トムとフラン   作:AC新作はよ

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遅くなった……許し亭ゆるして。
今度から書けそうな日+一日くらいで予告しよう……。


第二十話 名門の、盟主

<オーナー、私はこれから担当のトレーニングがあるのだが…>

「黙れ。キサマはそのままオレの車椅子を押していればいいんだ。全く空気の読めない野郎だぜ」

<…仕方ないな。エスコートさせてもらおう>

「最初からそう言いやがれ」

 

不機嫌そうな態度を示しながらも、ぴこぴこと耳をご機嫌に振り回す、怪人の押す車椅子に乗ったウマ娘。

ここはサラトガカレッジの敷地内である。

オーナーとの面会に訪れた怪人は、そのままオーナー命令で付き合えと言われ、散歩の最中であった。

彼女は怪人の雇い主である。

すなわち彼女は、アメリカ東海岸を本拠地とする東の名門、チーム・カルメットのオーナーなのだ。

アリス・ダーウィン──ウマ娘のエリート一族の生まれで26戦14勝、うちG1を6勝。

そしてなんと三着以下はたったの三度という、輝かしい成績を持つ伝説のウマ娘の一人である。

クラシック制覇の夢を阻んだライバルと比べると、やや小柄ながらも負けん気の強そうな瞳を持ち、ダイヤのような菱形の流星に栗毛の髪を靡かせたその容姿は、口調とは正反対の印象を抱かせる美しいウマ娘であった。

なおその胸囲は平坦であった。

健康的かつ典型的カントリーウマ娘なライバルへの強いコンプレックスの源泉である。

彼女は、足を怪我して後遺症が残っている。

競走中の事故ではない。

彼女は、ある日足を狙撃されたのだ。

マフィアの仕業と言われているが、犯人は未だ見つかっていない。

 

「すいませんね、ヴェラス君。オーナーの我儘に付き合わせて…」

<これくらい我儘にも入らんさ、ミス・ファーディナンド。オーナーには随分世話になっている>

「その通りだファーディ。オレがこいつにどれだけ便宜を図ったと思っている?」

「全くもう……」

 

オーナーに侍るように怪人の斜め後ろを歩く、片眼鏡を付けた執事服姿のウマ娘が雇い主に呆れた視線を向ける。

彼女、オーナー付秘書のファーディナンドも元名バである。

そして彼女は日本とアメリカの競バ界において、交流断絶寸前にまで陥った大事件の渦中の人物であった。

ふんと鼻を鳴らし、オーナーが秘書に予定の確認を行う。

 

「で、ファーディ。日本にいるアレが今年は帰ってくるそうだな?」

「ええ、11月以降と言っていました。ただ、古巣のチーム・ストーンがあの子の受け入れに難色を示したそうです。チーム・クレイボーンも手を挙げていますが…オーナーが構わないのであれば、我がチームで身元引受をしたいのですが……」

「経緯を考えれば仕方がないな。我がチームがあんな問題児を受け入れるのは気に入らんが…好きにしろ」

「……ありがとうございます、オーナー」

 

もう一度鼻を鳴らし、感謝を述べる秘書からオーナーが目をそらす。

その頬はやや紅潮していた。素直に許可を出せない面倒くさいオーナーであった。

この話に怪人が口を挟む。

 

<……アレ…?ミス・ファーディナンドの知り合いかね?>

「ええ、恩人です」

「とんでもない女だがな。法律まで捻じ曲げた奴だ」

 

オーナーと秘書の返答で怪人はその人物を特定した。

秘書の大事件に関わり、全てを引っ掻き回した超気性難であった。

ファーディナンド──ケンタッキーダービー、TCクラシックを勝利し、エクリプス賞年度代表ウマ娘にも選ばれた名バである。

アメリカウマ娘らしからぬ大人しい気性、そして高い実力も相まって圧倒的なアメリカ男子からの支持を得ていた。

引退後も競走に関わりたい彼女はトレーナー資格を取得、その後本場の技術を伝えて欲しいという日本からの熱意ある誘いに答える形で日本に渡ったのだが、そこで苦難に見舞われた。

入ったチームが曰く付きであった。

トレーナー資格を取ってまだ日の浅い彼女は技術面の指導では光る物を見せたが、ダートが主戦場だった彼女は芝のレースの指導で結果が出ず苦戦。

勝てない日々、そしてチーフからのサブトレーナーの如き扱い、彼女は帰ろうかとも考えたが追い詰められながらも懸命に働いた。

そんなある日、チーフがある事を持ち掛けた。

 

『ファーディナンド君、恥ずかしがる事はないよ。ちょっと撮影するだけだからね。逃げようとか考えてはいけないよ。君には随分と借金があるんだ……』

 

全ては彼女を追い詰め、手籠めにする為の罠であった。

チーフは裏社会の人間でウマ娘のいかがわしい映像を撮影し、それを資金源にしていたのである。

そして、アメリカで圧倒的な男達の支持を得ていた彼女に目を付けたのだ。

彼女は立ち向かったがいつの間にか多額の借金を背負わされ、担当を人質に取られ抵抗できなくなった。

しかし、神は、いや超気性難は彼女を見放さなかった。

 

『何、ちょっと水着で浜辺を走るだけなんだ。何も恥ずかしがることはないよ。それに助けなんて誰も……』

 

『いるぜ!ここに一人な!!』

 

『な、なんだお前は……ぶべらあああああ!!?』

『あ、貴方は……』

 

突然ヤクザの事務所の天井をぶち破りながら何者かが現れ、チーフを裏拳一発で半殺しにする。

その見た目はエクリプス教の修道服を着崩し、咥えタバコの見るからに不良シスターといった風貌のウマ娘であった。

そしてこの人物は、ファーディナンドの後輩で、余りにも型破りで、ライバルとの約束をすっぽかし、日本にトレーナーを誘拐し、中央トレセン学園の近所の教会で子供達に競走を教える──

 

『よう先輩、楽しそうな事やってんなあ?俺様も混ぜろよ』

 

──筋金入りの超気性難であった。

 

こうして超気性難は怒りのままに暴れ回った。

ヤクザの組事務所を全壊させた彼女は返す刀で知り合いの記者にこの情報をリーク。

警察に関係者全員を突き出し、ついでにライバルに全部チクった。

それでも怒りが収まらない超気性難は、学園の理事長室にお前何やってんのと直接乗り込んで文句を言った。

時の理事長は「国際問題!!!!」と叫んだ後にぶっ倒れた。気の毒である。

更に超気性難はついでとばかりに中央のトレーナー達とウマ娘の根性を叩き直すと全員呼び出した後にダートで全員と勝負した。

これはただやりたかっただけである。

生徒会長はノリノリでこの気ぶりウマ娘に追随し、ターフは私が相手しようと何故か立候補した。

生徒達と交流したかっただけである。

このやりたい放題の超気性難に、彼女に一方的に絡まれている友人の芦毛の令嬢は「やりすぎですわあああ!!!」と頭を抱え、彼女とよくつるむ芦毛の気性難は「センセー鬼つええ!!このまま気に入らねーヤツ全員ブッ飛ばしてやろうぜ!!!」と興奮しきりであった。

 

そしてこの情報が流れるやアメリカ全土で大問題となった。

アメリカの男達は少しだけ残念な気持ちになったが、口にした瞬間死ぬ危険を考えて同調した。

ケンタッキーダービーを勝った程の元競走バが、日本でそのような苦難に遭っている──ウマ娘の人権団体は怒り狂い、日本との競バ協定を白紙に戻し、現在日本にいるアメリカウマ娘を全て帰国させ、関係を絶つべきだと政府に迫ったのだ。

この動きに日本中央競バ会(U R A)は上から下までひっくり返る騒ぎとなった。

 

ついでに帰国のピンチとなった超気性難は焦りに焦った。

ここまでの騒ぎになるとは考えなしの行動だった。気性難は急に止まれないのだ。

彼女は二児の母である。

普段から娘のイメージトレーニングを「エフッ」と変な笑いでけなしたりと構い倒したせいで嫌われつつある娘と、愛する夫を残してアメリカに帰るとなれば流石に娘に愛想を尽かされる恐れがあった。

なお娘は母を反面教師にして思慮深い性格に育ち、現在は英雄と呼ばれる伝説のウマ娘となっている。

そして超気性難は友人の芦毛の令嬢に「マックちゃんたすけて」と半泣きで泣きついた。

芦毛の令嬢は「何も考えてなかったんですの!!?」ともう一度頭を抱えた。

 

それから、芦毛の令嬢の実家の働きかけと、被害者本人の日本への弁護、そして理事長のアメリカ全土謝罪行脚で何とか事は収まった。

再発の防止、関係者への処罰、何箇条にも及ぶ協定を結び国交は保たれたのだ。

理事長は現在も定期的に訪米している。

理事長不在の際に理事長代理がちょっとした事件を起こした事もあったが、それ以降はアメリカと日本は友好的な関係を続け、今に至るのであった。

 

こうしてファーディナンドは救われたが、流石に日本には居づらくなり帰国した。

そして受け入れ先に手を挙げたのが、彼女の古巣であるチーム・クレイボーンのオーナーと血縁があり、ライバルに苦労した同じ経験を持つ先輩として後輩の為に動いた怪人の雇い主であった。

こうした経緯で彼女は現在、オーナー付秘書としてチーム・カルメットの運営に関わっている。

 

「で、だ。何故帰ってくる?あの馬鹿は自分がしでかしたことがわかっていないのか?」

「それがですね。娘さんと喧嘩したそうで…今回はお忍びという形で帰りたいらしく……」

「……そんな理由でか?やっぱり馬鹿じゃないか?あいつ」

「あの子らしいですけどね。ですので、あの子を本名で呼ばないようにと通達しておきます」

「そうだな。ジョー、キサマは会うかわからんがそのようにしろ」

<了解した>

 

超気性難への対応の話が一段落したところで、オーナーが自分が乗る車椅子を押す怪人を振り向いて眺める。

オーナー、そして秘書は怪人の正体を知っている。

長年の友人であり、チーフトレーナーを務めるフレッチャーからの紹介で彼と会った際はその才能に驚いたものであった。

 

「随分と様になったな。気性難にビビっていた坊主がよくもまあ見違えた」

<……慣れるものだな。この覆面のおかげかもしれないが>

「くくっ、良いじゃないか。キサマの人気ぶりはオレも鼻が高い」

 

上機嫌でお気に入りの怪人をからかいつつも、オーナーはこの怪人の素性、渡米の経緯に思うところがあった。

 

「しかし、統括機構とは阿呆どもしかいないようだな。キサマのような才能を四年も放り出すとはな」

<私としては、トレーナーとして認められただけでも有り難い事だが>

「ふん、オレ達競走民族ウマ娘は速さこそ全てであり、速くしてくれるトレーナーこそ最も大切にすべきものだ。それをメンツだのに囚われてこの仕打ち、お行儀が良すぎてちゃんちゃらおかしいぜ」

 

オーナーが遠い英国、統括機構の重鎮達を鼻で笑う。

オーナーはエリート一族の生まれで、生粋のアメリカウマ娘である。

そんな彼女から見れば、怪人の中身への罰則は全くの愚行にしか見えなかった。

三人はカレッジ内の現在チーム・カルメットのサラトガカレッジ滞在者が練習中のダートコースの前に到着する。

オーナーの姿が見えた途端、練習中の競走バ達が彼女に手を振った。

それに手を振り返しながら、オーナーが怪人に語りかける。

 

「……今、世界で最もキサマを評価しているのは、フレッチャー、ファーディ、キサマの担当ども、そしてこのオレだ」

<ああ、感謝しているよ。オーナー>

「去年も言ったが、ここに残れ。キサマはあっちに戻ってもろくな事にはならんぞ?」

 

オーナーが、有無を言わさぬ圧を放つ。

かつての伝説のウマ娘、アリダーがそこにいた。

怪人は少しだけ、心が揺れた。

アメリカ全土に名を轟かせるチーム・カルメット、その総帥自らが自分を欲したという事実に。

しかし、怪人は首を振った。

 

<ご厚意痛み入る。しかし、すまない>

「チッ、やはり駄目か」

<ああ……約束が、あるんだ>

 

怪人が、遠い目で空を眺める。

目を向けた空のその先、遠い英国を思い浮かべて。

この様子にオーナーがつまらなそうに鼻を鳴らし、秘書が笑みを浮かべた。

 

「振られちゃいましたね、オーナー」

「ふん、わかっていたことだ。だがな、愛想が尽きたら連絡しろ。キサマならいつでも雇ってやる」

<そんな事にはならないと思うが……ありがとう、オーナー>

「キサマはまだまだ坊主だな。予言してやる」

 

 

「──あっちはな、速い事が全てじゃない。アメリカとは違うんだ」

 

 

「キサマは、必ず嫌気が差すだろう。キサマ自身の、その才能によって──」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「なーに話し込んでんのよ。練習見に来なさいよ、アイツ……」

「トレーナーサン、オーナーのお気に入りだからしょうがねーべ、姐御」

 

ダートコースの奥、二人のウマ娘が自らのトレーナーを眺めていた。

怪人のパートナー、そして現在の担当のロードである。

 

「しかし姐御、もう練習するんスね。復帰はウインターカップっスよね?」

「そうなんだけどさ、ちょっとばかし面倒な事になりそうなのよね……」

 

パートナーが深くため息をつく。

彼女は現在、問題を抱えていた。

冬季グローリーカップ、通称ウインターカップのフィリーズターフにて、早くから出走表明している者がいたのだ。

本来、別部門で出走するはずの人物である。

そのニュースを見てすぐ彼女はその目的に気付いた。

 

「──面倒とは、私の事か?ミッドデイ」

 

件の人物が、パートナー、英国から来た名バであるミッドデイに背後から声をかけた。

その人物は、水色の英国海軍帽を被り、凛とした美貌の──

 

「……あんたと会いたくなかったから、こんな奥で練習してたのに……わざわざご足労ね」

「……恥を忍んでフィリーズターフに出ると言ったんだ。宣戦布告くらいはさせてもらおう」

 

 

 

 

 

「……ま、いいわ。相手したげる。イングリッシュチャネル──」

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

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  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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