トムとフラン   作:AC新作はよ

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ちょくちょく文章推敲してるけど内容は変化ないから気にしないでクレメンス


第六話 いかにして彼女は外に出たか

「ないてすっきりしたら、おなかがすいたわ」

「切り替え早すぎねえ?」

 

あれからフランは、智哉の胸で言いたい事を叫んだ後に、すっきりした顔でそう呟いた。

沢山泣いたからか晴れやかな表情である。シリアスな空気は溶鉱炉に沈んだ。

 

「サリーにおしえてもらったのよ、げきこうしそうなときはたくさんなけばいいのよ。サリーも、わたしがつらくてないていたら、よくハンカチをかんでいっしょにないてくれたわ」

「絶対その人やばいと思う」

 

主人の心に寄り添いすぎである。

智哉は、脳内に危険人物候補としてフラン付メイドのサリーを記憶した。

 

「…家族やそのサリーさんに会いたくないのか?」

 

以前から気になっていた。この年頃の幼女が一人で親元を離れているのだ。

寂しいと思うのが当然である。

フランは不思議そうに首をかしげた。

 

「…?おかあさまとサリーならたまにあっているし、まいにちおでんわもしているわ」

 

会ってた。

 

「は?いつ?」

「トムがおうちにいないときに、ミディおねえさまがよんでくれるのよ。わたしはトムにおかあさまとサリーとおはなししてほしいのだけど、ミディおねえさまがサリーはまだあぶないっていうのよ」

 

知らない内に姉に助けられていたらしい。姉に思うところはあるがそこは素直に感謝した。

智哉は、脳内に危険人物としてフラン付メイドのサリーを記憶した。

 

「今日の夕飯だけどさ、クラブハウスでみんなで食おうかって話してるんだ」

「クラブハウス?」

 

久居留家の練習場には、クラブハウスが存在する。

従業員や練習生はそちらの施設で着替えや食事をしていた。

 

「ああ、外に出なきゃならねえけど…」

 

フランはあの日以来、外に出るのが怖かった。同年代のウマ娘を見るのが怖かった。だから頑なに外出を拒んでいたのだ。

でも…

 

「嫌ならいいんだぜ?こっちに持ってくるから俺と食おう」

「いくわ」

 

この人となら。

お互いの心の辛さを知り、悲しみを共有したこの人とならきっと外に出れる。

 

「…そっか、ありがとな」

「うふふ、トムにはレディをエスコートするえいよをあたえるわ」

「畏まりましたお嬢様。さあ、お手をこちらへ」

「くるしゅうないわ」

 

冗談を飛ばし合いながら、智哉としっかり手を繋ぐ。

外に出るというのに、不思議と何も怖くなかった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「トム、くらいわ、さむいわ、あるきたくないわ」

「ええ…めっちゃ文句言うじゃん…」

 

台無しである。

久しぶりの外界の空気は寒いし、練習の終わったクラブ設備は照明が切れて真っ暗だった。

おまけにクラブハウスはちょっと遠い。

 

(心を許してくれたんだろうけど、こいつ実はめちゃくちゃワガママじゃねえか?やっぱり気性難だろ)

 

ちなみにフランは甘えたくておんぶしてほしかっただけなのだが、智哉はフランとの話し合いで一日分気を使ったのでもうエネルギー切れであった。クズモードに戻ったのである。

 

「もうちょっとだから我慢してくれよ…」

「…むぅ」

 

ぷくぅとフランのほっぺが膨らむ。

そんな事をしている内にクラブハウスの前に到着した。

 

「ほら、着いたぜ。開けてみな」

「わたしが?」

「ああ、フランに開けてほしいんだ」

 

智哉がなぜかニヤニヤ笑っている。何かを企んでいるらしいとフランは感づいた。

おそるおそる、暗がりの中のクラブハウスのドアを開け、ドアの隙間からゆっくりと光が漏れる。

そして…

 

「フランちゃん!!!ようこそクイル・レースクラブへ!!!!」

 

「ふぇえっ!?」

 

ぱぱぱぱーんと、クラッカーの一斉射撃を浴びる。

音にびっくりしつつも、周囲を見渡す。

 

「わあ…!」

 

クラブハウスのロビーは飾り付けられ、ちょっとしたホームパーティー会場のようになっていた。中央に「G1フランちゃん歓迎記念」と書かれた看板が置かれている。

お嬢様育ちのフランはもっと格式の高いパーティーに参加した事も当然ある。しかし自分のために飾り付けられたという事実が何よりうれしかった。

 

周りを見ると、智哉の母に自分と同年代の少女達、年上の女性と男性、そして知らないおじいさんがこちらを見ている。

女性陣は、簡易な仮装をして耳と尻尾の位置を隠している。ウマ娘かどうかわからなくしているのだ。

 

「フランちゃん!」

 

フランに声がかかる。少し年上の、かぼちゃの帽子を被り花束を持った少女だ。

クラブ練習の時、智哉にフランの事を教えた趣味コースの練習生である。

 

「おれ、アンナって言います!!フランちゃんが窓から見てるのいつも見てました!!さみしそうだから心配してました!!!」

 

元気が取り柄の少女である。家は花屋で、花束も智哉に頼まれて家で用意したものだ。

 

「だから!今日トムせんせーにたのまれて!お花持ってきました!!ウマ娘がこわいってママせんせーに聞いたから!みんなで耳と尻尾をかくしました!!お花受け取ってください!!あと友達になってください!!!」

 

頭を下げて花束を差し出す。全員がそれをじっと見つめる。

フランは振り返り、後ろの智哉を見上げた。

力強く頷き、智哉が応える。

 

「…大丈夫だよ。ここにいる全員、絶対にフランを嫌わない」

 

自分の答えはもう出ていた。そして今勇気をもらった。

フランは、アンナの方に手を伸ばし、花束を取らず…

 

アンナの帽子を、頭から外し、耳を露出させた。

 

「えっ…フランちゃん?」

 

アンナは困惑する、まさか拒まれてしまったのか?

 

「はじめまして、フランといいます。おきづかいうれしいです」

「でも、おともだちをこわがるのはおかしいわ。アンナちゃん」

 

これがフランの答えだった。ここまでされて怖がってはウマ娘が廃る。勇気を振り絞って誠意を返したのである。

 

「…」

 

一同、このフランの行動に静寂した後に

 

「うわあああああああ!!!!」

 

「ふぇえええっ!?」

 

大爆発した。まさに歓喜の渦である。フランはもみくちゃにされた。

 

「フランちゃんかわいい!!!すっごいおじょうさましてる!!!」

「フランちゃんよろしくねえ、あっちでご飯たべよー」

「ちょっと趣味コース!学院コースにも紹介しなさいよ!フランさんよろしくね、私はエスティよ」

 

「あぁぁぁあああああぁあああああお嬢様あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

フランはもみくちゃにされて見えなくなり、周囲からやんややんやと声が上がる。

一人テンションのおかしすぎる異常者がいる気がしたが、智哉はスルーした。

知らない方が良い事もあるのだ。

 

「ようトム坊、フランちゃん連れ出し任務ご苦労」

 

フランはもう大丈夫と思い離れたところに、初老の男性が近づいてきた。

 

「ジェームスのおやっさん、悪いな手伝ってもらって」

「なあに軽い軽い、あんな事情知って動かない奴はトレーナーじゃねえさ」

 

彼、トレーナーのジェームス氏は、父と古くから親交のある統括機構所属のトレーナーである。現在は年齢により一線を引き、父の誘いに乗り、ここクイル・レースクラブの学院コースを担当し、運営の相談役を務めている。

ちなみに、智哉は彼からトレーナー推薦を受けられない。彼の推薦枠は所属アマチュアトレーナーの契約項目に含まれているのだ。現実は非情である。

 

「トム坊、これからやるんだろ?」

 

そして久居留家と親しいという事は、一家の力関係と諸々の事情を知っている。

 

「…ッス」

 

しかし智哉はすでに尻込みしている。やっぱり姉は怖いのだ。

 

「なんだよビビってんじゃねえか。たまにはミディちゃんにビシっとお灸据えてやんな。今回は流石にトム坊に無茶ぶりしすぎだからな」

「…ッス」

「かー!こら駄目だ。俺はフランちゃんにちょっくら挨拶してくらあ」

「いやおやっさん無茶すんな、ウマ娘が集まりすぎて竜巻みたいになってるぜ」

 

真ん中にロングスカートのメイド服を着こなした竜巻が見えるが、智哉は見て見ぬふりをした。あれに関わるのは危ない。

 

「ああん!?俺は障害レースの指導も実演でやってみせてたんだぜ!できらあ!」

 

そういうと腕まくりをしたジェームス氏は竜巻に突っ込んで行って、簡単に弾き飛ばされた。智哉は見て見ぬふりをした。おやっさんが年を考えずに無茶するのはいつもの事なのだ。

 

「トムくん、お疲れ様」

 

今度が母が近付いてきた。今回、フランと練習生を会わせていいかの最終判断を下したのがこの一家の最高権力者である。智哉が相談した時に、母は智哉がフランに事情を聞くことを条件としていた。

 

「母さん、無茶言ってごめん。それとありがとう、助かった」

 

智哉は素直に感謝を伝える。会場の設営から料理の準備まで、母には本当に世話になったのだ。

 

「ふふふ、いいのよ。そろそろ会わせる頃合ではあったのよ。でも、それだとトムくんは蚊帳の外になってしまうから」

 

自分が動く事も全部見透かされていた。母にはやはり敵わない。

 

「ところで姉貴は?」

「…裏口の外で待ってるわ」

「そっか、行ってくるわ」

「トムくん、あまり怒らないであげてね。お姉ちゃん、結構気にしてるのよ」

「努力します…後が怖いし」

 

姉の報復は死ぬほど怖い。あの気性難は根に持つとしつこいのだ。

クラブハウスの裏口からそっと出て、姉を探す。

すぐに姉はいた。

 

「…来たわね」

「…おう」

 

姉は外壁にもたれかかり、腕を組んでなにやら考え事をしている様子で佇んでいた。

 

「話あるんでしょ?」

「姉貴からはねえのか?何もねえのか?」

 

智哉は瞬間的に頭に血が上った。

なんだその態度は。人の触れられたくない過去を利用するような真似をして。

何も言わずにフランを俺に放り出して。

とりあえず一発ぶん殴る。考えるのはそれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

智哉は、拳を振り上げた──

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