トムとフラン   作:AC新作はよ

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第二十六話 蠢く、悪意

「着いたなあ!いやあ長いフライトだったぜ!」

「流石に12時間乗りっぱなしはしんどいな……経費削減でビジネスクラスしか用意してくれないってひどすぎない?」

 

ケンタッキー州レキシントンにあるブルーグラス空港。

ここに一組のウマ娘と男が降り立っていた。

赤毛の鍛え上げられた肉体を持つ大柄なウマ娘と、哀愁ある背中の金髪の男。

彼女達は英国からとある目的で、ここケンタッキー州を訪れていた。

 

「まずは銃砲店に行こうぜ!アーディから頼まれたショットガン買わねえとなあ!」

「遊びに来たんじゃないんだぞ……先にFBIの捜査官と接触しよう」

「ええー……折角アメリカくんだりまで来たんだしよぉ、ちょっとくらい寄り道しようぜ」

 

元相棒にして現上司の、彼らの所属する部隊で最も付き合いの長い上官に赤毛のウマ娘が辟易とした態度を示す。

これに対して上司である男は切羽詰まった顔を向けた。彼は給料を満額貰える方が珍しいのだ。

 

「もう減俸は嫌なんだよ!仕事!仕事優先だ!」

「へいへい、しかしオレと隊長だけってのも面倒だなあ。装備込みで全員で来たら一発で終わる話だろ?」

「隊で正規の警察官は俺達だけだからな?それにいつものように暴れたら国際問題だろ!!」

「しゃあねえか。今回は警察官として、だもんな」

 

彼らは英国の警察特殊部隊、ウマ娘中央活動部第19課(U C O 19)の第二小隊の隊長とフォワード担当である。

智哉とジェシカの研修先のジャック小隊長と、腕自慢の気性難ことダスティのコンビであった。

なお小隊はこの二人以外は正規の警察官ではない。一度潰れた第二小隊はこの二人から再始動しているのである。

マークスマン担当のアーディは元傭兵、ポイントマン担当のブラッドはアイルランドのテロ組織の爆弾魔、そしてセブとシャノンはイタリアの元ウマ娘マフィアである。

問題児ばかりなのもさもあらん。元々警察官は二人のみなのだ。彼女らはそれぞれが第二小隊が対応した事件から超法規的措置により小隊入りしている。

第二小隊は問題児ばかりの愚連隊であるがその実力は折り紙付きである。

普段は怪盗殿下のお守りや第一小隊のバックアップが主任務だが、温厚かつ真面目な第一小隊では対応できない大事件へのジョーカーとしてその問題児ぶりを黙認されているのだ。

 

「ま、ツーマンセルってのはチャンスだしな。真面目に警察官といくか!」

「何のチャンスなんだよ……とにかく、目的はわかってるな?」

 

彼らがここアメリカに来た目的は、とある事件により収監中の人物がようやく供述を始めた事に端を発する。

およそ二年半前、彼らが関わった事件の捜査である。

当初は彼らの派遣に対しロンドン警視庁のトップは難色を示したが、少数精鋭でことに当たる必要性に迫られジャックに何かやったら減俸と言い含め派遣に至っている。

 

 

「もちろんわかってるぜ。アスコットの元校長の高飛び先、アメリカのウマ娘売買組織の検挙、だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポリトラックの整備はじめ!いつもより時間短いんだから連携はしっかりね!!」

「うーす」

「トモヤ君!二日目は抜けるの禁止!ファーディさんからも使っていいって言われてるからこき使ってやるわ!」

「うーす」

 

キーンランドレース場は、ケンタッキー州レキシントンにある平地競走を開催するレース場である。

主な競バ開催は四月と九月。四月、九月共にケンタッキーダービー及びトレーナーズカップへの前哨戦(プレップレース)となる競走が行われる、各路線上の重要な通過地点である。

コースはアメリカの主要なレース場のセオリー通りの左回りの楕円形コース。

外周は一周8.5ハロン(1,709m)のポリトラックコース、内周は7ハロン(1,408m)のハギンコースの通称を持つ芝コースとなっている。

2000年代にはクレーミング競走から成り上がり、伝説のウマ娘となったシービスケットの映画撮影のロケ地にも採用された栄光あるレース場である。

 

シンデレラクレーミングの前日となるここキーンランドレース場では、現在レース場のスタッフと協賛する各チームのサブトレーナー陣によるバ場の整備と連携確認が行われていた。

シンデレラクレーミングは数多のアマチュアウマ娘が参加する大レースである為に、その競走間隔は通常のレースよりも短い。

その為に各チームからも人員を派遣し、人海戦術によりバ場整備に当たるのである。

名門チームであるチーム・カルメットからも当然人員派遣がされており、智哉はその中に混じりバ場整備に参加していた。

智哉は正規のトレーナーである。しかし担当ウマ娘がいないお荷物と思われているために、サブトレ陣から忙しいんだから手伝わせろとオーナー付秘書に物言いが入った。秘書は却下しようとしたが智哉が引き受けた形でここにいるのである。

本人としては英国に帰ってからのサブトレ生活の為に整備くらいはやっとくか、という軽い気持ちであった。

 

「返事ははい!でしょ!キャプテンとよく一緒にいるんだから少しは見習いなさいよ、まったく……」

 

気の抜けた智哉の返事に対し、不満げにサブトレ陣のリーダーがため息をつく。

現在は整備車による地ならしと、細かい部分のトンボがけ中である。

智哉は整備車の免許も取得しているが、自らトンボがけに志願した。

人間ギリギリのラインで作業してとっとと終わらせるか、と考えたためである。

そしてこの青年がサブトレとしてよく働く事を知っているサブトレ陣は、なんだかんだ言いつつも青年を受け入れていた。

 

「……あれだけ手早く仕事されたら文句言いにくいじゃない。初日も使えないかしら……」

 

一方、レース場の搬入口では、協賛企業の出店の準備が進められている。

シンデレラクレーミングには一般のウマ娘も多数観戦に訪れる為、主に飲食系の露店が中心となっている。

その中の一つ、ニューヨークに本拠を置く農業法人に今年入った新入社員の小男と大男が、大量のニンジンを運んでいた。

 

「兄貴、大丈夫か?俺持つか?」

「ぜえ…ほっとけ!お前は先行ってろ」

「わかったよ兄貴」

 

去年までマフィアだった二人組の片割れの大男が兄貴分を心配しながら、両肩にニンジンの入った箱を軽々と担いで進む。

一方兄貴分は息も絶え絶えな様子であった。

マフィア時代から頭脳労働担当だった彼は経理で入社したはずが、こんな力仕事をやらされて不満げである。

ニンジンの箱を怒りで叩きつけそうになるも、寸でのところで手を止めて、小男はその場に座り込んだ。

 

「あああ!重たすぎるんだよ!!なんで俺がこんな仕事……」 

 

「バカな事言ってねえで働け!」

 

座り込み、愚痴をこぼそうとした小男だったが、後ろから檄を飛ばされその場で直立不動になる。

知っている声であった。彼の雇い主である。

 

「ボ、ボス……」

「おめえ自分の立場わかってっか?雇ってやる代わりに知ってる事話してオラの言う事聞くって約束したよな?」

 

両肩に箱を三段重ねながら、小男の前に立つ栗毛を三つ編みにまとめ、健康的な小麦色の肌の豊満で大柄なウマ娘。

大きな瞳と釘のような形の流星が特徴的な、典型的カントリーウマ娘の彼女の名はアファームド──伝説の三冠ウマ娘にして、農業法人アファームドファミリーのオーナーである。

 

小男は過去、とある仕事を大失敗した際に以前の雇い主に見限られ、ウマ娘へのトラウマも相まってマフィアを廃業した際に彼女に拾われた身である。

とある情報と引き替えに。

 

「め、滅相もないですぜボス!見捨てないでくだせえ!!」

「おう!それならしっかり働け!体動かして働いた後に食うメシはうめえんだぞ?オラの奢りで食わしてやっから!」

「ヘイ!」

 

元マフィアの二人は司法取引によりマフィア時代の悪行を精算しているが、元マフィアの二人は行くところが無い身である。

そしてオーナーは怖いが面倒見が良く、以前の雇い主よりかなりマシな人物である。

小男が仕事に戻ったのを満足げに見守るアファームドに、車椅子に乗ったウマ娘が近付く。

 

「やはり来ていたか、アファームド」

「お?おお!アリーダでねえか!?」

「アリダーだ!いい加減そのテキサス訛りをやめろ!キサマはフロリダ生まれだろうが!?」

 

近付いたのは、アファームドの現役時代のライバルにして名門チーム・カルメットのオーナー、アリス・ダーウィンことアリダーであった。

ライバルにして親友の二人がこうして対面するのは久々である。近年は連絡も取れていない。

アリダーは言いたいことがあったが、アファームドが避けていたのだ。

 

「おめえもそりゃ来るよなあ、チームのトレーナーが解説やるし」

「当たり前だろう、あれはオレのお気に入りだからな。それよりも、キサマ……」

「おおっといけねえ、仕事あんだよ。またな!」

 

「待て!!!!」

 

アリダーの怒号に、アファームドが振り返らずにその場に立ち止まる。

アリダーは我慢ならない事があった。

ライバルで親友が、道化のように振る舞うのが耐えられないのだ。

 

「カッペの田舎者の振りまでして、キサマは何を追っている?オレの事なら迷惑だ。今すぐやめろ」

 

「……おめえじゃねえ、オラが落とし前を付けてやりてえだけだ。やっとシッポを掴んだんだ。あとこのしゃべり方はテキサスで農業やってた時に癖になっちまったんだ。直らねえ」

「直せ、バカ者」

 

アファームドがニューヨークに本拠を置いた理由は、親友のとある不幸の黒幕を追っていたからである。

彼女の足を狙撃した犯人と、その指示を出した者を探しているのだ。

なお口調は本当に直らなかった。現役時代はもっと知的な口調のクレバーなウマ娘であった。

 

「……ふん、キサマの隠し事などお見通しだ。何年キサマのライバルをやっていると思っている」

「へへ…アリーダには敵わねえなあ。昔っからレース以外では勝てる気しねえ」

「嫌味かキサマっ!!!!」

 

この無自覚なマウントにアリダーがブチ切れた。

戦績は10戦3勝の完敗である。クラシック三冠を全て持って行かれたのは今でも根に持っていた。

 

「キサマが手を下さずとも、あの男…フィクスはもう終わりだ。我がカルメットと西海岸のバフェット家の働きかけでFBIも重い腰を上げている」

「おめえ、わかってたのか?」

「キサマよりは、な。オレがやられっぱなしで黙っている訳が無いだろう」

 

ぽかん、とアファームドがニヤリと笑うライバルを見やる。

何年も追ってきた自分の目的どころか、その先までライバルは進んでいた。

 

「恐らく、ここに来るぞ。キサマも知っている事を話せ」

「しょうがねえ、どっかで話しすっか」

 

そのまま、笑い合いながら二人は搬入口の外へ向かう。

かつてのライバル、そして親友は久し振りに顔を合わせて旧交を暖める事となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たぞ、久しぶりの我が故郷!お嬢ちゃん、助かった」

「オペラオーちゃんと会うついでだったしいいよ~。これからね、シンデレラクレーミング見に行くけどシスターさんもどう?」

「そういや明日だな。ゴアの野郎もいそうだし行くか!」

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

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  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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