ゴロゴロ海軍少女   作:トルネード川近

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ビレー大佐は名前通り色気ある美人です。


平和の象徴

 東の海(イーストブルー)、四つの別れた海の一つ。平和の象徴という人もいれば、平和ボケした海と虚仮にする人もいる。ともかく海賊の被害が極端に少ない海といえる。しかし完全にないと言い切れない。今日もまた、とある港町で海賊が暴れていた。

 港町に住む人々が広場に集められていた。女子供は恐怖ですすり泣き、男たちは抵抗したのであろう。ある程度痛めつけられていた。それを取り囲み、不幸にも海賊の被害にあった町人たちをあざ笑う海賊共。

 海賊の船長らしき男が町人たちに声を張り上げる。

 

「てめえら、勝手な真似すんじゃねえぞ。ここは俺たちハゲタカ海賊団が乗っ取った! 金品と食料はすべていただく! 文句は言わせない!」

「そんなすべてを取られたら我々は生きていけません!」

 

 船長の身勝手な言い分に懇願する町長らしき老人。

 

「うるせえ! そんなの俺たちには関係ねえ!」

 

 すがる老人を蹴り飛ばす船長。そんな男の残虐性に誇らしげにほほ笑む海賊達。

 

「今は海賊に微笑む時代なのさ! 恨むなら海賊にならねえてめえらを恨みな! お前ら荷物を船に積み入れろ!!」

「そんな……」

 

 地に伏せ嘆く町長。

 

「神様……」

 

 必死に助けが来ることを祈る女性。

 

 

「と、現状こんな感じぽいですねー。傷を負った町人が数名。死者はなし。ほとんどが無傷で無事ですねー。建造物も侵入による破壊程度。放火などは特になし。ビレー大佐。これって海賊の仕業だと思います? 海賊の名を騙った強盗にしか思えないんですが」

 

 港町からかなり離れた海上でユリヤは港町の惨状を部下に伝えた。

 部下であるビレー大佐は上司である彼女をあきれた様子で見る。

 

「よくもまあ、あんな豆粒のような街の様子がわかりますね」

「私自身の能力と見聞色の覇気を合わせればちょろいもんですよー。でどうです?」

 

 彼女の問いに答えるために大佐は懐から本部からきた紙に目を通す。

 

「内容は私も同意しますが、本部に問い合わせたら確かにハゲタカ海賊団は存在し船長の特徴も一致します。間違いなく海賊です」

「人は殺さず、女子供を弄ばず、建物も破壊しない。私の中にある海賊像が音立てて崩れた気がしますねー。懸賞金はいくらですか?」

「0です」

「ん?」

 

 ユリヤは自分の耳を疑った。船長が0ベリーなんてそんなことがあるのだろうか。

 

「ですから0ベリーです」

「ああ、新しく旗揚げした海賊達ですかー。なら人を殺さないのも納得です」

 

 ここは四つの海の一つ。ここから偉大なる航路(グランドライン)を目指すために旗揚げをする海賊たちは珍しくないだろう。

 

「設立は一年も前だそうです」

「……ほんとこの海って平和ですねー」

「まあ僻地ですから」

「それはこの海の人たちに失礼ですよ。大佐」

「失礼しました。准将」

 

 海賊かどうかともかく港町の人たちが襲われているのは事実。助けに行くのは当然だと。ユリヤは自身の気持ちを切り替えた。

 

「じゃあ、あの港町に向かって面舵いっぱいでー」

「「「「「「「はっ!!」」」」」」」

「師匠がわたしをこの海に送った理由が分かってきたかもですねー。私の常識が通用しません」

 

 この海にきて丸四日、彼女はようやくこの海の一端が理解できたような気がした。

 

 

「船長!! 11時の方角から海軍の船が来ます!」

「何だと!!?」

 

 この港町には海軍支部は存在せず、巡視船は一昨日出航したばかり、入念に準備をしたはずだった。突然現れたアクシデントに船長はイラつき近くにあった空箱を蹴り飛ばす。

 

「どうします? 船長」

 

 近くにいた部下が対応を求める。船長はほんの少し考えて、次に自分達がしなければならない行動を伝える。

 

「……今回はしょうがねぇ。最低限の荷物だけ積んで急いで出航するぞ! このままだと俺たちの船はいい的だ! 海軍には海上である程度応戦しつつ撤退を行う!!」

「「「「「了解! 船長!」」」」」

 

 船長の言葉に急かされるように船員達が行動を開始した。

 

「なるほどそれなりの頭と逃げ足の速さで1年も生き残ってたわけですかー。腕っぷしは期待できそうにないですねー」

東の海(イーストブルー)に期待しすぎなのでは?」

「思ったんですけどもしかして怒ってます?」

「いえいえ、怒るなんてそんなそんな。上司のせいでこんな辺境の海に飛ばされたなー、高額賞金首を狩ってボーナス貰ってくる上司の唯一の取り柄が消えたなー、休養と左遷は違うんだけどなーなんて思ってませんよ」

「めっちゃキレてるじゃないですかー!」

「ほら指示してください。薄給上司」

 

 暴言を吐き捨てる部下にショックを受けつつ、コホンとユリヤは一拍置いて船員全員に指示をだす。

 

「後で話し合いをするとして、とりあえず海賊に我々の存在がバレました。海賊は撤退戦を仕掛けるようですねー。彼らとの距離と船の航海速度では海上の戦闘になるでしょう。戦闘班は海上戦闘の用意をしてください。航行班は彼らの逃走ルートと我々の最短距離の算出と操舵を。医療班はボートで港町に向かって怪我人の治療。作戦開始! 開始!」

「「「「「「「はっ!!!!!!」」」」」」」

 

 ようやく仕事が出来ると思ったのか海兵全員がいつも以上の発声で応える。

 

「ちゃんと仕事させてくださいよー。海賊諸君」

 

「船長! あいつらもう直ぐ追いつきます!!!」

 

 海軍船を監視していた船員の一人が船に響くよう大声で船長に伝える。

 

「ちくしょう! 流石海軍、軍艦じゃないとはいえいいもの持ってんじゃねぇか! いいかてめぇら! ケツに付かれたら終わりだと思え! 蛇行しながら玉ぶちかましつつ逃げるぞ!!」

「そんな無茶だ! 船長!」

「無茶やらなきゃおしまいなんだよ!! てめぇら死ぬ気で働け!! 仕事の時間だ!」

 

 船長の怒声にバタバタと忙しなく動く船員たち。

 

「殺られるわけにはいかねぇんだよ……絶対にな」

 

 船や船員の悲鳴に船長の呟きはかき消された。

 

「船長! 大砲の準備が出来ました!」

「よくやった! 馬鹿野郎! 船を右に旋回! 海の猟犬どもに餌を与えてやれ!!」

「「「「アイアイサー!!!」」」」

 

 

「おお、右に旋回してますねー。逃げつつ応戦って感じですかねー」

 

 目を瞑りながら相手の戦況を把握するユリヤ。

 そんな彼女にビレーは疑問をぶつける。

 

「"ヤマユリ"を何故撃たないのですか? わざわざ向こうに合わせる必要が?」

 

 言外に仕事する気ないのかと上司を詰る。

 

「ちょっと気になることがありましてー。それが解決したらいつも通り船長以外は皆殺しにしますよー」

 この人自分が仕事してるのに他人が休んでるの許せない性質だもんなーと思いつつユリヤはビレーに釈明した。

「気になること?」

「まあ、まずは砲撃を潰しますかねー」

 目をゆっくりと開き立ち上がる。ズボンに着いた汚れを手で軽く払い、そのまま指先を海賊船に向ける。

「砲撃を確認!」

 

 海兵の声が船内に響く。

 海賊船から放たれた五つの砲弾が船に飛来する。

 

「"テッポウユリ"」

 

 指先から放たれた雷撃が砲弾を誘爆させる。

 誘爆した砲弾に巻き込まれさらに誘爆が続き、断続した爆音が海上に響く。

 

「船の損傷見られず! 怪我人もおりません!」

「うむうむ、ブランクがあってもまずまずですねー」

 

 ユリヤは手をニギニギと開閉し頷きを繰り返す。師匠との訓練と東の海(イーストブルー)での初仕事までの日にち、七日間。能力は衰えてはなかった。

 

「撃ち返しますか?」

 

 伝令係の海兵がユリヤに確認する。

 

「そうですねー。砲撃を1回だけ。砲弾は鉄球でお願いしますー」

「はっ!」

 

 海兵は准将の命令を砲手に伝えようと駆け足で向かった。

 

「乗り込むんですね」

 

 ビレーはユリヤの意図を察した。

 

「気になることを確認してきますねー。それに東の海(イーストブルー)の海賊ってのを直で見て見たいですしー」

「行ってらっしゃいませ♡」

 

 気安い友人を見送るように手をヒラヒラと振るビレー。

 

「自分の仕事がなくなるからって上機嫌すぎませんかー?」

「いえ、上司が仕事して私が仕事してないのが良いんです」

「……ほんと良い性格してますねー」

「准将! 砲撃の準備が整いました!」

 

 駆け足で戻ってきた海兵が報告を行う。

 

「そうですかー。ありがとうございますねー」

 

 ユリヤは砲弾が装填された砲台に片足を乗せ、首元のゴーグルを着ける。

 そのまま首だけ振り返ってにっこりと笑う。

 

「諸君! 行ってきます!!」

「「「「行ってらっしゃいませ!!」」」」

「大佐の真似はしなくていいです!!」

 




多機能フォームってすごいですね
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