こういう温度差というか湿度差好きなんや…イージーゴアに人間的な情緒があったら実際こんな感じだと思うし…。
ところでドバイパイセン出すタイミングに困ってるやで。副会長の予定だから二部には出るけど…。
──ああ、その件はそのまま頼むよ。君には苦労をかける。レーンの次走はチーム・ゴドルフィンの彼に一任している、君はエイダの次走だけ考えていてくれればいい。期待しているよ。
──ふう…ああ、来ていたのか。おはようエーネ、良い朝だね。お母さんは元気かね?マダム・ガスデンとランス君の言う事をちゃんと聞いているか?それとまたマジカルと問題を起こしたそうだな?喧嘩ならレースで決着を……
──何?仕事モード?私は元々こう……わかったわかった。今日はこの後理事会で、来月のアメリカ出張の準備もあるから相手してる暇なんて無いぞ?じいさんはトシだし現当主殿は孫をかわいがってばかりで働かないからな…俺の事こき使いすぎだろあいつら…。
──後悔?急に何だ……後悔、後悔か。
──特に無い…いやあったな。後悔という程でもないが…。
──あの時なんだろうな、ターニングポイントってやつは。
──ま、お前にはまだ早いよ。それよりもお前、今年はついてくるなよ?いつの間にダンと…
*****
『一着は…ワイズダン!自分の体ごとゴールに飛び込みました!!素晴らしい逆転劇!おっとミスターヴェラス?どちらへ?』
ターフコースのゴールを割りながら、ダンがごろごろと芝の上を転がる。
一心不乱に勝ちたいという気持ちを込めた、一歩だけのストライド走法の着地に失敗した結果である。
ただの全身でゴールに飛び込む不格好なジャンプになっていた。
だがその一跳びが、勝敗を分けた。
「ひええええ!止まらないよー!わぷっ!」
競走中にダンの右足を包んでいた赤いオーラも役目を終えたとばかりに消え去り、潜在能力の一時的な開放も終わりを告げた。
その全身全霊を込めた一跳びを自分では止められないダンを、何者かが前に立ち塞がり受け止める。
その際にダンは芝生で顔を軽く擦った。痛くて少しだけ涙目になったダンが見上げる先には、二人のウマ娘がいた。
「おーい、大丈夫か?」
「無茶するね、キミ」
受け止めたのは今回の対戦相手、ドリームアヘッドとアニマルキングダムの二人であった。
負けを悟り悔しさを感じる前に、ダンがすごい勢いで転がっていくのを見て真顔になって追い駆け、止めたのである。
この二人にダンが素直にお礼を言う。ウマ娘の友達がいないダンにとっては不思議な感覚だった。
「あ、ありがと……えへへ、止まれなくて」
「マジかよ。面白いなお前」
「……キミ、レース前と全然キャラ違わない?」
レース前、というドリームアヘッドの言葉にダンが首を傾げ、何があったかを思い返す。
「レース前…あっ!!」
そして顔がまず真っ青になり、その後すぐに真っ赤に染まる。
この百面相を見て、アニキはコイツおもしれーなと評価を更に上げた。
レース前の小気味の良い啖呵と言い、気性難の彼女の琴線にドストライクである。
(え、えええええ!!ボク何考えてたの!?みんなぶっ潰すとか物騒すぎるし、それに、それに……トモ兄をボクのモノにするって……)
ウマソウルに触れ、心の奥に潜む巨神の意識に感化されていたダンは、レース前に自分が何を考えていたかを思い出し顔を覆った。恥ずかしい黒歴史が今ここに生まれたのだ。
「なんかもうゴメンナサイ……恥ずかしいよ、ボク……」
「あはははは!!勝って謝るとかやっぱり面白いなお前!!」
「なんかもう、悔しい気持ちとかどっか行っちゃったよ……ところで」
真剣な表情で、ドリームアヘッドがアニキを指差しながらダンに訊ねる。
この二人のレース前のやりとりが耳に入っていた彼女は、確認したい事があった。
「こっちのさ、アニキとレース前に何か話してたよね?何があったの?」
「アニキはやめろって言ってるだろ。あー、そうだな、それ言っとかねーとな」
今度はアニキがドリームアヘッドを指差し、言葉を続けた。
「あっちゃん、コイツ」
「……え?」
「うん、あっちゃんは私。そう呼んでる子は限られてるけど」
そう言い、ドリームアヘッドは観客席の取り巻きにちらり、と目を向ける。
ダンはそこで全てを察した。そしてもう一度顔を覆った。
勘違いである。更に黒歴史が生まれた。
「ゴメンナサイ……もう、穴があったら入りたい……」
「あははは!気にすんなって!しょうがねーしアタシは気にしてないから!」
「それより、何かされたの?」
ダンは言うべきか悩んだが、ドリームアヘッドの真剣な表情に逡巡した後に答える。
「う、うん、ボクのお世話になってる人の事で、ちょっと……」
「バカにされたの?」
「うん、そんな感じ……」
「へえ……」
ドリームアヘッドのジト目がちな目が、更に険しくなる。
鬱陶しい取り巻き気取りが裏で余計な真似をしていた事に、堪忍袋の緒が切れたのだ。
有り体に言えば楽しいレースに水を差されブチ切れていた。
「そう……ごめんね。私があいつら放置してたから」
「えっ!?ううん、キミが悪いわけじゃないよ」
「いや、これはケジメみたいなものだから。イギリスに行く前にあいつらの根性、叩き直しておくよ」
そう言い、ドリームアヘッドが取り巻きを睨みつける。
取り巻き達は自分達に怒っているあっちゃんに震え上がった。
後に根性を叩き直されて、まともな競走バの卵となる。
「なー、ドリー?お前やっぱりイギリス行くのか?アタシらとプロになってもやろうぜ!」
「それも悪くないけどね、考えておくよ。就職先が見つからなかったらだけど」
仲が良さそうなこの二人を見てダンは羨ましく感じ、この二人なら、自分を怖がらないこの速い二人なら友達になってくれるかもしれない、と期待を抱く。
憧れだった。競走バの先輩達のようなレース後に称え合う友人というものを持ってみたかった。
「あ、あのね!」
「おっ、なんだなんだ?」
「どうしたの?」
以前のダンなら萎縮して言えなかった言葉を、勇気を出して伝える。
「ボ、ボクと友達になってほしいなあ、なんて……」
しかしレース外ではまだ少し気弱な部分のあるダンはそう言うのがやっとの有様であった。
最後の方は蚊の泣くような声だった。
この言葉を聞いた二人が目を合わせてから、笑って答えた。
「何言ってんの、お前」
「うん、おかしいよね」
断られる、と感じたダンが俯く。
しかし、二人には続きがあった。
「一緒に走ったならもうダチだろ!また走ろうぜ!!」
「レースバカっぽい理論だけど……たまにはいい事言うね。そうだよ、もう友達」
ダンは、呆然と二人を見上げた。
競走バの夢と同じく憧れ、諦めたもう一つが今、手に入ったのだ。
「ホント!?よかったあ、断られるかと……」
「断るワケないだろ?アタシから声かけるつもりだったし」
「イギリス行く事になっても、こっちで自主トレする時は声かけるよ。また走ろう」
「うん、うん…やったぁ…よろしくね、ドリーちゃん、アニキちゃん!!」
「お前もアニキかよお!!」
アニキが頭を抱え、ドリームアヘッドとダンが声を上げて笑う。レースを通じ、確かな友情が生まれていた。
二人に手を貸してもらい、ダンがようやく立ち上がる。
<取り込み中すまない。ワイズダン、少し話があるが…いいかね?>
そこに、機械的な声色でダンを呼び止め、怪人が現れた。
実はこの怪人、転がるダンを受け止めようと飛び出していたが、二人の様子を見て任せる事に決め、様子を伺っていたのである。
このコース内への怪人の登場に観客が沸いた。
シンデレラクレーミングの解説は、一人だけ自由に契約交渉を行う権利を持つ。
その権利を今、怪人は使う為にコースに現れたのだ。
「ミスターヴェラス…あ~、やっぱりダンかぁ…だよなぁ、速かったし」
「しょうがないよ。どっちにしろアニキはプロ入りできるんだし、譲ってあげなよ」
「ま、しゃーないな。行こうぜ!ダン、後でな。連絡先とか教えろよ!」
アニキとドリームアヘッドが空気を読んでターフを去る中、ダンは真っ直ぐに怪人を見つめる。
<ワイズダン、素晴らしいレースだった。トモヤ君から仔細は聞いている>
懐からガラスの靴の小さなトロフィーを取り出した怪人が、跪き、それをダンに差し出した。
<君を、我がチーム・カルメットにスカウトしたい。後日、正式に交渉の場を設け、契約書にサインして貰うことになるが…ひとまず受け取って貰えるだろうか?>
こうなると言うことは、自分を導いてくれたあの魔法使いのような青年から聞いていた。
チーム・カルメットはアメリカ屈指の名門チームである。
スポンサー契約によるプロ入りまでのバ具、学費等の資金援助、更には練習場の提供から所属する一流トレーナーの指導まで受けられ、プロ入り後もこの名門所属の競走バとなれる事が約束されるのだ。
この怪人のスカウトを受け入れれば、自分の夢への道が舗装される。
このトロフィーを受け取れば、夢が叶う。憧れの世界へ行ける。
魅力的な話だった。以前までは。
(……ボクは、やりたい事が、一緒に走りたい人がいるから、断らないと)
ダンはあの三人組より聞かされ、智哉が誰とも契約していない落ちこぼれのトレーナーだと知った。
きっと何か理由がある。そして、叶うなら一緒に夢を追いかけて欲しい、自分のトレーナーになって欲しい。
それが今の、ダンの望みとなっていた。
チーム・カルメット所属らしいが、この怪人の誘いを受けたらそんな彼とは契約できないかもしれない。
自分から、彼に契約を望みたい。
夢を叶えるガラスの靴も、お城に連れて行ってくれる王子様もいらない。
導いてくれた魔法使いが欲しい。
それがダンの望みだった。
その為に、怪人の誘いは断らなければならない。
しかし大観衆の前で断っては怪人に恥を掻かせる事になる。
ダンは悩み、そして勇気を貰おうと、何処かで見ていると約束してくれた青年を探した。
(トモ兄…いない…見ててくれなかった?)
しかし、見当たらない。
どこにもあの優しい青年がいない。
本人は知らないが、目立つ青年である。
いつも彼を目で追っていた、ダンに探せないはずはなかった。
(トモ兄…いない…どこ…?…トモ兄)
途端に、ダンは不安になった。
きょろきょろと、目尻と耳を下げながら、求める魔法使いを探す。
(探してるのか…?俺を…)
この不安げなダンの様子に、怪人の中身は胸を抉られるような感覚を覚えた。
鈍感な中身ではあるが、自分を慕ってくれているのを知っていた。
信じてくれているのを知っていた。
しかし、我慢の限界だった。
周囲には、離れた位置にこちらを伺うウマ娘のサブトレーナーが一人。
恐らく、スカウトに向かった怪人に気を使い、整備の時間を遅らせてくれているのだろう。
時間はもう、無かった。
深く、怪人がため息をつく。
この様子に、ダンは怪人を待たせている事を思い出し、何か言おうとする。
<一言だけだぞ?>
「……えっ?」
知っている、優しい声色だった。
怪人が、首を抑え、そして言葉を続けた。
「──頑張ったな、ダン」
知っている、声だった。
今、一番欲しい言葉だった。
「と、トモ兄……?」
<後で、また話そう。今は受け取ってほしい>
「は、はい……」
首をもう一度抑えた怪人は、元の機械的な声色に戻っていた。
ダンにトロフィーを手に取らせた後、踵を返し観客席に戻っていく。
しかし、ダンには確かに届いていた。
魔法使いは、確かに自分をずっと見てくれていた。
ずっと、自分の夢を叶えようとしてくれていた。
ダンの顔が紅潮し、目に涙が浮かぶ。
(トモ兄が、ヴェラスさん……じゃあ、じゃあ…)
(ずっと、ずっとボクの為に、ここまでしてくれたの?ずっと、ボクを見ててくれたの?)
(ボクの為に、解説も受けてくれたの?全部、ボクの夢を、叶える為に……)
喜びの涙が、ダンの頬に流れた。
怪人の後ろ姿から、目が離せなかった。
(あの人だ、ボクはあの人の為に、走りたい。全部、全部、あの人に、ボクの全部を…)
この日一人の少女は、夢の舞台で走る目的を見つけた。
たった一人の為に、夢へ導いてくれた魔法使いの為に──
「キャプテンのスカウト終わったみたいね。整備急ぐわよ!」
「リーダー、すまない、用事できた」
「あっ!ちょっとあなた!………あんな子、いたかしら?」
明日も投稿するやで。
もうアレやで。
1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…
-
いる
-
いらない
-
まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
-
キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ