トムとフラン   作:AC新作はよ

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第六話 ガラスの、靴

記者の取材を終えた怪人ジョー・ヴェラスは、取材の場であるケンタッキー州ルイビルにあるチャーチルダウンズカレッジの廊下を歩いていた。

アメリカで最もウマ娘の多い州、ケンタッキー州の二つのカレッジの一つであり、その規模は広大である。

練習施設に寮を完備し、アメリカ全土をレースの為に移動する競走バとトレーナー達の拠点の一つである。

平地シーズンが始まった現在は多数の競走バとトレーナーで混雑している状態である。

そんなカレッジの廊下を歩く怪人の前に、一人の栗毛のウマ娘が立ち塞がった。

 

「ジョー、来ていると思ったわ」

 

凛とした美しい顔貌、スレンダーな美しい肢体、そしてスプーン型の特徴的な流星を持ち、耳を通す穴を空けた空色の英国海軍帽を被ったウマ娘。

G1六勝かつアメリカの大レース、TCターフを制覇した実力派ウマ娘イングリッシュチャネルである。

 

<ネル、君か。久しぶりだな>

「ええ……会いたかったわ、ジョー」

 

うっとりとした表情でネルが怪人を見つめ、その周囲を見やる。

いつもの邪魔者がいないかの確認をしているのだ。

 

「今日は、彼女はいないのね」

<ああ、別行動中だ。常に同行している訳ではない>

 

怪人からの朗報を聞いたネルがにこり、と笑う。

美しい笑みを浮かべていたが、その目は獲物を見つけた猛禽のようであった。

この怪人と一対一で話せる機会はそうないのだ。今こそ好機とネルは確信した。

 

「なら、少し付き合ってくれない?人目の無い所で話が──」

「おっ、ヴェラスさんとネルさんじゃないすか。久しぶりっすね」

 

その絶好の好機に、第三者が現れた。

英国から来たというのに常にぶらぶらと遊び惚けていると噂の、名バの姉のすねかじりの青年であった。

 

<……トモヤ君、今日は一人かね?>

「そうっすよ。姉貴はちょっと近所の子の面倒見なきゃいけなくなったんで」

 

この青年の登場にネルが少しだけ嫌な視線を送る。

姉の事も含め、この青年に対して良い印象を持っていないのだ。

その優れた容姿も、その素行故に遊び人のようで好ましくなかった。

 

「トモヤ君、君はこちらに来てもうすぐ三年だろう?遊び惚けて誰とも契約していないのはどうかと思うが」

 

ネルから青年への辛辣な苦言であった。

顔見知りの青年への激励を多分に含んではいるが、追い払いたい意図もあった。

この説教は智哉の心に非常に効いた。

クズだがニートだけは断念した過去を持つ青年である。

遊び人扱いは堪えるのだ。

 

「いやあ、俺なんかと契約したい子なんていないっすよ……チーフも俺には打診してこないし」

「そうやって自分を卑下するのが良くないんだ。君は英国では成績優秀だったと聞いている。ジョー程とは言わないが、自信を持てば結果は出せるはずだよ」

 

ネルが目的そっちのけで智哉への説教を続ける。

凛とした美貌を持ち、品行方正な彼女の数少ない欠点であった。

説教が始まると長いのである。

 

<ネル、その辺で許してやったらどうだ>

 

見かねた怪人が仲裁に入る。

一年限りの付き合いだが、この怪人はかつての相棒の性格をよく聞いているのだ。

廊下で友人が説教され続けるのを哀れに思った行動だった。

この言葉を受けたネルは、再契約を焦がれている怪人の言う事に素直に従った。

 

「ジョーがそう言うなら……そうだジョー、さっきの話の──」

『ミス・イングリッシュチャネル。至急トレーナー室まで来るように』

 

話の続きをしようとしたその時、ネルを呼ぶカレッジ内放送が廊下に響き渡った。

千載一遇のチャンスだったが、品行方正な彼女はこの放送を無視できない。

それに既に遊び人の青年という第三者がいた。

彼からあの邪魔者に伝えられるとまずい話でもあり、今回は諦めるしかなかった。

 

「……仕方ない。行ってくるわ。またねジョー。トモヤ君はもうちょっと真面目に生きなさい」

 

そう言い残して、ネルは去って行く。

そして廊下には、怪人と遊び人の青年だけが残っていた。

 

 

 

「…で、今日取材っすよね?どうでした?」

<……急な話で驚いたがね。私らしく答えられたと思うよ。もう失礼していいかね?>

 

 

「……お疲れ様っす。俺も行くとこあるんで、いいっすよ」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

廊下で二人と別れた怪人は、とある人物を訪ねていた。

カレッジの最上階にあるラウンジの個室。

日本から来た記者の取材と、そこで待つ人物との面会が怪人が今日チャーチルダウンズカレッジに来た目的であった。

 

<チーフ、失礼する>

「ああ、来たね。覆面も喋り方もそのままでいるように」

 

ジャージにチームのサブトレが着けるキャップ姿というラフな姿の、精悍なシルバーブロンドの男。

米国競バ界の超有名人、チーム・カルメットの代表であるロッド・フレッチャーその人である。

 

<……私はこれの意味がよくわからないのだが。担当した者達にも申し訳なくなる。言葉遣いを直す目的ならここまでしなくていいだろう>

「君はまだわかってないのか……外すと帰れなくなるし、色々やっかまれる、とだけ思っておきなさい。ジョエルの過去の経験からのものだよ。君の成績は後日しっかり反映させるから何も気にせずそうしてなさい」

 

呆れた様子のロッドに対し、怪人が首を傾げる。

上司の言っている意味が理解できなかった。

ジョエルとこの上司は若き頃に凌ぎを削り合った好敵手であり、友人であった。

 

<ところで、今回は何の要件だろうか?>

「ああ、君はよく働いてくれているし、今の担当の復帰まではまだ休んでていいよって事と……今年は少し帰国を遅らせてくれないか?」

<……遅らせると、うるさく怒るのがいるからそれだけは困るんだが>

 

冷静な怪人らしくない、心底困った様子の声であった。

余程うるさく怒る相手がいるような様子である。

 

「冬季のシンデレラクレーミングの解説になってほしいんだよね。君を出せって運営委員がうるさいんだよ。夏季は君も忙しいだろうからもう断ってある」

 

シンデレラクレーミング──アメリカで主流なアマチュアレースである、アマチュア出走バをその場でスカウトできるクレーミング競走のケンタッキー州で行われる一大祭典である。

アメリカ全土のトレーナー達が集まり、その中で夢を掴むアマチュア競走バ達のアメリカンドリームを体現したレースなのだ。

アメリカはスカウト自体も中央競バ会(U R A)英国ウマ娘統括機構(B U A)のように厳格なルールがある訳ではなく、その場でお互いが希望すれば契約が成立するケースすらある。

英国のポニーステークスのようなクラブでの大レースが無いアメリカにおいては、ポニースクールへの入学、カレッジへの編入、そして直接トレーナーからのスカウトを受けるこのクレーミング競走が、アマチュアからプロの競走バになるための道筋なのである。

 

「解説になれば優先してスカウトもできるし、悪い話じゃないだろう?君が直接見なくてもスポンサーになる手もある。どうせ貯金は全く使ってないだろ?」

<……そうだが、私が王子様というのは柄ではないな>

「………君は本当に自分がわかっていないな」

 

怪人が腕を組み、思索に耽る。

あまり解説を受ける旨味を怪人は感じていなかった。

彼にとってはスカウトしても自分で見なければ意味は無いのだ。

しかし、ふと思い当たる事があった。

 

 

 

 

 

 

<……返事は待ってもらえないだろうか、確認したい相手がいる>




クレーミング競走は気になったら調べてみてクレメンス。
本当は勝てない馬を売却するために使われる事が多いけどウマ娘世界でそんなんありえんかなって…。
ネルちゃんの元ネタめっちゃ好きだからちゃんと最後に見せ場は用意します。
トッムは酷い目に遭うけど。

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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