アプリ版でモンジューが実名で出てびっくりした
『まずはクオリティロードの復帰戦の見事な勝利、おめでとうございます!』
<ありがとう。だがその言葉は彼女に送ってやってほしい。私は自分の仕事をしただけであり、結果を出したのは彼女だ>
『ええ~!トレーナーさんのおかげですよぉ~!』
<クオ、少し近いと思うんだが……それとライブはどうした?>
G2アムステルダムステークス終了後のサラトガレース場にて、勝利トレーナーインタビューが現在行われていた。
ウィナーズサークルでの勝利ウマ娘の表彰後である。
本来ならライブの準備に行っているはずの一着が、ライブ衣装姿で怪人と腕を組みながら何故か一緒にインタビューを受けている。
こういう場面では邪魔者の介入が無いと気付いたクオは、ライブ開始ギリギリまで居座るつもりであった。
『いつも通りの管理バをまず立てる姿勢、流石はミスターヴェラスですね。所で、次走は中距離とニューヨークレースタイムズの取材で答えていたそうですが……?』
<そういう訳ではない。私も管理バもそれぞれのベストの仕事をしただけの話だ。中距離挑戦に関しては……そうだな、私よりも彼女次第とだけ話しておこう>
『中距離!はしります!!』
<こら!言うな!!>
カメラにアピールしながら予定に無いであろう爆弾発言を飛ばす、前髪で目が隠れた怪人の管理バであるウマ娘。
怪人が慌てて彼女の口を塞ぐ所で勝利インタビューは終了した。
「すごいなあ、こんな人のスカウトが受けられるってホントかなあ……」
この中継を智哉と姉の自宅の隣に住む少女、ダンは観戦しながら独り言をこぼした。
八月、季節は夏。彼女は夏休み真っ只中である。
インタビューが終わった中継はライブまでCMに入り、ごろんと、ダンが寝転がりながらテレビのチャンネルを回す。
『………欧米の人らはタコあかんって言うけどな。今日はそんなタコをおいしく食べれる料理を紹介するで!ウチの故郷のソウルフード、たこ焼きや!は?なんやペイザバトラー?食えへん?ウチのたこ焼きが食えへん?なんややるんか?一回だけウチとオグリンより先着した程度で調子乗ってへんか?表出ろや!!!!』
日本語で捲し立てながら、大女優が料理番組で対戦経験のあるゲストに激昂する。
いつもの事である。前回の放送では親友を呼んで食材を全て食われて激昂していた。
ダンは更にチャンネルを変えた。
『フィドリングブルさん、ファル子の問題っていうのはですねぇ。疑り深いって言うことなんですよ。ウチのトレ…ヤドロクにもよく言われましてね……』
次に映ったのは、日本のアイドルからアメリカのミステリードラマへの進出を果たしたウマ娘主演の刑事ドラマ「刑事ファルコロンボ」であった。
たまにセリフを間違えるが、それも味があるとファンからは好評の長寿シリーズである。
結局、何も観る気になれないダンはテレビの電源を切った。
気になる事があって集中できないのだ。
(トモ兄、映ってなかった。ミディ姉はいたけど……)
気になる事とは、一カ月前にダンにトレーニングメニューを与え、仕事が忙しくなると言い残していなくなった隣のお兄さんの事であった。
(……絶対おかしいよ、これ。トモ兄隠す気あるの…?専門家、いや本物のトレーナーでもここまで書けないよ)
ダンが、後で読んでくれと智哉より渡された、トレーニングメニューの書かれたノートを開く。
ダンの体に合ったトレーニングとその必要性、効果が項目毎にイラストも付け加えられて詳細に解説されている。
さらに段階毎に細かく追記もされていた。
プロの競走バでも、ここまで自分に合ったものは用意されていないのではないか?とダンは考えている。
これを読んですぐにダンは智哉に電話で連絡した。
感謝しつつ、誰が書いたの?と聞いたのだ。
智哉の返事は、更に想像の斜め上を行っていた。
『いや、俺だけど……そんなに手間かけてないぜ?フラ……故郷の知り合いにも同じ事してるしな』
これが今のダンのもやもやした感情の源泉であった。
この手間暇かけた完成度の高いトレーニングメニューと、故郷の知り合いが気になって仕方ないのだ。
(故郷の知り合い……トレーニング見てるって事は、ウマ娘だよね……)
自分と同じように面倒を見ている、故郷の知り合い。
きっと自分より付き合いの長いウマ娘である。
そう考えると今まで経験の無い、よくわからない感情が収まらないのだ。
(どんな子だろ……?きっと速い子なんだろうな、ボクより……トモ兄の事もっと聞いておけばよかった)
なお、智哉はその知り合いのトレーニングを本当は見るつもりはなかった。
契約の約束はしているが、それまではクラブのトレーナーの領分を犯すからである。
知り合いがクラブに入った時も、同じ理由で帯同と全体練習の手伝い以上の事はしていなかった。
そう思っていたが、知り合い本人がある日突然怒って問い詰められたのだ。
彼女の怖い部分は、この時からよく出てくるようになったのである。
そんな智哉のやらかしは他所に、ダンはもう一つの疑問も思い浮かべる。
(……トモ兄、絶対トレーナーだと思うんだよね。でも図書館でトレーナー名鑑見てもトモ兄いなかった)
ダンは智哉の仕事がトレーナーだと確信していた。
トレーナーと競走バに関しては名鑑が存在し、図書館や競バ関連施設で自由に閲覧ができる。
それを思い付いたダンは早速調査したが、智哉の名前はどこにも無かった。
そうして、一つだけ疑惑が残った。
智哉がいなくなった途端、怪人がまた表舞台に登場したのだ。
(サブトレーナーだとあんなの書けないと思う。トモ兄、やっぱりヴェラスさんなのかな……でもトモ兄のイメージと違うよね)
先程テレビで見た的確な作戦で管理バを勝利させ、レース中の競走バを受け止め、インタビューでも冷静な姿を見せた超人トレーナーの怪人。
一方、隣のお兄さんはダンから見て頭が良いと思うし運動もできる。だが少々三枚目で情けない部分がある印象だった。そういう所も付き合い易くてダンにとっては好きな部分だったが。
疑惑はあるが、この二人がどうしても重ならないのだ。
一月前、憧れの人の控室での、そんな隣のお兄さんとの会話をダンが思い返す。
『ヴェラスさんが今年は冬季のシンデレラクレーミングの解説やるんだけどさ、ダンが出るなら推薦するぜ』
『えっ、トモ兄そんな事できるの!?』
『できるんだよ。こう見えてコネはあるんだぜ?』
アメリカ競バ界の名門、本人も名バであり引退後父の跡を継いだアリス・ダーウィンオーナー、そして現在はチーム運営に集中し専属の管理バを持つ事は珍しくなったが、全米トップクラスのトレーナーであるロッド・フレッチャーが代表を務める超名門のチーム・カルメット。
このチームに所属し、現在チームトップのトレーナーの名声を得ている怪人、ジョー・ヴェラス。
彼のスポンサー契約を受けられると言う事は、この超名門からプロデビューする事がほぼ確定するのである。
場合によっては、彼と直接契約を結べる事も有り得るかもしれない。
ヤッタとの邂逅で、夢をはっきりと自覚したダンは疑問を覚えつつも、二つ返事で出ると智哉に伝えている。
怪人が解説を務めるなんていう話は、まだ発表すらされていない情報である。
恐らく情報源は智哉の姉なのはわかる。だがいくら専属契約を結んでいようと、そこまで話を通せるものなのか?とダンは考えていた。
ここまで思索を巡らせた所でダンは頭を抱えた。
考えすぎてパンクしたのである。
「もおお!!わかんないよトモ兄!!!何がしたいの!!!!」
*****
一方──サラトガカレッジ、食堂内。
「……わかってるだろうけど、あたしはフォローしないわよ」
「おう……怒るだろうなあ」
深刻な表情の智哉に対し、姉はニンジン入りのマカロニチーズを頬張りながら呆れ果てた眼差しを向ける。
これから智哉は、とある人物に電話をするのだ。
ある事を、伝える為に。
「怒るならまだ良いと思うわよ。泣いたらサリーとあたしに一回ずつ半殺しにされる覚悟はしときな」
「姉貴もかよ!?姉貴は共犯みてえなもんだろ!!あと二人に一回ずつって死んじまうじゃねえか!!」
「うっさいわね!元々はあんたがどこにでも首突っ込むからでしょうが!!!!」
「仕方ねえだろ!!ダンをほっとけねえってのは姉貴も賛成してたじゃねえか!!」
ぎゃあぎゃあと姉弟喧嘩を始める二人の前に、茶髪にブラウンの瞳の幸薄そうな男が近寄る。
その人物に姉弟は目を向けた。智哉は既に姉にパロスペシャルを仕掛けられている最中であった。
「やあ、トモヤ君、ミッドデイさん……丁度二人ともサラトガにいてよかったよ。話があるんだ……」
「うっすライエンさん、また顔青いっすけど……」
「あら、久しぶりねーライエンさん」
訪問者は智哉の友人、元オブリーエンレーシングのジュニア担当にしてチーム・クールモアの新進気鋭の出向トレーナー、ライエン・モアであった。
ここまでグローリーカップで二勝、トレーナーズカップでも勝利を収めている。
怪人に次ぐ実績を持つ若手の有力トレーナーである。
顔も悪くは無いので、よくこちらの肉食ウマ娘にちょっかいをかけられていたりもする。
そして彼はとんでもない激務であった。
「また、帰国しろって、チーフに言われたんだ…………」
「……マジ?ライエンさんそろそろ死なねえそれ?」
「ハービーがさ、面倒みろって……」
ハービーとは、彼が突然チーフに呼び戻されて英国で契約していた統括機構の大手チームであるチーム・ハイクレアに所属しているウマ娘の愛称である。
例のアスコット・スキャンダルによりトレーナー不足である統括機構は、現在各チームのトレーナーが激務に晒されている。
有能なトレーナーであり、オーナーの子飼いである彼は特に引っ張りだこであった。
彼のオーナー、嫌味眼鏡ことエイベル理事はこう言った。
『……アメリカで実績を積んでいるようだが……私の勘違いでなければ、君は英国人ではなかったか?』
訳:アメリカでしっかり実績を積んでいるようだね。こちらでもレースに参加してはどうだろう?
『丁度暇そうな君に良い話がある。私の友人のチームが、エース候補のために優秀なトレーナーを探していてね。君を推薦しておいた。働きたまえ』
訳:君の為に良い話があるんだ。私の友人が君にエース候補を預けても良いと言っている。君ならやれるさ、期待しているよ。
嫌味節全開である。エイベル理事の娘、ジェシカこともやしは近くで聞いていたが特に通訳をしなかった。
もやしは激務で萎びていたのである。
そして現在ライエンは激務が待っている現実に絶望していた。
こちらでも気苦労が多いのに英国でこき使われるのも確定したのである。
「トモヤ君、だからあの件は来年は手伝えなくなるかな……多分あっちだから」
「あ、いる間だけでいいんで……オブリーエンとか止めねえのかよ……」
「お嬢さんはお嬢さんで今大変だからね……」
もやしは現在G1戦線にも顔を出す有力トレーナーであり、チーム・クールモアの代表の娘であり、トレーナーの大家の令嬢である。
しかもまだ十代で、何かに目覚めている上に気性難だが外面は良い。そして見た目も美しい令嬢である。
要するに高嶺の花で人気者である。父が止めているが縁談の話が山ほど届くのだ。
更にはお近付きになりたい恐れ知らずの若手男性トレーナー達が、統括機構主催の社交会や業務中に何かと世話を焼きたがるのである。
その対処と普段の激務でもやしは参っていた。そしてアメリカでレースに名前が出てこない同期に楽してるんじゃないわよあの男と何故かブチ切れていた。
奉仕作業の為に帰国したらこき使ってやると考えているのだ。
そんな現状を知らない智哉はライエンに心底同情した。明らかに無茶ぶりされすぎである。
「それじゃ、今年までは手伝うからね……お嬢さんに勝手に名前教えた件はそれで許してもらえるかな……?」
「あ、うん、もういいっすから……とりあえず寝てください」
「大変そうね、あっちは……ウチのチーフとか大丈夫かな……」
用件が済んだライエンが、ふらつきながら去って行く。
背中に哀愁があった。哀れな男である。
「じゃ、さっさと電話しな。ちゃんと言うのよ」
「おう……」
気を取り直した姉が、智哉に電話を催促する。
智哉も覚悟を決めた。伝えなければならないのは変わらないのだ。
携帯を手に取り、英国の国番号を入力し、国際電話を始める。
そしてとある人物に代わってもらうように伝える。
程なく、その人物が電話に出た。
『トム、お電話うれしいわ。でも昨日お話したばかりだけど……どうしたの?』
「ああ、フラン………話があるんだ。聞いてほしい」
『ええ、何かしら?』
「ごめん、今年も帰れないかも…………」
次回、ガチギレ。
フィドリングブルは架空の競走馬です。
元ネタは新・刑事コロンボから。
1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…
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いる
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いらない
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まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
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キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ