トムとフラン   作:AC新作はよ

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あかん四十話超えてまう。アッネのデート回考えてたけど、章の合間でええかな…ええな!
次のエピソードのプロットまとめてたけど、シングレで出た海外ウマ娘は出さんでええかな…。


第三十八話 逃げた、その先には

「この人、強い!!」

「闘争に、慣れてる…ただの、速いだけの競走バじゃない」

 

「ふん、こんなモノか?この程度のパワーで私を倒せると思っているのか?」

 

右手に掴んだ狩人ウマ娘を投げ捨て、左手で受け止めたトマホークをシーザスターズが握り砕く。

またしても伝説の異星人のような台詞を吐きながら、シーザスターズはつまらなさげに自らを取り囲むアメリカの狩人ウマ娘達を眺めた。

ここはキーンランドカレッジの裏手、智哉達が内部へ侵入した窓の前である。

アホの子の指示により、門番として窓の前にシーザスターズが立った矢先にインディ含む狩人ウマ娘達の追手が現れ、「通りたくば私を倒してみろ」というシーザスターズの挑発に見事に彼女達は乗ってしまった。

迂回してカレッジの正面玄関から侵入する手もあったが、武闘派として鳴らした彼女達はそう言われて退く訳にはいかないのだ。

 

今回参加した介添人達のうち、最も若く向こう見ずな狩人ウマ娘が「ワタシが、やる。お遊びはいい加減にしろってところ、見せる」と一人で立ち向かったがトマホークを素手で受け止められ、頭突きで返り討ちに遭った。シーザスターズの鍛え上げられた肉体は正に全身凶器である。

この欧州現役最強の競走バが、闘争においても規格外の強さを持っていることを知った彼女達は攻め倦ね、一つの結論に至った。

 

「…………姫様、みんな、行って」

 

介添人の一人が悲壮な決意を込めた声でそう言い、それに併せて二人がそれぞれ得物を構える。

三人で勝ち目の薄い足止めをするという意図に気付いたインディが、首を振って止めに入った。

彼女達は同年代の大切な友人である。

 

「ダメ!ワタシ以外、勝ち目はない」

「いいから、行って!きっと向こうにも、狩人いる」

 

不可解な追跡だった。インディが先回りし、張った追跡の網をまるで針を通すかのように抜けられた。

カレッジの中まで入れるつもりはなかったのだ。

静かに、周りに悟られずに対象だけを仕留める予定だったインディは、カレッジの裏手に誘導し、追い込む予定だった。

しかし、普段開いていないはずの窓が開いていた。想定外の事態により取り逃がし、狩人ウマ娘達にも焦りが生まれているのだ。

予定外の獲物の粘り強い逃走、何者か狩人の追い込みに造形深い協力者がいるという証左だった。

ただのアホの子の勘である。

 

「……すまない、捕まえたら、助けに戻る!」

「心配いらない、故郷の彼に、帰ると約束してる」

「アレ、倒しても構わないんでしょ?」

 

死亡フラグを乱立させながらインディを送り出そうとする彼女達を眺め、シーザスターズは猛烈に違和感を覚えた。

自分の、立場にである。

 

(………おかしいぞ?私が、まるで悪役みたいじゃないか)

 

シーザスターズは、欧州競バ界におけるトップスターである。当然ファンも多く、レースでは大きな歓声を送られている。

しかし、彼女はクラシック時代の誰も近づけぬ振る舞いと、その言動、そしてその強さによって敬遠されている節があった。そこは本人も自覚しているし過去を省みれば仕方のない事だとわかっている。

しかし、ミッドデイとの一件以来自分は更正したという自負があったし現在は後輩達や同期からも慕われていると思っている。何故かいつも数歩距離を離されるが。

それに狼藉者は初対面である。自分はどちらかというと悪ウマ娘から青年を守るヒーローのはずだ。こんなに恐れられる謂われはない。

こういう時、シーザスターズは彼女の姉であるトレセン学院生徒会長ガリレオと同じく、ある思索に耽る事があった。

脳内会議である。

 

(おかしい……私はそんなに怖いのか?姉者、どう思う?)

 

『いやシーちゃんすごく怖いよ?まだわかってなかったの……?そもそもだよ、普通のウマ娘はトレーニングでダンプカーとぶつかり稽古なんてしないよ?私もそんな事やらない……』

 

(私の脳内で引くのはやめてくれ!おかしい、そんな事は……先輩、先輩はどう思う?)

 

『えとね、シーちゃんと初めて会った時ね、目がギラギラしててこわかった!レース観たいから行くね!』

 

(そんな!先輩、待ってくれ!先輩!!)

 

結果は散々であった。打ちひしがれるシーザスターズを前に、好機と見たインディが窓を目指して走り込む。

 

「む?行かせんぞ」

 

しかしそれに気付かないシーザスターズではない。

インディを捕まえようと手を伸ばす。

 

──その瞬間、インディは眼前から消えた。

 

「………ッ!なるほど、やるじゃないか。それがお前の領域(ゾーン)か?」

 

一瞬、インディの姿が左右に別れ、シーザスターズが振り向いた時には窓に手をかけたインディがいた。

シーザスターズの目を持ってしても、捉えきれなかったのだ。

 

「初見で、見切られかけたの、初めて…アナタ、すごい」

 

もやしの目を欺いた残像の正体、インディの持つ領域(ゾーン)である。

周囲のウマ娘の目に残像を残し、瞬間的に加速するインディの切り札。発動も一瞬で燃費も非常に良い特徴を持ち、正にスプリント路線に打ってつけのこの領域(ゾーン)を怪人の指導により好位置のキープ、直線の最後の締めと使いこなし、短距離年度代表ウマ娘にまで上り詰めたのだ。

シーザスターズはインディの評価を上方修正した。今すぐにでもレース場に連れて行きたいところである。

 

「ふむ、そうだな、行くといい。足止めはこの程度で良いだろう」

「……アナタ、強い。興味があるなら、故郷、招待したい」

「考えておこう」

 

インディは振り返らず、カレッジの中に入っていった。それに六人の介添人達が続き、残ると宣言した三人が更に侵入しようとした所で、シーザスターズが手を広げて止める。

 

「おっと、お前達は残ると言っていただろう?ここまでにしておけ」

「ッ!来るなら来い!」

「いや、もうやらんぞ?それよりもそっちのヤツだ。手加減はしてあるから直に目が覚める」

 

最初に頭突きを食らわせ、意識を奪った狩人ウマ娘を指差しながらシーザスターズがカレッジの壁にもたれかかる。

 

(四人間引いた。一回助けるという約束ならこんなものだろう)

 

残った三人は介抱という名目で残らせる。もう戦う必要も無かった。

気絶した若いウマ娘を三人で介抱する様子を眺めながら、シーザスターズは先ほどのインディとの攻防を思い返す。

 

(ふむ…あれは別格だ、かなりやるな)

 

シーザスターズから見てもあの青年はなかなかの身体能力という評価である。普通のウマ娘なら何とかなるだろう、と考えている。

しかし、それでもインディから逃げるには足りない。自分の目から一度は逃げれる程の実力者である。

逃げ切るには、決定的な何かが必要だった。

 

(まあ、彼女次第だろうな、動くかはわからんが)

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「どんどん上るよ!たぶん七人は来るから!」

「……なんでわかるんすか?」

「なんとなく!!」

 

一行が、カレッジの階段を数段飛ばしで駆け上がる。

本日は休校である。滞在中の競走バ達も練習中か休日を満喫中のため人はまばらで、一部の生徒達が上の階からレースを眺めている。

キーンランドカレッジは近年、レース場の改修に併せて建て直されている。限られた敷地内のほとんどを練習場と寮に割り振り、校舎は縦長の近代建築様式の五階建ての新校舎と、アール・デコ様式の三階建ての旧校舎を改築し、渡り廊下で繋げた形となっていた。

その新校舎の屋上には、来賓用のヘリポートが存在する。

エレベーターも当然あるが一行は階段を選択した。

ウマ娘と超人の一行である。急ぐ際は走った方が早いのだ。校則で廊下での駆け足は禁止されているが緊急事態である事と休校が功を奏した。

階段を駆け上がりながら、アホの子が窓から見える渡り廊下を指差す。

 

「三階からはあっち!渡り廊下は気をつけて!」

 

一行が入ったのは旧校舎裏手の窓である。ここから三階まで上った後は長い渡り廊下から新校舎に入る必要があった。一番、危険なタイミングである。

ふと、二人を後ろから眺めるシスターが智哉へ気になっている事を問いかけた。

 

「……なぁあんちゃん、ヘリで逃げんのか?」

「そうっすね、ヘリを用意したって聞いてます」

「ふんふん、ヘリか。そこからどうすんだ?」

「空港で、一旦国外へ逃げる手筈を整えてくれたそうっす」

「………ふーん、国外、か」

 

シスターは超気性難かつ好奇心旺盛なトラブルメーカーであるが、反面その知能は高く直感も鋭い。

トレーナー業務に就いたことは無いが、自宅で子供達に競走を教える立場上、必要に駆られて日本中央競バ会(U R A)のトレーナー資格も取得している。

つまり、現状を正しく認識しているのだ。

彼女はアマチュアの大レースの会場での乱闘騒ぎの片棒を担いでいる。このままアメリカに残れば目も当てられない事態になる。

当局からの拘束は免れないだろうし、担当の遊び人との関係にお節介を焼いたら激怒された娘には縁を切られかねない。今でも新婚当時の関係そのままの愛する夫も流石に怒るかもしれない。

それに渡米を反対していた日本の親友も、今回ばかりは助けてくれないだろう。

先程から携帯の着信が鳴り止まないので電源は切った。

よくつるむ気性難は笑いながら助けに来るかもしれないが、あの愉快犯はどうにもならなくなってからしか来ない女である。

かつての夫を伴った駆け落ちの時のように、自力で逃げる必要があった。

 

そこでこの青年である。

話を聞いた時は助けるつもりは無かったが、その後の青年と何者かの会話を盗み聞きし、シスターは方針を変えた。

狡猾なシスターは、この青年に恩を売り逃走手段に相乗りする事を企んでいるのである。

助ける事はもう確定事項である。

後は恩を押し売りするタイミングと、青年の逃亡先にシスターは注視している。

 

「国外ってどこだ?決めてんのか?」

 

智哉はやけに自分の動向に注目しているシスターに違和感を覚える。

しかし彼女の正体が予想通りなら、マフィアと大立ち回りをして壊滅させた事もある格別の戦力である。何かのきっかけで気が変わって助けてくれないかと考え、この質問に答えた。

 

「……日本っすかね。アメリカには戻って来なきゃなんねえし、それにあっちには俺のつてがあるんで…」

「ほう、ほう…成程なァ、俺様好みの展開になってきたって訳だ」

 

満足げに頷いた後に、シスターは後ろの貴婦人に目を向ける。

そもそもがこうなった原因は後ろの貴婦人である。それと共にシスターには言わなくてはならない事があった。

 

「ゴア、お前はどうすんだ?」

「さっきも申しましたが、此方は其方から離れる気はありませんわ」

「ふーん…ならお前、俺様が日本に戻るならついてくるか?」

 

この唐突な物言いに、貴婦人は目を瞬かせた。

 

「……は?いいんですの?」

「好きにすりゃいいだろ?お前ダチだし、そもそも何のために俺様が帰ってきたと思ってんだよ」

「……何の、ため?」

 

心底不思議そうな顔をする貴婦人に、シスターは笑いながら言葉を返す。

 

「お前と走りに来たんだよ。引退したから適当な野良レースか併走になるけどな」

 

貴婦人が目を見開き、かつてのライバルの言葉に耳を疑う。

捨てられたと思っていた相手が、約束を覚えていたのだ。

 

(その顔、釣れたな?)

 

シスターは貴婦人のこの様子に、手応え有りと内心ほくそ笑む。

これは事実として、シスターの渡米の理由の一つだった。そもそもが娘との親子喧嘩が原因であったが。

ある日、担当との関係に過度に干渉する母に、ブチ切れた娘からの一言が発端である。

 

『母さん、いつもいつも引っかき回しては逃げてばかりね。ライバルさんにも本当は負けそうだから逃げたんじゃないの?』

『……ア?お前今なんつった?上等じゃねぇか、やってきてやんよ』

 

こうして、この超気性難は突如渡米するとぶち上げたのである。無茶である。いくら知能が高くとも、吐いた唾を飲み込めないのが気性難という生き物なのだ。

そしてここで理由を述べたのは、その狡猾さに寄る物だった。

ライバルも利用し、何としても日本へ逃亡する為である。

 

「其方…何故最初から言わなかったの……?」

「いやァ…なんつうかよ。照れ臭くね?それによ、お前が喧嘩売ってくるモンだから楽しくなっちまってなぁ」

 

貴婦人が、呆れた顔をしながら額を抑える。

そんな貴婦人にシスターが近付き、小声で耳打ちを始めた。

 

「ゴア、俺様もお前も今マズい立場なのはわかってんよな?」

「……そうですわね。レースの遅延による損害の穴埋めをしなければ……」

「そこで、だ。ちょっと耳貸せ」

 

貴婦人の耳に口を寄せ、シスターが何やらごにょごにょと腹案を語る。

 

「……なるほど。乗りますわ、その話」

「よし!決まりだ。次は任せるぜ?」

 

貴婦人から離れたシスターが、顔を背けた瞬間凶悪な笑みを浮かべた。

計画通りに事は運んでいる。後は上手く自分を売り込み、何食わぬ顔で帰国するのみである。

内心、笑いが止まらなかった。

 

(いいぜぇ、良い感じだ。俺様さえ助かりゃ後はどうでもいいが……)

 

前の青年に目を向ける。今回の逃亡手段(アシ)として、狡猾だが義理堅いシスターは借り一つだな、と心の中に留めた。

ふと、青年が来ているチーム・クールモアのツナギに目を止める。

 

(……このあんちゃん、サブトレかねぇ。それならヤヨイに口利いてやっか!)

 

シスターがそう思った所で、一行は渡り廊下に進む。

先導するアホの子が急停止し、渡り廊下の中心付近を指差した。

 

「いるよ!気を付けて!!」

「……へ?どこにっすか?」

 

辺りを見回すも、誰もいない。

智哉が首を傾げ、疑問を伝えようとした瞬間、渡り廊下の窓が割れた。

下の階の渡り廊下の窓から、追手は直接上へ登ってきたのだ。

遂に、一行は先回りされた。

 

「トモヤ、もう逃げられない」

「婿!あきらめて!」

 

先手を打たれ、窮地に陥った智哉の前に貴婦人が立つ。

 

「……お行きなさい、ここは引き受けるわ」

「……えっ、いいんすか?」

「貸しですわよ?」

 

ふわりと貴婦人は笑い、狩人ウマ娘達に踊りかかった。

投げられた手斧を弾き飛ばしながら貴婦人は懐に飛び込み、大乱闘が始まる。

思わぬ助けが入った智哉が心で貴婦人に頭を下げつつ、渡り廊下の窓を開く。

唯一の道は乱闘により閉ざされた。ならばする事は一つである。

アホの子も続いて隣の窓を開き、シスターが殿を務める。

 

「窓から…」

「上っすね!?」

「うん!!飛んで!!」

「フラン!起きるなよ!!」

 

腕の中のフランに呼びかけながら智哉は窓の縁を掴んで渡り廊下の屋根に飛びつき、空中で回転して着地する。

膝を沈め、衝撃を殺して着地した智哉がフランを起こしていないかとその顔を覗き込む。

 

「ぐうぐう……ミディお姉様、どうしてこんな事になったの?」

「よく寝てられんなおい。てか姉貴何かしたのかよ」

 

フランはこんな状況でも寝ていた。

しかも不穏な寝言付きである。智哉は待機所にいるであろう姉を想像するも、そんな時間は無いと首を振った。

なお姉は現在本日二回目の正座をしながら、ダンに弁明している最中である。肝心な時にやらかす女であった。

貴婦人を残し、一行は駆ける。

それを最上階から見ている者が、一人いた。

ここに滞在していた、とある競走バである。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、トムっち?」

『レース中断してっけど、何でこっち来てんだ?』

『えっトモ君いるの?代わって!!』




たぶん次の次くらいで終わるやで。頑張る…。
次は明日か月曜やで。

1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…

  • いる
  • いらない
  • まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
  • キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ
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