ストック作ってから投稿すればよかったと後悔し始めた。
まあなんとかなるやろ!男は冒険や!
「トム、わたしね、ウマむすめのがっこうにいたの」
フランは、ぽつぽつと語り出した。
「おっ、まさか統括機構のポニースクールか?さっすがお嬢様」
智哉が茶化すように合いの手を入れる。辛い思い出をなるべく、楽に語れるように。
統括機構ポニースクール──
優秀なウマ娘を養成する独自のカリキュラムが実施され、間近に先輩達のレースを見学し、6~12歳の六年間を無事に過ごし卒業したウマ娘は、そのままエスカレーター式に統括機構トレセン学院に入学する事になる。
入学できた時点で統括機構所属の競走バへの道が約束されるのだ。学年毎に30人2クラスしかなく、相応に試験も狭き門であり、学費も高額である。
この制度の影響で外部生と内部昇格組の軋轢問題があったりもするが、それはいずれ語るとしよう。
フランは智哉の気遣いにうっすらと微笑みながら応える。
「ええ、そうよ。わたしはアスコットのポニースクールにいたわ」
「まじかよガチ名門じゃねえか。すげえな…」
これには智哉も唸った。英国競バ界において最も由緒正しく、最も栄光あるレース場に併設されるポニースクールだ。人気も高く試験倍率に至っては青天井である。これに次ぐのは恐らくエプソムポニースクールか、トレセン学院の近くにあるニューマーケットポニースクールであろうか。
「さいしょのいっかげつはとてもたのしかったわ。せんせいはやさしくて、おともだちもたくさんできたわ」
「できたと、おもったの」
「…競走カリキュラムで何かあったんだな?」
フランは、何も言えずに頷く。悲しそうな顔で。
智哉もトレーナーを志す卵の一人である。ポニースクールのカリキュラムについても学んでいる。ポニースクールに入学した生徒は、最初の一か月は環境に慣れるためと友人関係の構築のために競走カリキュラムを行わないのだ。とある問題のために。
「さいしょは、となりのせきの、おともだちと、へいそうしたわ」
「そのこは、もうわたしとはしるのはいやといったわ」
「つぎに、ごにんずつのレースのじゅぎょうをしたわ」
「わたしがいちばんだったわ。15ばしんついていたわ。みんな、わたしをこわがっていたわ」
(…そこまでか)
智哉もこれは予測していた。そしてこれがその問題である。
時に、ポニースクールに入れる程のエリート候補ですら、相手にならない程の才能が現れるのだ。子供のかけっこの延長すら、満足にできない程に。
そして、各地から集う地元では負けた事のないエリートが、本当の天才とぶつかればどうなるか。
「さいごに、せんせいとへいそうしたわ」
「せんせいは、わたしをみてすごいとほめてくれたわ」
「でも、こわがっていたわ」
天才を、恐れるのである。本物の天才競走バとは、それ程に非情な現実をエリートに見せつけるのだ。競い合い、勝てるのはただ一人の競走バ人生の最初の一歩で、天才と同級生になってしまったエリート達は、幼い少女には処理できない挫折を押し付けられるのだ。
「それでね、つぎのひのおけいこから、わたしはひとりだけのメニューになったわ」
「わたしは、それはしかたないとおもったの。でも、いちばんえらいせんせいが、わたしのクラスのせんせいをしかったのよ」
「せんせいは、わたしにはできませんといって、スクールをやめてしまったわ」
「やさしいせんせいだったのよ、だからみんな、わたしのせいだといったわ」
智哉は、明らかに教師のミスだと認識した。入学試験に競走科目は存在し、そのデータを見てフランに特別メニューを課せばよかったのだ。
恐らく、天才を受け持った経験がなかったのだろう。教師が招いた不幸だ。
「わたし、いっしょうけんめいはしったのよ。おともだちに、てをぬくなんて、したくなかったの」
フランの声が震え、手でスカートの裾をぎゅっと掴んだ。
「ああ、フランは間違ってない」
「それで、いっしょうけんめいはしったのに、だれもわたしとおはなししてくれなくて、わたし、つらくなってしまったの」
「それに、はしるのがこわくなってしまったの。ウマむすめのおともだちがちかくにいると、あしがうごかなくなってしまうの」
(トラウマによるイップスか…)
現役の競走バでも、競走中の事故により怪我が完治しても精神的なダメージで走れなくなるケースがある。
フランはこの年齢で、競走バとしては致命的な心の傷を受けてしまった。
「それで…それで…おかあさまに…がっこうにいくのはもういやって…わがままをいって…」
フランの青い瞳から、涙がこぼれ、握った手に落ちる。
「それで…おいしゃさまにみてもらったら、わたしはこころをおけがしてるから、しずかなところでやすみなさいって」
「だから、おとうさまのべっそうで、サリーとおやすみしてたの。でも…でも…ぜんぜんなおらなくて…」
「それで、ウチに来たのか?」
「サリーとおかあさまが、ミディおねえさまにそうだんしたの。そうしたら、ここはしずかだし、こころのおけがによりそってくれる、ひとがいるって、つれてきてくれたの」
(姉貴…!!!)
智哉は今すぐ姉の顔面を引っ叩きたくなった。
全てを知った上で、智哉が放っておけないと確信して、自分に預けたのだ。
フランと智哉は同じなのだ。普通の人間、普通のウマ娘の枠に入れない身の上なのだ。だから智哉は放っておけないとわかっていたのだ。
その信頼が、今はただ憎くて仕方なかった。
「おばさまに、カウンセリング?というのをしていただいたわ。おばさまはウマむすめのこころのおけがにくわしいのよ」
知っている。母はウマ娘のカウンセリング資格を持っており、クラブでもイップスを持つウマ娘の治療をしていた。温厚な母の天職である。それが久居留家でフランを預かる決定打になったのだろう。
「ああ、知ってるよ。母さんはその道のプロだ」
「トムにあそんでもらって、なおってきているそうなのよ、でも、まだはしるのはよしなさいって」
鼻声で、フランが語る、もう涙は止まらない。
「…きっと治るさ、俺も力になるよ」
「……ふええええええええ!!!」
智哉に優しい言葉をかけられて、それが我慢の限界を超えた。
目の前の智哉の胸に飛び込み、肩に頭を押し付けて二の腕を痛いほどに掴んでくる。
智哉はただ黙ってそれを受け入れ、フランの頭を撫でた。
「わたし!わたしぃ!こんなはやいあしなんていらなかったわ!!」
「うん」
「ふつうのはやさでよかったの!おともだちときそいあえるあしがよかったの!!」
「うん」
唯々、残酷な現実がそこにあった。
この哀れな少女は、本人の気性とは裏腹に、三女神に愛されすぎていた。まるで呪いのようだった。
気性難なら気にしなかっただろう。性格が悪ければ周りを見下して悦に浸っただろう。
しかし、そうはならなかった。フランは優しく、友達が欲しいだけの女の子だった。
「そうだよな、普通じゃないのは、辛いよな」
フランの頭をゆっくりと撫でながら、智哉が応える。
「ふつうのあしをちょうだい!おけがをなおしてちょうだい!」
「ごめんな。すぐには無理だよ、でも、俺も一緒にいるから」
「いやよ!!すぐになおして!!!おともだちがほしいの!!!おともだちとはしりたいの!!!!」
「うん、大丈夫。フランは良い子だから、きっとできるよ」
「やだああああ!!!いますぐがいいの!!」
フランの、渾身の心の叫びであった。
智哉はそれを聞きながら、フランの頭を撫で続けていた。
そしてもう一つ、考えている事があった。
──姉への、落とし前である。
フランの同級生と先生はみんなモブウマ娘と思ってクレメンス。
名門でこんな事件あって大丈夫?って思うかもしれませんが
大丈夫なわけないだろ!!何があったかは追々書いていきます。