「シーちゃん、今日は休みだしライトと買い物に…何観てるんだい?」
「お早う、姉者。留守番は引き受けよう」
「シーちゃんも来て欲しいんだけどなあ、観てるのはウインターカップかな。今日だったね」
英国サフォーク州ニューマーケット市内。
統括機構トレセン学院の生徒会長ガリレオ、そしてその妹である現役最強との呼び声も高いシーザスターズが住む一軒家の朝のひととき。
姉は友人のアホの子と買い物に行く約束をしており、迷子対策に妹を誘おうと妹の部屋を訪れていた。
妹は、姉に振り向きもせずに留守番を名乗り出た。
これから、テレビの中で起こる事を一目足りとも見逃さないという様子である。
「ミッドデイが出るんだったね。シーちゃんが同期を応援してくれる、やさしい子に育って姉として嬉しいよ」
麗人が、クラシックの頃は突っ張っていた妹の心の変化に優しい笑みを浮かべる。
妹が姉の行く末を心配していたように、姉も妹の行く末をかつて心配していた頃があった。
強く、気高い自慢の妹。しかし以前の妹は余りにも気高すぎたのだ。
弱き者はターフに立つな、と共に走った相手に言い放つかつての妹の姿を麗人が思い返す。
この姉の言葉に、妹が首を振る。
「違う。応援じゃない」
「違うのかい?」
「ああ……恐らく、あいつは
この言葉に麗人が顎に手を掛け思案に耽る。
思案する様も端麗な、絵になる姿であった。日頃自分をどうかっこよく見せるかの研鑽を欠かさない麗人の努力の賜物である。
「彼女、そういえばレースで使った素振りを見たことが無いね。ナッソー三連覇の時も」
「ああ、あいつはティアラ路線で一度も
「へえ…。その相手はシーちゃん、かな?」
負けず嫌いで速き者との対戦を何より好む妹が、ここまでテレビに食いつく程に同期のレースを眺める理由。
幼き日より妹を知る姉は当たりを付けていた。
麗人にも聞こえるほどに、ギリ、と現役最強が歯を食いしばる。
クラシック路線を走っていた黒歴史の時代、ちょっとした揉め事が発端の模擬レースでの対戦。
そこでシーザスターズは信じられない体験をしている。
『あんたさ、その態度ムカつくわ。ちょっとは空気読んだら?』
『私より遅い奴に口出しされる筋合いは無い。お前は私に勝った事があったか?無かったと思うが…』
『………ふーーーーん、じゃあ勝ったら言う事聞くんだ?上等じゃん、ゲートに入りな』
クラブ時代からの知り合いの苦言から始まった1対1の模擬レース。
本格化して以来、負けを知らない現役最強は──
『ぜえ…あーーしんどいし気分悪い!あたしの勝ちね!言うこと聞くのよ?』
──敗北の味を知った。
この一件で起きた現象は自然現象として処理され、理事長からの箝口令が当事者二人に布かれた。
それからシーザスターズは何度も同期を模擬レースに誘った。
しかし、あの現象は一度きりしか起きなかった。
『また?勘弁してよ…アレあたしも好きに使える訳じゃないんだけど……使うと気持ち悪いし。何かがあたしの中にいる感じが嫌になるのよ』
そう言い、同期は対戦を拒否した。
それから、シーザスターズは同期の要求通りに負けた相手にも目をかけるようになった。
気付かなかった物、見えていなかった事に気付いた彼女は徐々に柔らかい性格になり、今に至るのである。
「ふむふむ、面白そうだね。買い物はやめてライトを家に呼んでもいいかな?」
「……構わない。先輩も喜ぶだろう」
「ありがとうシーちゃん、ところで相手は?」
携帯を取り出しつつ、観戦の為に飲み物でも用意しようと踵を返しながら麗人が問う。
「ティアラ路線のG1一勝クラスばかりだな。ただ一人だけクラシック路線から出走したヤツがいる。そいつが速い」
「なるほどね、クラシック路線からのティアラ路線の出走はあまり良く思われないよね。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「コーヒー。シアトル系で頼む」
「シーちゃん、形から入るタイプだよね。美味しいのを淹れてあげよう──おはよう、ライト。買い物は今度にして私の家でレースを見るのはどうかな?ああ、私が迎えに行くから動かなくていい。絶対に」
麗人が電話の相手、アホの子と話しながら部屋を出て行き、シーザスターズ一人になる。
“空に瞬く恒星”の異名を持つ、現役最強の口が弧を描く。
「くくく…勝ちたいなら、使わずにはいられないぞ?どうする?ミッドデイ」
その声は、歓喜に満ちていた。
「さあ、私に見せろ。お前の太陽を──」
*****
11月のケンタッキー州ルイビル、チャーチルダウンズレース場。
アメリカ最高峰のレースであるケンタッキーダービーとケンタッキーオークス開催の地であり、一日あたりの観客動員数の上位を軒並み占める、アメリカ最大のレース場といっても過言の無いアメリカ競バ界の聖地である。
コースは楕円形になっており、ダートコースは一周1マイル、芝コースはその内側にあり一周7ハロン(約1408m)、ゴールまでの直線が長いのが特徴である。
2000mのレースレコードは伝説のウマ娘、セクレタリアトが記録した1分59秒40。
これは未だ誰にも破られていない。
「姐御!頑張ってくださいっス!」
「オッケー!まあ何とかなるっしょ!!」
平地競走の一つの区切りであるトレーナーズカップも終わり、現在ここでシニア級を終えた名バ達の大レースである冬季グローリーカップ、通称ウインターカップ、その中の一種目であるフィリーズターフが開催されていた。
芝10ハロン(約2011m)で競われる、中距離ティアラ路線の名バ達の競走である。
名バ達の決戦を現地で見届けようと集まった観客が席を埋め尽くし、今か今かと発走を待っているそのゲート前──舎妹の激励にハイタッチで応え、英国から来た名バ、ミッドデイは決戦に備えていた。
負けてもいいように対策は打っているが、今日は負けられない戦いである。
今回、彼女は金色の獅子の刺繍が入った、黒い近衛兵の礼服を模した意匠の勝負服を選んだ。
名バである彼女は勝負服を複数持っており、これは絶対に勝ちたい時に着る「ナッソーの女王」となった時の勝負服である。
気合を入れるミッドデイに対し、サブトレーナーが作業時に着るチーム・カルメットのツナギ姿の青年と、中折れ帽にトレンチコート姿の怪人が声をかける。
<……やけに気合が入っているようだが>
「姉貴、肘だけはやめてくれよ……」
「今日はやんないわよ。真っ向勝負で勝たないとダメだからね……」
うんざりとした表情で、離れた位置で後輩達の激励を受ける今回の優勝候補に目を向ける。
名ウマ娘、イングリッシュチャネル──23戦13勝、うちG1六勝。押しも押されぬクラシック路線の名競走バである。
本来彼女はクラシック路線の競走バであり、ティアラ路線には出場できるがクラシックからティアラへの路線変えは不文律として良く思われていない。
怪人のかつての契約相手、ラグズトゥリッチズがようやく100年振りの偉業を成した例のように、一般的にクラシック路線の方が実力が高いという認識によるものである。
それもそのはずである。ティアラ路線とクラシック路線では練習で重視されるものが違うのだ。
クラシックは競走練習に多く時間を割き、ティアラ路線はライブ練習を比較的多くこなす。
その結果としてティアラ路線はライブ人気が高く、そちらはクラシックを上回っている。
人気のティアラ、実力のクラシックという格言も存在するのだ。
「ホントに出てくるし…新聞に色々書かれるの覚悟で来たってんなら、ちゃんと相手してやんないとね」
「ネル先輩何で今回フィリーズなんスかね……」
「まーね、色々あんのよ。それよりもロードちゃん、足もういいの?」
「あ、あー……へへへ、もう大丈夫っス!」
今年、クオリティロードはトレーナーズカップクラシックを目指し、八月から中距離路線を連戦していた。
八月のサラトガレース場でのG1トラヴァーズステークスで三着、そして十月はG1ホースガールクラブ金杯で二着と着実に調子を上げた。
『ふひ、背中、見えた』
(……着実にアガってるじゃーん?本番はこの子もマジ警戒だわー!)
このクオリティロードを二度下した中距離クラシック路線の実力者、栗毛のギャルウマ娘サマーバードも警戒する程の中距離への適応を示しつつあったが──
(何で言わなかったの!!!!いつも止めてくれるのトレーナーさんって!!!!!)
『おおおお、おちおち落ち着けよリティ!!!あああトレーナーサンの顔見れねェ!!!!』
『だって~、言ったら二人とも恥ずかしがってクオが楽しめないし』
──本番、トレーナーズカップクラシックのゲート発走直前に事件は起きた。
八月、何故か突然レース後に自力で止まる練習を怪人から提案された三人は、クオが猛烈に反対しつつもそれを受けた。
そして十月には自分で止まれるようになった。怪人は何故か酷く疲れた溜息をついた。
その時は知らなかった事実を、本番のレース直前に実況が語り、それが耳に入ったのである。
(言ってよおおおおおお!!!!あ痛い!!!!チェンジ!!!!)
「えっ、ここで代わるの!!!?ほんぎゃあああああ!!??痛ってえええええ!!!!」
クオ以外の二人はレース所では無くなりクオへ糾弾を始め、そして暴れた結果ゲートを蹴り飛ばした。
怒った気性難は暴れるものである。
そして当てた位置が悪かった。脛をしこたまにぶつけていた。
痛かったリティはすぐさまクオに代わった。主人格は出入り自由である。
<あの…………棄権、します………‥>
そして怪人は頭を抱えながらも、大事を取って出走停止を申告した。
以前も怪我で長期欠場になった担当の身を案じた結果である。
トレーナーズカップクラシックは、本気モードのヤッタが全員抜いて勝利を収めた。
しかし、この後も一人で三人おいしい気性難は問題を起こした。
西海岸での日程を終え、ケンタッキー州に戻る際に飛行機に乗るのを拒否したのだ。
「飛行機やだ……トレーナーさん車だして」
<仕方ないな。大人しくしてるんだぞ>
リティは飛行機嫌いである。怪人も予想していた事であった。
九歳児でももう飛行機に乗れたんだぞ、という言葉を飲み込んで怪人は了承した。
この我が儘をパートナーは特に咎めなかった。
その理由は、もう一人への牽制である。
「あたし達は飛行機で先に帰ってるからねー。わかったわね?」
「──インディちゃん?」
同行者は、もう一人いたのだ。
「……わかった。ワタシ、先輩と先に帰る」
ネイティブウマ娘、15戦10勝という輝かしい成績でスプリント路線のシニア級を終えた名バ、インディアンブレッシングである。
彼女は九月のレースで勝利を飾り、シニア級の終了を宣言した。
そしてその後も、怪人との契約を終えているのにグローリーカップは来年から出ると言い、同行していたのだ。
これに当初、パートナーは戦々恐々とし弟にジャイアントスイングを見舞ったが、当のインディは大人しいものであった。
じっくりと、怪人を見定めるように──
リティはここぞとばかりに、交代せずに怪人に甘え倒した。
彼女の情緒は子供であった。
そして、現在に至る。
「ま、ちょっと当てただけだったみたいだしね。もうあんな事すんじゃないわよ?」
「シャッス!!気を付けます!!」
<応援しているよ、頑張りたまえ>
ミッドデイの忠告を受け、ロードが頭をきっちり90度下げる。
その二人と怪人を眺める青年に、後ろで様子を伺っていたインディが近付いた。
「トモヤ」
「おう、どうしたインディ?」
青年、智哉はチームで肩身が狭い身であったが、インディとは波長が合うのか仲が良かった。
質実剛健なネイティブウマ娘の彼女は噂に惑わされない。
智哉の、本質をよく見ていた。
急にいなくなるのは問題だったが、よく働き気が利く好青年だとインディは認識しているのだ。
「ネル先輩、速い。勝てる?」
「……正直、分が悪いな。ってか俺じゃなくてヴェラスさんに聞いた方がいいだろ」
「トモヤでいい。聞かせて」
ちらり、と智哉が前の三人に目を向ける。
話し込んでいて姉もこちらに気が向いていない。
少しくらいはいいだろ、と智哉は自分の見解を述べた。
「ネルさんは今回の出走バの中ではタイムが段違いだ。姉貴でもちょっと足りない。仕上がりも見る限り抜群で、最も得意な芝の中距離。懸念点は10ハロンだと
「なるほど、それで?」
「だから、姉貴が勝つなら自由に走らせないのがまず第一条件だけど……マークされるのは多分姉貴なんだよなあ」
姉は、前回の出場時に叩き合いに持ち込んできた相手にこっそり肘を入れて勝利し、乱闘で謹慎していた。
つまり今回、他の出走バに包囲網を敷かれていてもおかしくないのだ。
智哉が両手を上げ、インディに降参の意を示した。
「はっきり言うぜ。普通に走ったら
「でも先輩、肘はやらないって言ってた」
「ああ、でもな、もう一個だけ姉貴はとっておきがあるんだよ」
にやり、と智哉が笑みを浮かべる。
事前に智哉は、姉から切り札を切ると聞いていた。
今日は、多分あれが使えると。
「とっておき?」
「ま、見てのお楽しみだ。こんなとこだな」
「そう、よくわかった。ありがとう」
「おう、まあ不発かもしれねえけどな……」
智哉の見解を聞いたインディは、続けて怪人に目を向けた。
怪人の、足元を注視した。
いつもと違う、厚底の靴を履いている。
まるで、背を高く見せるように──
「……本当に、
この世界は史実世代間が何年か空くのでモブウマ娘もG1勝つチャンスがあったりします。
モブウマ娘やモブトレーナーの中にも世代最強や天才がいたりします。
でも史実勝利の運命持ってるネームドには勝てないです。
悔しいけど仕方ないんだ。
1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…
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いる
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いらない
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まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
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キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ