ゴロゴロ海軍少女   作:トルネード川近

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正義の名の下に

ここはグランドライン前半の島。

本来は無人の大自然の島で、とある海賊団が海軍に捕縛されていた。

捕縛された海賊たちは各々うめき声や痛みにあえぐ声をこぼす。

海賊たちは何かで焼かれたのか体中に火傷を負っていた。

 

「卑怯だぞ!てめぇら海軍のくせに!」

 

海賊たちの中で比較的軽傷な山高帽子を被った男が叫ぶ。

男の目線の先、海軍の制服に身を包んだ集団の中でゴーグルを首元にぶら下げた少女が笑みをこぼした。

 

「ごめんなさいね。あなたの海賊旗を見たら気が逸ってしまって。山高帽の……なんだっけ?」

「山高帽のボーラーです。准将」

 

少女の隣に立つ妙齢の女性が問いに答えた。

 

「そう!ボーラーさん!いや~顔と海賊旗は覚えられるんですけど、どうしても名前がおぼえられないんですよねぇ。こまったこまった」

 

ゴーグルの少女は合点がいったとばかりにうんうんと顔をうなずかせる。

 

「卑怯かどうか、でしたっけ?それなりの海賊がそんなセリフ吐いちゃいけませんよ。賞金額六千万の……」

「ボーラーです」

 

妙齢の女性が言葉を繋げる。

いつものことなのか海軍の何人かがくつくつと笑った。

そんなコントのような掛け合いに山高帽の男は歯を強く噛みしめる。

海軍とはいえこんなボケた少女にたった一撃で自分が、自分の海賊団がやられたのか。

 

「てめぇら絶対にただじゃおかねえぞ!!特にゴーグルの女!俺たちに何しやがったか知らねえが必ずやり返してやる!!」

 

鉄の鎖に身動きを封じられながらも、全身に焼けた激痛を走らせながらも無理やり抑え込んで男は叫んだ。

そんな男に慌てて両手を前に出し諭す。

 

「わわわ、だめですよ。ただでさえ重症なのに、その上、鉄の鎖を巻いて。賞金首には死なれたら困るんですってば」

 

目の前のゴーグル少女の行動で怒りに満ちた男の頭に疑問符が湧いて出た。賞金首は生死問わず、死んでも問題はないはずだ。

それなのにこの少女は言った。死なれては困る、とくに賞金首にはと。

ほんの少しだけ冷静になった男は少女に問いをぶつけた。

 

「なぜ俺が死んだら困る。海賊が一人死ぬだけ、あんたらには得しかねぇだろ」

 

慌ていた少女の顔は少し呆け、しばらくして破願した。

笑いを抑えようとしているのか、両手で腹を抱え顔を俯かせるが止まらない。

むしろ声を上げて笑い始める。一度笑い切った方が収まると考えたのだろう。

海賊たちの苦痛の声が一人の笑い声で塗りつぶされる。

 

「くひっひひひふへっ、ふへへへへあはははっははっははははははは!!!!」

 

少女の奇行に男の怒りはどこかへ吹き飛び、代わりに湧いて出てきたのは″海賊″への警戒心だった。

海軍の制服を身に纏っているが中身は自分たちと同類。ただ略奪するものが違うだけ。

彼女だけじゃない。隣に立つ女性も周りの海軍の連中も自分たちがいつも浮かべる薄汚い笑みを浮かべている。

ただ連行される訳がない。何かをされる。男はそう直感した。

 

「すみません。ふふっ、違う人から何回も同じ質問をされると笑えてくるもんなんですねぇ。理由を簡単に説明すると私が生きたあなたでしたいことがあるのです」

「理由の説明になってねえ!!」

「じゃあもっと詳しく言いましょう」

 

少女が歩を進める。ゆっくりと。

 

「あなた方は前の島で略奪しました。いつものように、当然のように」

 

一歩。

 

「海賊の習性なんですかね?略奪しないと気が済まない」

 

二歩。

 

「でもそんなもの略奪された側はたまったもんじゃない」

 

三歩。

 

「俺たちを島民たちにひきわたすつもりか?」

 

男の前に立ち、しゃがみ、目を合わせる。

 

「近いです。でも違います。引き渡すつもりはありませんし、連れて行くのはあなただけ」

 

男の瞳をのぞき込み、その奥を見ようとする。

 

「我々は、海軍は市民の笑顔と安全を守るのが仕事です。目の前であなたが死ねば心の傷が癒え前に進むことができる。無駄に監獄で生きるよりあなたの死を有効活用しましょう!ね!」

 

軍の法律上の手続きを無視した蛮行を少女が夢を語るかのように口にする。

少女の言動は男の目には酷く滑稽に映る。だが心の底から笑えない。そんな少女の何かの一撃に自分達は地に伏したのだから。

 

「俺を生かす理由は分かった。だが俺の部下はどうなる?まだお前の口から聞いてないぞ」

 

この少女の手が自分達の心臓を握りしめていることを嫌でもわからされる。男は賞金首の自分が死ぬことに大して頓着はなかった。生死問わず、当然だ。

だが賞金のかかってない部下が目の前の海軍もどきに弄ばれるのか気が気ではなかった。

 

「ああ、周りで転がってるあなたの部下ですか。えぇと、1、2、3……」

 

立ち上がり周りをキョロキョロと見渡す。

 

「27名です」

 

少女が言葉につまると女性が答えた。

 

「そうですか!多いですね。ありがとうございます。ビレー大佐」

 

振り返って少女は女性に礼を言い、視線を男に戻し見下ろす。

 

「あなたの27名の部下は持っていくのがめんどいんでここで殺します。」

 

戦闘で死ぬならまだしも捕縛されたまま嬲り殺すつもりかと、男は頭に一瞬血が上るも無理やり押さえ込んだ。

自分にはこの状況をひっくり返せる可能性がまだある。

今暴れたらそのチャンスが無くなる。そう自分に言い聞かせた。

 

「何故だ?捕縛した海賊は監獄に送るのがそっちの仕事だろうが」

「質問の多い人ですねー。……命乞いする海賊より大分マシか」

 

少女は指を三本立てる。

 

「一つは私の船は他の軍艦よりも小さく、狭い。20人も入りきらない。二つ目は蛆のように湧いて出てくる名もなき海賊を一々捕まえていたら看守の皆さんが大変だから。私の思いやりです。最後は……」

「最後は?」

「……最後はなんだっけ?大佐」

「存じ上げません。准将」

「…………ま、まあ、何でもいいよね。海賊を殺す理由なんて」

「なんも考えてねえだけじゃないか」

 

少女と男の間に微妙な空気が流れる。

 

「ともかくこれでお仕事完了!みんな出航準備!準備!」

 

そんな空気を振り切るように声を張り上げ、男から背を向ける。

少女の一声に状況を静観していた海兵たちが一斉に行動を始めた。

海兵たちが船の準備をし、少女が山高帽の男以外を始末するのだろう。

ようやくチャンスが来たと男は思った。

自分への意識が消えたこの瞬間を男はずっと待っていた。

自身の服の袖に隠し持っていた短剣で鎖を切り落とす。

自由になったその身体を使い、最短の直線距離で無防備な少女の背中に突進する。

この軍隊の指揮官である少女は十中八九悪魔の実の能力者。力一辺倒でその地位に就いたのであろうと男は推測した。

力の象徴であるこの少女が倒れればこの部隊は瓦解する。

くだらないおしゃべりで部下たちの休息時間も稼いだ。

少女抜きでこの戦いを切り抜けられる確率はおよそ五分。

勝率は高いとは言えないがどんな状況でも自分たちは切り抜けてきた。

まだ終わってない。終わらせない。

どんな悪魔の実の能力者であろうと必ず倒す。

最悪の場合の自然系の能力者であろうと磨いてきた対抗手段がある。

少女はようやく男の殺気に気づいたのであろう。

緩慢な動作で振り返ろうとする。

遅い、と男は少女の背後から心臓を貫いた。

 

「准将!!」

 

ようやく事態に気づいた海兵たちが声を上げる。

驚きのあまり動けないのか大佐と呼ばれた女は少女を見て固まっていた。

当の少女は短剣が胸元から飛び出た状態のまま、驚愕の表情で男を見ていた。

驚いた顔だけを浮かべているだけで苦悶の声すら上げていない。

逆に苦しみ呻いているのは男の方だった。

 

「斬鉄に武装色の覇気ですか」

 

刺された少女がようやく口を開く。

 

「これは驚きましたねぇ〜。海軍はあなたという存在を見誤っていたようです」

「ぐぅ、ぎぎ、ァ 」

 

男は聞いてない、いや聞こえないのか少女の声に反応すらしない。

男は異常なほど震え、震える度に身体が焼けていく。

 

「六千万ベリーは安すぎますね。これは我々の怠慢です」

 

少女は男の様子に意に介さない。刻刻と死に向かう男に賞賛の言葉を送る。

 

「確かに武装色の覇気は我々自然系能力者の首に届きうる手段です。

無敵と勘違いした自然系能力者の寿命は短いと言われる程ですから」

 

1度言葉を区切る。

 

「ですが自分は勝てるとのぼせ上がった覇気使いは覇気を習得した自然系能力者にとってはいい鴨だと思いません?」

 

もう用はないと少女は前を向き、一歩を踏み出す。

刺さった短剣はするりと抜け、男は身体中から煙を上げ倒れる。

 

「お疲れ様でした。准将」

 

いつの間にか隣にいた大佐が少女に労いの言葉をかけた。

じとーっと少女は大佐を胡乱げな目付きで見る。

 

「大佐はあの男の動きを分かってたでしょ。なんで止めないんですかー」

「准将ならあの程度問題ないと判断しましたので」

「動くのがだるかっただけでしょー!!」

 

少女は大佐を叱りつけるが何処吹く風、表情はピクリともしない。

 

「であの男どうします?もう死んでますよ」

 

話は終わったとばかりに少女の背後のモノに目を向ける。

 

「うちの大佐はどーしてこーなんでしょーかー。話終わってないのに。あの男はもういいです。どこかに副船長いますよね?そいつ使いましょう」

「分かりました。急いで探してきます。部下が」

「あなたが行きなさい!!」

 

渋々、大佐がゆっくりと海賊達の方へ向かっていった。

 

「はあ」

 

優秀なのになんであれなんでしょうかと少女はため息をつく。

少女は自身の胸元を見る。

真っ平らな胸の中心がぽっかりと空いている。

バチバチッと炸裂音と青白い光が穴の中心で生まれ、何事も無かった用に穴が塞がった。

 

「やっぱり見聞色と紙絵は便利ですねー」

 

男は少女を刺したと思ったが刺してはいなかったのだ。

そも服の袖に隠せる程度の短剣が胸を貫通する訳がなかった。

少女は刺される直前で胸の部分を流動し穴を開けていた。

武装色を纏った短剣は空を刺し、無防備な片手が少女の身体に触れ、男は焼け死んだ。

 

「准将!出航準備が整いました!」

 

一人の海兵が少女の元に駆け足で向かい、報告した。

 

「うむうむ、ご苦労さまです。しばらくしたらむかいますので」

「はっ!!」

 

敬礼をし船へと去っていく海兵。

そんな様子をこれこそ海兵の姿であると誇らしげに思いつつ、振り返って探し者をしているやる気のない部下に声をかける。

 

「どーです?見つかりましたか?大佐ー?」

 

声をかけられた大佐はピクッと身体を反応させ、一番近い海賊を掴み瞬時に少女の元に立った。

 

「残念ながら意識のある海賊はおりませんでした。准将の一撃が強すぎたのでしょう。この男はどうです?副船長ではないでしょうか?いや副船長でしょう。仕方ありません。准将の一撃のせいで確認が取れないのですから。准将の一撃のせいで」

「おおう、こういう時はぐいぐい来ますね。」

「で、どうします?部下達が待ってますが?」

「分かりました。分かりましたよ。それでいいです。十分役目を果たしてくれるでしょう」

「では」

 

少女の了承を得られた途端、女と掴まれた男は少女の目の前から消えた。

もうすでに甲板に立っているのだろう。

そうときだけ仕事が早いのが彼女なのだから。

 

「さて、自分も帰りますかね」

 

少女は首元のゴーグルを軽く握って、その場から姿を消した。

後に残ったのは瀕死の名も残せない海賊達だけとなった。

 

海軍の船は順調に出港し目的地へと向かっていく。

甲板には他称副船長の男が転がり、呻き声を発する。それを尻目に海兵は各々の仕事に取り掛かっていた。

少女は船尾の柵の上に座り、去りゆく島をぼーっと眺めていた。

 

「何か思い残すことでも?」

いつの間にか隣に大佐が同じように座っていた。

 

「とある部下のサボり癖をどーやったら直せるか考えてまして」

「それは許せませんね。どうにかしなければ」

「……嘘です。それについては諦めてますんで。」

「賢明な判断です」

「はぁ、……3つ目のことについて考えてました」

「あぁ、あの部下殺しの理由ですか?1つ目の理由だけでしょう。上からの指示を散々無視した罰で我々の船は通常の軍艦よりも小さい。牢屋なんて1人や2人入れるだけで精一杯じゃないですか」

「怒ってます?」

「いいえ、着いていく人を間違えたかなと日々悩んでおります」

うぐぐ、と部下の上司への愚痴に少女はたじろぐ。

「3つ目というか始めた理由ですね。入れる人が少ないってのは後から出来た理由ですから」

「あるんですか?始めた理由」

「理由もなしにしませんって」

 

少女は空を仰ぐ。雲のない快晴。一つの色が水平線の向こうまで自分達を包んでいる。

正義とか罪に対する罰とかそんなご大層で複雑な理由じゃないんです。ただ、ただ単純に私の目に映る世界に要らない人達だから殺すんです」

 

船の上空にカモメが横切る。空を見つめていた少女の目が細まる。バチリと音がなりカモメが海へと堕ちていく。

 

「あなたが海兵で、私の上司で良かったです」

「さっきと言ってること真逆じゃないですか」

 

船は目的地へと向かっていく。

海賊に塗りつぶされた市民の笑顔と安寧を与えると言う彼女のために。

 




まともに小説を書いたのは二回目で規則通りに書けていないところが多々あったと思いますが読んでいただきありがとうございます。
書き終わった後の脱力感はお風呂に入ったかのように気持ちがいいですね。
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