トムとフラン   作:AC新作はよ

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遅くなった……明日も投稿するから許してクレメンス……


第十四話 超特急、三両編成

8月3日のサラトガレース場、全長約9ハロン(1810m)のダートコース、このコースの6.5ハロン(約1300m)を使うレースがクラシック路線限定競走、G2アムステルダムステークスである。

アメリカのスプリント戦線において重要なレースである。

同じくサラトガレース場で今月に行われるG1キングスビショップステークス(ダート約1400m)の前哨戦であり、秋のG1戦線を占う重要な位置付けのレースなのだ。

 

「キャンディ、クオリティロードは要注意だ。ミスターヴェラスは何か必ず仕掛けてくる」

「……わかってますよ、トレーナーさん。スプリントは私の戦場ですから、何も心配いりません」

 

レース場の観客席前、ベレー帽を被った二番人気、キャプテン・キャンディマン・キャンと呼ばれる体操着に短パン姿のウマ娘が、離れた位置の勝気な表情のウマ娘を見やる。

 

「……余裕の表情しやがって。スプリントを舐めんなって所を見せてやれ」

「ええ!頑張ってきます!!」

 

作戦を既に決めてある二人はハイタッチを交わし、ゲートに向かう。

その一方、一番人気のクオリティロード陣営は入念に最終確認を行っていた。

3人と意思の疎通を行う必要と、誰が走るかを決める為である。

 

<中団外から最終直線で仕掛ける>

「オウよ!任せとけ!」

 

ドン、と自信満々に胸を叩く、体操着にスパッツ姿のスケバンウマ娘のロード。

その様子を見て、怪人は溜息をついた。

走る本人が、出てこないのだ。

 

<今日は3人で走ると、伝えたはずだが?>

「へ、へへへ…リティの奴恥ずかしがって出てこねェんだよ」

 

八カ月前、クオリティロードの三人目と出会い、三人目のみが持つその特異性に目を付けた怪人は、一つの走法を提案している。

その為には三人目に出てきてもらう必要があった。

しかし、出てこないのである。三人目はひきこもりの気性難であった。

 

<……もうレースが始まるぞ。出て来なさい、リティ>

 

この呼び声に応え、ロードの様子が大きく変化した。

髪がざわめき、その片目が隠れ、信号機の耳飾りが黄色く点灯する。

クオでも、ロードでもない。

三人目、主人格の顕現である。

 

「……ふ、ふひひ、トレーナーさん、がんばるよ」

 

にちゃり、と無理をした笑みを三人目、リティが浮かべる。

彼女はひきこもりのコミュ障である。この為に練習の時にもほとんど出てこない。

そんなリティの顔を怪人が両手でむにっと押しつぶす。

練習に出てこない事への抗議と、気合を入れたのだ。

 

「むぎゅ!?トレーナーさん怒ってる……?」

<……たまには練習にも出て来なさい。それと固くなりすぎだ。君なら勝てる>

「……トレーナーさん、ありがとう」

 

リティからはにかんだ自然な笑顔がこぼれる。

怪人は満足げに頷いた後、手を離した。

後ろにいる怪人のパートナーは額を抑えた。

八カ月前に内緒でやらかした弟は折檻済みである。

 

<作戦は聞いているな?後は任せよう>

「うん!クオちゃんとロードちゃんもいるから大丈夫!走ってくるね!」

 

リティが怪人に手を振りながらゲートに向かう。

リティはひきこもりかつコミュ障のあがり症、さらには気性難という四重苦のウマ娘である。

この為に彼女は才能がありつつも走れなかった。

普段は姉妹に任せ、表に出てくる事は無いのだ。

そんな彼女が変わりつつあるのは、八ヶ月前のあの日。

あのロンドン郊外の邸宅で、怪人の前に現れてからであった。

 

<君は、確かに本番に弱い。それはよくわかった>

 

怪人の言葉を、リティが回想する。

練習では三人で最も速いが、本番に弱くレースではリティは全く前に出れなかった。

しかし、怪人はこう言った。

 

<だが、君が体を動かす時は三人とも動けるようだな。ならば、答えは既に出ている>

 

 

<三人で、走ればいいだろう?>

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

『さあ秋のG1戦線、そしてスプリント路線を占うG2アムステルダムステークス、まもなく発走します!ケンタッキーダービーで優勝候補と噂されつつも、怪我で離脱したクオリティロードの復帰戦ですね!いかがでしょうか、解説のイージーゴアさん?』

『…此方はキャプテン・キャンディマン・キャンを推していますわ。クオリティロードは気性難でしょう?まともに走れるかが疑問ですわ』

 

実況が気性難へのコメントを求めてきた事に眉を顰めながら、深層の令嬢然としたウマ娘が質問に答えを返す。

現役時代からエリート一族に名を連ね、かのセクレタリアトの再来と呼ばれ、現在はチーム・カルメットにも勝るとも劣らない名門チーム・クレイボーンのオーナーを務めるウマ娘──イージーゴアが今日のサラトガレース場のレース解説を務めている。

栗毛のウェーブのかかった艶やかな長い髪に額に丸い流星、その耳には日輪を象ったチャームのついた耳飾りがついている。

彼女の、もうアメリカにいない好敵手を意識した耳飾りであった。

グローリーカップで決着を付けようと約束したのに、自らのトレーナーと突然日本に逃げやがったライバルである。

最近は日本でお前によく似た根性あるヤツと仲良くなったと、自分を差し置いてマックなんとかと言う奴とツーショット画像を送ってきたライバルである。

連絡は取っているがまだ彼女は許していない。彼女は根に持つタイプだった。

彼女の気性難嫌いの源泉である。

 

『なるほど!確かにミス・キャンディはここまでG3、G2と勝利し、スプリント路線で実績を残している有力バです!彼女は次走をここサラトガレース場のキングスビショップステークスと既に表明していますね!サラトガレース場といえば、イージーゴアさんもG1を二連勝した馴染み深い地だと思いますが……』

『余り印象に無いですわね。此方はほとんど負けた事がありませんもの』

 

出走バへの無自覚なマウントであった。

彼女は現役時代にもこれをやってライバルと乱闘寸前まで行っている。

なお『俺様に三回負けてるしクリーにも負けてるだろ。記憶喪失か?』と言われて先に殴りかかったのは彼女である。

気性難が嫌いな癖に気性難の気があった。

 

『おっと、全員ゲートインしたようです!間もなく出走ですね!』

 

実況がすかさず話題を変え、出走準備ができたゲートに目を向ける。

二枠四番、今回の出走6人の中央寄りのゲートにリティはいた。

 

(途中までは、ひとりで走るよ)

『おう!直線になったらアタイ達も混ざるぜ!』

『クオもトレーナーさんに良い所見せたい!』

 

ゲートの中で、レースへの渇望でリティの心が高揚する。

彼女はその可憐な容姿とは、真逆の気性難である。

その性質がレースを目前に控え、表に出て来ていた。

このリティに、二番人気のキャンディが対抗心を燃やす。

 

「ふひ、ふひひ……走りたい、なあ……!」

(……始まりましたね。これを見て委縮して、何人もペースを崩されたと聞いています。私はそうは行かない……!)

 

リティの髪がざわめき、信号機の耳飾りが点灯を繰り返した。

口元が弧を描き、ゲートに濁った笑い声が響く。

この異様な様子の小柄なウマ娘を見た出走バに、動揺が走った。

 

「な、なにこの子……」

「これがクオリティロード……気性難とは聞いてたけど……」

 

一人を除き誰もがリティに目を向けたその時、ゲートが開いた。

 

「ふひっ!」

(よし!ペースは乱れていない!)

 

一、二番人気の二人が悠々とスタートを切る中、ペースを乱された出走バ達が慌ててスタートを切る。

アメリカ競バの特徴の一つが、激しい先頭争いである。

スプリントからマイル戦線で、その傾向が特に顕著になっている。

出走バ達が脚を消費しながらセオリー通りに先頭争いを行う中、リティはゆっくりとしたペースで中団後方、大外に進路を向けた。作戦通りである。

その後方──

 

(やはり直線勝負ですか、トレーナーの分析通りです。仕掛けたら後ろから私が差す……!)

 

二番人気キャンディは、リティをマークしていた。

彼女とトレーナーのリティ対策である。

気性難の割に抑えの効くリティは先頭争いに参加しないという、彼女のトレーナーの予測通りであった。

スプリントは一度の判断ミスが勝敗に大きく影響する。

スプリント路線では一度の競走経験しかないリティをマークしプレッシャーを与え、仕掛けるタイミングを迷わせ、そこを突いて末脚を切る作戦であった。

しかし、この作戦には見落としがあった。相手は気性難である。

 

「ふひ、ふひひひひ……!」

『マークしてきてるヤツいんなァ、まあ無視でいいだろ』

『プレッシャー与えてるつもりなんだろうねえ』

 

全く堪えていない。リティに至っては、走れる楽しさで全く見えていなかった。

徐々にペースを上げたリティがコーナー大外のまま一番大きく回り、そのまま出走バ中4人が大きく横並びになる。

直線、末脚勝負である。怪人の作戦通りであった。

 

「いつも思うけど、あんたよくここまで読めるわよね……」

<タイムを見れば一目瞭然だろう?>

「そういうもんでもないでしょ……」

<それよりも直線だ。私は準備に入る>

 

呆れた様子のパートナーの言葉に、怪人はそう言うとゴキゴキと両手を鳴らしながら、ラチの前でいつでも飛び出せる準備に入る。

 

『いよいよ直線、この様子だと末脚勝負になるか!?おっと、ミスターヴェラスがいつもの準備に入っていますね』

『一度あれは生で見てみたかったのよね。彼はウマ娘血清を打ち込んだ超人兵士説を、此方は推していますわよ』

 

実況と解説が怪人に目を向ける中、リティが仕掛けに入った。

髪がざわめき、信号機の耳飾りが全て点灯する。

その瞳が金色に染まり、彼女達の前に三つの扉が現れる。

リティが生まれつき持っている領域(ゾーン)である。

 

 

(行くよ、みんな)

『ッシャア!待ちくたびれたぜ!!』

『リティちゃんがそのまま脚、クオが目、ロードちゃんが上半身ね!』

 

それぞれの扉をぶち破り一つの道を、光の差す先を三人で目指していく。

そして、レースに意識が戻った時、殺人超特急(キラー・エクスプレス)は三位一体となった。

 

『おおっと、クオリティロードがここで仕掛けました!随分と様子が変わっていますが……』

領域(ゾーン)ですわ。クラシック路線なら使えてもおかしくないわね』

 

リティの領域(ゾーン)、その効果は──

 

(飛ばす、よ!前、大丈夫?)

『だいじょうぶだよ!そのまま脚動かして!』

『心臓と肺は問題ないぜ!ゴールまでもっとペース上げてけ!!』

 

リティは走る事だけに集中し、あがり症の彼女の代わりに頭の回転が早いクオが周囲の状況を伝え、根性のあるロードが心肺の負担を肩代わりする。

クオリティロードが、最終直線で遂に現れたのだ。

 

(仕掛けが早い!これなら後ろから差せます!)

 

クオリティロードを差して勝つプラン通りの展開になったキャンディが、叩き合いに持ち込もうと併せに行く。

内に回り込み、併せる為に末脚を切る。

 

『後ろ来てるけど、たぶん届かないよー』

『このまま行っちまえ!』

(もっと、突き放す、よ!!)

 

しかし、併せられたのは一瞬のみであった。

クオリティロードが、更に速度を上げたのだ。

 

(届かない!こんなに速い……!)

 

2バ身離された所で、キャンディは負けを悟った。

 

『一着はクオリティロード!タイムはなんと1:13.45!レコードです!見事にカムバック初戦を勝利で飾りました!二着はキャプテン・キャンディマン・キャン!そしてミスターヴェラスがラチを飛び越えました!皆さんお待ちかねの──』

 

ゴールを切ったクオリティロードだったが、そのまま止まれずコースを進む。

脚を動かす本人は前が見えないのである。そして視界担当の望みでもあった。

 

(おわった?終わったよね?)

『もう流石にしんどいぜ!終わっただろ!?』

『まだ!もうちょっと!脚ちょっとずつ緩めていいよ!』

 

クオリティロードが進む前に、人影が立ち塞がる。

 

『よし来た!飛び込んで!』

 

クオの言う通りに、リティが飛ぶ。

それを人影は受け、勢いを殺し、地面を衝撃で削って数m下がりながら止めた。

レース中の競走バを受け止める、生身の人間には不可能な所業であった。

 

<……そろそろ止まり方も覚えて欲しいところだな>

『ふおー!役得ゥー!』

『どうなってんだ今?いつも誰が止めてんだ?』

(なに、なにが起きたの?)

 

止めたのは、怪人であった。

この半ばデモンストレーションのようなお馴染みの行為に観客が喝采を上げ、クオが興奮した。

残りの二人は視界が無いためわかっていない。

 

<見事だった。勝利おめでとう>

「あ、トレーナー、さん?」

 

怪人が領域(ゾーン)を解除したリティを降ろし、その勝利をねぎらう。

そして、ウィナーズサークルを指差した。

 

<行ってきなさい、ライブはいつも通りクオだろう?>

「ふひ、ライブにがて……」

『アタイもそんなに得意じゃねェんだよなァ』

 

三人の中でライブはクオの担当であった。

打算的で女部分担当の彼女は、とにかくあざとい動きが得意なのである。

ウィナーズサークルにリティを送り出した怪人が、空を眺める。

このレースを中継で観ているであろう、とある少女を思い浮かべて。

 

 

 

 

 

<……勝ったぞ、フラン>




最初書いてた時は某SS様の口調はサイヤ人の某下級戦士そのまんまでイージーゴアネキは某エリート王子でした。流石にネタすぎてあかんなって書き直した。

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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