ゴロゴロ海軍少女   作:トルネード川近

5 / 7

ユリヤは師匠である黄猿を尊敬しているのでいろいろ参考にしています。


海賊もどき

 海賊船の船長にとって船が攻撃されるのはどうしても避けたい事柄だった。陸上で海兵と戦うのは避けられないことなら嫌でも戦おう。だが、()()への被害の恐れがある海上戦は死んでも避けたいことだった。

 

「船長! 向こうの船、砲弾が爆破したのに傷一つついてねえ!」

「馬鹿野郎! 当たったから爆発したんだろう?! じゃなきゃ空中で誤爆したって言いたいのか!!」

 

 マストの上で双眼鏡越しし様子を伺っていた船員に怒鳴る船長。粗悪品でも掴まされたかと悪態をつく。無理な蛇行で砲撃を避けようとするこちらに対して向こうは追い風に乗り真っすぐ突き進んでくる。このままだとそう遠くない時間に船が戦場になるのは明白であった。船長はどうにか次の一手を考えようとした次の瞬間。

 

「野郎! 撃ってきやがった!!」

 

 マストの船員から悲鳴が上がる。

 その言葉を聞いた船長は思考を放棄し、慌てて海軍船が見える方の手すりに駆け寄り、身を乗り出す。

 海軍船から発射された砲弾は狙いを見誤ったのか、船体ではなく帆を突き破り海へと落ちていった。

 危なかった、ほんの数メートル下に飛んでいたらどうなっていたか、船長は冷や汗を足らりと流す。船員全員同じ気持ちだろう、と考えた彼は下がった士気上げるため大声で鼓舞する。

 

「馬鹿野郎ども! 吉報だ! 相手は砲弾もまともに撃てないような訓練生だ! この船は沈まねえ! このまま牽制しつつ戦略的撤退だ馬鹿野郎!」

 

 安堵の息を吐く船員たちが空元気な船長に失笑しつつ言い返そうと船長を見る。

 

「船長! 後ろだ!」

 

 焦る船員の声に船長は飛びのき、自分がいた場所に銃を構えた。

 

「どうもー、海賊諸君。儲かってますかねぇー?」

 

 先ほどまでいなかったはずの若い女海兵がそこにいた。長い黒髪に目には分厚いスノーゴーグルを着け、正義と書かれたコートを羽織る下には標準的な海兵の制服を身に纏う少女。敵船に一人で乗り込んだというのにヘラリと笑顔を浮かべている。

 船長はそんな少女から目を離さず、銃口を向けてゆっくりと後退していく。どうやって乗り込んだかわからいない以上油断するつもりは彼にはさらさらなかった。

 

「船長!」

 

 船長に加勢しようと船員の何人かが銃を持って駆け寄ろうとする。

 

「馬鹿野郎こっちに来るんじゃねえ!! ガキ一人に俺が負けるか!! てめえらしっかり航海しやがれ!! 海兵がここにいる以上撃っては来ねえ! 全速前進だ馬鹿野郎ども!!!」

「正解ですねー。今、私の船は砲撃するつもりはありません。逃げるには今しかないですねー。海賊なのに冷静です。もっと欲に溺れて頭がパーだと思ってましたー」

 

 ユリヤは思っていたよりも海賊が慎重であることに驚いていた。船長と駆け寄った全員が腰にサーベルを構えているのに銃を選択した。船長はおそらく未知の相手への警戒から、船員はサーベルで応戦した場合、船長の銃が意味をなさなくなると考えたのだろう。訓練の賜物か、強者に蹂躙でもされたことがあるのか、冷静に判断できていると彼女は感心した。

 

「立派なガリオン船だと思っていましたが、近くで見ると中々に年代物ですねー」

「骨董品に目がなくてね」

「修復の跡がありますが素人ですねー。船大工もいないんですか?」

「海賊が宵越しの銭を持たないのは常識だろう」

「それにしてはあなたも含めて船員全員、派手な装飾品を身につけてないですねー」

「子供の海兵さんが気にすることでもねえさ」

「理由を説明する気もないと、まあいいでしょう」

 

 子供といわれたことにちょっとだけムッとしつももそのままユリヤは甲板の中心に歩いていく。銃には目もくれずスタスタと。

 

「おい! 止まれ! 止まれってのが聞こえんのか!」

 

 船長は上空に向かって牽制の意味で発砲する。

 これでユリヤは確信を持った。こいつらは海賊ではなく海賊もどきなのだと。

 ユリヤは足元の床をコツコツと叩く。

 

「わたしの足元の下にある骨董品ってやつが傷つかないか心配なんですよねぇー? そんなに大事なら海賊船に乗せちゃあいかんでしょー」

「お、お前いつから気づいて……」

「最初から、具体的に言うと海軍船に乗っているときから。確信が持てたのは今ですがー」

 

 ユリヤは話の最中にもコツコツ、と足元の床を叩き続ける。叩く音が大きく鳴るにつれ、多数のおびえた気配をより強く感じる。

 

「海賊船ってよりかは避難船? てのが正しい感じですかねー。略奪をしているので避難船とは名乗れないでしょうがー」

「仕方なかったんだ! 町は海賊に襲われ燃えてなくなってしまった。海軍や他の町は助けてもくれやしねえ! 老人や妊婦もいてもう襲って奪うしかなかったんだ!」

 

 比較的若い海賊がユリヤに涙ながらに答えた。自分たちはもうこれしか方法がなかったんだと。一度襲ってしまえば海賊を名乗るしかなかったんだと。

 

「だからなんだよって話ですがー」

「……え?」

「海賊に襲われたことに関しては人として同情しますし、海兵として謝罪もしましょう。ですがもう海賊に成り下がったあなたたちは私にとっては討伐対象です。本部もあなたたちを正義の敵だと認識してますしねー」

 

 ユリヤの言葉に船長が手すりを拳で叩く。手すりから身を乗り出し、怒気混じりの大声を張り上げる。

 

「くそが! ジョンもういい! みんな武器をとれ! 海軍の嬢ちゃん!! 一人だからって容赦しねえぞ!! 俺たちは海賊だ!!!」

「潔し。癪に障りますねー」

 

 ユリヤは甲板の中心からぐるりと周りを見渡す。銃にサーベルに鎖鎌に鞭。武器の見本市状態だった。

 

「これから私の流儀に乗っ取って船長以外を皆殺しにします。死ぬ気で抵抗してくださいねー。フラストレーションが溜まって仕方ないんです」

 

 バチリとユリヤの右手から電気が走る。

 

「人は自然に勝てないってことを教えてあげますねー」

 





読んでいただきありがとうございました。
どうするか悩みましたが苛烈な若い正義の持ち主ならこうするかなと思いました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。