トムとフラン   作:AC新作はよ

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わかる人にはわかるキャラが出るけど、なんでここにおんねん!ってツッコミは許してクレメンス。紹介だけでもしたいんや…二部にもちゃんと出ます。


第三十三話 いかにして彼は試験に挑むか

「大丈夫とは思うけど、マークシートの記入間違いとかするんじゃないわよ」

「しねえって、したら体力測定で本気出すから…」

「どっちにしても本気出さないとぶっ飛ばすわよ。腹括ったんなら自重するのはやめな」

「ッス…」

 

英国ニューマーケット、競バの故郷と呼ばれる地。

英国ウマ娘統括機構(B U A)の総本山、統括機構トレセン学院のあるこの地に智哉はやってきていた。

先日の地獄のようなジュドモント家での、老紳士ことヘンリー理事とのやりとりによって推薦を受けた智哉は、ついに統括機構トレーナー資格試験の日を迎えたのだ。

 

「トム、がんばって!トムならきっとごうかくできるわ!」

「おう!ここで躓いてたらじいさんにも恥かかせるしな。自信はあるぜ」

「お前なら心配ないだろう。行ってこい」

 

付き添いに姉とメイド、そしてフランにもついてきてもらっている。

今日、明日とニューマーケット市内に宿をとってあり、試験後にこちらで観光してから帰る予定になっていた。

 

「まだ早いけどもう会場入るわ。終わったら連絡するよ」

 

三人にそう告げ、学院内の試験会場を目指す。

智哉が学院に来るのは初めてではない。父の借りていたトレーナー寮に住んでいた時期があった。

施設の位置も大体把握している。

 

(久しぶりだな、時間あったらガスデン先生にも挨拶するか…)

 

こちらにいた頃、暇を見つけてはお節介を焼いてくれた、師と仰ぐトレーナーの名前を思い浮かべ、智哉が街を歩く。

 

「そこのお兄さん、道を教えなさい!」

「ん?俺か?」

「あなたに決まってるでしょう!?」

 

そんな智哉の前に、突然ウマ娘の少女が立ち塞がった。

艶やかな黒鹿毛を背中まで伸ばし、左耳にピンクのリボンの耳飾り、そして前髪をぱっつんと切り揃えた勝気な目が特徴的な少女であった。

高級そうな黒いワンピースの上にファーのついたジャケットを着こなし、智哉にその強気な視線を向けてきている。

結構な気性難だぞと智哉のセンサーに反応した。

屈みこみ、視線を合わせて智哉が応対する。

 

「…時間はまだあるしいいか。お前名前は?どこ行きたいんだ?」

「レディに名前を聞くのなら先に名乗りなさい!それがマナーでしょう!?」

「めんどくせえ…トモヤだよ。で、どこ行きてえんだ?」

「トモヤ!いい名前ね!わたくしはヴィアよ!下僕の所に案内しなさい!」

 

おっとこれは厄介なやつだぞと智哉は無視しなかった事を後悔した。

恐らく迷子である。

 

「下僕って誰だよ…迷子なら学院の総合案内所に行って迷子案内だな。連れてってやるよ」

「待ちなさい!迷子はわたくしじゃなくてルークの方よ!下僕のくせにいなくなって許せないわ!」

 

やはり迷子であった。智哉はルークというこの少女ヴィアのお守りであろう人物に同情した。

 

「やっぱり迷子じゃねえか。どこから来たんだ?観光か?」

「迷子じゃないって言ってるでしょう!?観光よ!メルボルンから来たわ」

「ああ、オーストラリアか。遠いとこから来たもんだなあ」

 

オーストラリアは、南半球で随一の競バ大国である。

国民全体が非常に高い競バ熱を持ち、障害競走、平地競走双方で盛んにレースが開催されている。

町中の至る所に応援投票が可能な場外投票発売所が設置されており、国民は常に競バに寄り添って生きていると言っても過言ではない。英国が競バの故郷と呼ばれるならオーストラリアは競バの新天地なのである。

 

「ならそのルークってのを迷子案内で呼べばいいだろ?」

「名案よ!トモヤは中々に切れ者ね。召し上げてもいいわよ?」

「いや結構っす…じゃあ行くか」

「待ちなさい!不安なら手を繋いであげてもいいわよ!」

「それお前がふあ…いや、繋いでくれるか?」

 

それお前が不安なんだろと言いかけるが智哉は踏み止まった。

勝気そうな目とは裏腹に、少女の耳が垂れ下がっていたのだ。

 

「いいわよ!仕方ないわね!」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「すいません!すいません!大事な試験前にこんな事させちゃって…」

「いいって、頭上げてくれよルーク。苦労してんなお前…」

「ルークが迷子になるから悪いのよ!反省しなさい!」

「突然いなくなったのはヴィアの方なのに…」

 

申し訳なさから、しきりに智哉に頭を下げるルーク少年。

ルーク・ノーランと名乗ったこの少年は、金髪碧眼の中性的な美少年であった。

先ほどから衆目の学院生徒のウマ娘達の視線を集めている。

自分も見られていることに智哉は気付いていない。

年齢は13歳。少女ヴィアは八歳らしい。

どことなく他人の気がしない感覚を智哉は覚えた。

ルーク少年は恐らくウマ娘の血が濃いと感じたのだ。

自分の同類である。ルーク少年もそう感じていた。

 

「トモヤさん、変な事聞いていいですか?」

「ああ、何でも言ってくれ」

 

出会ってすぐ、お互いウマ娘に困らされる苦労人の雰囲気を感じた二人は、すぐに意気投合した。

ライエンさんもいたら紹介したんだけどなと智哉は思う程であった。苦労人同盟を築きたくなったのだ。

 

「トモヤさんって、すごく体が強かったりします?」

「聞きたい事はわかってるよ。お前と同じだと思う」

「やっぱり…!僕以外にもいたんだ…!」

「俺も俺以外は初めてだけどな…不思議なもんだな、俺も直感的にそんな感じがしたんだよ」

 

二人の身に宿る、わずかなウマソウルが共鳴しあっているのだ。

ルーク少年は、競走バ専門の医者の息子であった。

ヴィアの父である豪州競バ界の名士とは家族ぐるみでの付き合いで、ヴィアの事は彼女が物心付く前から知っている。

他の人間と違う強靭な肉体に悩みつつも、父の跡を継ぎ、立派な医者を目指そうとしていた。

そんなある日、自らの脚力故に怪我がちな幼馴染のヴィアが一人で泣いているのを見つけた。

 

『どうして…わたくしの脚はこんなに弱いの…わたくしは競走バになれないの…?』

 

ただのわがままお嬢様だと思っていた幼馴染の思いを、涙を見て、自らの道をルークは決意した。

そうしてヴィアの為に医学的な知識も修めたトレーナーになろうと目下勉強中であった。

しかし競バの知識に乏しいルーク少年は、超人の頭脳を持っているが苦労しきりであった。

 

「連絡先交換しようぜ、試験勉強で何か困ったらいつでも聞いてくれ」

「はい!お願いします!トレセン学院、来てよかったなあ…」

「だから言ったでしょう!ルークはわたくしの言う通りにすればいいのよ!」

 

わがままお嬢様に振り回されっぱなしのルークは、ヴィアの両親に付き添いを頼まれた英国旅行も乗り気でなかったし憂鬱であった。

だが頼れそうな兄貴分を得た今、来てよかったと掌を180度返したのである。

 

「悪い、時間だ。まだこっちいるなら俺の試験が終わったら合流しねえか?こっちも連れがいるし終わったら観光して帰るんだよ」

「いいわよ!トモヤはルークと違って気が利くわね!」

「なんでえ…トモヤさんぜひお願いします!」

 

 

 

 

──後に、幾度もの故障と闘いながらも豪州競バ界を席巻するオーストラリアの至宝「黒い宝石」、そして至宝に寄り添う忠実な下僕との邂逅であった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

統括機構トレーナー試験は、筆記試験、実技試験、体力測定の三つを持って実施されている。

筆記は競バの基礎知識、競バ史、競走力学の三つが重視されつつ、語学なども網羅された総合的なトレーナーとしての学力を求められる。

実技に関してはパドック映像を見てからのレース展開の予測、育成論、学院内の模擬レースを見ての所感を論文として提出する形式である。

ここまでが一日目の試験である。

そして二日目──体力測定を智哉は迎えていた。

競走バのトレーナーとは、肉体労働の側面も持っている。

時にトレーニング器具の準備、片付け、更にはトレーニングの相手を務める事すらある。

動けないトレーナーはトレーナーにあらず、という格言を智哉は師と仰ぐ人物から授けられている。

 

(さて、筆記はケアレスミスさえなけりゃいけたと思う。実技もまあ無難じゃねえかな…体力測定どうすっかなあ)

 

智哉は、悩んでいた。本気を出すべきかどうかを。

統括機構トレーナー試験は狭き門である。智哉の組、周りにいる50人の受験者の中でも2~3人が合格すれば上出来であるのだ。

 

(…本気でやるか。手抜いて落ちたらじいさんにもフランにも悪いしな)

 

一流のトレーナーになりフランとの約束を果たす夢が、智哉にはできた。

その為に周りに化物と思われようが気にしない事に今、決めたのだ。

その智哉を見つめる、白毛のウマ娘が同組にいた。

 

(…トモヤ・クイル。まさか同じ組になるとはね…!あの男の前で無様な真似はできない…)

 

トレーナーの大家の娘、ジェシカ・オブリーエンであった。

智哉も視線に気付いているが、あの時の女じゃねえかと関わりたくなくて全力で無視している。

その態度もまたジェシカの癪に触った。眼中に無いと思われていると感じたのだ。

 

(筆記と実技は自信があるわ…問題はここよ。体力測定…体力……)

 

ジェシカは、ウマ娘であるが人間以下の身体能力しか持っていない。更には夢を諦めてから運動嫌いである。

要するにもやしである。

今日の日の為に妹の付き添いで、早朝ランニングを決死の思いで敢行したりと対策はしてきた。

300m走った所で足が生まれたての子鹿のようになり「姉上もうだめなのか!!?姉上!!?」と妹にドン引きされた。

憂鬱であった。自分が人間もどきだと言う事を実感してしまうから運動は嫌いなのだ。

 

(逃げる訳にはいかないわ。せめて奴の前では…)

 

ジェシカは、妹がフランを生涯の好敵手と見定めたように智哉に対抗意識を燃やしている。

フランとの関係性から、彼女と契約するのは智哉だと確信しているのだ。

 

(あの女まだ見てくんだけど…あの時謝ったじゃねえか。こんな睨まれる心当たりねえよ…)

 

背後からガン見してくるジェシカに智哉は戦慄していた。

智哉からしてみれば、フランとエクスの関係性もジェシカがエクスの縁者である事も全く知らない事である。

接点も心当たりも無さ過ぎていたたまれなくなっていた。

 

「では、トレーナー試験二日目、体力測定を行う。ここでの結果次第で筆記と実技を巻き返せる可能性もあるから、各自手を抜かず望むように」

 

試験官の挨拶が終わり、受験者達が準備運動を始める。

体力測定の内容は、実際の競走バのトレーニング項目を流用して行われる。

その中から試験官から指定されたものを三つこなしていくのである。

 

「受験番号666番、こちらへ来るように」

 

受験番号666番は智哉の番号である。なんでこんなん引くんだよと縁起の悪さに智哉は憤り姉は爆笑した。

 

「うっす、来ました」

(彼がサー・ヘンリーの推薦者か…若いな)

 

試験官が智哉の若さに驚き、少し試したくなった。難しい項目を指定しようと思ったのだ。

 

「よし、君は瓦を割りたまえ。日本の由緒正しきトレーニングだ」

「…何枚でもいいすか?」

「好きにしたまえ」

 

智哉が首をコキコキと鳴らし、体調を確かめる。

瓦割は、中央競バ会(U R A)から取り入れられたトレーニング法である。

気合を込めて瓦を割る事で強靭なパワーを身に着けるのだ。

 

「じゃあ30枚で」

 

この智哉の発言に周囲が失笑する。

30枚は空手の有段者でも難しい領域である。パワーのみでこれを達成するのはウマ娘の領域であった。

試験官が呆然として動かないので、智哉が瓦を持ってきて積み上げる。

そして拳を保護するグローブを着け、準備ができた。

 

「…本気かね?」

「始めていいすか」

「…わかった。やりたまえ」

 

 

──全ての瓦が割れる小気味いい音を立てて、智哉の拳が地面に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの試験官ムキになりすぎだろ…競走バ用のタイヤ引かせやがって…」

 

宿への帰路、智哉がトレーナーの血が騒いで無茶振りを始めた試験官への愚痴をこぼす。

残り二つはタイヤ引きとショットガンタッチであった。

どちらも競走バと全く同じ内容でやれと指定され、智哉は気合で何とかこなした。

そうして、智哉のトレーナー試験は終了したのである。

宿泊先のホテルの部屋に戻って荷物を降ろし、ロビーへ向かう。

 

「待たせたな、遊びに行くか!」

「ええ!たのしみだわ!」

「フラン!わたくしと手を繋ぐ事を許すわ!」

「ええ!ヴィアちゃんと、てをつなぎたいわ!」

 

一日目の夜、わがままお嬢様とその下僕を夕食に誘ったところ、フランとヴィアはすぐに仲良くなった。

ヴィアはその性格のためか友達が少ない。しかし基本的に優しい幼女であるフランとの相性は抜群であった。

フランと一緒に寝たいと我儘を言い出したヴィアがルークと共にホテルを移ってきた程である。

わがままお嬢様と天然お嬢様の仲良しコンビを後ろから智哉が眺めていたところ、ルークから声がかかる。

 

「トモヤさん、体力測定どうでした?」

「あー…あんまりはりきると試験官が無茶振りしてくるぞ。加減が大事だな…」

「なるほど…僕はそうします」

「そうするなら筆記と実技はしっかりやれよ。ダメと思ったら体力測定は本気で行った方がいい」

 

ルークへ智哉が試験のアドバイスを行いながら、ホテルから四人が外に出る。

今日は姉とメイドは学院の友人達に顔を出しに行ってしまった。

ルークが来た事で引率を二人に任せる事にしたのだ。後で合流する予定である。

 

「本当に来てよかったわ!ルークもそう思うわね!」

「…そうだね、来てよかったよ。トモヤさんと、フランちゃんに出会えた」

 

ルークがヴィアを見る優しい視線に、智哉も自然と頬が緩んだ。

智哉とフラン、ルークとヴィア、出会った形は違えど、他人とは思えないのだ。

遠い地オーストラリアに住む二人とは、なかなか顔を会わす機会は無いだろうが、連絡は取り合っていきたいと思った。

 

 

 

──一方、とあるホテルの一室

 

「姉上!お帰り!…姉上?」

「エクス、ダメな姉さんでごめんね…トモヤ・クイルは許さないわ…」

 

そう言うとジェシカは妹の前でぶっ倒れた。

智哉のせいで試験のハードルが上がり、もやしの彼女はきつくなった体力測定をこなした後に這う這うの体で何とかホテルに帰って来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「姉上、姉上ーーーーー!??」

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