トムとフラン   作:AC新作はよ

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ちょっと短いけどキリがいいから閑話にしたやで。
ダンちゃんのレース後は次回やで。


閑話 拗らせ貴婦人と、超気性難

「すごい!すごいすごい!!アメリカ来てよかったあ!!」

「失礼、そちらのレディはミス・ファンタスティックライトでしょうか?娘があなたのファンで……」

「ああ、すまない。今はプライベートで……先輩、こちらの紳士がサインを……」

「書くよシーちゃん!」

 

上機嫌でサインの求めに応えるアホの子に、サングラスにキャップのいつもの変装スタイルのシーザスターズが色紙を手渡す。

そして書いている最中に、シーザスターズは背負った鞄からある物を取り出し、ライトの足に装着してしっかりと鍵をかける。

 

「先輩、動かないように足枷を嵌めておくぞ。興奮してコースに落ちたら大変だからな。それに先輩は落ち着きが無いから私の膝の上で観戦してくれ」

「うんお願いシーちゃん」

 

装着したのは鉄製の足枷である。ロープでは手刀で切られるという反省を活かし、シーザスターズが用意した物だった。

なおアホの子が万が一も怪我をしないようにシーザスターズの手で角は削られ、内側にはスポンジが仕込まれている。

なんだかんだアホの子にはダダ甘である。

 

サインを書き終え、礼を言う紳士に握手で返した後、アホの子ライトはシーザスターズの膝の上にすっぽりと収まった。

そのアホの子を、絶対に逃がしてたまるかとばかりにシーザスターズがしっかりと両手で抱え込む。

アホの子は、アホである。

先程の未来の競走バ達の壮絶な叩き合いに興奮している彼女は、まだ追手に捕まった事に気付いていない。

この様子に、シーザスターズの隣に座る二人のうち一人が呆然とツッコミを加えた。

 

「オイ、いいのか……?」

「しっ、まだ気付いていないんだ。このまま確保しておきたい」

「次のレースも楽しみだねえシーちゃん!!」

「そうだな先輩、せっかくアメリカまで来たんだ。私も楽しませてもらおう」

「シーちゃんくすぐったいよう」

 

アホの子ほどかわいいとはよく言ったものである。にこにこと無邪気に笑みを浮かべるライトに、シーザスターズがその日なたの匂いがする髪に頭を埋めて抱き締める。

過保護な会長と欧州現役最強は、このアホの子がやらかしても基本的にはかわいがるばかりだった。

 

「……すげぇな、ライト嬢ちゃん。オペ子から面白い子って聞いてたけど、ここまでおもしれーとはなァ」

「此方としては、其方がろくに変装もせずにここにいるのが面白くてよ?」

「あン?耳隠してるだろ?」

 

シーザスターズとライトの隣、そこに座るウェーブのかかった栗毛の貴婦人が、更にその隣に座る人物に若干危ない輝きを帯びた目を向ける。

あの日、アメリカを去った時とまるで変わらない姿の超気性難へ。

 

見た目は一見では大人しそうな、小柄で凹凸の無い体型のウマ娘である。

背中を覆い隠す長さの黒鹿毛は光沢を帯び美しく、前髪の中央の一房だけの白毛にヘアピンを通しそこから左右に分けた髪型。そして一目で気性の危うさを感じさせる金色の鋭い眼光。

エクリプス教の修道服を着崩し、申し訳程度にヴェールを頭に被せ耳を一応隠している。

 

日本にて現在目下捜索中のお尋ねウマ娘であり、隣の貴婦人イージーゴアの現役時代の最大のライバルにして、今もその背中を追っているウマ娘である。

 

「其方、それは変装とは言いませんのよ。現にファーディ先輩にもアリス先輩にも呆れられていたではありませんか」

「うるせーなー、ゴアは昔っからこまけえ事ばっか言いやがる。久しぶりに俺様と直接会ったんだし、もっとなんかあるだろ?それによ…」

 

ここで超気性難のシスターは、後ろに座る一般客の中年男性に目を向ける。

男性は超気性難に振り向かれた瞬間に震え上がり、周囲の観客も声を上げそうになるも堪えた。

伝説のウマ娘イージーゴアがこれ程気安く話す相手は限られており、古くからの競バファンなら誰しも忘れるはずが無い伝説の超気性難である。

怖すぎて周囲の観客は見て見ぬ振りをしているのだ。

 

「なぁ、おっちゃん。俺様は誰だ?」

「ひっ……さ、サンデーサ……」

「アァ?それ俺様の聞きたい答えじゃねえな、もういっぺん聞くぜ?俺様は、誰だ?」

「わ、わかりません!ただのシスターさんです!!」

「だよなあ!おっちゃんサンキューな、これでビールでも飲めよ」

 

聞きたい答えが聞けたシスターが気分良く男性にチップを渡し、得意気にゴアを見る。

周囲の観客は当然、彼女が何者かに気付いていた。

 

西海岸のとあるエクリプス教会の前に捨てられていた孤児で、幼い頃に大病を患い死にかけ、小柄で貧相な見た目でバカにされ、事故により孤児の友人達を失う悲劇すらも味わうも、それら全てを持ち前の気性で乗り越え西海岸を代表するウマ娘にまでのし上がった。

そして東海岸のセクレタリアトの再来と言われたエリート中のエリートの貴婦人との死闘を制し、二冠ウマ娘になった正にシンデレラストーリーの体現者である。

 

更には記者の取材に機嫌を悪くしてチーフを蹴り飛ばし、最初に組んだ専属トレーナーからは二度と組みたくないと逃げられ、とある名トレーナーには契約を拒否され、そしてようやく見つけた専属トレーナーである名家の御曹司と組んでからは、マフィア相手にニューヨーク中で大立ち回りをかました後に重バ場を募らせ、トレーナーを日本に拉致し式を挙げたその超気性難ぶりで畏怖をアメリカ国民に植え付けている彼女が、ここアメリカで忘れられているはずがないのだ。

 

「な?俺様はどこにでもいるエクリプス教のシスターのサンディさんだ。ゴアもそういう事で頼むぜ」

「はぁ……此方はそれでよろしくてよ。でも其方、中継に写ってましてよ?」

「マジか。帰ったらマックちゃんにまた小言言われちまうかねぇ」

 

日本の名家の令嬢の名前がシスターの口から出たところで、貴婦人の眉がぴくり、と動いた。

シスターとの電話でよく聞く気に入らない名前であった。

 

「……其方、帰れると思っていまして?」

「あ?そりゃ帰るに決まってんだろ。あっちにゃ旦那と娘がいるんだよ。ちょっと里帰りしたかっただけだしなぁ」

 

俯いた貴婦人の肩が、震える。

 

昔から、この超気性難はそうだった。

敬虔な教会育ちの孤児のくせに自由気儘で、我が強く、常に面白そうな事に首を突っ込む暴れん坊。その割に情が深く、困った誰かを迷わず助けられる女。

エリート一族に生まれ、幼い日より優れた才能で将来を嘱望され、蝶よ花よと大切に育てられた自分とは何もかもが全く逆の人生を歩んできた女。

最初は取るに足らない、自分の華々しい競走生活を彩る添え物程度にしか思っていなかった。

 

『お前が東海岸のイージーゴアか?速ぇらしいじゃねーか?次走はよろしくな。俺様は…』

『あら、おチビちゃん?何処からカレッジに迷い込んだの?』

『……おもしれーなお前。俺様に面と向かってチビ呼ばわりするヤツは久しぶりだぜ』

 

『二度と、呼べねえようにしてやる。覚えとけ、俺様の名は──』

 

この日の出会いから、その背中を追い続ける日々が始まった。

その気性難ぶりからマスコミに叩かれようが、二冠は運が良かっただけのフロックと言われようが、この女は意に介さなかった。

それを聞く度に、自分がどれほど惨めな気持ちになろうと。

 

『其方は悔しくないの!?此方に勝ったというのに誰にも認められなくてよ!!?』

『あー?こまけえ事気にすんなよ。言わせとけ言わせとけ。それよりよー、ダーリンに振り向いてもらうにはどうしたら……』

 

この女に自分を見て欲しい、認めて欲しい一心で、身を削りながらの過酷なトレーニングを重ねて迎えた最後のクラシック三冠、ベルモントステークスの悲願を果たしたあの日。

 

『勝った…此方が、やっと……』

『あっちゃー、ついに負けちまったなぁ』

『其方…』

『ゴア、やるじゃねえか。負けたぜ』

 

この女は、全く悔しそうに見えなかった。

友人の勝利を、心から祝っていた。

気が狂いそうになった。

自分はこの女に負けたとき、屈辱で身を焦がれるかと思っていた。

その背中を追い越し、同じ思いを抱いて欲しいと思っていた。好敵手として。

だが、そうはならなかった。この女は、自分をそう見なかった。

そして、ついにはアメリカからもいなくなった。

捨てられたと、感じた。

 

「また、此方を捨てるのね?」

「はァ?」

「その、新しいお友達のマックちゃんがいいのね?」

「何言ってんだおまえ」

「しらばっくれないで!此方の事なんてどうでもいいと思ってるんでしょう!?此方のような其方に負けっぱなしの癖にプライドだけは高いウマ娘なんて、もう愛想が尽きたんでしょう!!?」

「だから何言ってんだおまえ」

 

この貴婦人、イージーゴアはシスターとグローリーカップで決着を付けようと約束していた。

それをこの超気性難はすっぽかし、日本に逃げたのだ。

その結果──

 

「口では何とでも言えるわ!日本と此方、どちらが大事なの!?」

「まだ何も言ってねぇよ。お前重いんだよ」

 

──貴婦人は、拗らせきっていた。

かつてのライバルに重バ場を形成していたのだ。

 

「おお……先輩、これが日本のヒルドラのシュラバというやつか?」

「夫婦喧嘩じゃないからトレンディドラマじゃない?シーちゃん」

「おい英国コンビ、呑気してんじゃねえ」

 

突然発生した重バ場を呑気に観察するシーザスターズとアホの子に、シスターがツッコミを加える。

先程から貴婦人が観戦の合間に視線や仕草で何処かに指示を出しているのを、超気性難特有の勘でシスターは感じ取っていた。

 

「日本になんて帰さないわ。其方はこのまま東海岸の此方のチームに一緒に行くのよ」

「おっ、ゴアにしてはおもしれー事考えてんなァ。で、どうすんだ?」

 

現役時代からは想像もつかない貴婦人のはっちゃけた発言に、嬉しそうにシスターが問いかける。

 

「……周囲に、此方が雇った腕利きの傭兵ウマ娘が複数潜んでますのよ?いくら其方でもこれを抜けるのは至難の業ですわ」

「へぇ……おもしれーじゃん」

「おお……今度はサスペンス映画の展開だぞ、先輩」

「アクション映画っぽくない?シーちゃん」

 

自分達に関係ない重バ場に英国コンビは呑気なものである。

シーザスターズに至ってはアホの子の気が引ける展開に、むしろもっとやれと内心考えていた。

 

「……申し訳ないけど、通報されたら面倒ですわ。其方達も東海岸までは同行してもらいますわよ?手荒な事はしませんので」

 

しかし、ここで風向きが変わった。

貴婦人はこの二人も連れていくつもりだったのだ。

この言葉に、瞬時にシーザスターズの顔色が変わる。

呑気にアホの子を愛でるシーちゃんから、欧州現役最強へ。

 

「……ほう?私を、か?ミス・イージーゴア」

「そういえば…其方の名前、存じてませんわね」

「それは失礼…では遅くなったが自己紹介とさせてもらおう」

 

キャップとサングラスを外したシーザスターズに周囲からどよめきが起こり、貴婦人は息を飲み、そしてシスターは口笛を吹いた。

こんな大物が、アホの子の迎えとは考えていなかったのだ。

 

「私の名はシーザスターズ。一応、欧州ではそれなりに有名なはずだが、な?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、シーちゃん?あれ?何これえ!!?足うごかない!!」

「先輩、ここで気付くのはやめてくれないか?私が決める所だろうこれ」

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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