トムとフラン   作:AC新作はよ

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第三十四話 策士、策に目覚める

「姫様、追い込み、終わった」

「わかった、行ってくる、手出しはいらない」

「姫様、ご武運を」

 

アメリカ建国にも関わったウマ娘帝国の血を色濃く残す大氏族にして、数多の名バを世に送り出したサーアーチー族の腕利きの狩人達が廊下の壁際に並び、その中央をインディが歩く。

獲物の追い込みは、完了した。

狩りの達人のウマ娘達のその手腕は、智哉の明晰な頭脳を凌駕していたのである。

狙い通りの展開だった。トレーナー席に手勢をわざと配置せず、ここに獲物が逃げ込むように仕向けたのだ。

当の本人達が気付かぬまま、冷静に、確実に。

 

「姫様!あれはすごい婿!大族長様もきっとよろこぶ!」

「ありがとう。結婚式、是非来てほしい」

 

氏族の仲間の片言の祝福にインディが礼を返す。

扉を蹴破る智哉のその力強さは、この肉食系ウマ娘達の心を揺さぶっていた。

氏族の若者達の間では、競走バとして優れた成績を残したウマ娘を姫様と呼び尊敬の眼差しを向ける風潮がある。本来は上下関係の存在しない友人同士である。

なおインディも含め彼女達は普通に喋ることもできる。古き良きネイティブウマ娘の掟として、狩人として動く際は片言を守っているだけなのだ。

 

この氏族の仲間が言う大族長の地位を、偉大なるネイティブダンサーよりつい最近受け継いだ伝説のウマ娘クリミナルタイプは、久しぶりに婿狩りをやると聞いて三回ほど氏族の使者に聞き返していた。

 

『えっ?ほんとにやるの?今、21世紀だよ?それ何か起きた時の処理誰がやるの?大族長?私?嘘でしょ…ば、場所は…?キーンランド、レース場?ちょっとまってその日はダメでしょ!!!!』

 

この大族長の激励を受け、氏族でもないのに婿狩りを成功させた超気性難と、そのライバルの貴婦人相手に勝利を収めた事もある尊敬してやまない大族長に報いるべく、彼女達はいきり立った。

豊猟祈願の儀式の際に大族長を招き、何があろうとこの狩りを完遂してみせると誓ったのだ。

 

大族長は胃痛でしばらく寝込んだ。

 

この若き狩人達と引き継いだばかりの大族長は知らない話だが、いくら憲法で承認されているとは言え、過去の開拓時代はともかく工業化及び近代化が進んだ昨今の町中で大立ち回りを行うのは相当な無茶である。

 

先代の大族長にして、アメリカ競バ史に燦然と輝く『灰色の幻影(グレイゴースト)』、偉大なるネイティブダンサーはこの一族の伝統ある文化的行動にある対策を打っていた。

 

『どうも、突然だがすまない。君はウチの一族のウマ娘に狙われているのだが?婿狩りの準備が進んでいるのだが?』

『えっ、アイツかぁ、良い子だな、とは思ってたし…』

『そこで、だが。一つ芝居を打って欲しいのだが?』

 

そう、出来レースである。

事前に、狙われている対象に申し入れていたのだ。

狙われた対象も相手を憎からず思っている事が多かったため、ほとんどの事例で穏便な形で狩りを成功させていたのだ。

こういった経緯により平和裏に伝統を守ってきた氏族だったが、偉大なるネイティブダンサーがクリミナルタイプに大族長業務の引継を行う際に問題は起きた。

 

『穏便な婿狩りマニュアル、何故かここにあるんだが?引き継いだ、はずだが…ま、まあ、今さらやる奴なんていないんだが?』

 

偉大なるウマ娘は、盛大にやらかしたのである。

そしてやらかした事に気付いた彼女は、何故か強いシンパシーを感じるとあるウマ女優の追っかけを始め、世界各地のロケ地巡りを始めた。要するに逃げたのだ。

親友に瓜二つの伝説のウマ娘がどこに行っても現れる事に、大女優は勘違いを起こした。

 

『なんやオグリンはるばるよう来たなあ。自分撮影どうしたんや?えらい日焼けしとるけど、どこおったんや?』

『オグリン?知らない名前なんだが?それよりもサインが欲しいんだが?』

『いやどう見ても自分オグリンやろ。まあええわ。カントクにカメオ出演出来るか聞いたるわ』

 

こうして偉大なるネイティブダンサーは映画界に殴り込みをかけ、この大女優の親友と双子カンフーウマ娘映画で主演デビューを果たし、良い空気を吸っていた。やらかした事は忘れた。

 

そんな過去がありつつも問題は現在である。

インディは止まるつもりは無い。

元々智哉の事はよく働く青年と好印象であったし、惚れっぽいインディは智哉をよく目で追っていた。だから、あの怪人トレーナーの中身だと気付いたのだ。逃がすつもりは毛頭無かった。

ふと先程、三分の猶予を与える際の智哉の発言を思い出す。

勝利条件と、逃げた前例の事を。

 

(そういえば…一人、逃げた者がいたと母祖達が言っていた気がする)

 

インディが幼い頃に、婿狩りに成功した母祖達より聞いた盛りに盛った武勇伝。

その中に、ただ一人だけ逃げることに成功した者がいると微かに覚えていた。

 

(確か…ガス?とか言う名前。協力者が、いたはず)

 

何か見落としがあったら困ると、インディが記憶を掘り返す。

 

(協力者…名前…)

 

トレーナー席の出入り口の前で、インディがその足を止める。

 

(──ジョー?ジョーと呼ばれた、男がいた?昔にも)

 

過去、母祖達の話の中で耳に挟んだ、ジョーと言う名の男。確かにそんな男がいたと、母祖達は言っていた。

強く、切れ者だったが何故か興味を持てなかった、とも母祖達は言っていた。

トレーナー資格の取得ついでに、ウマ娘にモテたくてアメリカに来たのにモテなさすぎて諦め、故郷で幼馴染の牧場ウマ娘と結婚した、そんな男だと。

 

(何故、同じ名前?トモヤは知っていた?いや、それとも、誰かが教えた?)

 

深まる疑惑に思考の渦に呑まれそうになるも、インディが首を振ってそれを追い出す。

今は考える時ではない。何か秘密があったとしても、後で考えればいい。

そう思い直し、トレーナー席の中へ足を進めた。

その先には──

 

「キリキリ歩けやーてめーらー」

「トレーナーの皆さん!ご協力感謝します!」

 

まず目に入ったのは大柄な赤毛のウマ娘とウマ娘捜査官、そしてその二人に連行される男三人と、敬礼をしながら感謝を述べる金髪の男。

 

「アリーダぁぁぁあ!!!オラは!オラは……!!」

「ええい!暑苦しい!離れろ!!あといい加減そのカッペ言葉をやめろ!!」

 

次に目に入ったのは、自らも尊敬している伝説のウマ娘、アファームドと彼女に抱き上げられて鬱陶しそうにする自らも所属するチーム・カルメットのオーナー、アリダー。

 

「みんなでうまぴょいするから尊いんだ。絆が深まるんだ」

「ケン、もういいデスカラ。帰国したらデュランに怒ってもらいマス」

「それは困る」

「うわっ!急に真顔にならないでクダサイ!」

 

焦点の合わない目でぶつぶつと何かを言う童顔の日本人らしき青年と、彼に呆れた様子のフランス系の美少年。

これは関係ないだろうとインディは目をそらした。

 

「エクスちゃん!アメリカに来てたのね!」

「まさか貴様とここで邂逅するとはな…フランケル!やはり我と貴様は宿命の……こら!我にしがみつくな!」

 

得意気に口上を述べる鹿毛に小ぶりの流星を持った勝気な少女と、彼女に嬉しそうにしがみつく絶世と言っていい美貌の、金髪の少女。

この少女にインディが一瞬目を奪われるも、これも関係なさそうだと判断し、前列を目指す。

 

「父!ビリー!こわがっだぁああぁあ!!」

「全く、かっこつけるからだ、お嬢……」

「二人とも、本当に無事でよかった。あの若者には借りが出来たな……」

 

ブルネットの髪をボブカットに切り揃えた幼女がヒスパニック系の浅黒い肌の少年に泣きつき、その二人を安堵した様子で眺めるボビー・バフェット氏。まさかの大物の姿にインディが足を止めるも、これも関係が無いと判断する。

最前列に、到達する。

 

「あなた、また抽選に負けたんですって?優秀な競走バは我がチーム・クールモアにこそ相応しいのよ。わかっているの?チームの一員という自覚があるのかしら?全く……まだ話は終わっていないわ。そこに立ちなさい」

「………」

 

最前列にいたのは、チーム・クールモアのマークがついた紫色のツナギを着込み、キャップを深く被ったサブトレーナーの男を詰問する白毛の令嬢。確か英国で現在話題の若手トレーナーだとインディは覚えている。

無茶な理由で叱られるサブトレーナーに同情しつつも、そのまま辺りを見回す。

智哉の姿が、どこにもなかった。

 

(…‥‥いない?そんなはず、ない)

 

ここに逃げたはずだった。追跡を任せた仲間は腕利きの狩人である、見落とすはずはない。

もう一度、最前列からインディが全体を見回す。

 

(……あの子?一瞬すごい目、してた)

 

ふと、見回した先であの金髪の美貌の少女が、こちらを渦を巻く目で見た気がした。

 

(見たの、ワタシじゃない)

 

インディは優れた狩人である。狩場では少しの変化も見逃さず、視線の先を読むなどお手の物である。

少女の視線の先らしき方向に、目を向ける。

 

「まるで新人のような仕事振りね?あなた、資格を目指して何年目?才能無いと思うわよ」

「………」

「アマチュア時代の実績は?同い年の私はもうG1を勝っているわよ。恥ずかしくないの?」

「…………」

「…頭が高くないかしら?座りなさい」

「……………」

「何で椅子に座っているの?私が座れと言ったのは……」

「………………」

「床よ」

 

流石のインディもドン引きした。

白毛の令嬢がヒートアップし、頬を紅潮させながら楽しそうにサブトレーナーに追撃を加えていたのである。

パワハラ案件である。令嬢は何かに目覚めていた。

しかも自分で立てと言っておきながら今度は床に座れと言っていた。パワハラ案件である。

サブトレーナーは背中を煤けさせながら素直に床に座った。

この様子に令嬢はくふっ、と微かに変な笑い声を上げる。

 

(姉上……演技なのか?これは…いや姉上嬉しそうなんだが。なんか我おなかいたい)

 

少し離れた場所でこれを見ていたエクスは、恩人でもあるサブトレーナーにノリノリでパワハラをかます姉に胃が痛くなってきていた。何故か姉の肌がつやつやとしているように見えた。

この年にして胃薬が必要である。不憫である。

更にエクスの胃が痛い理由があった。

隣のフランである。先程から目で自分に「アレ、なんとかしてちょうだい」と強く訴えてきている。

エクスの認識ではフランはもやしに懐いていたはずだが、アレ呼ばわりである。現在進行形でもやしの株は暴落していた。

しかし、今姉を止めては恐らくあの狩人に発覚するであろうと思い、エクスは「むちゃをいうな。我もアレはどうかと思うけど……」と目で訴え返した。妹も無意識にアレ呼ばわりである。

フランがこれを受けて頬をぷくっと膨らませた。無言の抗議である。何故かアイコンタクトが成立している。

 

追手が迫る限られた時間の中で、もやしが提案した事はチーム・クールモアのサブトレーナーへの変装であった。

演技としてもやしが智哉へ詰問し、取り込み中を装い、頃合いを伺って退出させる予定である。

しかしもう演技では無くなっていた。もやしは何かに目覚めている。

智哉は「こいつ何か息荒いんだけど……」と困惑しながらも藁にすがる思いでサブトレーナーのフリを続けた。助かるのならプライド程度余裕でドブに捨てられる男である。

 

しかし、フランの視線からインディはこの二人が怪しいと既に感じていた。

 

(……背丈は、トモヤと同じ。顔だけ、確認する)

 

近付いて来るインディを目に留めたもやしが、真顔に戻って智哉に「後ろに来てるわよ」と事前に決めていた合図を送る。

気持ちよくなっていたがギリギリの所で本題を思い出したのである。

これを受けた智哉が、窓に目を向けた。用意しておいたプランBである。

 

「ふう……暑くなってきたわね」

 

詰問により火照ってきたという素振りで、もやしがトレーナー席最前列の窓の一角を開く。

そこで外、つまりコースと観客席を見たもやしは目を疑った。

先程から、もやしを含む全員は悪漢の占拠から婿狩りの大氏族の乱入と目まぐるしく状況が変わり、外へ余り注意を払っていなかった。

つまり、ようやく外に目を向けたのだ。

その、目を疑う光景とは──

 

 

 

 

 

 

 

『な、何でしょうかこれは!?観客席で乱闘です!一体何が!?ってこれ警察呼ばないとダメじゃない!?』




今回遭った酷い目:もやしのパワハラ

このジョーさんは本物やで。
詳しくはキャラ紹介で書くやで。

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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