感謝しかないんやで。
「レオー、お砂糖もう一個ちょうだい」
「もう駄目だよ。五個までにしなさい」
「ええー、コーヒー苦い…」
「だから背伸びするのはやめなさいって言ったんだよ。ほら、私の紅茶をあげるから」
テレビに食いつかんばかりに貼り付く現役最強の後ろで、麗人がアホの子の世話を焼く。
いつもの光景であった。
この生徒会長とアホの子のほのぼのとした交友はトレセン学院の名物であり、とある老紳士が日本の同好の士によく「レオライ尊いんじゃ」と自慢している程である。
その同好の士はこの光景が見たすぎて、英国旅行を真剣に検討している。
なお世界のウマ娘ちゃんを慈しむ為に英語とフランス語は履修済みである。
「もうすぐ発走かな?楽しみだねえ」
「そうだね。シーちゃんがここまで夢中になる程だ。何か起こるだろうね」
テレビの中、ウインターカップフィリーズターフはまもなく発走を迎えていた。
*****
『ねーちゃん、あそんで!』
『またはしるのか…?ほかのことであそぼうぜ』
『姉ちゃん!ちょっと待てって!これぜったいちがう!姉ちゃん絶対洗礼じゃないからこれ!!池に投げ込む洗礼なんて聞いたことぎゃあああああ!!!!』
『姉ちゃん、またオレのおやつ食っただろ!?しかも代わりにウナギのゼリーなんか置いていきやがって!!今日という今日は許さねえぞ!!表出ろ!!』
『お姉様には一生敵いません』
『ん?昨日の子?よくわかんねえけど、ゴールになってほしいって言われたから走るの見て…どこ行くんだよ姉ちゃん?話してくる?誰と?』
『姉ちゃん、もう学院行っちまうのか……寂しくなんかねえよ。なんだよ頭撫でんなよ』
『ごめん、姉ちゃん、母さん、親父…オレ、みんなに、みんなに迷惑かけて……』
『なんだよ姉ちゃん?ちゃんと飯食ってるかって?食ってるよ。親父のチームの手伝いあるからもう切るぜ』
『あ、姉ちゃ…姉貴。久しぶりだな。しばらくこっちにいる事になったんだよ。今は親父が借りた寮に住んでるぜ。いてえ!蹴るなよ!へ?なんでって…ど、どうでもいいだろ?それよりもさ、ガリレオ会長に…だから蹴るなって!!』
『げっ、姉貴…何だよちょっと来いって。あれ…あの人、オークスウマ娘だよな?姉貴の同期の。視ろ?ここでか?…わかったよ。けどよ、離れてるし視れるかわかんねえぞ?近付いた方が…いてえ!何で蹴るんだよ!?』
『よう、姉貴。ん?何してるかって?サブトレやってんだよ。ここで』
『なんだよ姉貴。これ?何か知らねえけど中等部の子が読んでくれって…おい何すんだよ!持ってくなよ!!!』
『学力試験はこっちでも受けれるし、母さんには毎年会ってるだろ。先生のチームの子からも残ってくれって言われてるしさ、だからこっちで…痛でででで!姉貴ヒールホールドはやめろ!それ洒落にならねえから!!わかりました!!帰ります!!』
『待てよ!急に帰ってきてそれはねえだろ!?姉貴はどこかに嫁に行けよ!!家は俺が継ぐから!!』
『お姉様には一生敵いません』
「ン゛ッッ!!」
「どうしたんだよ姉貴…急に踏み潰された蛙みてえな声出して……」
姉が、何となく弟との思い出を振り返り悶絶する。
(あれ…?あたしひょっとして…こいつにろくな事してないんじゃない?ていうかこれ…こいつがクソボケなのあたしのせいかも?ダメお姉ちゃんじゃない?あたし)
気付いた。
この姉は、こう見えて過保護である。
「姉貴マジで大丈夫か?もうゲート入る時間だぞ?」
「なんかごめん…」
「なんで謝ってんだよ…」
困惑する弟を真っ直ぐ姉が見つめる。
心の辛さに耐えられず、12歳で家を出た親不孝な弟。
父と各地を転々とし、再会した時には自分より背が高くなっていた弟。
「あんた、大きくなったわね」
「今する話じゃねえだろ…?レースに集中しようぜ」
「昔は姉ちゃんって呼んでくれてたわよね。なんで学院で会った時やめたの?」
「は?いや、しばらく顔合わせてなかったし照れ臭いっつうか……いや待てよ!だからレース!!」
トン、と軽く、姉が弟の胸を叩いた。
そのまま握り拳を作り、弟の目線に掲げる。
「──ま、見てなって。たまにはあんたのお姉ちゃんのかっこいいとこ、見せたげる」
*****
「すいません、ネル先輩」
「何故、謝るんだ?リッちゃん」
今回の一番人気、恥を忍んでティアラ路線のレースに出走を決めた名ウマ娘、イングリッシュチャネルが申し訳なさそうにする後輩、ラグズトゥリッチズに言葉の真意を訊ねる。
今日の彼女の勝負服は空色の英国海軍服を模した、悲願を果たした際に着ていたものを用意していた。
どうしても勝ちたい時に着る勝負服である。
「……ダートが主戦場の私では、ターフで彼女に勝てない。私がターフで走れるなら、ネル先輩にこんな事をさせなくても……」
「違うよリッちゃん」
後輩が謝る理由──クラシック路線のネルは、ティアラ路線への出走を表明したことで批判を浴びていた。
しかも対戦相手があの怪人のパートナーである。質の悪いゴシップ紙からは痴情のもつれと揶揄され、後輩である彼女、リッチズから見ても気分の良いものではなかった。
ティアラ路線の自分が、ターフでミッドデイに勝てる見込みがあれば問題なかったとリッチズは思っている。
しかし、この謝罪に対し清々しい面持ちでネルは首を振った。
「リッちゃん、彼女は断ってもよかったし、私なんて相手にする必要なかったんだ。でも今回の話を受けてくれた。その時点でもう、彼女と私の勝負なんだよ。リッちゃんが何も気にすることは無いよ」
「先輩……」
「それにね、私はお節介の世話焼きなんだ。知ってるだろ?」
にこり、と何も意に介していないようにネルが微笑む。
ネルはアメリカに移住した英国貴族の家柄の娘である。
誇り高く、淑やかで、そして分け隔てなく後輩達の世話を焼く。
気性難のアメリカウマ娘達も彼女には一目置き、誰もが慕うウマ娘──そんなネルが二年前、挫折を経験した後に出会った、人に頼られてきた彼女が初めて頼りたいと思った怪人に目を向ける。
「元々、私が未練たらしくジョーを追いかけただけなんだ。リッちゃんはついでだよ。そう思ってほしい」
ミッドデイとの勝負は、彼との契約を賭けている。
希望する後輩達も含め、怪人のチームを作らないかと彼女に持ち掛けたのだ。
どこまでも、自分達後輩を気遣ってくれる優しい先輩。
彼女の気持ちに応えようと、リッチズは柔らかく微笑んだ。
「そうですね、忘れてました。お願いしますよ先輩!絶対勝ってくださいね!」
「競バに絶対は無いけどね、でも、今日は自信あるよ」
ネルはこの日の為に、何度もレース展開を予測し、十分に調整してきた。
あの悲願を達成した怪人との最後のレース、その時を彷彿とさせる仕上がりだとリッチズは確信している。
ミッドデイは実力者だが、本物のクラシックの名ウマ娘には劣る。
そう、思っていた。
*****
『さあ、いよいよ各ウマ娘がゲートインする時間です!競バの一年を締めくくる祭典!ウインターカップのティアラ部門、フィリーズターフの時間がやってきました!!今年の出走ウマ娘はなんと!クラシック路線から殴り込みをかけた名ウマ娘イングリッシュチャネル!そしてスプリングカップの大乱闘の謹慎が解かれた、英国の暴れウマ娘ミッドデイに注目が集まっております!!このレースどう見ますか?解説のバックパサーさん。今日は英国から遠路はるばる来ていただきありがとうございます』
孫を連れてアメリカに来ている、運営がダメ元で解説を打診した伝説のウマ娘に興奮気味の実況が話を振る。
解説席に座るのは、孫がいるとは思えぬ、魔性と呼ぶほかない淑女然とした美貌のウマ娘であった。
枝毛一つない鹿毛のロングヘアーは額に垂れる一房だけが黒鹿毛という特徴を持ち、アメリカウマ娘とは思えない垂れ目がちな穏やかな目と、それとは正反対な納得のアメリカウマ娘的な豊満な肢体。
彼女こそが英国に結婚とともに移住した、キーンランドカレッジのとあるチームのオーナーを務める伝説のウマ娘──バックパサーである。
31戦25勝、競走生活で連対を外れた事はなんと二度のみ。アメリカ競バ界で殿堂入りも果たしている。
ここには下の方の孫を連れて里帰り中である。
その孫は現在、祖母の隣で大人しく解説を眺めている。
『いえいえ、孫と遊山のついでといいますか…久しぶりにこちらでレースを観戦しようと思っていましたから。レースの方は…そうですわね。一般的にはクラシック路線の方が実力は上と言われていますが……』
『何か気になることが?』
『ミッドデイさんには、上の孫がお世話になっていますのよ。少し贔屓して見たくなりますわね』
この解説の言葉に、思わず姉は実況席に目を向けた。
伝説のウマ娘を祖母に持つ知り合いに心当たりが全く無かった。
この伝説のウマ娘は、英国では戸籍上の名前を名乗っている。
さらには夫を立てる姿勢を徹底しており、英国で表に出てくる事はほぼ無い。
(えっ、誰…?そんな知り合いいたっけ…?)
既に3枠にゲートインを済ませた姉が、首を振り疑問を頭から振り払う。
気を配る余裕はない。今日の相手は強敵である。
そのゲートイン中の強敵、6枠イングリッシュチャネルを姉が眺める。
(……あの馬鹿絡みじゃなかったら、嫌な子じゃないのよね。こっち来たときも色々世話焼いてくれたし…)
姉個人としては、ネルに思うところは何も無い。
それどころか世話好きの彼女に、アメリカのターフの特徴からアメリカ生活のアドバイス、更にはケンタッキー州のウマ娘の少ない地域についても教えてもらっている。
嫌味の無い人柄で、あの怪人が絡まなければむしろ気が合う人物だった。
だから今回の勝負も、姉は保険を用意しつつも受諾したのだ。
(あいつと契約した子みんな良い子なのよね、嫌な子だったら無視したんだけど…あーもう、あのクソボケのせいでこうなってんだから後でとっちめてやる)
姉が殺気を放ち、これに智哉は敏感に反応した。
幼少期から刷り込まれた条件反射であった。
「ひえっ……」
<どうしたのかね?>
「いや、なんか寒気が…」
智哉、怪人、ロードの三人は関係者として最前列で観戦している。
この怯え、情けない素振りの智哉に対し、ロードの眉間に皺が寄る。
「なんだァ、テメェ…?姐御が走るんだから気合入れ……」
『ロードちゃん!!!トモくんにキツい事言っちゃダメって言ってるでしょ!!!!』
(アァ?クオはいっつもコイツの肩持つよなァ?)
『とにかくダメだって!!!ホントは代わってほしいのにロードちゃんがどうしてもって言うから譲ったんだよ!?』
(へーへー、わーったよ)
檄を飛ばそうとするロードに対し、クオが全力で阻止に入った。
ロードから見れば智哉はすぐにいなくなり、何をしているかわからない所が気に入らない男である。
クオがやけに懐いているのも意味がわからない。
ロードが心の中でクオと話している間、怪人は智哉に小声で話しかけていた。
怪人は、来年英国に帰る。もう時間が無い彼はやり残した事があった。
<トモヤ君、そろそろ約束を守って欲しいんだけど……>
「あ、あー…今はロードもいるし後にしてもらえないっすか?」
<君、いつもそうやってはぐらかすじゃないか!?俺は来年帰るんだよ!?>
「うるせえな!あんた気性難は無理なはずだろ!?」
<……彼女の当たりが強いの、君だけだよ?>
「あ!ほら!ファンファーレ始まるっすよ!」
<誤魔化すなよ!?>
全員がゲートに入り、現役アメリカ海軍のウマ娘音楽隊による長いファンファーレが鳴り響き、出走バを含む来場者全員が起立し、胸に手を当てる。
ウマ娘が建国した大国において、レースは神聖な行事である。
特にG1クラスの大レースの前のファンファーレは、国歌斉唱のような荘厳な雰囲気の元で行われるのだ。
胸に手を当てながら、怪人が隣の智哉に囁きかける。
<で、勝てるの……?>
「あんたならわかるよなあ……普通にやれば無理っすね」
<だよね。流石に相手が悪いよ。いいの?>
「いいのって、何がっすか?」
想定していなかった智哉の返答に、思わず怪人が智哉を二度見した。
怪人は、今回の勝負の話を姉から聞いている。弟が何も知らないとは思っていなかったのだ。
<………何も聞いてないの?>
「えっ、何かあるんすか」
<いや、言ってないなら俺からは言えないかな……がんばってね>
「何だよそれ!!言えよ!!!」
二人が揉めている内にファンファーレが終わり、いよいよ発走に入るその時、五枠から怒りを込めた眼光を姉に向ける出走バがいた。
彼女の名は、クライトゥザムーン。
彼女には、姉に怒る理由があった。
(ミッドデイ、出てくるとはねえ……仕返しはさせてもらうよ……!)
姉の謹慎の理由である大乱闘、そのきっかけとなった姉が肘を当てた二着が彼女である。
グローリーカップ初勝利目前で試合巧者の姉に翻弄され、たまらず体を寄せた所で反撃の肘を浴びたのだ。
彼女も体を寄せた事が問題視され、謹慎処分を受けている。
(どうせネル先輩には勝てない……じゃあ、やる事は一つだねえ)
暗い笑みを浮かべ姉の隣、二枠にも目を向ける。
そこにいる出走バが、クライトゥザムーンと目を合わせ頷いた。
『さあファンファーレも終わり……発走しました!まずはイングリッシュチャネルが抜け出します!バ群に呑まれないようにアタマを取りに行きましたね!そしてミッドデイは…おっとこれは!?』
アメリカ競バのセオリー通りの激しい先頭争いをネルが制し、実況席が姉に目を向けたその先で、異変が起きていた。
姉の前方が、二人の出走バによって完全に塞がれている。
『ミッドデイ、これは出遅れ……』
『違いますわね。マークされていますわ』
『失礼しました!ミッドデイ、これは厳しい展開になりました!』
智哉の懸念していた展開が、そのまま起こっていた。
しかし姉は試合巧者であり、今回の出走バに以前の乱闘相手が出ている事を知っている。
こう来る事は予測済みだった。
(ま、そう来るわよね。走行妨害ギリギリの良いブロックするわね)
マークされているというのに、姉は平然と相手のブロックを讃えた。
姉は英国で勝利主義のクラブでの競走を幼い頃より嗜んでいる。
この程度は、クラブでのレースで何度も経験している。
特に慌てる事も無く、姉は先団でブロックされたまま脚を溜める作戦に切り替えた。
先行差し切りで、ネルを仕留められる距離さえキープできればそれで良いと判断したのだ。
事前に弟と作戦を話し合う際に決めていた事である。
(問題は、コーナーでブロックが崩れた隙間を抜ける時……絶対に何か仕掛けてくるわね)
一方、ネルは悠々と一人旅を続けていた。
後ろを見る事はない。来るならばただ一人だけ、そう確信している。
(さあ、いつ来る……?)
『さあ第一コーナーです。ここまではイングリッシュチャネルが先頭をキープしたままですが、どう見ますか?』
『コーナーでバ群がずれた隙間をミッドデイさんは抜けるつもりでしょう。次のコーナーまでに差せる距離まで寄せなければなりませんわね』
『わかりやすくて助かります!!』
この実況は、数カ月前にとある広報のトップの解説に悩まされていた人物である。
気性難揃いのアメリカウマ娘が解説席に座ると脱線する事が多く、まともな解説が貰えて感動していた。
(そろそろ抜けなきゃね。流石にネルに好きにやらせすぎだわ。誰かあっちにもちょっかいかけなさいよ……)
第一コーナー、二枠と五枠が曲がる際にブロックに隙間ができる。
しかし姉はその隙間には入らず、さりげなく大きくコーナーを回り五枠の外側に進路を取った。
乱闘を行った気性難同士、何を仕掛けてくるのかわかっていた。その対策である。
そして、五枠クライトゥザムーンの横を通りがかる、その瞬間──
(ほっ!それくらいお見通しっつの!)
腕を大きく振った、五枠の肘を姉は手で軽く払ってみせた。
同じ事をしてくると考えていたのだ。二枠と同時に仕掛けられるのは面倒と考え、外に進路を取っていた。
しかし──
(やるねえ、防ぐのはわかってたよ。でもね──)
──めきり、と姉の脇腹に、大外から肘が突き刺さった。
(もう一人、いたら流石のあんたもわかんないよねえ?)
「あ゛ッ…ぐ………」
マークしていたのは、もう一人いたのだ。
内の二枠、中央の五枠、そして大外で姉を待つ八枠。
どこに逃げても、左右から仕掛ける体制を取っていた。
だがここで、マークしていた三人に異変が起こる。
鈍い音が響いた瞬間、五枠クライトゥザムーンの顔が蒼白に染まった。
明らかに骨にダメージが入っている。ここまでやるつもりは無かった。
焦った表情で、大外の八枠を睨みつけた。
(バカ!!!!深く入れすぎだよ!!!!!一発軽くお返ししたらそれでチャラでいいんだよ!!!!)
(ご、ごめん!!!わかってたけどタイミングが合いすぎて……)
彼女達も気性難ではあるが、歴としたG1を勝利した競走バである。
競走バの誇りに賭けても、対戦相手に意図的に怪我をさせる等もっての外と思っている。
そもそも姉は肘を当てるのが抜群に上手く、以前食らった五枠の彼女もダメージはまるで残っていなかった。
暴れウマ娘として鳴らした彼女達は、英国から来たお行儀が良いと思っている相手にやりこめられた仕返しがしたかったのだ。
一回お返ししたら後は真剣勝負という計画だったのである。
(ああ、ごめんよ……後でしっかり詫びは入れるから……)
五枠の様子を見て、激痛を堪えながらも姉はある程度の経緯を察した。
(くっそ、折れては無いけど、アバラにヒビは入ったかな……肘の入れ方がヘッタクソすぎんのよ。後で教えてやるわ)
根性で何とか先団を維持するも、徐々に姉が後ろに下がっていく。
肋骨にヒビが入り、一歩進む度に激痛が走る。
『ミッドデイが徐々に下がっていきます!アクシデントでしょうか?』
『少し接触しましたわね。あれは痛いと思いますわ……』
『大変な事になりました!続行できるんでしょうか!?』
この実況が、ネル、そして姉の異変をすぐさま気付いた智哉の耳にも入る。
(何!?大丈夫なのか……?しかし勝負は勝負だ、勝たせてもらう!)
第一コーナーを抜け、ネルがトップを維持したまま直線を進む。
一方、観客席でロードは怒りの声を上げた。
「姐御ォ!!!ヤロウ、肘入れやがった!!!トレーナーサン!あの当て方は危ねェ!!止めてくれ!!」
<そ、そうだな。競走中止を伝え……>
「──待ってくれ」
怪人とロードが競走中止で意見が一致する中、その後ろから待ったがかけられた。
後ろにいる、智哉から。
<トモヤ君、しかし……>
「ヴェラスさん、姉貴の顔、まだ諦めてねえんだよ」
「テメエ!!!それでも弟かよ!!!テメエの姉ちゃんが怪我してんだぞ!!!?」
この言葉に、瞬間的にロードの頭に血が上った。
身長差で胸倉を掴めない彼女は、素早く智哉を引き倒し顔面に一発入れようとしたのだ。
(コ、コイツ……ビクともしねえ……)
しかし、引き倒そうとしても智哉はびくともしない。
これに驚愕の表情をロードは浮かべた。
人間相手で手加減しているとは言え、ウマ娘に力で抵抗できる人物をロードは一人しか知らない。
「悪い、ロード、ヴェラスさん。姉貴に走らせてやってくれ。無理だと思ったら俺が飛び込んででも止める」
「ア、アンタ………」
「頼む」
智哉は、真剣な表情で頭を下げた。
ロードはそれどころでは無くなった。鈍いロードでも流石にこれはわかってしまった。
(クオ、テメエ知ってただろ!!?でもどういうコトだ!!?こっちのトレーナーサンは誰だァ!!?)
『トモくんかっこよすぎいいいいいいいいい!!!!』
(答えろォ!!!!ああああコイツの顔見れねェ!!!!!)
『違う人だと思うよ。ちなみにリティちゃんも知ってるよ』
(アタイだけかよ!!!!テメエらァ!!!!)
ロードは顔を真っ赤にして智哉から顔を逸らした。
最早姉の事は頭に無かった。薄情な舎妹である。
怪人は、考え込んだ後に答えを出した。
トレーナーとしては見過ごせない怪我を姉は負っているのは確実だった。
しかし、智哉、ひいては姉の意思を尊重するに至った。
<……わかった。止めるかは君に任せる>
「ありがとう、ヴェラスさん」
もう一度二人に頭を下げた後、智哉が姉を見つめる。
本当は、ここにいる誰よりも一番止めたいと思っている。
今すぐ助けに行きたいと思っている。
だが、姉はまだ走ろうとしている。まだ、諦めていない。
血が滲むほどに拳を握りしめ、歯を食い縛り、姉の走る姿を弟はただ見守った。
『さあ最終コーナーに入りました!先頭はずっとイングリッシュチャネルがキープしたままです!これはあのTCターフの再現なるか?一人旅で終わるのか!!?』
姉は何とか先団に食らいつき、一度は下がった順位をまた戻していた。
脚は十分に残っているが、踏み込む度に走る激痛が末脚を切らせる大きな障害となっていた。
(あー、本当に痛いんだけど!!!でもねえ!!!)
(ウチの弟がやっと前を向いて!!!やりたい事を見つけて!!!!)
(その為にいっつもしんどい思いをしながら頑張って!!!!なのにさあ!!!!)
(あたしがちょっと痛いくらいで!!!止まったら!!!あの馬鹿にもうお姉ちゃんやれないでしょ!!!!)
しかし姉は、その最大の武器、自らの持つ最強の手札を痛みを無視して切った。
歯を食い縛り、最終コーナーを抜ける手前で一気にネルに並びかける。
必死の形相であった。勝てるなら肋骨くらい折れてもいいとさえ思っていた。
だが、相手はクラシックの名ウマ娘である。
ただでさえ分が悪い相手に、怪我をした姉が普通の競走で勝てる相手ではない。
この形振り構わぬ姉に、ネルは尊敬の眼差しを向けた。
(……怪我をしているはずだ。ここまで来るだけでも、私に並ぶだけでも苦しいはずだ)
この好敵手に、全力を、全てを以て応えるべきだとネルは感じた。
あの怪人との集大成、完成した自分の切り札で。
ネルが意識を深く沈め、ウマソウルがそれに反応する。
その瞬間、ネルは軍船の上にいた。
彼女の持つ
ネルは、姉を置き去りにした。
あの悲願を果たしたレースの再現である。
『叩き合いに持ち込んだミッドデイが置き去りにされました!!これは正にTCターフの再現!!!イングリッシュチャネルの一人旅で……えっ』
この時、姉は無我夢中であった。
ただ勝ちたいとだけ、自らのウマソウルに望んだ。
そして、ウマソウルの先にいる何かが、それに応えた。
(……来た。あの時と、同じ……いや、もっと強い……)
学院での、気に入らない同期との模擬レース。
あの時、同期の
同期、あの現役最強の
そして、姉の
『これは……太陽が、覆い隠されて……日蝕です!!!レース中に日蝕が──』
「あんたがトレーナー?ふーん、よろしくね。ところでウチのバ…弟知らない?」
○月○日、プリティダービーガチャに★3ミッドデイが期間限定で登場予定!
固有スキル「日輪は、奇跡を描く」はランダム発動の強力スキル!
また、サポートカードガチャにSSRシーザスターズ(クラシック時代) SRサリスカ(引退後)が同じく期間限定で登場予定です!
常設実装はRフランケル!(幼女期、どこかの邸宅の背景)
こういうの書いてみたかった。
クライトゥザムーンはモブウマ娘です。
1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…
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いる
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いらない
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まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
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キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ