「うーん……そんなとこダメだよ、トモ兄……」
「へへっ……トレーナー、アタシのここ、そんなに気になる……?」
ここはペンシルベニア州パークスレーシングカレッジ、プロ競走バ達が暮らす生徒寮。
生徒寮は二人で一部屋の相部屋制である。
その一室で二人の少女が何やら寝言を言いながら、爆睡していた。
この二人はプロになる以前からの付き合いの親友同士である。
片やアメリカを主戦場とするプロ競走バ、そしてもう一方もケンタッキーダービーを制した名ウマ娘として、アメリカで名を馳せていた。
そんな二人だが、現在窮地であった。
寝過ぎである。二人は今日は早朝よりトレーニングの予定があったのだ。
既に時間を過ぎている。すっぽかされたトレーナーは、彼の公私に渡る付き合いのサブトレと二人で眉間を揉んでいた。
しかもこの二人、片方の寝相が悪すぎる為に一つのベッドで寝入り、抱き合っていた。
目覚まし時計は片方が叩き壊していた。鳴った瞬間に寝たまま破壊したのだ。
これがある為に、彼女が親友を起こすのが常であった。しかし哀れな目覚まし時計は粉々に破壊されていた。
「トモ兄…ボク、あの子よりもトモ兄の事……」
「トレーナー……まだるっこしいなあ、こっち来いよ」
抱き合った二人が、夢の中のそれぞれの相手に口づけをしようと顔を近付ける。
そこで、携帯電話がけたたましく鳴った。怒った二人のサブトレが電話をかけたのだ。
「ふえ……?ひゃあああああ!!?アニ何してんの!!?」
「うん……?ぎええええええ!!?ダン何でアタシのベッ……ダンのベッドじゃねえか!!!」
*****
「またボクの目覚まし壊したでしょ!アニ!!」
「わりーって!!それより急ぐぞ!!」
目覚めた二人はトレーナーに慌てて連絡し、「もういいからちゃんと食べてから来るように」との返事を受けて朝食を摂ってから出発した。
その際にダンとサブトレが口喧嘩を始めそうになったが、電話の向こうのトレーナーとアニと呼ばれた少女、アニマルキングダムが仲裁して事なきを得た。二人は顔を合わせる度にどちらが上か張り合うのが常であった。
「ほっ!いえーい!!」
パークスレーシングカレッジは市と一体化した構造をしており、寮から練習場までが遠く市内を経由して行く必要があった。
ダンはその練習場までの近道である公園をスケボーで疾走中である。ここ数年で上達したスケボーのトリックを階段で決め、上機嫌で鼻歌を歌う。
成長し、背は160cm後半まで伸びた。
中性的な魅力はそのままに体は女性的な丸みを帯び、首元まで伸ばした栗毛の髪を一本に結び、カレッジの制服を着崩しその下にパーカーを着ている。
成長してもボーイッシュな服装を好むのは変わらなかった。
「お前それズルいぞ!アタシにも貸せよ!!」
この気楽にスケボーを乗り回すダンに対して、自分の足で走っているアニキは抗議の声を上げた。
こちらは髪型は少女の頃より変わらず、制服は着崩して今どきのギャル風の格好をしている。
トレーナーが持っているとある写真を見て以来、トレーナーはこっちの方が好みなんじゃ?と考えての服装である。
「アニは乗れないじゃーん?走りなよー!……あれ?」
ダンが振り向いて親友をからかった際に視線の先にある物を捉え、スケボーをフリップで回した後に方向転換した。
「おいダンどこ行くんだよ!!」
「ちょっと、ねっ!!」
身を屈め、素早くコーナーを曲がり切ったダンがそのまま目的地を目指す。
最近知り合った少女と、それを取り囲む少年達の場所へ。
「やめてよぉぉ!!うえぇえぇえん!!」
「やーい!!また弱虫モルが泣いたー!!」
「ウマ娘のくせにー!!」
「お前が競走バなんて、なれるわけ……あっ」
飛び上がり、スケボーを手に収めたダンがそんな中に降り立つ。
「ほい、ほいほいっと」
そして唖然とする少年たちに、そのまま軽くデコピンを見舞った。
「いでえ!」
「うわあデコピン女……いだい!!」
「ひえええぎゃああ!!」
少年達が最近よく現れる謎のデコピン女の襲撃を受け、恐慌しながら脱兎のごとく逃げる。
それをダンは手でしっしと追い払うジェスチャーを見せながら、いじめられていた少女の前に立った。
ダンにもアニキにも負けず劣らずの美しい少女であった。黒鹿毛のロングヘアーにその中心に長く大きな流星。
気弱そうだが優しげな瞳は今は涙で濡れている。そんな少女がダンを見るや抱きついて、泣いた。
「モルちゃん、大丈夫?」
「ダンおねえちゃああああん!!!うえええええん!!!」
「なんだ、モルか。またいじめられてたのか?」
そこにアニキも追い付き、モルに気付いて声をかける。
えづきながらも、ダンにしがみついたモルが叫んだ。
「ダンおねえちゃん、アニおねえちゃん……モル、きょうそうバになりたいの!!」
ダンはあの日の自分のような、魂からの叫びに心が揺れる。
モルというこの少女はここに滞在している間の短い付き合いである。
今日のようにいじめられているところを助けてから懐かれ、関係を続けていたがこのような叫びを上げたのは初めての事だった。
きゅっと口を結んだダンが屈み、あの日大切な人にそうしてもらったように、優しく接する。
「うん、モルちゃんならなれるよ。だから、ボクに話してくれる?」
*****
「なるほどなぁ。あのガキどもタチ悪いなぁ、今度会ったらシメるか?」
「あはは……程々にね?」
ダンとアニが、モルからこれまでの経緯を聞き、ため息を付く。
きっかけはモルのとある行動だった。
「モルね、ワイズダンさんのまねしてただけなの、それなのに……」
ワイズダン──現在、アメリカにおいて最速と名高い生きた伝説のウマ娘である。
現在19戦12勝うちG1三勝、特筆すべきはダート、芝両方のG1を勝利している事である。
このままエクリプス賞に手をかければ、伝説のウマ娘ジョンヘンリーに並ぶ偉業となることは間違いないと言われている。
そのワイズダンに憧れるモルは、彼女がレースで見せるパフォーマンスを真似して遊んでいた所で、あの少年達にからかわれたのだ。
お前がワイズダンさんの真似なんてやめろ、お前なんてあんなすごいウマ娘になんてなれない、と。
「えー、そんな、照れちゃうなぁ……」
この話を聞いたダンは頭を掻いて照れた。面と向かって憧れている、と言われた事は初めてであった。
しかしモルはこのダンを見て首を傾げる。
「……なんでダンおねえちゃんがてれるの?」
「……えっ」
ダンが絶句し、隣のアニキが腹を抱えて爆笑する。
いつもの事である。ダンは普段とレース時が別人過ぎて同一人物と思われていないのだ。
知っているのは彼女のトレーナーとそのサブトレ、そしてごく少ない友人のみである。
「あっはははははははは!!!!お前別人すぎるもんな!!!腹いってええええ!!!!」
「アニ、笑いすぎでしょ……ボクは別に隠してないのになぁ」
落ち込むダンを前に、更にモルが首を傾げた。
そんなモルを見て、ダンはどうすべきかを考える。
こういう場合、彼女のトレーナーに相談するのが最善だが、どうしてもそれはやりたく無い事である。
「で……どうすんだ?トレーナーに言うか?」
「……ダメ」
ダンの目が光彩を失い、どんよりと曇った雰囲気を発する。
「いつも、いつも……いつもだよ?あの人は困った子を見つけて助けては、迫られて、そんなつもりはなかったとか言って……それであの子とボクがどれだけ苦労してるか……何年経ってもあのクソボケっぷりは治らないし一回死んだ方がいいんじゃない?いや死なれたらボク泣いちゃう」
「ダンおねえちゃん……?」
「モルほっとけ、いつもの発作だから。おーいダン戻ってこい」
アニに肩を揺さぶられ、ダンの目が徐々に光を帯びる。戻ってきたのだ。
「はっ!?アニ、どうしたの?」
「どうしたじゃねーよ、モルどうすんのって話だよ」
冷静に戻ったダンが、モルを見つめる内にある事を思い付いた。
あの思い出の日々の中で、良い方法を見つけたのだ。
「ねえ、モルちゃん?」
「なあに、ダンおねえちゃん」
「レース、見に来ない?」
*****
『さあ!サンタアニタパークレース場は今!大一番!!トレーナーズカップマイルを迎え最高の熱気に包まれています!!現役最強と名高いワイズダンか!?はたまた英国から来たマイルの王者か!?それとも昨年のケンタッキーダービーウマ娘の戴冠なるか!!?さあどうでしょう解説のジョンヘンリーさん?』
『そうですな、私としてはワイズダンが一押しですが……あの世界最強ウマ娘フランケルとのデッドヒートのような走りをエクセレブレーションができれば十分勝機はあると思いますよ!』
サンタアニタパークレース場は現在、大観衆に包まれていた。
かの神出鬼没、アメリカ全土の話題を独占しておきながらそのプライベートは謎に包まれている現役最強ワイズダンが、この大一番に挑むのだ。
この大一番を控えた出走ウマ娘の一人、鹿毛のウマ娘オブヴィアスリーは腕を組み、入場してくるライバル達を怒りを呑み込んだ目で見つめていた。
(……先輩は、このレースに出ると言っていた。しかし出走表にはあのいけ好かないヤツの名前があった)
尊敬している模擬レースで一度も勝ったことがない先輩がこのレースに出ると聞き、共に走ろうと出走を表明した。
彼女は実力者である。その彼女が勝てない先輩は、一度も公式レースで走っているところを見たことがない。
応援しようと中継を見る度に、あのいけ好かないトリックスター気取りが出走しているのだ。
(……先輩は、きっとあの女に脅迫されている。絶対に許さん…!!)
怒りに燃える視線、その先に、現役最強はいた。
「諸君、今日はよろしく頼むよ。お客さんが盛り上がるような良いレースをしよう」
耳穴の開いた、サイズの大きな黒い中折れ帽で目元が隠れ、裾が膝下までの長さの装飾された黒いトレンチコート、そして黄色いラインの入った黒いスカートの黒尽くめの勝負服に、小道具のステッキ。
現役最強ウマ娘、
もう一人の尊敬する人物、先輩の親友であるアニキと仲よさげにレース前に談笑するワイズダンを忌々しげにアスリーが見つめる。
(……何故だ、アニ先輩は…?何故、ダン先輩の居場所を奪ったヤツとあのように親しげに……)
ギリ、と唇を噛み締め、こちらに挨拶に来るワイズダンをアスリーが睨みつける。
「やあ、アスリー、君と公式戦で走るのは初めてだったね?この日を楽しみにしていたよ」
まるで以前より自分を知っていたかのように振る舞う気に入らない相手を前に、アスリーは叫んだ。
「キサマ!!!ダン先輩をどこにやった!!!!?」
「え…ええええええ!!!?」
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!アスリーマジか!!!!!」
「なんですかアニ先輩!!コイツは!!!」
最近かわいがっていた後輩のまさかの発言にワイズダンが絶叫し、アニキが腹を抱えて芝に蹲る。
ワイズダンは余りのショックにその場に屈み込んで落ち込んだ。想定外にも程がある。
「ウソでしょぉ……」
「だからお前別人すぎるんだよ」
「もういいよ……さて、アスリー……私は少し用事があるのでね、失礼するよ」
「待てキサマ!先輩の居場所を……」
「アスリー後にしとけって、説明してやっから」
いきりたちこちらを指差すアスリーをアニキが制止する中、ワイズダンは観客席を目指した。
最前列の、少女の元へ。
「やあ、お嬢さん。少しいいだろうか?」
「わあ、ワイズダンさん!!」
ここへ招待した少女、モルの前へ立つと、ワイズダンは握り拳を作るとそれを数回振って、目の前で開いて見せた。
「えっ…わあ、すごい……!」
開いた手の中には、一輪の空色のネモフィラが握られていた。
「お近付きの印さ。君に、今日の勝利を捧げよう」
花を少女の髪にそっと飾る。
その時モルは中折れ帽で隠れた目元、ワイズダンの素顔を覗く。
「えっ、ダンおねえちゃん……?」
ダンはその声には答えず離れると、トレードマークの中折れ帽を気障に構え、仰々しくお辞儀をしてみせた。
この現役最強のパフォーマンスに、女性客から黄色い声援が上がる。
中性的な男装ウマ娘の彼女は女性人気がすこぶる高い。
モルに手を振り、踵を返す。
途中サブトレと英国から来た出走ウマ娘が何やら話しているのが目につくが、既にゲートインは始まっている。最後に目指すべき場所へ向かうのだ。
彼女の目指すべき、ゲートへ──
「──勝ってくるよ、トレーナー」
<ああ、行ってきなさい>
これでアメリカ編終わりになります。最後のトレーナーはまあ、うん……写真のギャルウマ娘は二部で出るやで。突っ込まれる出し方やけど……アメリカ編のとある部分の聞き手として出てます。
あれもこれもって書きたいこと書いてったら一部より話数増えてしまった…。
次からは研修〜アメリカ編のキャラ紹介しますやで。
設定とその後をちょっと書くだけだからパパッと書くやで。
怪人の項目ではちょっと重要な事書きます。主人公二人が立ち向かう運命について。
その後は章間のエピソードとIFルートを挟んで日本編に行くやで。
日本編登場予定ウマ娘
テ????イ
テ????ー
ロ?????ア
グ?????ス
デ???????ト
ヘ??ー
グ??????ー
ダ???????ヴ
あとこの時代設定なら暴君ちゃんも出したい……出したいやで……。
この子どう!?とかあったら感想で教えてくれたら検討しますやで。
1.5部終わったらキャラ紹介必要ですか?アメリカの後にもう一本あるからまだ終わらんけど…
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いる
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いらない
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まだ二部行かないんすか…こいつクソっスね
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キャラ紹介やりたいならレース上等っすよ