう。それは嬉しかった。

しかしそのまま飛びついてくる気配を感じた。

 

「あの、会長?アレ、飛びついてきそうなんすけど…」

「受け止めてあげなさい」

「…マジっすか?滅茶苦茶はええよ…」

 

智哉は、その明晰な頭脳を久しぶりにフル稼働した。

何としても、どこに飛んでくるかを予想しなければならない。

 

(上だよな?顔見てるし上だよな?腹はまだいい、よくねえけど。その下はまずい。その下だけはまずいんだよ!上だなフラン!信じるぞ!!!)

 

『一着は、彗星のような末脚でクイル・レースクラブのフラン嬢!未来の名バ!超新星がここに誕生しました!!!二着はエクス嬢!三着にロデリックオコナー!四着にゾファニー!』

 

実況とともに、フランがゴールラインを割り──

 

「トム!!いっちゃくよ!!」

 

──そのままの勢いで智哉に飛びついた。

 

「うおおおおお!!!信じてたぞフラン!!」

「わたし!がんばったわ!しんじてくれたトムにこたえたかったの!」

 

智哉が気合で顔に飛びついてきたフランを受け止めて、そのまま勢いを殺すためにぐるぐると回る。

信じてた意味合いは違ったが会話は成立していた。

 

「やっぱり無理してたんだろ!言葉遣い元に戻ってんじゃねえか!」

「ごめんなさい!でも!わたし!トムがゴールになってくれるならはしれるわ!」

「えっ何で知ってんの…」

 

智哉の説教に、フランがあの時の思いが届いていたと語る。

智哉は困惑したと同時に照れくさくなった。黒歴史が増えたのである。

 

「まあいいか!お前こんなに速いのなら一人なのはしょうがねえよ!俺が見ててやるから気にすんな!」

「ひどいわトム!でもうれしいわ!」

 

勢いを殺し切った智哉が回転を止め、フランを胸に収める。

 

「トム、おろしてちょうだい。ごほうびがほしいの」

「うん?おう、何でも言ってみろ」

 

ぴょん、とフランが飛び降りて、智哉の顔を見上げて言った。

 

「トムのほんとうのおなまえ、おしえてちょうだい」

「なんだ、気付いてたのか?」

「ミディおねえさまがいっていたわ。トムからきかせてほしいの」

 

智哉が倒れた時に、姉が智哉を呼ぶ声をフランははっきりと聞いていた。

知っていたのだ。トムが渾名だと言う事を。

 

「じゃあ言うぞ。トモヤ、トモヤ・クイルだよ」

「わかったわ!トムヤ…トゥモヤ…いいにくいわ、トムでもいいかしら?」

「お前も姉貴と同じなんだな…どっちでもいいって」

 

しゅんとするフランの頭を智哉が優しく撫でつける。

フランが続けて智哉に語り掛けた。

伝えたい事が、まだあるのだ。

 

「あのね、トム。わたしの、ほんとうのおなまえもきいてほしいの」

「フランじゃないのか?」

「ええ、おとこのこみたいではずかしいけど、わるいこのおなまえでもあるから、ちゃんとなのりたいの」

「悪い子って誰…?いいや、言ってみな」

 

 

 

 

 

 

 

「フランケル!わたしのなまえは!フランケルよ!!」




稲妻軌道(金レアスキル):バ群の前で加速アップ(効果大)
サポートカード:「今も忘れない、大切な日々」フランケルより獲得。
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