バッバと妹はお蔵入りさせるつもりだったけど設定は用意してたからそのまま出すやで。
ジュドモント家──
その歴史は古く、18世紀頃のアラブのとあるウマ娘王朝のマンニカという姫がヨークシャー州に移住し、その地でトレーナーの婿を迎え家を興した事に端を発する。
それ以来、ウマ娘が当主の際は優秀なトレーナーの婿、男が当主の際はウマ娘の嫁をそれぞれ迎えながら、常に英国競バに寄り添い繁栄を謳歌し、英国だけでもヨークシャー州、ロンドン市内、そしてニューマーケット近郊に広大な土地と邸宅を所有する大富豪としての側面も持つ一族である。
アイルランド公国、そしてアメリカにもその根を張り、欧州の財界においてもその影響力は大きい。
これ程の大家であるが、爵位は女王よりあくまで現当主個人へ、という形式での名誉称号であるナイトへの叙爵のみとなっている。
ウマ娘王朝の姫として、女王の臣下とされる事に抵抗があった初代当主と英国王室の間の約定によるものである。
このジュドモント家の次期当主には、現在九歳になる長女と、祖母の元でヨークシャー州に住む次女がいる。
ジュドモント家に生まれたウマ娘は、五歳までをヨークシャー州の旧宅で過ごし、五歳になれば旧宅中庭にある三女神の一柱、女神ダーレーの祠で洗礼を受けるというしきたりが存在する。
初代当主から続く伝統であり、ヨークシャー州の旧宅は現在の女主人、つまり現当主の妻である伝説のアメリカウマ娘が仕切っていた。
この女主人は自分の子が二人とも男だったために、次男夫婦の子を含む孫三人の教育をそれはもう張り切った。
英国淑女としてのみならず、自らの競走バ時代の経験と結婚までの経緯も姉妹に叩き込んでいるのだ。
姉妹の母は長女の五歳までを共に過ごし、現在も次女の為にロンドンの本宅と旧宅を行き来している。
次女は現在八歳であるが、おばあちゃん子で離れたくないと駄々を捏ねヨークレース場に隣接されているポニースクールに通っている身である。父は床を転がり回って泣いた。
姉妹とも当然ウマ娘であり、長女の容貌は既にジュドモントの妖精と呼ばれるほどに美しい。
そして競走においても天才である。
ポニースクールには一身上の都合で通っておらず、クラブ所属であるがそのクラブも何故かジュドモント家保有の一流クラブではなく、片田舎の中堅クラブに所属している。
理由は伏せられている。彼女の父、次期当主はその理由を誰に聞かれても固く口を閉ざすのだ。
しかし、この令嬢を語る上でそれは些事であった。
この令嬢は、未だクラブで誰にも負けたことが無い不敗の怪物なのである。
美しく、速く、そして英国に名だたる大家の長女──つまり、彼女の心を射止めた者、彼女と契約した者は、英国競バ界において全てを得ることに等しいのである。
当然、この高嶺の花はオブリーエンの姉妹と並び統括機構トレーナーや英国貴族の注目の的であった。
貴族からの婚約の申し込みから何とかお近づきになり息子をあてがいたいトレーナー、彼女に近づこうとする者は多い。
全て父とその忠実な専属メイドに却下されているが。
その令嬢は、今──
「もう!トムったら!本当にもう!!」
ぷんすこと怒っていた。激おこである。
アメリカ在住のとある青年が約束を破った事におかんむりであった。
現在彼女は夏休み中で、ヨークシャー州の祖母と妹の住むジュドモント家の旧宅とロンドンの本宅を行き来して過ごしている。
今日は青年を迎えた事もあるロンドンの本宅である。
その廊下を、専属メイドと共に怒りながら歩いていた。
「フランお嬢様がお怒りだ…」
「また彼かしら…?お嬢様より優先するものなんて無いでしょうに」
「彼はトレーナーらしいが誰とも契約している形跡が無いぞ。大旦那様に恥をかかせるとは…そんな男お嬢様に相応しくないのでは…?」
使用人達からも青年の評判はあまり良くない。
恩人らしい、そしてお嬢様と契約の約束をしているとは聞いているが、詳しい事情を知らない彼らにとって青年がその容姿で大事なお嬢様を誑し込んだようにも見えてしまうのだ。
肩身が狭く感じた青年は、少しジュドモント家に足を運ぶのを避けている節があった。
逃げれるときは逃げる男であった。
この件で青年を推薦した現当主は揶揄される事もあったが、事情を知る彼は「あの坊主はモノが違うわい」と笑い飛ばしていた。
老紳士の狙い通りである。ちゃっかり末娘を青年の実家のクラブに入れていた、青年の実家に隠された秘密を知っておりその血、その因子を欲する女王陛下も、ジュドモント家、そして青年の一族の初代当主との約定によりそれ以上の行動はできない。
このまま行けば誰の横槍も入らない確信を持っていた。彼は既に楽して生きたい青年を絶対に逃がさないように動いている。
孫の代まで安泰となれば悠々と当主の座を息子に継がせ、ウマ娘の追っかけをやれるのだ。
今も似たようなものである。
「サリー!今日の予定はなにかしら!!」
フランが怒りながらも、専属メイドに今日の予定を確認する。
彼女は九歳児だが、父から無理の無い程度に当主教育の一環として家業の手伝いを頼まれている。
それを彼女は嫌に感じたことは無い。
この家は好きだったし、家族の為に役に立ちたいという気持ち、そして名家の娘としての矜持をしっかりと持ち合わせていた。
「今日は分家のお嬢様との面会です。半年ぶりですね」
「まあ!レインお姉様がもういらしたのね!」
「リチャード様もいますが…あの方はまあいいでしょう。変に言質を取られないように」
そしてこのジュドモント家であるが、アイルランド公国で19世紀に分家を興している。
その家の名は、バンステッド家。
そして、その家には次代を担う兄妹がいた。
*****
「まだですの!?早くしてくださいまし!」
「旦那様、ボディチェックはもう十分かと……」
淑やかながらも強気な視線のウマ娘の令嬢が、本家の次期当主に怒りをぶつける。
本家の令嬢の従兄弟を彷彿とさせる鹿毛の髪は緩やかなウェーブを帯びており、髪の一端を軽く括り、ハートのチャームが付いた水色のリボンを巻き付けている。
その背は同世代の少女達と比べ高く、耳はまるで兎のように長かった。
「まあ、いいだろう…レイン、よく来てくれたね。今日はゆっくりしていきなさい。リチャード、君は早く帰るんだ。面会は五分しか許さん」
「ははは…相変わらず手厳しいですね」
今日は目に入れても痛くない長女と分家の兄妹の半年ぶりの対面である。
この為に次期当主、セシルは激務の中ニューマーケットの邸宅よりロンドンまで帰ってきていた。
目的は、目の前の分家の兄の方、長女に付きまとう不届き者への牽制である。
分家の御曹司にボディチェックなど本来は必要ない。
「リックお兄様が毎回毎回フランにちょっかい出すからでしょう!?まったくもう……」
「ちょっかいなんて出していないさ、私はただ…」
分家の兄の青年は、若き日の次期当主によく似た、貴公子という言葉をそのまま具現化したような青年であった。
整った顔立ちに、艶のある金髪。そして16歳の身であるが、既にバンステッドの貴公子として著名人でもある。
このアイルランドの分家の次期当主の名は、リチャード・バンステッドと言った。
「ただも何も、九歳の女の子を口説くなんておかしいと思いなさいな!」
そして妹はウマ娘で現在10歳、バレットトレインという名である。
本来は、レインだけがかわいい妹分と会うはずであった。
幼い日にヨークシャー州の旧宅で会って以来、素直でやさしいフランとちょっとひねくれ気味だがしっかり者のその妹、そしてその二人の眠たそうな目の従兄弟。みんなかわいい彼女の妹分である。
その中のフランと今日は会うことを楽しみにしていたのに、フランを狙っている兄が横槍を加えて来たのだ。
「もう、早く行きますわよ。五分で帰ってくださいまし。セシルおじ様、今日はお世話になりますわ」
「ああ、フランも楽しみにしていたよ。遊んでやっておくれ。リチャード、君はもう帰るんだ」
「まだ会ってませんが……」
少々過保護な面があるが娘を愛する次期当主と挨拶を交わし、兄妹がフランの元へ向かう。
今日はリチャードにとって勝負の日である。
16歳になった彼は、今年から統括機構トレーナー試験を受験できるのだ。
あの日、選抜戦でその走りに魅了されたあの美しい本家の令嬢、彼女と約束を交わすためにここに来たのである。
*****
そして、中庭の四阿で三人は半年ぶりに出会った。
ロンドンの本邸の中庭は日当たりが良く広い。ここで専属メイドの歓待を受けていた。
大きな花壇があり、フランのお気に入りの場所である。
そこで、フランは──
「それでね!トムったら帰ってこれないって言うの!あちらで担当の方を中継で抱きしめたり!ひどくないかしら!レインお姉さま!!」
「そ……そうね、ヒドい方ね」
「トムの事を悪く言わないでちょうだい!」
「どうすればいいの……」
帰ってこない、とある青年の事を愚痴り倒していた。
レインは困惑気味である。
兄は五分経っているがまだいた。
(おかしいわ……フラン、こんな子だったかしら…というかこのトムという男、クソボケにも程がないかしら?フランが随分入れ込んでいるようだけど……)
半年前会った時のフランは、いつもの優しくお淑やかな良い子だった。
それが半年で大きく様変わりしていた。
現在アメリカにいる、とある青年の仕事振りの本質を知ったからである。怒り心頭であった。
そしてレインは、この会ったことが無い青年の事を初めてフランから聞いた。
後に会うことになるが、評価はマイナススタートである。
ここで、話を切り出すタイミングを伺っていたリックがついに動いた。攻め時が来たのだ。
「フラン、少しいいかい?」
「なにかしら!?リックお兄様!」
「ああ、落ち着いて…私なら、君にそんな思いはさせない」
意中の令嬢の前に跪き、その手をとり、貴公子は囁く。
「──君がどこにいようと、私は必ず君の元へ行こう。君の側にいよう」
「私は、すぐにトレーナーになる。私じゃあ、ダメかい?」
リックは、そうフランへ誓いを立てて、契約を願った。
リックはその青年の事を知っている。選抜戦でゴールにいたことも見ていた。
アメリカでの調べも付いていた。ろくにレースに出ていない男である。負ける気はしない。
この誓いを聞いたフランは、ぽかんとリックを見ていた。
リックの言葉の、とあるフレーズが耳に残ったのだ。
「きみのもとへ、行く」
「ああ、そうだとも」
「そうよ!そうだわ!!わかったわリックお兄様!!」
青天の霹靂であった。フランは今、すべき事に気付いたのだ。
この返事に満足したリックは笑みを浮かべながら、立ち上がる。
約束は、為された。次期当主が来る前にスマートに去るつもりである。
「さて、私はもう行こう。フラン、入学を楽しみにしてるよ」
「ええ!ありがとうリックお兄様!」
フランが笑顔で手を振り見送る。
その後ろで三人に紅茶を配膳していた専属メイドが額を抑える。
話は聞いていなかっただろうが、言質を取られていた懸念が残った。
次期当主の彼は、その裁量で自分がフランと契約すると言いふらすであろう。
リックを見送り、席に戻ったフランは怒りも吹き飛び、うきうきとした表情であった。
「そうよ、そうだわ、そうすればいいのね」
「……フラン、そのトムって方、トレーナーなのよね?」
「ええ、そうよ?レインお姉様」
レインもフランが兄の話をろくに聞いていない事はわかっている。
そしてここまでフランが一喜一憂する相手に多少の興味が湧き、その青年がどれ程のトレーナーなのか軽い気持ちで聞いてみたくなったのだ。
紅茶で口を湿らせ、言葉を続けた。
「…アメリカにいるのよね?G1とか勝ってたりするの?」
「今で確か、12勝よ」
「そう、すごいわねじゅうにブーッ!!!!」
そして紅茶を噴いた。
「お行儀が悪いわ、レインお姉様」
「お待ちなさいな!何年やって12勝なの!?」
「……二年半くらいよ?」
「嘘おっしゃい!おかしいですわその方!!」
フランが首を傾げる。
彼女の認識ではおかしなことは言っていない。
「いいこと!?今話題のジェシカ・オブリーエンでも二年半でG1は3勝よ!?12勝はおかしいわ!」
もやしは父の契約を代理してG1を勝利しており、既に英国にその名を轟かせている身である。
「私は勝ったけどあなたは?」と同期にマウントするネタが出来て喜んでいた。
フランも統括機構の社交界で、もやしとは既に面識があった。
もやしは妹共々挑戦状を叩きつけようと意気込んでフランに会いに行ったが、エクスの姉と言う事で懐かれ毒気が抜けてしまい、それ以降何かと世話を焼いている。
「嘘じゃないのよ?トムは……」
「お嬢様」
ここでメイドが堪らず口を挟み、口元に指を当てた。
言ってはいけない話である。この天然お嬢様はたまにそれを忘れるのだ。
「あっ!言ってはいけないわ!」
「……よくわからないけど、何かあるようね」
ここでふと、レインはアメリカで今話題という怪人トレーナーがそれくらい勝っていた事を思い出し、首を振った。
流石に有り得ないと考えたのだ。
そしてフランはメイドが声をかけてくれた事で、調べて欲しい事を思い付いた。
これからの指針である。
「そうだわ、サリー、お願いがあるの」
「何でもお申し付けください、お嬢様」
「トムの11月のお仕事、調べて頂戴」
バレットトレイン、実際にフランケルと並ぶと明らかにでかいんですよね。
欧州は馬体の詳細データが出ないからどれくらいかはっきりしてないのが残念…。
1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…
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いる
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いらない
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まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
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キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ