トムとフラン   作:AC新作はよ

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レース描写毎回悩むやで…。
フランスギャロとシュヴァルフランセに関してはそのうちちゃんと書くやで。
そういや怪人の見た目は某ッチメンの某ルシャッハの白黒反転みたいな感じでイメージしてるやで。


第二十九話 運命に、挑む巨神

「おい、なんだあれは…!?」

「ウマソウル励起現象か…?まだプロにもなっていない子が…!?」

「これは……アリマの時のハーツと同じ……ケン!あの子は獲得すべきデス!!」

「うぁぁぁ き、気性難がターフを練り歩いて……!」

「ケン!?大丈夫デスカ!!ケン!!!」

 

午後の第一レースを迎えたキーンランドレース場、トレーナー席。

ここは今、最後に現れた注目株の少女──ワイズダンの姿に騒然としていた。

日本から有望なウマ娘の発掘に来たトレーナーであるフランス系の美少年が、日本での初めての担当がかの英雄に土を付けたレースで見せた奇跡と同じ物を感じ、同僚の童顔の青年に獲得を進言する。

なお童顔の青年は気性難センサーが爆発して発狂しかけていた。

トレセン学園の人選ミスである。気性難蔓延るアメリカで、彼が無事なはずが無いのだ。

 

「あっち、何か大変な事になってるわね…」

「彼は…フランスのクリスティアン・リメイユか。フランス競バ統轄機関(クーリエ)から日本中央競バ会(U R A)へ移籍したと聞いたが…」

「……あら、彼には一つクレームを入れておきたかったのよね。その隣にいるのは……日本のトレーナーかしら?」

「状況的に間違いないだろう。ところでクレーム、とは?」

「こっちの話よ。研修の時に彼の元雇い主に、随分お世話になったから……」

 

もやしとビリーが、後列の隅で泡を吹く青年を介抱しているフランス人トレーナーに目を向ける。

 

クリスティアン・リメイユ──フランス競バ統轄機関(クーリエ)にて飛び級でトレーナー免許を取得し、一年目からトレーナーリーディング七位、G1パリ大賞を勝利するという驚異的な記録を残した天才トレーナーである。

現在は一身上の都合によりフランスのトレーナー免許を返上、友人と共に日本中央競バ会(U R A)へ戦場を移し、日本の短期免許を取得していた頃にコンビを組んでいた、かの英雄を破る大仕事を成し遂げたとあるウマ娘を含む多数の管理バを預かる身となっていた。

なお、彼の元雇い主はフランスに自らのチームを持つとある怪盗殿下である。

見た目は穏やかな青い瞳を持った黒髪の美少年である。年齢は二十代に差し掛かっているはずだが、公称163cmの身長と相まって少年にしか見えない。

トレセン学園でも人気者であり、その王子然とした容姿と穏やかで優しい人柄でクリス君と呼ばれ親しまれており、一部のトレセン学園生徒達によるファンクラブまで存在していた。かの英雄を共に破った相棒はファン一号である。

 

「しかし、これは凄まじいな。ウマソウルから湧き出る力が人間にも目視できる程とは…」

「勉強不足ね?ウマソウル励起現象よ。論文も一昨年に出ているわよ?」

「……聞かせて貰えないか?」

 

素直に教えを乞うビリーを、もやしが意外と言った様子で見やる。

先程からの会話で負けず嫌いでプライドの高い少年と思っていた神童が、自分に教えを乞うとは思わなかった。

本質としてそうなのは間違いないが、競バに関してはあくまで真摯な少年だと評価を改めたもやしが、軽くため息をついて語り始める。

 

「……仕方ないわね、概要だけは教えておくわ。後は自分で調べなさい。ウマソウル励起現象、過去より多数の事例が存在するウマ娘の奇跡。論文の著者はヘンリー・ジュドモント氏とディーン・ヒル氏の共著。効果は、ウマ娘の持つ潜在能力の爆発的な開花…」

 

そこまで話したところで、もやしがちらりと妹に目を向ける。

妹、エクスは食い入るようにウマソウルを赤く燃やすワイズダンをただ眺めていた。

あの日の初めての敗北を、思い出しているのだ。

怪物と、生涯の好敵手と出会ったあの日を。

 

「……それで、続きは?」

「……発動条件は、ウマ娘が自らのウマソウルをはっきり自覚すること、そして──」

 

 

「──運命に、立ち向かう時よ」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

『さあ!各ウマ娘が無事ゲートインしました!午後の部第一レース芝1000m、いよいよ出走ですね!ミスターヴェラス…どうしました?』

<…ああ、すまない。何か言っただろうか?>

『…ミスターヴェラス、先程から随分とワイズダン嬢を気にされているようですが…?』

 

<…失礼した、問題ない。注目の三人についてだが…恐らくゆっくりとした展開から、中盤に先行好位置に付けたドリームアヘッドが直線で最初にハナを切る形になると思うが…>

『成程!他にも気になる点が?』

<アニマルキングダムは追込から逃げまでレース展開に応じて自在に使い分ける事が可能だ。彼女がどの位置に付くかがこのレースにおいて一つの鍵となるだろう。対してワイズダンは中団から最終直線で仕掛ける形が最も得意だな。最初に飛び出すドリームアヘッドと、変幻自在のアニマルキングダムに彼女が惑わされずに自分の形に持ち込めるかに注目したい>

『非常にわかりやすいレース展望です!ありがとうございます!さあ、果たしてミスターヴェラスの予想通りの展開となるか!?』

 

ゲートの中で、この解説を聞いた5枠9番のアニマルキングダムが口笛を吹く。

隠しているはずの自らの自在な脚質を、怪人に見抜かれていた。

 

(おお…!ミスターヴェラス、アタシの事よく見てくれてるんだな…!)

 

感激といった様子のアニマルキングダムであったが、何やら視線を感じて外枠に目を向ける。

ライバルのドリームアヘッドが、そのジト目がちな目で何やら抗議の目線を送ってきていた。

 

(……何それ?ずっと隠してたの?)

(お前も一つや二つ隠し玉くらいあんだろ?文句言うなって)

 

彼女はドリームアヘッドとの対戦では今までずっと差しで彼女に仕掛ける形を取っていた。

自在に脚質を使える彼女は先行争いも難なく行えるが、わざと握らせたペースに乗って差し込むのが一番勝率が高いと言う考えと、大一番のとっておきとして隠していたのである。

 

(さて、どこに付けるかねぇ。ドリーと先行争いでもいいけど、アイツに楽させたくないんだよな)

 

まだ睨んできているドリームアヘッドから目を離し、内枠の先程全員抜くと宣言したもう一人のライバルに目を向ける。

赤いオーラに包まれた、ただ前だけを見つめる恐るべき巨神へ。

 

(初めてレース映像観たときは冗談かと思ったぜ。今まで何してたんだコイツってな)

 

ケンタッキー州はウマ娘の大国アメリカにおいて最もウマ娘が多い州であり、野良レースも盛んに行われている。

当然速いウマ娘は幼い内から注目され、頭角を現すのも早い。

そんな中に突然現れた野良レース荒らし。アニキは新たなライバルの登場に奮い立った。

 

(間違いなくプロになるな、コイツ。長い付き合いになりそうだし、仲良くしたいとこだけど…何か知らないけど目の敵にされてる気がすんだよなぁ)

 

アニキはアメリカのスクールカーストの頂点、所謂クイーンビーである。

さっぱりとした性格で人気者であり、なおかつ速い。学校でも常に話題の中心で将来を嘱望されるウマ娘である。

このライバルについても、その広い交友関係ですぐに調べがついた。

レキシントンより少し離れた地区の、人間よりも遅いいじめられっ子(ターゲット)

最初そう聞いたときは何の冗談だと思った。

こんなに速いウマ娘がスクールカーストの最下級など信じられなかった。

 

(ま、考えるのは後だ。誤解があったら解けばいいだけってな)

 

正面に向き直り、集中する。

どこに付けるかは、すぐに答えが出た。

 

(コイツが全員抜くって言うんなら、アタシもそうすっか!ドリーにハナを切らせて、アタシは追込でプレッシャーをかける。ドリーはあの癖が直ってないなら直線ヨーイドンで十分行ける。二人がかりみたいになっちまうけど…それも勝負ってヤツだ)

 

一方、ダンはただ集中するのみだった。

やるべき事は決まっており、作戦は事前に授けられている。自分の最も得意な形でいつも通りに走る。それだけである。

 

(トモ兄の言う事に間違いなんて無い。それをボクは証明するだけ)

 

負ける気はしない。自分にはあの怪人にも負けない最高のトレーナーがついていて、そのトレーナーが自分が一番速いと保証している。

それを、証明しなければならない。

ダンはただ、そう考えていた。

 

そして──ゲートが開く。

 

『さあスタートしました!注目のドリームアヘッドとワイズダンは中団からのスタート!対してアニマルキングダムはゆったりと後方に付けました。全体を見渡せる位置ですね』

<追込を選択したか…今回の出走バにハイペースな逃げウマ娘はいない。悪くない判断です>

 

ドリームアヘッドが中団から上がっていく。

キーンランドレース場の1000mは最終直線が短い。

コーナーまでに先行好位置に付け、コーナーの終わり際から末脚を切る。課題の直線での癖が直っていない彼女は、必ずそう動く。

 

『──だから、ダンはあの子をマークすれば良いんだよ。同じ形で直線で並べば勝てる』

 

(トモ兄の、言った通り!なら!!)

 

ずしん、とダンがその強烈な脚力を発揮し、ペースを上げ、赤いオーラがそれに呼応するように足下から周囲に拡散した。

智哉から貰ったトレーニングメニューと、野良レースでの試行錯誤の日々、そして爆発的な潜在能力の開放により、ダンはその脚力を十全に発揮できるように成長していた。

足跡が残るほどの踏み込みで芝を抉り込み、周囲の中団を形成していたウマ娘達がダンから強烈な圧力を覚え、怯えた顔を見せる。

 

「むりー!」

「ひええっ、怖いよー!」

 

(ゴメンね!でも勝ちたいから!)

 

ダンは共に走った相手から自分が怖がられているのを理解している。

自分は走っても友人が作れないかもしれない。

その事に不安を覚えたこともあった。

それでも、ダンは走ることを止めなかった。

走ることは楽しかったし、自分を速くしてくれたあの人さえいてくれればいい、そう思っている。

中団、ダンを恐れたウマ娘達が左右に逸れ、内ラチ沿いに空いたスペースにダンが身を寄せる。

ドリームアヘッドは、後ろから自分をマークする巨神の重圧を強く感じていた。

 

(コイツ…!私にピッタリとマークして…凄いプレッシャーだ。それにコイツ!コイツは間違いなく私の癖を知っている!つまりコイツには!コイツに作戦を授ける誰かが、優秀なトレーナーがついている!!)

 

(勝ってみせる!トモ兄のために!)

 

コーナーに入ったダンが、右足を強く踏み出したその時──

 

「っ!?ぐうっ!!」

 

 

 

 

 

 

──その蹄鉄が、砕けた。




巨神の重圧(金レアスキル):周囲のウマ娘の加速ダウン(効果大)
サポートカード:「今はまだ、小さな巨神」ワイズダンより獲得。

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ

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