とある島。"金棒のアルビダ"の
「だれだ?お前」
麦わら帽子の少年が問いかける。
「見ての通り海兵ですよ。そっちは海賊の船長で間違いないですよね?」
そんな少年にゴーグルの少女は肩をすくめながら答えた。そして少年に問いを投げ返す。
「そうだ!おれは海賊だ!お前らの敵だな」
「我々というより市民の敵というのが正しいですねー」
これで海賊じゃないと肩透かしもいいところだ。期待通りの答えにユリヤは満足そうに微笑む。
「しっかしスゲーなお前。周りが滅茶苦茶だ」
少年は目の前に海兵がいるというのに呑気にキョロキョロとあたりを見渡す。
「わたしの能力を持ってすればこんなことは訳ないですねー」
ユリヤは片手を伸ばしバチバチッと放電させ、自身の悪魔の能力を誇らしげに見せる。
「そっちも食べたんでしょう?悪魔の実」
「おれはゴムゴムの実を食った全身ゴム人間だ」
放電現象を見せたユリヤに対抗するように少年は両腕で口をみょーんと伸ばす。
「へー、ゴムとは面白いですねー。わたしはゴロゴロの実を食べた雷人間です」
「ゴロゴロの実ですって!!やばいですよルフィさん!!その人
比較的無事だった木々の草陰からピンク髪の少年が叫ぶ。
ユリヤは相手の名前がルフィだと分かると、自分の頭にある賞金首リストと照合する。一致する名前がない。未知の強敵相手ににわくわくが止まらなかった。
「ろぎあ?ていうかコビーお前生きてたんだな!」
「勝手に殺さないでくださいよ!!最初の衝撃で森の奥に飛ばされまして、って!とにかく
「へー、便利だなー。ろぎあって」
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないですよ!!」
深刻さが十分に伝わってないのが分かるルフィの笑みにコビーは再度注意を促そうとする。
「もーいいですかねー」
戦いの邪魔をしようとするピンク髪にユリヤは警告の意味で言葉を発する。
「悪い。待たせた」
本能的に相手の標的に気づいたのかルフィが注意を自身に向ける。
「服の汚れ払ったりしてたんでそんなに待ってないですよー」
「コビー。お前下がってろ。あいつかなり強ぇ。邪魔だ」
「はい!ルフィさんもご無事で!」
戦いの邪魔になると分かっていたコビーはダッシュで森の奥へと駆けていった。
「うし!じゃあやるか!」
ルフィはゴチンッと両こぶしを合わせる。
「戦いましょう!がっかりさせないでくださいよぉー!!」
ユリヤはバチンッとゴーグルのゴムを指で引っ掛ける。
まず最初に攻撃を仕掛けたのはルフィだった。使い慣れた技で相手の様子を探る。
「ゴムゴムの
「隙だらけですよー」
ユリヤはひょいと伸びる拳を避ける。そのまま腕をつかみ電流を流そうとした。
「と鎌ぁ!!」
そうはいくかと伸ばした拳で木を掴み、腕を縮ませもう一つの腕でラリアットをユリヤの首にかまそうとする。
「"ササユリ"!!」
見聞色の覇気でルフィの行動を先読みしていたユリヤはクロスカウンター気味で雷撃の槍を放つ。しかし、まったく効く様子が見られなかった。ゴムゴムの実は彼女の雷に耐性があるようだ。
「ちっ!」
そのままラリアットをかまされそうになり、ユリヤは慌ててしゃがんで避ける。それを見てルフィは伸ばした腕をバチンッと戻し、一回転。足を振り下ろす。
「んにゃろ!」
脚の振り下ろしに対抗するように武装色の覇気を纏わせた拳を叩きこむ。
「ぐっ!」
「がぁっ!」
両者ともにダメージを受け驚愕する。ユリヤは
お互い距離をとる。本来効くはずのない相手の攻撃が自分に有効であるとわかった以上ここからは慎重にならざるを得なかった。
先に仕掛けたのユリヤだった。耐性を貫通するほどの威力を放てばよいと結論付けた。彼女は両手の指先を合わせてその中に空間を作る。
「"テッポウユリ"」
バチバチっと放電し続ける雷をそこに閉じ込める。手の中の空間が青白い光に満たされたとき、ユリヤは両手を離した。
「"蹂躙裂き"」
雷がそこで生まれた。周囲を雷撃で埋め尽くし、空間を白く染め上げる。
ユリヤは見聞色の覇気で周囲を警戒する。強い気配は微塵も衰えてなどいなかった。
「ゴムゴムの鞭!!」
青白い光を振り払うようにしなる足がユリヤを襲う。雷である彼女にとってあくびが出るような遅さであった。
ルフィの足に乗るとそのまま走り出し右足を武装色で固める。
「"
右足を一発の大砲とみなす。
ユリヤはルフィの顔面を蹴り飛ばそうとする。
「"テオリユリ"!!」
ルフィは右手で左の手の指を伸ばし、うまく脛の部分に当てる。勢いがそがれ足が止まる。
代償として指の骨が何本か折れたがルフィは彼女の動きを阻害することに成功した。
「ぐっ!ゴムゴムの盾!捕まえたぞ!」
右足を掴まれたユリヤはそのまま足の骨を折ろうとするルフィに右手を翳す。
瞬間、ルフィの視界を雷光が埋め尽くす。
「目が見えねぇ!!」
「これは効くんですねー。お次はどうですかー?」
反射的に手を離してしまったルフィからユリヤは再び距離をとる。目をこすっている彼に向かって雷光によって明滅する右足を振りかぶる。
「"蘭脚・コブラユリ"!!」
雷撃は囮、本命は光の速度の蹴りで生じた真空刃。蛇のように蛇行しながら進む斬撃は派手な攻撃の陰に潜み、雷撃を避けたものに咬みつく。
「痛ぇ!!なんだこれ!!切られた!」
「!!弱点見つけましたぁー!!!」
ユリヤは両手を地面に着けて足を上げた。開脚して独楽のように回る。両足が雷光で明滅し回転数が早くなればなるほど雷の規模が強大になっていく。
「"蘭脚・コブラユリ"で"
何本もの真空刃と雷撃がユリヤを中心に蔓のように伸びていく。雷と風の渦が周囲を席巻する。
そんな渦に対しルフィは倒れていない木々の方まで後退する。二つの大木の間に渦の中心が来るように立ち、両腕を木々に巻き付ける。そのままバク転でより奥の森へ入っていった。限界まで伸びた腕に逆らわず足を地面から離す。
「ゴムゴムの"パチンコ弾"!!!!」
乱回転する弾と化したルフィが渦の中心へと突っ込む。
「ゴムゴムの花火!!!」
ルフィは手足を勢いのまま振り回した。新しい渦が生まれ、渦同士がぶつかる。お互いが相手の勢いをかき消そうと激しさを増す。
先に消えた渦は雷のほうであった。ルフィの蹴りがユリヤの顎にクリーンヒットし吹き飛ぶ。森の奥まで飛んでいき、倒れていなかった大樹にぶつかった。実体を維持できなかったのかユリヤは雷となり大樹を焼き尽くす。
黒炭と化した大樹の前で蹴られた顎を少し撫でる。やはり自分の能力が無効化されているとユリヤは確信した。
「切り刻まれて死んでもおかしくなかったのに馬鹿なんですかー?」
「おれは死なねえよ」
向こうも無事で済んでいないのか。至る所に切り傷ができ、ルフィは額の傷から出る血を拭った。
「根拠のない自信は嫌いですよー」
「おれは!!海賊王になる男だ!!!!」
ルフィはドンッ!!と効果音が付きそうなくらいそれは確かなことだとユリヤに告げる。まるでこれから起きる出来事すべてに対する先制布告のようだった。
「……通りで強いわけですねー」
あのガープの孫だ。強者の素質はあるだろうし、戦闘訓練も受けているはずだ。だから
ユリヤは今の自分の醜態の理由を強い相手だから仕方ないと結論付ける。自分のプライドを守ろうとする。自分の強さに疑問を持たないために。
「次で終わりにしますよー」
最初はあんなにも張り切っていたのにユリヤは早く自分が勝つということで終わらせたかった。彼と言葉を交わすたび、拳を交えるたび久しく感じたことのない感情が呼び起こされる。悪魔の実を口にしてから忘れていた感情。それを無意識に感じながら戦うことに耐えられなかった。
「おう!いいぞ!」
ルフィは相手のドロドロとした視線に気づく素振りすらせず、快活に相手の提案に乗る。
「"ヤマユリ"!!」
三つの雷の柱がルフィを囲うようにして生まれる。
雷撃が効かないのは百も承知。まずは目くらまし。ユリヤは初撃で相手の目を潰すことでカウンターすらさせる気はなかった。
右腕を一本の槍とみなして苦手な武装色の覇気で無理やり固める。自身のゴロゴロの実の力すべてを相手に到達するまでの速度に回す。狙いは心臓への一突き。絶対に外さない。
ユリヤの視界が伸びていく。黒の稲妻が地面を這う。見聞色の覇気でルフィの動きを捉えつづける。雷の速度で心臓部分に自身の貫手をぶつける。
「"クロユリ・一輪挿し"!!」
ユリヤの貫手は相手の心臓に到達することなくその直前で握りしめられていた。ユリヤは自身の手を握りしめている手に目を見張る。
「捕まえた。今度は離さねえぞ」
ありえない、ユリヤは目の前の景色を否定したい気持ちでいっぱいになる。苦手な武装色ならまだしも得意な見聞色の覇気で相手を捉えることができなかったのか。
「な、なんで!まさか見聞色の……」
「勘だ!!」
そんなのあんまりだ!と叫びそうになるユリヤ。彼は自分の攻撃が到達するまで何も考えず、肌に触れる直前で反射で手に取ったと言いたいのか。
「ゴムゴムの!!」
「ひっ!!」
ユリヤは見聞色の覇気で避けようとする。しかし自分を疑うものに先など見えるはずもなく、どこに来るかわからない攻撃を無情にも待つことしかできない。遠くまで伸びた腕が刻々と速さを増し戻ってくる。どこにどんな速さでどんな強さで来るかわからない攻撃にユリヤは泣きそうになる。
「
渾身の一撃がユリヤの腹にぶち当たる。片腕を掴まれているため吹き飛んで衝撃を逃がすことも出来ない。その細身の身体だけで拳を受け止めた。
「がっ!!かはっ!!」
その衝撃は生身の少女が受け止めるのは身に余る行為だったのか。白目をむき、膝をつく。
ルフィは握っていた手を放す。少女はそのままうつ伏せに倒れた。そののまま動く気配もない。
ほんの数舜だけ少女を見つめた後、ルフィは麦わら帽子を被り直し森の奥へと消えていった。
「この状況は一週間ぶりですかね。おはようございます」
覚醒したユリヤがまず聞いたのは自身の部下であるビレーの声だった。
気だるげに周りを見渡す。どこかに行ったであろう彼を探す。
「彼は?」
「そのまま眼鏡の少年と小舟で出航しました」
「なんで捕まえないんです?」
至極当たり前のこと聞く。海兵が海賊を見逃すとは職務怠慢である。
「准将が勝てない相手を捕まえるのは骨が折れますし、彼は海賊を名乗っていますがやったことは海賊の討伐。賞金稼ぎと同じです」
「わたしを襲いました」
「それはあなたが喧嘩を吹っ掛けたんでしょう。逮捕の条件を満たしませんね」
「そうですかー」
うつ伏せから仰向けになるように体を動かす。ユリヤは青空を見る。いつもは自分の心を落ち着かせる隣人がただの自然に見えてすこし悲しくなった。
「手を貸しましょうか。ユリヤ」
「お願いします。ビレーさん」
ビレーはゆっくりと傷ついた彼女の身体に障らぬように歩を進めていく。背負うたび彼女の身体の成長を感じる。こうやって背負うようになったのはいつだったかほんの少し思い出に耽る。
「彼、海賊を名乗っているくせに信念を持ってました。絶対折れないって思わせるような。海兵のわたしはまだ見つけてないのに」
「信念の有る無しには職業は関係ないと思います」
「死なないって、海賊王になるんだから死なないって」
「勝つことしか考えない。前のめりの人間は強いですよ」
「わたし、最後怯えました。まだ自分の正義も見つけてないのに死ぬのかって」
「ユリヤでも怯えることはあるんですね。意外です」
「怖かった。足が竦みました。けど彼は、わたしと違って彼はきっとなんの躊躇いもなく一歩を踏み出してそのまま走っていくんだと思います」
「彼のことそんなに気に入りました?」
「彼が海賊になるつもりがなかったら海軍に誘うくらいには。でも彼の夢は海賊王ですから」
「そうですね。彼は根っからの海賊ですよ」
「……決めました。彼はわたしが処刑します」
ビレーは足を止める。彼女の言葉は今までの意味ではないように聞こえたから。力を振るい見せつけるためではなく、海兵としての使命感を感じさせた。自身の背後を見やる。傷だらけの年下の少女の瞳は熱く燃え滾っていた。
「今のユリヤじゃ無理ですよ」
ビレーは現実を教える。能力の相性が悪すぎる。彼に対しての有効打になりえる武装色の覇気ははっきり言ってお粗末。話にならないレベルだった。
「鍛えます。苦手な武装色も覚えます。六式もちゃんと教えてくださいよー」
「上司の言うことですから仕方ないですね」
暇がなくなってしまうなとビレーはため息を吐く。でも。今の彼女のためならそれでもいいかなと思いなおす。
「彼はわたしが捕まえます。そして海賊王の処刑台でわたしが彼を処刑するんです」
ここで一区切りとさせていただきます。
拙い文章ではありましたが自分が書きたいものが書けたかなと思います。
ほぼはじめての小説書きでプロット?もなしに一発描きで書いてはアップし、書いてはアップし充実した4日間でした。ありがとうございました。
原作主人公と色々真反対のオリ主が拳を交わしたらどうなるかなと思い付きで書き始めたのが最初です。
ユリヤが負けることは絶対で、もしルフィがバラバラの実だったらスパスパの実にしていました。
見よう見まねの空っぽな苛烈な正義を振りかざす少女が主人公に会って本当の信念や正義と直面し悩みながらも正道を歩もうとするのが今回作ろうとしたお話です。
少しでも皆さんに伝わっていてくれたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。