トムとフラン   作:AC新作はよ

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バーイード強すぎィ!ノーステッキでこの勝ち方はバケモンやで……。
アメリカ編も終盤に差し掛かってるやで。
このまま流れるように1.5部最後のエピソードに入る事になるやで。突っ込まれそうだけど…。
キャラ紹介貯まってるから繋ぎの部分の切りのいいところでやるやで。
その後は未来ダンちゃん一話と没プロットのバッドエンドを一話書いてから章の繋ぎの閑話を入れて(順番は変わるかも)フランの史実レース編、二部に行くやで。アメリカ編予想外に延びちゃったから次は早く終わらせるつもりやで。頑張る…。


第三十七話 その血の、さだめ

「うえへへへ、良い気持ち~~」

「ミディ姉、ちょっとは反省してるの?」

「してるしてるー。ダンちゃんのふともも柔らかーい」

 

ここはキーンランドレース場の出走バの待機所。

すっかり出来上がった姉をダンが叱った後に、膝枕で介抱している最中である。

姉は、言わずもがな名バである。

先日グローリーカップで四勝目を挙げた。

その名バが、未来の競走バが集まり出走に備えるここキーンランドレース場の待機所で、つい先程まで床に座り込んで露店で買ってきたつまみとダースで買い込んだ缶ビールを広げソロ呑みを敢行していたのである。

もう一度言うが、姉は名バである。

著名人で、プロ競走バを目指すウマ娘達の夢の到達点に至った、憧れの存在である。

 

「ミッドデイ姐さん、こんな人だったのかよぉ…」

「ウインターカップ凄かったし、ダンが紹介してくれるって言うから来たけど……」

 

当然、競走バの卵であるアニキとジト目がちな目を持つウマ娘、ドリームアヘッドには幻滅されていた。ダンは既にそういうものだと思っている。

姉の女子力は地に落ちるどころかそのまま地中にめりこんで帰ってきていない。

そんな姉が手をダンの尻尾の付け根に持って行き、さわさわと撫でた。ここに来て更にセクハラ案件である。姉の女子力はマントルと中心核を抜けて地球の裏側まで到達した。

 

「ひゃん!?もう!ミディ姉!!」

 

姉のセクハラを受けて尻尾の毛を逆立たせたダンが、姉の額をぺちんと叩く。

 

「にゃーん!ダンちゃんいたーい!うえへへー」

 

姉は完全に調子に乗っていた。

先日弟を巡る因縁も片付き、あと一年を無難に過ごして弟を英国にリリースすれば肩の荷も降りる。心残りはダンの事のみである。この優しく、世話を焼いてくれる少女を姉はいたく気に入っている。

しかしダンもプロへの道が拓かれ、友人もできたと今紹介してもらった。

全ての問題がクリアしたのだ。保身に長けた姉は後は自らの腹案通りに動く予定である。

なお弟は現在狩人ウマ娘相手に人生最大の危機の最中である。そもそも姉が婿狩りの事を教えていれば弟は少しは警戒していた。肝心な時にいない女であった。

 

「さっきから外が騒がしくないか?」

「何だろうね…?レースも中継も中断してるみたいだよ。帰ってるお客さんもいるし」

 

待機所は外の喧噪から隔離されていた。

レースに備える出走バ達が自分の出番が遅れていることに首を傾げ、呼び出しの係員すら姿を見せないことにアニキとジト目は違和感を覚えた。

そんな二人を余所に、姉が上機嫌でダンの顔を見上げて言った。

 

「あのねー、ダンちゃん」

「なあに?ミディ姉」

「うへへー、あたしねー、天才だわやっぱり」

 

この時、姉は本当に調子に乗っていた。

久居留家の血を引く女は、肝心な時にいない事が多く、そして調子に乗ると盛大にやらかす悪癖があった。母はその逆だが姉は当主である父の血を色濃く継いでいる。

更に付け加えると、姉は弟がダンに怪人の正体をバラした事も、ダンの決意も知らない。

 

「何が天才なのミディ姉……ボクちょっと恥ずかしいんだけど」

「いやそれがさー、あたしの抱えてた事が全部解決したのよ」

 

酔った勢いもあった。姉は、普段は絶対に犯さないミスを犯した。

 

「後はあのバカを英国に帰らせたらね、あたしも肩の荷が降りるってもんよー!うえへへー」

 

聞き捨てならぬ言葉であった。 

 

 

「………………何、それ」

 

 

ダンの目が光彩を失い、姉のこめかみに拳を当てる。

 

「えっダンちゃん……?痛っだあああ!??ちょっとまってダンちゃんこれホントに痛いんだけど!!!」

 

そのまま、ぐりぐりと拳を埋め込み始めた。

質問ではない。尋問の開始である。

 

「ミディ姉?詳しく、話して?」

 

 

 

智哉、フラン、そしてダン。

三人の運命が、捻じれ、交わり始めた──

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

智哉がフランをその手に抱えながらコースを抜けようと観客席側のラチを飛び越え、一気に突き進む。

その際にかの欧州現役最強ウマ娘、シーザスターズとアメリカ競バ界の重鎮であるイージーゴアの顔を確認したが智哉は見て見ぬ振りをした。

観客がいない中でその二人とガラの悪そうな不良シスターがラチ沿いで揉めているということは明らかに厄ネタである。

関わりたく無さ過ぎる三人組であった。関わっている暇も無い。

インディは飛び降りた後にどこかに姿を隠しているが、恐らく先回りされている。

 

(どうする……?コースの先は開けた芝生の広場とカレッジ、手薄な方は恐らく広場だが間違いなく見つかる。インディに見つかったら俺の足じゃ逃げれねえ。インディにはアレがあるからな……)

 

智哉はかつての管理バであるインディの競走能力と特性を当然知っている。

それを鑑みて、直線勝負ではまるで勝ち目が無いことを確信していた。

スプリント路線のウマ娘は闘争心が強く、1000~1200mを対抗バ達と激しく競り合いながら走破する能力を有している。

超人の智哉と言えどその競走能力は脅威の一言である。

1200mを最高時速70kmで疾走するウマ娘に追われるなど悪夢でしかない。

しかもインディはスプリント路線の年度代表ウマ娘、エクリプス賞最優秀スプリンターにも選出された屈指の実力者である。

強い闘争心と先行する獲物を狙い澄まして仕留める冷静さを併せ持つ、才能溢れるハンターなのだ。しかも今は武装している。まともにやっては勝ち目などない。

 

(インディの仲間は何人残ってる?逃げるならカレッジか?だが、どこからカレッジ内に逃げる?カレッジでサリーさんと合流できるか?最初のプランは無しだ。ウマ娘専用レーンを走っても追いつかれる可能性が高いし、警察に捕まったらそのまま引き渡されかねないな……)

 

トレーナーとして実績を残す中で、智哉はその明晰な頭脳を効率的に扱う術を覚えた。

コースを抜けながら、どう動くかを無数に想定し、それを一つずつ論理立てて潰していく。そうして最適解を導き出すのだ。

高速で思考が渦巻く中、ふと何者かが自分に併走し、こちらを伺っているのに気付いた。

 

「じーっ」

(………えっ、この人いつからいたんだ?)

 

鹿毛のボブカットに耳穴の開いたベレー帽を被り、ドレスコードとしては及第点のチェスターコートを羽織ったきらきらと輝く大きな目が特徴的な小柄のウマ娘。

智哉は顔を見てすぐさま何者かに気付いた。

チーム・ゴドルフィンが世界に誇るスターにして、かの生徒会長のライバル兼親友である世界的競走バである。

 

ファンタスティックライト──シニア級までの戦績25戦12勝。世界中の大レースで活躍し、世界中のレースを駆け巡った偉大なるウマ娘に与えられる名誉ある称号、ワールドシリーズ・レーシングチャンピオンに二年連続輝き、二年目には欧州年度代表ウマ娘の賞であるカルティエ賞の年度代表ウマ娘と最優秀シニアウマ娘、更にエクリプス賞最優秀芝シニアウマ娘も同時受賞した伝説のウマ娘である。

特にガリレオ会長との二度の死闘は今も語り継がれる名勝負となっている。

現在も欧州のレジェンドグレード並びにアメリカのグローリーカップに精力的に参戦している。姉の先輩でもある。

 

そんな伝説のウマ娘がいつの間にか自分と併走しているのだ。智哉には併走される心当たりが無い。

そんな彼女が、智哉と目が合うや口を開いた。

 

「ねえねえ!キミ達前に選抜戦出てたよね?」

「ん?あれ、もしかしてファンタスティックライトさんすか?」

 

智哉は念の為に本人かどうかを確認した。もし本人ならば助力を請う事も想定の上だった。

かのファンスタティックライトの脱走癖は有名であり、その手口は多彩である。

 

「うん!逃げてるなら手伝うよ!!」

 

そう言うとぐん、とアホの子は速度を上げ、智哉の前に立った。

先導してくれる様子である。智哉はそれに従い、その背中を追う中でやけにフランが静かな事に気付き、腕の中のフランを見た。

 

「むにゃむにゃ……トム、先生を愚弄したらいけないのよ。シリィ先生とピル殿下を放たれるのよ」

「この状況で寝るのかよ。しかも何だよその寝言。誰だよ先生って」

 

フランは寝ていた。つらいわモードに入ったフランはすぐ電源が落ちるのだ。

しかも意味不明な寝言も言っている。智哉はまだフランが先生と呼ぶ人物を知らない。

 

「おっ、綺麗な嬢ちゃんだなぁ?お前の妹か?人間なのに足はえーなあんちゃん」

「ふむ、大きくなったな。まだ収穫するには早いが……」

「……へ?」

 

そんなフランを、後ろからあっという間に追いつき、左右から覗き込む二人のウマ娘が現れた。

言うまでも無く、ラチ沿いで揉めていた三人のうちのシーザスターズと不良シスターである。

伝説のウマ娘二人にとって、フランを抱えたままの智哉に追いつくなど容易い事である。

 

「いや、妹みたいには思ってるんすけど、俺の妹って訳じゃ……って何で俺についてくるんすか!?俺何かしました!!?」

 

明らかに厄ネタを抱えた三人のうちの二人である。よく見れば不貞腐れた表情で少し後ろに貴婦人もいた。

関わりたくない厄ネタに併走されている。貴婦人と同行しているこのシスターの正体にも察しが付いた。渡米してくると聞いていた超気性難である。嫌な予感を智哉は猛烈に感じた。

 

「いや、何か面白そうだからよー。なんで逃げてんだ、あんちゃん?」

「私は先輩のお守り役だ。断じて責任から逃げた訳ではない。いいな?」

「はあ、よくわかんねえっすけど……実は……」

 

智哉は内ラチを飛び越えつつも、簡潔に三人に説明した。結婚を迫られて狩人ウマ娘30人と知人に襲われており、しかも警察に助けを求められないと伝えたのだ。怪人の中身という事は隠しているので元担当という部分は濁している。

この説明をする際に三度シーザスターズに聞き返された。気持ちはわかるので智哉も丁寧に返答している。

 

「…………なんだそれは。アメリカという国は馬鹿じゃないのか?」

 

シーザスターズは智哉の言葉を咀嚼した後に、呆れ果ててそう言った。歯に衣着せぬ物言いであった。

 

「ぶわははははは!!走ってんのに笑わせんなよ!!!今時婿狩りのターゲットにされるとかお前よっぽどついてねぇんだな!!」

 

アメリカ出身でアメリカの風習も当然知っているシスターは爆笑した。こちらも歯に衣着せぬ物言いであった。

 

「……言いたい放題じゃねえか、あんたら野次ウマならどっか行ってくれよ……」

 

げんなりとした表情を智哉が見せるも、シスターは意に介さない様子である。彼女にとってこんな面白そうな事を見逃さない手は無いのだ。

 

「ふん、ふん、お前を狙ってるっつうヤツの名前は?」

「……スプリント路線のインディアンブレッシングって子っすね。短距離の年度代表ウマ娘にもなってます」

 

ぎらりと、シスターの眼光が鋭さを帯びる。

 

「……ほー、そんなんに狙われる、か……お前相当なモンだな」

 

シスターは当然だがアメリカ出身であり、何度か婿狩りの現場に居合わせた事もある。そもそも自分が夫を拉致する発想に至った原点である。

そしてターゲットの傾向が、ほとんどが優秀な何かしらの実績を残したトレーナーだと言う事を知っている。

目の前の青年が恐らく優秀なトレーナーだと察せたが、婿狩りのルールも知っているシスターは手出しするべきではないと考えた。

ただの重バ場なら当人同士の問題である。

 

「成程なぁ、わりーなあんちゃん、俺様は手出しできねぇ。道案内ならライト嬢ちゃんが適任だしな。見ててやるから頑張れや!」

「見るのは確定なんすか……」

 

しかしそれはそれとしてこんな面白い事を見逃す気は無かった。ついて行ってどうなるかを見届けて帰国後の土産話にでもしようと思っている。完全に野次ウマ娘である。

 

「ふむ……先輩が興味を持つ相手、か」

 

そしてシーザスターズは思案していた。青年は初対面であるし、所詮他人事である。

しかしアホの子がレース観戦よりも、この青年を助ける事を優先しているのが気がかりとなっていた。

アホの子の直感は鋭い。それに乗るべきだろうか、と考えている。

 

「……一回だけ、助けてやろう。これも何かの縁だ」

「マジっすか!?助かります!」

 

思案の結果、シーザスターズは助ける事に決めた。

智哉はシーザスターズが姉の肘鉄を弾き返した事を姉本人から聞いている。姉の肘は、日本で古武術の師範を務める祖父仕込みである。腰を入れて本気で打ち込めば大木もへし折る。

それを受けて平然としている欧州現役最強のウマ娘。戦力としては格別である。

 

「こっち!この道からあっち!!」

 

話している内にコースを抜け、広場とカレッジに繋がる小道に一行は入った。

アホの子は、迷う様子も見せずカレッジ方面を目指す。不思議とインディもその仲間も現れなかった。

 

「ここから入って、上を目指して!屋上!」

「り、了解っす。階段上ったらいいんすか?」

「行けたらなんでもいいよ!シーちゃんはここで待ってて!」

「門番か?了解した」

 

カレッジの裏手の窓、そこを指差しながらてきぱきとアホの子が指示を飛ばし、シーザスターズが窓の前に立つ。

智哉が窓に触ると、がらりと何の抵抗も無く窓は開いた。鍵がかかっていなかった。

 

(どうなってんだ、この人の勘……?)

 

智哉は、思わずアホの子を眺めた。ここまでの行動にまるで迷いが無かった。窓が開いているのを確信しているかのように、ここに到達したのだ。

 

「いそいで!もう来ちゃうよ!」

「早く入れよあんちゃん。ゴア、俺様達も行こうぜ」

「この足の速さ…それにインディアンブレッシングの関係者…なるほど、そういう事ですのね」

 

貴婦人は、喧嘩相手に梯子を外された事に機嫌を悪くしつつも、黙って青年を観察していた。

そして答えを導き出していた。青年があの怪人に関係する人物だと気付いたのだ。

 

「……よろしくてよ。此方は其方から離れる気はありませんもの」

「よし、あんちゃん脱出手段とかあんのか?」

「ああ、こいつの使用人の人が……」

 

窓を越え、カレッジの廊下に立った智哉がそう言いかけた所で、まるでタイミングを計ったかのように智哉の携帯が着信を知らせる。

 

 

 

 

 

 

 

『今どこにいる?お嬢様はそこにいるのか?』

「あ、サリーさん……今はカレッジっす。フランもいます」

『そうか。丁度良い』

 

 

『屋上のヘリポートを目指せ。カレッジの屋上だぞ』




もうちょっと書き足したかったけど一旦ここで切るやで。
平日は書く時間なかなか取れなくてすまんやで……。

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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