ファッ!?日刊入ってるやんけ!
細々と続けてたら良いこともあるもんやなって…
「よし、準備いいか?」
「う、うん」
「ダンちゃん、そんな緊張しなくていいのよ」
三人は、近所のウマ娘用のダートコースを離れ、少し離れた芝コースへと場所を移していた。
姉はオールウェザーなら近所にあるじゃんと言ったが、どうしても智哉は芝でダンを走らせたかったのだ。師匠譲りのレース馬鹿の素質がトレーナーになり急激に目覚めつつある弟に、姉は匙を投げた。
オールウェザーとは、人工素材を使用した人工バ場である。
表面をならしやすく、水はけがよく砂埃も少ない。
クッション性も高く整備性も良好で競走バの練習用に主に使用され、一部レース場でもトラックに採用されている。
このように良い事ばかりに聞こえるが、競走バの主戦場はやはりダートか芝である。
ダンが競走バになるかは本人次第だ。
だが、どちらかを走れないとダンの問題は解決しないと智哉は判断していた。
遅いと馬鹿にされて、わざわざオールウェザーのある場所まで毎回連れて行くのか?という話である。
「タイムはいいか。まずはしっかり走ってからだな」
「その前に、芝抉れる覚悟はしといた方がいいわね……」
「大丈夫とは思うけど、抉れたら管理者に言わないとな……」
ダンは、この隣に住む青年とその姉を見て不思議な感覚に陥っていた。
隣に住んでいる、よく遊んでくれる青年の前で近所の嫌なトレーナーの息子にいじめられ、助けられ、泣いたらこんな所で走る事になっている。
ダンは、元々は活発な少女である。
外で遊ぶのが好きだし、遅い自分でも速く走れるスケボーが好きだった。
速く走る事にも憧れがあった。叶わぬ夢と諦めていたが、競走バにも憧れがあった。
だから今話題の謎の怪人トレーナーの事も知っていた。
彼と契約した競走バ達は皆揃ってインタビューで彼のすばらしさを語るのだ。
すごい人で、そんな人に見てもらえたら自分も変われるんじゃないかと思っていた。
そして今目の前にいる、隣に住む青年にも少し思う所があった。
ダンはレースの中継を見るのは好きだが、レースに出た事は無いし当然競走自体には詳しくない。
それでもこの青年の知識は逸脱していると感じていた。
最初は青年は付き添いで、彼の姉が自分を見てくれると思っていた。
しかしそれは全くの逆だった。
青年の姉である名バが、彼の発言に何も異を唱えないのだ。
不思議な光景だった。
いつも家にいる暇そうで、よく遊んでくれる働いている姿を見た事が無いお兄さんだった。
子供ながらに、遊んでくれるのはうれしいけど将来が心配になるお兄さんだった。
だが今はまるで、自分を速くしてくれる、シンデレラの前に現れた魔法使いのようにダンには映っていた。
(トモ兄、一体何者なんだろ……トレーナーさんなら、シーズン中にいつも家にいていいのかな……?)
米国競バの本格的なシーズン開始は、四月からである。
特にここ米国中央部ケンタッキー州では、クラシック及びティアラ路線のレースが既に開幕している。
クラシック路線、いや米国において最高峰のレースであるケンタッキーダービーも来月に行われるのだ。
その出場、そして勝利を目指すのはアメリカで活動するトレーナーの目標の一つである。
現在怪人トレーナーと契約している、フロリダダービーウマ娘の
走ると自分で止まれず、いつも怪人が立ちふさがって止めている超気性難ウマ娘だった。
怪我で欠場する事になってしまい、今年の優勝候補コンビの欠場はメディアを騒がせている。
(……まさかトモ兄がヴェラスさん?いや、そんな事ないよね、喋り方とか、雰囲気も違うし……)
「──ダン?おーい、聞こえてるか?」
「……ふえっ!?」
ダンがぼうっと考え込んでいたら、気付けば智哉が目の前に来ていた。
目の前に密かに憧れていたお兄さんの顔が近付いて来て、ダンの顔が真っ赤に染まる。
「走る準備でき……いでででで!姉貴急に何すんだよ!!」
「顔が近い!っての!!あたしの心労を増やすな!!!」
「言ってる意味わかんねえよ!!いてえって!」
姉は流石にカットに入った。弟をすかさずフルネルソンで制圧したのである。
久しぶりの姉の折檻だった。智哉は思い出した、姉の理不尽に晒されていた恐怖を。
ストレスが溜まっている姉はこのままスープレックスに行きたかったが、ダンの前なので堪えた。
弟を殺人風車の荒業で失神させてはダンの育成方針を決められないのだ。
(やっぱり違うよね。ヴェラスさんにはミディ姉こんな事しないだろうし……)
この様子を見てダンは先ほどの考えを捨てた。例の怪人は冷静でスタイリッシュなトレーナーなのだ。
こんなプロレス技で絶叫を上げる姿など想像もつかない人物である。
ようやく解放された智哉が、肩を回して無事を確認する。手加減抜きの折檻であった。
成長とあの地獄の訓練、そして今も続けている地道なトレーニングで身体能力が16歳の頃より強化されているが、それでも死ぬ程痛いのだ。
姉は頑丈な弟を痛めつける手段を熟知している。
「いってえ……久しぶりにくらった…ダン、いいか?」
「うん、走ってみる」
準備をし、ダンがスタートを切った。
まず、最初に驚いたのはダン本人であった。
軽く、スタートを切れたのだ。
(えっ!走れてる!?ボク走れてる!!)
髪を靡かせ、心地良い風がダンの頬を撫でる。
目まぐるしく視界が進み、知らない世界がそこにあった。
ダンは今、走る事に魅せられていた。
(た、楽しい!走るの楽しいよ!!…わぷっ!)
しかし止まろうとしてこけた。
次に驚いたのは、智哉と姉だった。
最初の一歩で芝を抉り込み、そのまま強烈な推進力でダンがみるみる内に遠くなっていく。
「……はっやいわね」
「おう……ただやっぱり矯正はいるな。トレーニングもあいつ次第だけどやらせたいな」
そのまま、向こう側で止まろうとしてこけたダンに、二人で近付く。
ダンはこけたままだが、その顔から笑みがこぼれていた。
今見た世界、スピードの世界をもう一度見たくて仕方なかった。
「ダン。速いな、お前」
智哉が優しい目で、ダンに声をかける。
ダンが今一番欲しい言葉だった。初めて言われた言葉だった。
「ボク、速かった……トモ兄?」
「おう、メチャクチャ速かった」
「ホント?ミディ姉」
「ホントホント。良い競走バになれるわよ、ダンちゃん」
ダンの目が、少しずつ滲んでいった。
朝の悔し涙ではなかった。
歓喜の、涙だった。
「う……うれしくても、涙って出るんだね……ボク、もっと速くなりたいよ、トモ兄」
「よし!なら色々やってみるか。まずは転ばない走り方だな」
「あたしも当然協力するわよ。ターフの走り方なら任せて!肘も教えよっか?」
「それはやめろ姉貴」
この日、灰を被った少女、
憧れの世界へ、進む夢が──
*****
「素晴らしい!その謙虚な態度!!まず自らの担当を立てる姿勢!!正にトレーナーの鏡ですね!!ミスターヴェラス!!」
<待ちたまえミス・オトナシ。私はそんな事は言っていない>
日本から来た熱意ある女性記者に、話題の怪人がしっかりと異議を唱える。
先ほどから言う事全てを逆の意味に取られていた。
怪人は訂正する必要があった。
<もう一度言うが……私と私のこれまでの担当、彼女達はあくまでもビジネスの関係だ。私はキャッシュを得て、彼女達は栄光を得る。それだけの関係だ>
「ええ!わかっていますよ!」
この記者はわかっていない。怪人は訂正する必要があった。
<それが全てだ。私が彼女達が怪我をしたら医務室に連れて行くのも、彼女達の為に長距離を飛び回って直接指導するのも、あくまで私のビジネスであるからだ。ここまではいいかね?>
「ええ!わかっていますよ!」
これで三度同じ事を言っている。怪人は訂正する必要があった。
<だからリッチズを医務室に運んだのも、インディとザフの為に長距離を移動していたのも、私にとってそれが当然だからだ。ビジネスとは全力で当たるものだからな。それに彼女達は私のおかげと口を揃えて言うが……自らの足で栄光を得たのは彼女達自身だ。私はその手伝いをしたに過ぎない>
「ええ!わかっていますよ!」
わかっていないのは怪人の方だった。怪人は訂正する必要がなかった。
「確認ができた所で話を変えますが……ミスターヴェラス、日本でトレーナー活動をする予定はおありで?日本でもあなたの事は話題になっていますよ!」
<今の所予定は無いが……日本には私の知己がある。機会があれば、とだけ言わせて頂こう>
「本当ですか!!?天才ジョー・ヴェラス日本に電撃参戦!!!見出しはこれで決まりですね!!今日はありがとうございました!!」
<待ちたまえミス・オトナシ。帰ろうとするな。君はもう一人取材があると聞いたぞ>
終始、噛み合わない取材であった。
乙名史こんなキャラでよかったっけ……
1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…
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いる
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いらない
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まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
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キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ