パン屋の娘とリベンジ少年   作:-つくし-

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いつも以上に拙い文章です


第16話 少年、決意する

 知らない白い天井、白い壁、そして特有の強い消毒液の匂い。ここが病室であることが安易にわかった。

 

 カーテンの隙間から朝日が射し込む。どうやらもう朝みたいだ。

 

 足元に何かを感じる、視線を移すとそこには私服姿の沙綾がいた。

 

 起こさないようにそっと立ち上がった。頭がクラクラするしめまいもする。そもそもなんで俺はここにいるんだっけ……。

 

 少しの毛布の擦れる音で沙綾は起きてしまった。

 

「……おはよう」

 

 なんだか力が出ない、それ以上の言葉は思いつかなかった。

 

「ねえ、沙綾はなんで俺はここにいるんだろう」

 

「そ、それは明優君が!k「そうか!俺は悪夢を見ていたのか。ねえ沙綾、昨日親がどっちとも死ぬっていう夢を見ちゃってさ〜ほんとに最悪だったよー」

 

「明優君……」

 

「縁起悪いよな本当に、文化祭の後にこんな夢、思い出すだけで……」

 

 本当はわかっていた。昨日の出来事が夢じゃないなんてことくらい。でもこうしないと自分を保つことが出来なくて、

 

「…………」

 

 今目覚めて確信した。昨日のは夢じゃないんだって。きっと心のそこで俺は夢であって欲しいって思って眠りについたんだって。

 

「沙綾……つねってくれない?」

 

「え?でもっ……「いいからっ!!」

 

 語気が自然と強くなる。人に八つ当たりしちゃいけないことくらいわかっているのに。でも俺は最後の希望を捨てに捨てきれなくて。

 

 沙綾は俺の頬をつねる。

 

「…………やっぱり、夢なんかじゃないんだ、」

 

 その事実は俺の希望を完璧にぶち壊すには十分すぎるものだった。

 

 怒りや悲しみ、なんにもできなかったことに対してなのか涙が止まらない。

 

 あの時、呼吸機を無理やりにでも付けさせていたら……。結果は変わっていたかもしれない。過去のことを悔やんでると涙がまた溢れ出てくる。

 

 静かな病室に俺の泣き声と鼻をすする音が響く。

 

「もう、帰ってくれ…………」

 

「え……?」

 

「帰ってくれっていってんだろ!!!…………1人に、させてくれよ、」

 

 今の俺に沙綾のことを思いやることなんか到底無理なことだった。とにかく今は1人になりたかった。

 

 沙綾は何も言わずに帰って行った。帰り際に見せた一筋の涙が俺の頭から離れなかった。

 

 

 

 ただぼーっとする。現実なんて見れたもんじゃない。でもその度に思い出される昨日の出来事。頭がガンガンする。

 

 悔やんでも、叫んでも、願っても、目を背けても、もう会えない。

 

 会うことなんて叶わない。

 

 日常は帰ってこない。

 

 俺の手元にあるのは家族が死んだ。その事実ただ一つだけだった。

 

 

 その後俺は医者から説明を受けた。どうやら俺は3日間、意識を失っていたらしい。轢いたやつは飲酒運転で終わらず、居眠り運転、そして無免許だという。怒りよりも先に呆れが来た。

 

 判決は無期懲役らしい。

 

 なんで更正の余地なんて与えるんだろうか。なんで平等に命を奪わせてくれないんだろうか。もう死んでしまった人にチャンスはない。でもなんで、あんな運転をする無責任なやつには生きるチャンスが与えられるんだ。

 

 それが何よりも悔しかった。顔も名前も知らないただの他人が憎くて憎くてしょうがなかった。

 

 

 意識が朦朧とする。医者からは雨に打たれた時に風邪を引いたのと精神的ストレスの影響らしい。

 

 もう何もする気にはなれなかった。

 

 

 

 ~沙綾side~

 

『帰ってくれって言ってるだろ!!!』

 

 彼の声が木霊する。何も出来なかった自分を責めることしかできない。

 

 私が彼の気持ちに寄り添ってあげれれば、彼は……。

 

 

 私達は発表が終わった後急いで明優君の所へ向かった。

 

 病室に行った時は明優君お母さんはもう……そして明優君は倒れていたりで大パニックだった。

 

 その後彼は入院した。いつ意識が戻るか分からないから私達ポピパやアフグロ、ロゼリア、パスパレ、ハロハピのみんなで交代で看病した。もちろん須高君と桐間君も参加してくれた。

 

 あまり面識のない人達もいたけど、バスケのおかげか明優君の人気は凄まじく二つ返事でOKしてくれた。

 

 私はパン屋さんの手伝いの時以外はずっと明優君の看病に回っていた。

 心配で心配でしょうがなかったから。

 

 彼は入院3日目の朝に目を覚ました。でも彼はもう心も体もボロボロで見ていられなかった。言葉の1つさえかけてあげれなかった。

 

 私は病室から出て泣き崩れた。何も出来なかった自分が悔しくて。

 

 

 

 家に帰っている途中に有咲に出会った。

 

「おい!沙綾どうしたんだ!?目の周り真っ赤に腫らして」

 

「ううん、何でもない、何でもないの……」

 

「そんなわけあるか。1回蔵来い、話聞かせてもらうぞ」

 

 私達は蔵に移動して私は有咲に今朝あったことを話した。

 

「……病院に行ってくる」

 

「え?でも明優君は1人にしてくれって……」

 

「行かなきゃならない。話をしてくる。沙綾は家帰ってていいぞ、ここ最近ろくに寝れてないだろ?それとみんなに石田が目を覚ましたって送っといてくれ」

 

「え?うん、わかった……」

 

 そう言って有咲は蔵から出ていった。

 

 

 

 ~明優side~

 

 心にぽっかり穴が空いてしまっているような気がする。スマホを触る気にもなれない。たくさんのMINE、返さないと行けないとはわかっているのに。

 

 白い天井とにらめっこを続けて2時間が経過しようとしていた。

 

 誰かが入ってくるような音が聞こえた。看護師さんだろうか。

 

 その予想は大きく外れた。俺の目の前に立っているのは金髪ツインテールが特徴のあの子だった。

 

 バチンッ

 

 出会い頭、俺は市ヶ谷さんに叩かれた。いきなりの出来事に呆然とすることしか出来なかった。

 

「お前沙綾がどんな気持ちで!!お前のこと待ってたかわかってんのか!?沙綾はお前が眠ってた3日間、時間さえあればお前のところに行って、ずっとお前のそばにいて!!そして沙綾はお前がもしかしたらショックで目が覚めないかもって思って心配してたんだぞ!?」

 

 市ヶ谷さんの勢いは止まらない。

 

「文化祭の時もな、お前が行ったあと沙綾は泣いてて、よっぽどお前に聞いて欲しかったみたいだぞ」

 

 罪悪感が芽生える。

 

「それなのにお前は!!沙綾の気持ちを踏みにじって!追い返しやがって!!何が任せろ、だ!ふざけんな!」

 

 ……何もわかってなかった。俺はただ自分の気持ちを優先していた。沙綾はどれだけ辛い思いをしてたんだろうか。

 

「……私には家族がいなくなる気持ちなんてわからない。でもお前のお父さんもお母さんもいつまでもうじうじすることなんて願ってないと思うぞ」

 

「最後、お母さんとは話せたのか?」

 

 俺は頷く。

 

「……その時なんて言われた?」

 

 俺はその瞬間ハッとなる。俺が言われたのは……

 

「目的を果たせ……沙綾のことを幸、せに……」

 

 俺は最低なことをした。自分の彼女を傷つけた挙句母さんとの約束すら果たせないなんて。

 

「……お母さんとの約束果たせよ。ほらシャキッとしろ!シャキッと!」

 

 俺を元気づけるかのように背中をひっぱたいてきた。

 

「市ヶ谷さん、ありがとう……」

 

「おう、でももう1人お礼を言うべき相手がいるはずだ。おーい!沙綾」

 

 というと扉から沙綾がひょこっと顔を出した。

 

 俺は真っ先に

 

「ごめん……沙綾。何も考えてなくて」

 

「ううん、いいの。私こそ何も出来なくて」

 

「これからはしっかり現実を受け止めるよ。ちゃんと約束も果たす。でも最後に1個お願いがあるだ」

 

「なに?」

 

 そう言うと俺は沙綾に抱きついた。

 

「俺、やっぱり辛くて、家族がいきなりいなくなるなんて思ってなくてっ!!」

 

「あーあー、よしよし」

 

 俺は沙綾に抱きつきながら赤ん坊のように泣きじゃくった。泣きに泣きまくった。体中の水という水を出し尽くす勢いで。彼女の温もりが、彼女の匂いがたまらなく愛おしかった。

 

 ひとしきり泣いた後俺は沙綾から離れた。

 

「2人ともありがとう、おかげで心の整理が出来たよ」

 

「どういたしまして。あ!そういえばお腹減ってたりしない?パンいる?」

 

「欲しい!」

 

 正直に言うとお腹がめっちゃ減っていた。3日間、何も食べてなかったから尚更だ。

 

 もちろんもらったのはクリームパンだ。

 

「明優ちゃ──ん!!心配したよ〜!」

 

 こんなやつ知らないぞ、と思ったら夢生だった。心穏もセットでいる。

 

「……お前もう大丈夫なのか?」

 

「うん、心の整理がついたよ」

 

「そうか、バスケは?しばらく休むか?」

 

「いいや、退院したらすぐやる。俺は母さんとの約束を果たすんだ。絶対にリベンジする、だから休んでる暇なんてない」

 

「……待ってるぜ」

 

 そんなやり取りをした後2人は帰っていった。

 

 沙綾がすうすうと寝息を立てて寝ている。

 

「沙綾寝てるな。実はお前のせいで全然眠れてないんだぞ」

 

「まじ?それは本当に申し訳ないな……」

 

 確かによく見ると隈が出来ている。

 

 ……本当にずっと看病してくれたんだな。

 

「市ヶ谷さん、ちょっとあっち向いてて」

 

「え?お、おう」

 

 市ヶ谷さんは困惑しながらも指示に従ってくれた。

 

 俺は沙綾の元へ近づき、沙綾のほっぺにキスをした。

 

 いつかは面と向かってするから。それまでは待っててほしい。

 

 

 

 

 ──────────────────────ー

 

 

 

 

 その後俺は無事退院した。

 

 家に帰るとそこには誰もいない。やっぱり本当だったんだって。でも今の俺はそれを受け止められる。もう覚悟を決めたんだ、約束を果たすって。

 

 3人で暮らしていた時は若干狭く感じたが、1人になると広く感じた。楽しく3人で食卓を囲むことは今後一切ない。あの平和な日々はいくら願っても戻ってくることは無い。俺はただ思い出に浸ることしか出来なかった。

 

 俺の家には多額の遺産や損害賠償金が入ってきた。生活費のためにバイトをしなくては、と考えていたが杞憂に終わった。少なくとも俺が高校生活を不便無く送れるくらいのお金は余裕である。

 

 忌引休暇の中で俺は葬式をした。もう2人とも俺の知っている姿ではなくなっていた。

 

 でも俺は現実から目を背けないって決めた。確かに見るのは辛かったけどこれも現実として受け止めた。

 

 葬儀を終え、家に帰ってきた。もちろん誰もいない。

 

 俺は仏壇に手を合わせる。

 

 ママ、パパ、俺頑張るから。天国でも見ていて欲しい。俺の勇姿、生き様を。絶対に約束を果たしてみせるから。俺をそばで見守ってて。

 

(頑張るのよ)

 

 お母さんの声が聞こえた気がした。家中を探し回ったがいるはずがなかった。でも確かに聞こたんだ。だから俺は

 

「ありがとう」

 

 と伝えた。

 

 うじうじしていられない。俺は何かに取り憑かれたかのように公園へバスケをしに行った。

 

 

 

 

 

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