トムとフラン   作:AC新作はよ

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閑話 夢に向けて走る者、そして集う者たち

「ふう…久しぶりに若い子と走ると気分がいいわ。今回の子もなかなかのものね」

「前の子、異能が使えないのに大分粘ったでござるからな…えく殿とまともにやり合える者がいるとは」

「あの子はイレギュラーにも程があったわね。たまにいるのよね、生まれついてデタラメな子が。サイモンもそうだったわね」

 

空の向こう、次元の壁を隔てた先にある光り輝く空間で、えく殿と呼ばれた金髪に青い眼のウマ娘と端正な顔立ちの着流しの男が、地上のとあるレース場の様子を眺めている。

眺める先ではえく殿と呼ばれたウマ娘が力を貸した子孫を横抱きにし、さらには背中にもう一人ウマ娘をぶら下げた青年が医務室を目指している。

この様子に着流しの男が眉を顰めた。

 

「アレ、いいのでござるか?バレてもおかしくないでござるが…」

「……もう大丈夫よ。運命は固定されている」

「ええ~?ホントでござるか~?」

 

着流しの男が疑惑の視線を向けるも、えく殿は余裕の表情であった。

わざわざ自分が出張ってまで力を貸した自負があった。

軽く欠伸をした後に、空間の中にある豪著なベッドに横になると、着流しの男にふりふりと手を振る。

 

「ふああ、地上に干渉して疲れたわ。アメリカだから楽だったけど張り切りすぎたわね」

「いや、やりすぎでござるからな?ウチの娘、教会に狙われたり……」

「あの子ならそれくらい大丈夫よ。本当はウチの嫁にしたかったけどね……私は寝るから監視は任せるわよ」

「本当に大丈夫でござるか?嫌な予感がするでござるが……」

 

心配性の夫にえく殿が軽く微笑む。普段もあの不憫な子孫のような三枚目な所のある男だが、子孫の事になるとそれが顕著になるのがこの生まれた世界を間違えた武芸者の欠点でもあり、惚れた部分でもあった。

 

「大丈夫って言ったでしょう?運命引っくり返せるくらいデタラメな奴なんてそうそういないわよ。アレの動向は止められる子の夢枕に立って教えたし、もう余裕よ余裕」

「そうならいいでござるが……あ、へろ殿がまた勝負したいって言ってたでござるよ。最近加護を与えた子がいるとか…」

「ほっときなさい。じゃあお休み、ジョン」

 

そう言うとえく殿は眠りにつき、すぐにすやすやと寝息を立てる。

その妻の髪を優しく撫でつつも、男は軽くため息をついた。

妻が調子に乗っている時は、大体ろくな事にならないのを彼は長年の経験で知っているのだ。

もう一度、男が地上の様子を眺める。

 

その先には、自家用機の機内で寝込んでいる、子孫の運命と深く繋がる三女神の寵児。

三女神のリーダー格が何度引き剥がそうとしても、強い執着心で子孫が背負った運命から離れようとしない巨神のウマソウルを宿す少女。

追い込まれ後が無くなった大富豪に、狩りの準備を進める原始ウマ娘の姫。

 

そして日本で芦毛のヅラを被り、借りたゴルシちゃん号で追手の包囲を突破する沈黙の名を冠する超気性難。

 

「これ、絶対ろくな事にならないでござるよ……いや、あの若人には良い薬になるやも、か」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「動き無し、か……」

「油断するなよ。シスターサンディは何をするか読めんぞ」

 

日本、東京都府中市にあるトレセン学園。その近所に位置する、女神エクリプスを祀るとある教会。

この教会は現在、周囲に停まるバンや黒塗りのセダンに何人もの黒服の男達やウマ娘が乗り込み、監視されている。

彼らは日本のウマ娘の名家メジロ家と、旧財閥の流れを汲む大企業である社グループの保安部所属の腕自慢達であり、数十人による交代制での監視任務に就いていた。

なお、現場の監視員達はこれでも足りないと増員要請中である。

先日、空港での決死の捕り物でようやく教会にほぼ軟禁状態にできたのだ。素手でビルを解体する超気性難ともう誰も対峙したくないのである。

 

「昨日は?」

「旦那さんと仲良く商店街で買い物ついでに、いつも通りスナックうらかわで昼から一杯やってたな。あそこの看板娘の出すつまみがまた旨いんだよ。監視任務じゃなけりゃなあ」

「おいおい仕事中だぞ……諦めたか?」

「マックイーンお嬢様曰く、それだけは無いそうだ。これくらいで諦めるなら胃薬はいらない、と」

「そうか……おい、あれ」

 

監視員の片割れが何かに気付き、教会の敷地を指差す。

教会の扉から、芦毛のウマ娘が二人出てくるところであった。

 

「あれは……お前の所のお嬢様とゴールドシップか」

「今日は朝から訪問されていたはずだな。今から学園に帰るんだろう」

「そうだな…特に問題なし、と」

「もうすぐ交代だな。うらかわで一杯やるか?」

「ああ、非番ならいいか…付き合おう」

 

くい、と身振りで手酌をしてみせる相棒の誘いに応え、もうすぐ交代というタイミングで事件は起こった。

 

「お待ちくださいまし!今こちらにわたくしが来ませんでしたか!?」

「えっ!マックイーンお嬢様!?先程通り過ぎたのでは…?」

「それがシスターですわ!!追いますわよ!!」

 

教会から学園に戻ったはずの芦毛の令嬢が、もう一度教会から飛び出てきたのである。

必死の形相であった。彼女はシスターの旦那に振る舞われた手作りスイーツに我を忘れていたのだ。自分に変装した超気性難に気付かないほどに。

監視員の車に飛び込みつつ、芦毛の令嬢が頭を抱えながら各所に無線で指示を飛ばす。

 

「あああこんな手の込んだ替え玉をやるなんて……ゴールドシップだけではあの特殊メイクは不可能…オペラオーさんも一枚噛んでますわね。そうなると……まずいですわ!空港、それに港を封鎖してくださいまし!公道で仕掛けるのは禁止しますわ!あのデタラメなパワーでけが人が増えるだけですわよ!ディーにもすぐに連絡を入れなさい!わたくしはこのまま追いますわ!!」

 

体格の近い芦毛の令嬢と超気性難が遠目ではプロでも判別がつかない程の、特殊メイクまで施された手の込んだ変装。警戒すべき協力者が他に存在する証左であった。

そして、その協力者の予測が合っているならば、更に懸念が生まれる。

協力者には友人がいるのだ。

 

神出鬼没の、英国の脱獄王である。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

『シーちゃんと、レオへ

 この手紙を読んでいる頃には、私はもう英国にはいません。

 またなんだ、すまない。

 あんな良い物みちゃったら、現地に行きたくなるよね?

 シーちゃんもそう思うでしょ?

 だからね、いってきます。おみやげ買ってくるね。

 追伸:日本にも寄ります。

              ファンタスティックライト』

 

ぐしゃり、と震える手でシーザスターズが置手紙を握り潰す。

その顔は無表情だが、空間が歪んで見えるほどに怒りに震えていた。

あのアホの先輩がまたやりやがったのである。練習に来ないから見てきてとアホの子当番のシーザスターズに声がかかり、寮の先輩の部屋を訪ねた所脱走が発覚したのだ。

アホの子は、レース以外での学院外への外出禁止令が出ている。

レースを観に行きたいと愚図るアホの子の為に、衛星放送の競バチャンネルへの加入、自分も同行して何とか許可を得てのレース観戦等シーザスターズは尽力してきた。

ここ二年は実際大人しくしており、そろそろ禁止令も解除してやろうかと丁度姉と話していた頃合であった。

しかしやりやがったのである。アホの子は自制ができないからアホの子なのだ。

無表情で固まっていたシーザスターズの口が、弧を描く。

笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。

 

「先輩…丁度、私もオフシーズンなんだ。地の果てまで追ってやるぞ……」

 

学院の別の場所では──

 

「準備できた?」

「できてるぞ姉上!アメリカ旅行楽しみだな!家臣にも土産を買ってやらねば」

「もう、遊びに行くだけじゃないのよ?向こうのレースも観るんだから」

 

学院の敷地内、オブリーエンの別荘の廊下を笑顔で歩く幼き王者ことエクセレブレーションと、その姉のもやしことジェシカ。

王者は現在二学期の中休み中である。英国の義務教育では、学期ごとに一週間程ハーフタームと呼ばれる中休みが存在する。

普通の学校では十月中だが、十月に選抜戦のあるポニースクールでは十一月に消化するのだ。

その期間は学院にあるオブリーエンの別荘で父と姉と暮らしている。

二人ともエクスを寂しがらせないようになるべくロンドンの自宅に帰るようにしていたが、現在の英国のトレーナーが激務である事を知っている幼き王者は負担をかけぬように自らがこちらに来ていたのだ。王者は空気を読めるものである。

そしてこれから姉のアメリカ行きに同行する。

もやしの目的は、父の名代としての有力な競走バの発掘であった。

 

「スカウト、上手く行くかしら……」

「姉上なら問題なかろう!我もアメリカの強者が見れるのが今から楽しみだぞ!!」

 

妹の頭を優しく撫でながら、ふと、もやしがアメリカにいるはずの音沙汰の無い同期を思い出す。

 

(あの男、何やってるのかしら…?何も実績が無いのはおかしいわ)

 

手に持った、競バ雑誌に目を向ける。

十一月のアメリカのアマチュア大レース、そしてその解説を務める覆面の怪人の特集記事が組まれていた。

 

 

(シンデレラクレーミングに、ミスターヴェラス、ねえ……まさかとは思うけど) 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「あっちゃんやっぱり速いわー!名門チームのスカウトも間違いないぜ!」

「あっちゃんなら絶対すごい競走バになれるよ!!」

 

ケンタッキー州レキシントンのとある野良レース場。

ここで先程行われたアマチュア競走で一着に輝き、取り巻きの称賛を受けながらも我関せずといった様子の一人の黒鹿毛のウマ娘がいた。

常にジト目気味な目元に額を大きく出したセンター分けのロングヘア、同年代の少女達よりも頭一つ大きく、発育の良い凹凸のはっきりした体。

あっちゃんと呼ばれたこの少女は、名門のスカウトというおこぼれに預かりたいがために自分の取り巻きになっている連中に内心うんざりとしていた。

 

(こいつら、うっとうしいなあ)

 

彼女は、統括機構三大チームの一つであるチーム・ゴドルフィンのアメリカ支部の練習生である。

そのままゴドルフィンに入るかは未定だが、スプリントからマイル路線での有力なウマ娘として地域では有名であった。

 

(シンデレラクレーミングの調整のために仕方なく野良レースに出たらこれだよ…夢があるなら自分で走って掴めばいいじゃん)

 

努力家で、自らの足で夢を目指す彼女にとっては取り巻き気取りの考えに理解など及ぶはずがなかった。

この彼女の内心に気付かないまま、取り巻き達が別の話題を話し始める。

 

「あのレース荒らしもあっちゃんには絶対勝てないよ!」

「……レース荒らし?」

「うん、速くてすごい足音でみんな怖がってる子がいるんだよ。のろまな(ステューピッド)ダンって子」

「……速いのに、のろま?」

「よくわかんないけど、その子と同じ学校の子がそう呼んでたよ」

 

このよくわからない評判と名前がちぐはぐなウマ娘に、あっちゃんが首を傾げる。

 

「あの子さ、付き添いでたまにイケメンのお兄さんいるよね?あの人チーム・カルメットのトレーナーらしいよ」

「えっほんと!?超名門じゃん!!」

「でもさー、私のお姉ちゃんの友達がカルメットでサブトレやってるんだけど、その人が言うには誰とも契約してないダメトレーナーなんだって」

「あはは!何それ!あの子速いのにそんなのに目付けられてるの?かわいそー」

 

無自覚な陰口を始める取り巻き達に、辟易としたあっちゃんはすぐに立ち去りたくなった。

自分達がそれ以下だと言うのに気付いていないその見苦しさに耐えられなくなったのだ。

 

「ふう…練習してくる。じゃあね」

「あっちゃんがんばってね!」

「契約取れたら私たちにも紹介してよー」

 

適当に相槌を返しながら去るあっちゃんの後ろ姿を眺める取り巻き達。

彼女に勝って貰わないと自分たちも困るのだ。

あの野良レース荒らしは同年代である。あっちゃんと同じ出走順になる可能性もあった。

 

 

 

 

 

「ねえねえ、ダンって子が出てきたら…」

 

「ちょっかいかけちゃおうよ。そのお兄さんの悪口とか言ったら、ちょっとは動揺してくれるんじゃない?」




あっちゃんは史実馬やで。
二部にも出ます。

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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