トムとフラン   作:AC新作はよ

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ジョエルおじさんのアメリカ競バ事情講座。実際はもっとちゃんとしてるけど、この世界だと人間より強くて知能も人間並かそれ以上の生き物を愚かなヒトミミが管理しきれる訳ないだろ!
ギャグ回的なの入れたかったんです。ゆるして。
アメリカ競馬の歴史は軽くwikiとかで流し読みしても、政府含む各団体の利権や様々な思惑によるパイの取り合いが激しくて面白いです。


第七話 大国の、現実

統括機構トレセン学院、ニューマーケットと郊外を結ぶ大動脈であるバリーロード沿いにチーム・クレアヘイブンのクラブハウスは存在する。

チームの代表であるジョエル・ガスデンの私費により建設され、三大チームの四つ目と称される大手チームの名に相応しい大きな施設である。

三大チームと比べるとクレアヘイブンはその歴史は当然短い。

普通はこのような大きなクラブハウスは持てないはずである。いくら名トレーナーのジョエルでも土地の使用許可は下りないはずなのだ。

だが理事長自らクラブハウス建設の地としてこの良立地を与え、チーム設立の許可を出している。ジョエルがどんな手を使ったのかは学院における謎の一つである。

そのクラブハウスの片隅、本人の希望で小さく作られ、とてもこの大手チームの代表の部屋とは思えない一室に三人の人物がいた。

 

「トムくんさあ、その喋り方、せめて人前では直せるようにならないと担当の子に恥かかせるとおじさん思うなあ。フランケルちゃんに恥かかせていいの?」

「それは確かにそうなんすけど……ここまでやる意味あるんすか?」

「いいからジョエル理事の言う通りにしなよ。あんたは何も考えなくていいから」

 

この部屋の主であるジョエル、そしてトレーナー研修も終わり、アメリカ行きを報告に来た智哉と付き添いの姉である。

 

「ジョエル理事、ちょっと廊下で話せますか?トムはここで待ってな」

「……ああ~いいよ、ミッドデイちゃん。多分ね、おじさんも同じ用件だから」

 

智哉を部屋に残し、姉とジョエルが廊下に出る。

姉には、確認せねばならない事があった。

ジョエルにも伝えなければならない事があった。

 

「で、あたしが聞きたいのは──」

「あっちの子の事でしょ?アメリカの起源からして肉食系な所もあるし、餓えてるし積極的だよ。良いトレーナーにも、かっこいい男の子にも。おじさんの若い頃だから今は多少は違うかもだけど、制度自体はそのままだからねえ」

「あっちゃ~……」

 

姉が額を抑える。危惧していた事が当たっていた。

姉はアメリカ遠征の経験がある。その時にも感じていた事だった。

ケンブリッジ大学を飛び級で卒業し、若くしてアメリカからキャリアをスタートしたジョエルなら詳しいのではないかと思い、智哉の付き添いで学院まで足を運んできたのだ。

 

「ハリウッドのせいでもあるけど、昔から映画やコミックでよくあるネタだけどさ、あっちの子って、自分を速くしてくれるトレーナーと偶然の出会いから……とかに憧れるんだこれが。これが…………」

 

ちゃらんぽらんオヤジに似合わぬ苦渋と苦い記憶の篭った発言であった。

実感が篭りすぎていた。有能でレース馬鹿で、とあるちびっこウマ娘のせいでペナルティを受けたのに怒っていないお人好しな若き日の彼は、担当に踏み込みすぎる事がよくあったのだ。

 

「ロッドに話は通してあるからそこはフォローしてくれるし、カルメットは他にも良いトレーナーいるから目立たない内はいいけど、顔も険が取れちゃったし、あの子すごいし良い子だからねえ。良い結果残したら群がるんじゃないかな。そういう子のあしらい方とかわかんないでしょトムくん」

「あいつ、昔の件もあるからかクソボケかってくらい鈍いんですよね……痺れを切らして襲われる、とかあると思います?」

「あるよ………ある………」

 

ちゃらんぽらんオヤジがただの中年になっていた。

苦い記憶が余りにも苦すぎたのだ。

 

「トレーナーが担当に手を出すのはこっちだとあんまり良くない行為、とされてるよね?あっちは色々ゆるいせいでそういうのも無いからね、積極的だよ」

 

結局喧嘩別れしているが、姉と元専属トレーナーもこれがあったから正式な交際は引退後と決めていた。

姉はここで疑問を抱いた。米国競バ界が余りにもゆるすぎるのではないか、と思ったのだ。

 

「…なんでそんなに緩いんですか?あっち」

「気になるよねえ、ミッドデイちゃんも知ってるだろうけどあっちはウマ娘がね、とにかく多すぎるんだよ。欧州全体とアメリカ一国でほぼ同じくらいで、世界でもダントツでウマ娘がいる国だからね、アメリカは。管理するにも全部見ていられないってのがまず一つかな」

「それはわかります。でもそれだけだと……」

 

アメリカは世界で最もウマ娘の多い超大国である。ウマ娘の人数=国力とも言えるのだ。

競走バの分野においては欧州、ひいては英国は世界の先端を進んでいるかもしれない。

だがそれ以外はアメリカが全てにおいて、他国に差をつけていると言っていいだろう。

だが、それだけではこのゆるさの理由としては今一つ欠ける。

 

「うーん、長い話になるねえ、あっちの歴史によるものだから。聞きたい?」

「……聞かせてくれますか?」

 

「じゃあトムくんも交えてラウンジで話そうか。あの子も概要は詳しいはずだよ」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

姉とジョエル、そして智哉の三人はクラブハウスのラウンジに場所を変える事となった。

今は生徒は授業中、トレーナーも午後からの練習の準備に入り、遠くにいる一名を含めた四人しかいない状態である。

この遠くにいる人物、チーム・ゴドルフィンにいるはずでは?と智哉と姉は気にしていたが、ジョエル曰くいつものことなので気にするな、という話であった。

 

「さて、今日はね、アメリカのウマ娘の歴史についての勉強をしようか」

「はーい!」

「いや、唐突すぎて何でそうなったのかわかんねえんすけど……」

 

誰の為だと思ってるんだという姉とジョエル共通の意思により、智哉の疑問は無視された。

アメリカは古くより競バ、ひいてはウマ娘に深くまつわる歴史を持つ大国である。

トレーナー試験の出題内容でもあるのだ。智哉が知らないはずがなかった。

 

「さて、トムくん、アメリカの発祥は勿論知っているよね?」

「あー、そうすね。まず、新大陸を目指した英国のウマ娘の船団が、新大陸のウマ娘帝国と接触したのがきっかけっすよね」

 

北アメリカ大陸には先住民族として、巨大な独自の文明を築いたウマ娘が支配する帝国があった。

 

『我がウマテカ帝国の王である!速き者を何より尊び、速いウマ娘こそが美しい男を手に入れるのだ!』

 

速き者を何より至上の存在とした、競走を愛するウマ娘達の帝国であった。

速き者、レースで勝った者は全てを手に入れる。富、名声、そして伴侶までも。

帝国の王は誰よりも速く、美しい男達を侍らせ栄華を極めた。超肉食系ウマ娘の文明であった。

そんな時である。

 

『まあ!すてきなとちだわ!ここにすんでもいいかしら?』

 

ある日、英国からウマ娘達の船団がこの帝国に上陸したのだ。

そして、王に謁見しこの国への入植を希望した。

 

『ならば我と勝負せよ!よい勝負をしたら住まわせてやってもよい』

 

王はいつもの通り競走での勝負を持ち掛けた。無敗の王は善戦すれば土地を分けてやろうと伝えたのだ。

その結果──

 

『わたしのかちね!おうちをたてるわ』

『わ、我が負けただと……!?』

 

王は、敗北した。この時の船団の代表者の名は知られていない。

そして王はこの強者を認め、彼女にあるものを下賜した。

この帝国における最も優れた財産、それは──

 

『このすてきなかたをいただけるかしら?とてもすてきだわ!』

『そやつ、ヘタレだがいいのか?我は好みではないが……』

『えっ俺っすか?マジで?』

 

そう、若く、美しい男である。

この時にこの帝国の超肉食系ウマ娘の血と、英国淑女のウマ娘の血が交わったのだ。

こうして英国から来た入植者と、この帝国は徐々に融和していった。

 

「しっかり勉強しているねえ。続きはおじさんが話そうか。この後王は退位し、英国の一部として帝国は組み込まれた。一番速き者が負けたからね。まあ特に問題はなかったみたいで、融和の結果大陸の名を冠したアメリカという国が生まれた訳だけど……」

 

アメリカが生まれた結果、次に起きた歴史的な動きは独立競走である。

英国淑女な本国のウマ娘達が、ある日この肉食系アメリカウマ娘に苦言を呈したのが始まりであった。

 

『いや、正直がっつきすぎではないか?我、ドン引きなんだが……』

『ドンびきとかいわないでちょうだい!じょうとうよ!』

 

八年にも及ぶ大レース、独立競走がこうして行われた。

その結果──

 

『こやつら、速すぎる……!』

『わたしたちのかちね!おとといきてちょうだい!あと、そこのすてきなかたはおいていってちょうだい』

『いや俺帰ってトレーナーやらなきゃ……うわっ力つええ!ぎゃああ!!』

 

アメリカが勝ち、ここに英国からの独立が成ったのだ。

 

「えっ、そんな理由だったの、独立……」

「文献によるとね、当時の人達は真剣そのものだったらしいよ。こうして、英国とアメリカは袂を分かったんだけど…続きはトムくん、いいかな?」

「了解っす。次はまあ、南北競走っすかね。この頃には近代競バの基礎が築かれて、トレーナーが職業として認知されるようになったんすけど……」

 

独立を勝ち取ったアメリカだったが、ここでまた悲劇に襲われた。

トレーナーとの自由恋愛どんとこい派と、流石に引退してから恋愛の方がいいんじゃないの派で、同胞同士が国を割った大レースが開かれたのだ。

南北競走の始まりである。

 

『いや、流石に引退までは真面目にやるべきではないか?レースは出会いの場では無いぞ?そんな気持ちで走るのは良くないだろう』

『せいろんはやめてちょうだい!レースでしょうぶしなさい!!』

 

こうして四年間、南北に別れたウマ娘達は競走で鎬を削り合った。

どんとこい派は途中で寿引退者が多数出たが、それでも懸命に闘った。

 

『ま、負けてしまった……仕方ない、我も自由に恋愛するとしよう』

『ええ!そうしましょう!というわけでトレーナーこっちにきてちょうだい』

『何がというわけだよ!!?こっちくんなぎゃあああ』

 

その結果、勝ったのは自由恋愛どんとこい派の北軍であった。

 

「……頭痛くなってくるんだけど。あの国…ホントに世界一の大国なの?」

「俺もそう思ったわ……で、この後はこの自由恋愛派が主導したんだけどさ、引退者続出で流石にまずいってんで…」

「おじさんが続けようか、罰則を含めた処分で、乱れた風紀の規律を正そうとホースガールクラブが台頭したんだよねえ、でも、1950年にまた事件が起きた」

 

1950年、ハリウッドからとある名作映画が封切された。

南北競走の北軍勝利の立役者である伝説の名バ、オールドバルディーとそのトレーナーのレースと二人の愛を題材とした映画である。

これが当時のウマ娘達に一大ムーヴメントを起こしたのだ。

このムーヴメントにホースガールクラブは異議を唱えた。

 

『いや、どう考えても風紀乱れすぎだったしこれは必要であろう?1レースで三連単全員寿引退しますって流石におかしいと思わんのか?』

『みずをさすようなこといわないでちょうだい!じゃまをするなら、ほうていでしょうぶよ!』

『……ぼくが、さいばんかん』

 

そして、アメリカ中のウマ娘達は古き良き自由恋愛どんとこいに戻るべきでは?と決起し、ホースガールクラブに集団訴訟を起こしたのだった。

 

『ぼくはいつも、げんこくのみかた』

『出来レースが過ぎるではないか!!?ホースガールクラブの意義についてしっかり述べたのになんで恋愛させてよしか言っていない原告に負けるのだ!?』

『さいばんちょうありがとう!じゃあトレーナーそういうことなのよ』

『何がそういう事なんだよ!!俺はまだトレーナー続けぎゃああ』

 

1951年。勝ったのは、原告側であった。正義はここに為されたのだ。

ホースガールクラブは実権を失い、各カレッジでの自治体制に移り、今日に至るのである。

 

「というのが大体のあの国のあらましかなあ。後は、90年代に有名な事件として、サンデーサイレンスがトレーナー拉致して日本に逃げた事件だねえ。あれが政治的な理由で無罪として前例で残っちゃってるから……」

「ライバルのイージーゴアがブチ切れた事件っすね……有名っすよね、それも」

 

アメリカは、先住民族である超肉食系ウマ娘の血を色濃く継いだ肉食系ウマ娘の国なのである。

姉は、ここで弟を信じられないものを見るような目で見た。

ここまで知っておいて自分に結び付けない弟を、こいつマジかと思ってしまったのである。

 

「──一つ、足りないと思うわよ。チーフ」

 

遠くの席に座る人物から横槍が入り、三人がそちらに目を向ける。

美しい赤毛に白い肌、知的な視線を持つ小柄な女性。

その出で立ちは黒のレディーススーツを着こなし、ゴドルフィン・ブルーと呼ばれる青い腕章を見に付けている。

 

「おじさん今から言おうとしたんだけどねえ、ケッカちゃん」

「……そうですか。ならどうぞ」

 

彼女の名はフランチェスカ・ディ・トーリ。

現役最高峰とも呼ばれるトレーナーの一人であり、チーム・ゴドルフィンで多数の管理バを預かる、チーフトレーナーであるハリード・ビン・スラールの右腕である若き名トレーナーである。

元サーカス団員だったその優れた身体能力と、師匠譲りの優れた知識で既に幾多の勝利を挙げている。

彼女がここにいる理由は単純明快である。

彼女は貧しいサーカスの娘として生まれ、このちゃらんぽらんオヤジに拾われトレーナーとなったのだ。

しかしある日もう巣立ちなさいと突然チーム・ゴドルフィンに放り出されたのである。

ここクレアヘイブンのクラブハウスにいるのは、その意趣返しといつか帰る為の根回しである。

 

「ケッカちゃんさあ、おじさんとこのウィルくんとケッカちゃん交換しようと動いてるよね?やめてほしいんだけどなあ」

「私の方が、優秀です。止めれるなら、どうぞ」

「いやウィルくんも頑張ってるからさあ、おじさんのとこいても、ケッカちゃんはこれ以上伸びないとおじさん思ったから送り出したのに」

「…………レース馬鹿にもほどがありますね」

 

そう言ったきり、ケッカはちゃらんぽらんオヤジからそっぽを向いた。

とほほと頭を掻いたジョエルが智哉と姉に目を向け、話の締めに入る。

 

「じゃあ、続けるけど……こういう歴史の過程があった上で、現在のアメリカ競バ界で一番厄介で功罪あるのが、トレーナー資格とクレーミング競走かな。この二つねえ、アメリカンドリームってのは良いとはおじさん思うんだけどね、間口が広すぎるんだよね」

 

 

 

 

 

 

「登録料を払えば誰でもトレーナーになれる、クレーミング競走でスカウトされたら誰でもプロ競走バになれる。良い響きだよねえ」




ここでは主要国のサラブレッド生産頭数推移を出典としましたが、アメリカがマジ一強です。
あとアルゼンチンも生産頭数は日本とほぼ同じなんですよね。
近年はコロナによる不況で減少傾向ですが。
あっちの競馬がどんなのか気になるんだけどあんまり資料が無い…。

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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