パン屋の娘とリベンジ少年   作:-つくし-

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第17話 少年、噛み締める

両親がこの世からいなくなってもう何度目かの朝だった。

 

母さんの元気の良いモーニングコールがここにきて恋しくなった。

 

でも同時にわかったことがある。俺はあれがなくてもちゃんと時間通りに起きれるということだ。ただお母さんの気遣いに甘んじていたんだ。

 

いつも通りリビングへ降りる。そこは朝からいつも俺に騒がしさを伝えてくれる。

 

がらんどうとしているリビング。俺はポツンと1人、ここにいる。

 

沈黙を破るかのようにカーテンを開け、テレビをつけニュースを見る。

今日は清々しい程の小春日和だ。

 

暖かい服が恋しい季節、俺はTシャツにバスパンといういかにも夏、というような服装を卒業。ウィンドブレーカーに身を包み外へ出た。

 

「いってきます」

 

誰もいないことは重々承知している。あくまでこれは習慣、そして仏壇にいる両親への挨拶だ。

 

晩秋にしては暖かく感じた。ウィンドブレーカーのおかげだろうか。

 

普段通っているこの道も今は赤や黄色、茶色で彩られている。

 

落ち葉がひらりひらりと俺の頭に落ちてくる。真っ赤な椛、俺には情熱なんて言葉はミスマッチだと思う。

 

両親がいなくなっても生活のリズムを変えなかった。見守ってくれてるって信じてるから。サボることなんて出来ない。

 

公園も全く変わっていない。変わったのは俺の日常だけ。でもできるだけ日常に近づけれるようにまた今日もシュートを打つ。

 

両親がいなくなって一日目のバスケ、それはもう酷い有様だった。俺が俺じゃない感じがした。

 

言葉では大丈夫、絶対に俯かないと宣言したものの心も体もついてきていなかった。

 

思った以上にズタボロだった俺の心、シュートタッチにもそれは影響しことごとくシュートを外し続けた。

 

ぽっかり空いてしまった俺の心を真っ先に愛情で埋めてくれた人はもうこの世にはいない。

 

でも今はいるんだ。沙綾が。

 

沙綾がみんなが俺の心に寄り添ってくれた。俺は認識がなかったけどガールズバンドの人達も俺のことを慰めてくれた。

 

もちろん夢生と心穏だって大切な友達だ。あいつらが俺をここまで導いてくれたんだ。俺にバスケをやる活力を見出してくれたのは紛れもなくあいつらだ。

 

俺の学校生活をそして高校生としての青春を彩ってくれているのは沙綾だと思う。

 

日頃から市ヶ谷さんとか羽沢さんとかにはお世話になっている。

 

市ヶ谷さんは怖いが俺の良き理解者だ。精神的に崩壊してきた俺を連れ戻してくれたのは、ビンタで俺の目を覚ましてくれたのは市ヶ谷さんだ。

 

俺はコーヒーが好きだ。沙綾達と行ったあの日から羽沢珈琲店の常連となった。

 

そんな羽沢さんに俺はよく相談を持ちかけていた。告白する時も実は相談しに行っていた。

 

あの時の羽沢は頬を赤らめいかにも女の子といった素振りをしていた。大いなる普通と言われている彼女も言葉を選びながら俺にアドバイスをしてくれた。

 

お世話になった人を挙げて行ったらキリがない。たくさんの人に支えられてるんだって実感できた。

 

そんな中でも沙綾はずっと一緒にいてくれた。

 

文化祭の日勇気を出して告白した。彼女と両想いって知った時には嬉しさで舞い上がりそうだった。

 

それも束の間悲劇が起きた。

 

俺の意識がない時も彼女は俺のそばにずっとい続けてくれたらしい。そんな彼女を俺は追い払ってしまった。

 

彼女の一筋の涙は今でも尚、鮮明に俺の脳裏に焼き付いている。

 

情けないと思った。お礼の1つも言えない俺を。轢き殺した犯人を凌駕する勢いで憎たらしく思う。

 

そんな彼女は全く怒っていなかった。むしろ自分を責め続けていた。なんにも声をかけてあげれなかったって。

 

俺にとっては衝撃だった。何もかも終わったと思っていたが彼女は俺を見捨てていなかった。

 

抱きついて泣きじゃくる俺を彼女は優しく慰めてくれた。まるで赤ん坊をあやすお母さんのように。

 

彼女の匂いが、温もりが俺にとってはお母さんのようで、離れたらどっかに行ってしまいそうで。

 

付き合う前から彼女とは一緒にいた。

 

みんなで勉強会をしたりライブを見に行ったり、はたまたショッピングからのお泊まり会だったり。彼女とは何かと一緒にいる機会が多かったと思う。

 

過去の話をした時は感極まって泣いてしまったっけ。その時も彼女は寄り添ってくれて。そこから俺は彼女を好きになった気がした。

 

ドラムを引いている彼女が印象的だ。俺といる時とは違う笑顔を見せてくれる。

 

本当にバンドが好きなんだなって思って。

 

実は退院後市ヶ谷さんの蔵でライブをした。通称クライブと言うらしい。

 

文化祭で披露した曲を俺に見せてくれた。沙綾が見せたいって言って。我儘を貫き通したらしい。

 

俺は感動した。涙も出そうになったが我慢した。夢を撃ち抜いて欲しい、コドウを感じ取って欲しいって。

 

沙綾も以前似たような出来事があったとのことだ。

 

ポピパを組む前に"CHISPA"というバンドを組んでいたらしく、お祭りでライブする予定だったがお母さんが倒れて沙綾だけが出られなかったらしい。

 

そんな自分を責め続けた結果、彼女はやめた。バンドは嫌いじゃないけどみんなに迷惑はかけられない。私だけが楽しんじゃいけないって思って。

 

でもバンドへの思いが途切れることはなくポピパのみんなからの熱い希望により入ることに決めたということだ。

 

彼女はポピパを自分が我儘になれる場所、と言っている。俺にもいつかその言葉を言って欲しい。

 

俺の白と黒の2色しかなかった学校生活を彩ってくれたのは沙綾だ。感謝でいっぱいだ。

 

そんなことを考えているとミルクピンク色の髪色が特徴的の彼女がやってきた。

 

普段はポニーテールだが今日は下ろしている。

 

そんな彼女が色っぽく見えた。

 

「おはよう」

 

「おはようー」

 

いつも通り挨拶を交わす。こんな瞬間でもたまらなく愛おしい。

 

彼女は今日も今日とてパス出しに専念している。ちなみに俺は純君と紗南ちゃんと遊ぶ時もバスケをする。

 

彼女に見守られながらシュートを淡々と打つ。今の俺の姿は彼女にはどのようにして写っているのだろう。

 

彼女からもらったものはとんでもなく多い。一生をかけて返せたらいいなと俺は思う。

 

 

 

 

俺は何食わぬ顔で校門をくぐる。もちろん俺の隣には沙綾がいる。最初こそドギマギした感じだったが今ではすっかり安心感を覚えている。

 

教室に入るとすでに奴らはいる。初めは毎度いじってきていたが今はネタが無くなったのか、そんなことはなくなってしまった。

 

文化祭以来、俺はクラスの中心になったみたいだ。おかげで毎日男子からも女子からも引っ張り回されている。

 

そんな俺を沙綾はいつも見守っている。

 

でも2人きりになるとそれの埋め合わせかのように甘えてくる。どうやら嫉妬しているようだ。

 

そんな彼女は可愛らしい。

 

いつもはお姉さん的存在として振舞っているが、俺に見せるこの1面、みんなにも知ってもらいたいものだ。

 

最初こそクラスのみんなに心配された。突然の俺の離脱に打ち上げどころではなかったようだ。打ち上げは俺が元気になってから行われた。

 

俺のことを思ってくれての行動がたまらなく嬉しかった。

 

1年前は青春とは程遠い存在だと思ってた。だけど今は沙綾がきっかけで俺の目の前にそれが来ている。

 

これが高校生活なんだって。

 

今までいじめられて荒んだ高校生活を送っていたのが嘘なんじゃないかって思うくらいに充実している。勉強もプライベートも友人関係も。

 

 

 

 

部活にもあれ以来熱が入り続けている。

 

入部してだいぶ時間がたった。遠慮なんていらない。俺は自分の持ち味を磨き続ける。

 

仲間と切磋琢磨し合えることに喜びを覚える。

 

あんな荒んだ部活とはもう無縁だ。

 

ウィンターカップ予選、つまりアイツらとの再戦も目の前に迫ってきている。チームとしても緊張感が走る。

 

東京からは3校出られることになっている。1つは大禪高校だ。もう2つを巡って争う。

 

ウィンターカップ出場も大事だが俺にとってはリベンジの方が大事だ。

 

俺の全てをかけた戦い。両親の思いを背負って挑まなければならない。

 

ここまでサポートしてくれた両親への約束を果たすために俺はバスケをし続ける。たとえ足が折られようと、腕がもげようと。

 

 

家に帰ると明かりが付いていた。

 

「おかえり明優君」

 

「ただいまー」

 

台所には沙綾がいる。退院後私が面倒を見るって言って聞かなくて、合鍵を渡した。

 

最初こそ抵抗はあったが彼女はそれを悪用することはなかった。

 

週に2、3回ペースで家に来ている。今日は金曜日のため泊まるようだ。

 

 

 

「お風呂にする?ご飯にする?それとも…わ・t「お風呂にします」

 

こんなやりとりもすでに数え切れないほどやっている。

 

その度に彼女は笑う。

 

沙綾にするって言ったこともあったが彼女は俺が言うとは思っておらず顔を薔薇のように紅潮させてたっけ。

 

湯船に浸かりながら今日の出来事を振り返る。特にこれといって変わったことはなかった。

 

風呂から上がるとご飯は出来上がっていた。

 

今日の夕飯はご飯にお味噌汁、生姜焼きにサラダといったものだった。

 

彼女の作るものは全て美味しい。俺の好みにバッチリアジャストしている。

 

自分で飯が作れないわけじゃない。むしろ作れる方である。

 

だけど人の作る飯がたまらなく恋しくなる時がある。

 

お母さんの作る卵焼きをもう一度食べてみたいものだ。

 

「うん!美味しいよ!」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

そう言い彼女は微笑む。そんな笑顔がとても眩しかった。

 

「ねえ沙綾、忙しかったら無理して来なくていいからね?俺も自分でするからさ」

 

「ううん、いいの。私が好きでやってることだし。姉としての気持ちが出ちゃうんだよね〜、ほおっておけないっていうか」

 

彼女はニカッと笑う。

 

「でもいつもありがとう。…今日も一緒に寝よ?」

 

「もちろんそのつもりだよ〜」

 

彼女が泊まりに来た時は毎回一緒に寝ている。俺はいつも緊張するのだが彼女はもう慣れてしまったらしい。

 

 

夕飯を終えた俺たちは今日のNBAの試合を見て、歯磨きをし、布団へと潜り込む。

 

「…沙綾、暖かいね」

 

「ふふっ、明優君も暖かいよ」

 

背中合わせに寝ていたお泊まり会の頃とは違う。今は抱き合って寝ている。彼女の大きくもなく小さくもない2つの膨らみが俺に当たる。

 

その度にドキッとしてしまう。この時に俺は意外とあるんだなって思った。

 

「明優君、おやすみ」

 

「うん、おやすみ」

 

そう言って瞼を閉じた。

 

予選まで後10日。

 

俺の全てを賭けた戦いがもう目の前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな作品でヒロインにするなら?

  • Poppin’Partyの誰か
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