ウィンターカップ予選ももうすぐ目の前に来ていて、内心ピリピリしていた。
それなのに今日の練習は休みだ。ちなみに明日も。
俺はいてもたってもいられず家から飛び出てバスケをする。
1本1本に熱がこもる。勝負どころを常に想定し実践に向けて動作を交えながら。
ただそれはあくまでイメージであって実際とは程遠い。ディフェンスの圧は実際に受けてみないとわからない。
かといって今目の前にいる沙綾にディフェンスをしろなんてことは言えない。
夢生と心穏を呼ぶことも考えたが生憎、どちらも家庭の事情で今日は忙しいらしい。
1人でできる練習には限りがある。シュートを打つか、ドリブルをするか、フットワークを鍛えるか。
次は何をしようかとスポーツドリンクを飲みながら考えていた。
「ねえ明優君、いいこと思いついたんだけどさ」
何やら沙綾にはいい案があるようだ。気になって俺は身を乗り出して耳を傾けた。
「今からどこか旅行に行かない?」
「……はい?」
予想もしてなかった答えに思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「旅行って……。今どんな時期だか沙綾にもわかるでしょ」
もうウィンターカップは目前なんだ。そんなことはできないと一蹴しても良かったがそれは気が引けたので沙綾にもう一度考え直すように促した。
「いや、ちゃんとした考えがあるの。むしろこんな時期だからこそ、だよ」
「こんな時期だからこそ?」
「そう!明優君は文化祭終わった後から毎日バスケに明け暮れてるじゃない?暇さえあればバスケで。確かに練習は大切だけど、時には体を休めることも必要だと思うんだよね」
「確かにそれは一理あるね。でも……」
確かに沙綾の言っていることは間違っていない。体を休ませることはとても大切だ。それを怠っている俺を思っての行動だろう。だけどバスケから離れるのが怖かった。
「そして明優君、自分で気づいてるかわからないけど足、ガクガク震えてるよ。ちゃんとケアしたりしてる?」
言われてみれば俺の足は現在進行形で震えている。最近は面倒くささもあってストレッチをサボり気味だった。そレも相まって俺の体は悲鳴をあげる寸前のように感じた。
「対戦前に体を壊しちゃ元も子もないでしょ?だから今日と明日は休養に当てるのはどうかと思って」
ここで怪我したら全てが終わる。何を糧に頑張ってきたんだってことになる。だから俺は沙綾の案に乗ることにした。
体の休養だけじゃない。最近沙綾は俺が公園でバスケするってなったら毎回のように一緒に来てくれる。そんな沙綾にも休んで欲しいと思って旅行に行くと踏み切ることにした。
「わかった、行こう。心配させてごめんね」
「ううん、いいよ。それで実は行く前提でもう行き先は決めてあったんです!」
と言って沙綾はポケットからスマホを取り出して俺に見せてきた。
「え、意外と近い……」
行き先はもう既にいるここ東京だ。
沙綾曰く、あんまり遠出しすぎてもトラブルに巻き込まれたどうなるかわからないから、とのことだ。
「わかったよ。それでそのプランだと日帰りではないよね?ホテルかどっかに泊まるの?」
「もちろん、奮発して良さそうなところ予約しといたから」
俺が行かないって駄々を捏ねたらどうするつもりだったのだろうか。予約までして、用意周到だ。
その後俺らは一時解散。そしてやまぶきベーカリー前に集合した。
俺はお金やら服やら下着やらをバックに詰め込んで来ただけだ。
沙綾もそこまで荷物は多くなさそうだ。
沙綾のお母さんに挨拶をして俺らはやまぶきべーカリーを出た。沙綾のお母さんのニヤニヤした顔が忘れられなかった。
沙綾のプランには一つだけ明確な行き先があった。滝野川八幡神社だ。
滝野川八幡神社は800年以上の歴史があるという古社のうちの一つだ。
祭神は
滝野川八幡神社を訪れるのは毎月1日、15日がおすすめなんだとか。
その日限定で授かれる"金の御朱印"に勝負運アップの効果があるらしい。
しかも今日は15日、行くなら今日しかない。絶好の参拝日和だと。
そう、沙綾が力説していた。ふふん、と誇らしげな顔が可愛らしかった。
沙綾は俺のことを思ってこの行先にしてくれた。感謝でいっぱいだ。
電車で40分程度なので比較的早くついた。好意を抱いている人といる時間は長いようであっという間だ。
「う──ん、着いたねー」
沙綾は伸びをしながら俺に話しかけてきた。その後見せた沙綾の欠伸は新鮮さを感じた。
俺は着いてすぐに本殿に向かって参拝する。絶対勝てますように。ただそれだけを願った。それさえかなってくれれば十分だったから。
そして俺らは金の御朱印と勝利を引き寄せるという"V勝守"も買った。
金の御朱印には勝利のVサインとピースサインをイメージしたデザインの金のステッカーもついてきた。この御朱印には勝利と平和への思いが込められているんだとか。
やるべきことを済ませて俺らは神社から出た。
「で、これからどうするの?」
「実は言ってなかったけど、今から京都まで行きます」
「はい?」
突然すぎて目が飛び出でるかと思った。
ちなみに言うと京都には行ったことがない。その上俺は北海道と東京意外の地に足を踏み入れたことがない。
このままだと京都が3つめの地となりそうだ。
俺はその後、沙綾に引っ張られ駅まで行き、そこで駅弁を買って新幹線へと乗った。
普段新幹線など乗る機会がないからてんやわんやすると思っていたが、沙綾がチケットを慣れた手つきで買ってくれたためそんなことにはならなかった。
流れゆく景色を窓際の席で眺めながら2人で食べる駅弁は格別だった。
俺と沙綾は今現在進行形で炊き込みご飯にがっついてる。
まあがっついてるのは俺だけで、沙綾はさぞ上品に召し上がっていた。
「ねえ沙綾、この後の予定は?」
俺はまだ何も聞かされていない。しかし沙綾なら割と綿密な計画をしているだろう。でも俺の予想は期待外れに終わる。
沙綾は何も考えていないと言った。時間はたっぷりあるから今から考えるということだ。「ぶらり旅って憧れない?」と言った彼女の目は冒険にワクワクする少年のようにキラキラしていた。
そして俺と沙綾は情報誌や文明の利器を駆使し行き先を決めた。ホテル周辺に限定しなるべく足を酷使しないような、そんなプランを立てた。
俺らの泊まるホテルの近くには清水寺があったためそこに行こうという話になった。1日に2つの神社に参拝しに行くことなんて今後ないだろうと思う。
その後沙綾は寝てしまった。俺の肩にもたれ掛かる形で寝ているため不用意には動けなかった。
沙綾は目的の駅に到着するまで起きることは無かった。俺はそんな沙綾を横目に見ながら電車からの景色をただぼ〜っと眺めていた。
花をつまんでみたり、ほっぺたをつねってみたりしても起きなかったので耳に息を吹きかける。そうすると沙綾は「ひゃあ!!//」と声を上げながら飛び起きた。そんな沙綾がとても可愛らしくて思わず笑みが零れてしまう。
幸い新幹線はここが終点だったので、俺らは荷物を持ち悠々と下車することを許された。
「うわぁ、初上陸だー!」
思ってもみなかった初上陸に自然と胸が高まる。それはどうやら沙綾も同じだったらしく2人して同じような反応をした。
チェックインは後で、と言うので早速俺らは電車に乗り清水寺まで向かった。
春は桜で満開、秋は紅葉が美しい清水寺も今はすっかり落ち葉まみれだ。
本堂に本日2度目のお参りを済ませた後俺は音羽の滝を見に行った。
音羽の滝はお寺の名前の由来ともなった清らかな水が流れ落ちる滝だ。約4メートルの高さから落ちてくる水を長い柄杓で汲み、願い事をしながらひとくちいただけば、願いが叶うとされている。
滝の水は観音様の功徳水とも呼ばれ・健康・長寿・学業上達そして良縁のご利益があるという。
俺と沙綾はその水をいただき願い事をした。
(沙綾とこれからずっと一緒にいられますように)
ゆっくり参拝したあとは清水寺周辺で食べ歩きをした。
そこはいかにも京都らしい街並みにお店が広がっていた。
抹茶のクリームがいっぱいに詰まったシュークリームや八つ橋を食べたりした。
特に八つ橋は注文を受けてからその場で作ってくれたため、出来たてホヤホヤで味は言うまでもなく絶品だった。
他にも抹茶ソフトやおまんじゅうを食べた。正直もう夕飯なんていらないくらいだった。
すぐそこにあった野点傘の下でまったりお茶と団子を頂いていると後ろからシャッター音が聞こえた。
「すみません、あまりにも綺麗だったもので。嫌だったら消します」
「いえいえ全然大丈夫です。良ければその写真見せてくれませんか?」
「もちろんですよ。ついでに現像してお2人にお渡ししますね」
渡された写真には俺と沙綾の後ろ姿が映し出されている。お互い顔を見合っていて笑っている。手を重ね合っていていかにもカップルと言った感じだった。
「これからもお2人でかけがえのない愛を育んでください」
そう言って名も知らぬカメラマンはどこかへ行ってしまった。
もう一度見る。夕焼けに照らされた俺らはどことなく幸せなオーラを出していた。それにほっこりとしてしまう。
夕焼けに照らせられている彼女の横顔は美しい。普段は可愛いと思うが今日は何故か凛々しく見える。
俺らはみんなへのお土産を買って清水寺から去った。
そしてその後俺らはホテル?というよりは旅館に到着した。
沙綾は旅費の削減のため!とか言って2人部屋にした。
一緒に寝るような仲だけども何故か緊張してしまう。
部屋は2人で泊まるにしては十分くらい広すぎた。京都の街並みも窓から一望できる。大当たりだ。
「とりあえずここの旅館、温泉あるみたいだから入りに行かない?」
「そうだね。露天風呂らしいよー」
俺らは各々着替えを準備して更衣室目の前で立ち竦んでいた。
何故かって?それはここの温泉、どうやら混浴らしいからだ。
更衣室こそ別れているその先は一緒って……
一緒に寝たことは沢山あるがお風呂までご一緒したことなんて1度もない。
「沙綾先入ってきていいよ。俺は後で入るから」
「いや!明優君も一緒に入ろ?」
沙綾の上目遣いからのお願いに拒否することは出来ず俺は泣く泣く温泉に入ることになった。
いざ露天風呂に行くと人影が1つも見えなかった。沙綾は疎かほかのお客さんすらいないようだった。実質貸切と言ったところか。
先に湯船に浸かって待つ。ここの温泉の効能は疲労回復や美肌効果があるようだ。
ガラガラガラと立て付けの悪い扉が空いた音がする。そこには沙綾が立っていた。
思わず目を背ける。体こそタオルで隠されているがそれによりボディーラインが強調されていて彼女の綺麗な体がくっきりと俺の目に写ったからだ。
「……明優君、先にいたんだね」
そう言って沙綾は体を流した後湯船に浸かった。
背中合わせに浸かる。正面なんて向いたら俺の理性は崩壊する、今でさえ襲いたいと思っているのに。
正直気持ちよかったとかなんてことは覚えていない。あの後俺は耐えきれなくなり急いで風呂から上がった。
長い時間入っているわけじゃないのに頭がくらくらしてのぼせたような感覚だった。
俺はベンチに座っていると後を追うように沙綾も更衣室から出てきた。
浴衣に身を包んだ沙綾はなんか新鮮だった。
2人で部屋に戻ると懐石料理が並んでいた。
「うわぁ、すごいね!」
沙綾が感嘆な声を上げる。
「こんな豪勢なの見たことない」
それに合わせて俺も声を上げる。
「「いただきます!!」」
手を合わせて温かいうちに頂く。
「「おいしい!!」」
声を揃えて料理の美味しさを互いに伝えあった。
「今日の旅行、楽しかった?」
「うん!めっちゃ楽しかったよ!」
俺は元気よく答える。
「良かった〜。でも結構歩いたからそんなに疲れとれてない?」
「いいや、そんなことないよ。露天風呂気持ちよかったし」
疲れが取れたのを露天風呂のおかげにしておこう。沙綾といれたから疲れなんて吹っ飛んだよ、なんてキザなこと俺は言えないから。
「俺のためにこんなにしてくれてありがとう。めっちゃ嬉しいよ」
「どういたしまして」
彼女は笑顔で答える。どういたしまして、という言葉がなんか沙綾には似合っている気がする。面倒みの良さからだろうか。
「……明優には頑張って欲しいんだ。だから私は私ができることをするだけだよ」
「君」を外して言われたのは初めてでくすぐったかった。もう沙綾からは沢山もらってるのにこんなことまでされちゃったら返しきれない。
その呼び方は俺のお母さんのように優しくて、愛が籠っているかのように感じた。
「うん、応援してくれてる人の想い、沙綾の想い、そしてお母さんとお父さんの想いを乗せてリベンジするんだ」
俺は決意の眼差しを沙綾に向けた。俺から見た沙綾はまるでお母さんかのように微笑んでいて、どことなく雰囲気が似ていて思わずハッとする。
お母さんに重ねてしまうくらいに今の沙綾は包容力溢れる人に見える。
甘えたくなる衝動を抑える。
そんな会話をしていても俺たちの手は止まらず、気がついたら全部食べ終わっていた。
いつもより少し大きくなったお腹をさする。満腹感に包れていた。
その後俺と沙綾は布団に潜り込んだ。朝早くからバスケをし動き回っていたら疲れはくる。
俺は布団に入ってすぐ沙綾のことを抱き寄せた。沙綾がいると快眠できる。俺にとっては抱き枕みたいな感じだ。
沙綾も嫌がっていないらしく、いつも俺の胸に顔をうずくめている。
俺のコドウは沙綾に届いているだろうか。
また明日、沙綾。ゆっくりおやすみ
目が覚めるとまだ5時だった。夕食を食べ終わったのは大体10時30分、7時間も寝れれば俺的には十分だった。
沙綾を起こさないようにして布団から出る。沙綾の浴衣は初めてお泊まり会をした時のように乱れていて色気を出している。
俺はそんな耐性はなく、急いで布団で隠し見えないようにしてあげた。
露天風呂は24時間やっているとのことで俺は沙綾をおいて1人で向かった。
朝ということもあってかまたしても人っ子一人いなかった。
体を洗い、身を清めてから湯船に浸かる。気持ちよさのあまりおじさんのような声が出てしまう。
朝から温泉に入れるなんて、なんて幸せなんだろう。ずっと浸かってても良いくらいだ。
20分くらいしてからだろうか、沙綾がやってきた。
寝起きで俺もぼーっとしているのだろう。昨日みたいにテンパることはなく、ゆっくり浸かることが出来た。
「気持ちいいね」
「そうだねー」
昨日は会話のひとつもなかったが今日は何気なく喋ることが出来た。
風呂を上がって帰り支度を始める。朝ごはんはやまぶきベーカリーのパンで済ませた。
明日からはいつも通り学校が始まる。
まだ沙綾と旅行がしたかった。この時間がとても名残惜しかった。
チェックアウトを済ませて俺らは駅へと向かう。その前に俺と沙綾は2人で写真を撮った。
泊まった旅館を背にしたツーショット。写真を取られるのが嫌いな俺も思い出として残すことを選んだ。
大切な人はいついなくなるかわからないから。
日常が崩れることなんて今日、明日、いつ起こってもおかしくないから。
大切な人とはなんかの形で思い出として残していければなと思う。
電車の中では2人とも寝足りなかったのか、方を寄せあって終点までぐっすり寝た。
旅行はもう終わる。このまま歩いて家に帰ってしまえばもう明日からは普通の生活。
まだ時間はお昼を回ったくらいだ。
「明優、バスケしようよ」
沙綾の俺の呼び方はすっかり『明優』で定着したようだ。
やっぱりお母さんに呼ばれているみたいでその度に懐かしく思う。
「うん、やろう!」
1泊2日、休養を取るって言ったのに結局2日目は公園に帰ってバスケをした。
俺と沙綾、2人ともへとへとになるまで。
沙綾とやるバスケは1人で孤独にやるのよりも断然楽しく、笑顔が絶えない。身近な幸せのうちの一つだ。
その後は俺らは各自家へと帰る。さっきまで隣に沙綾はいたが今はもういない。空いたスペースが寂しかった。
家に帰るとやっぱり誰もいない。物音1つたたない家。
帰ってすぐお母さんとお父さんに手を合わせる。
京都で買ったお土産を添えて目をつぶり手を合わせる。
ママパパへ
昨日今日は京都にいました。沙綾と一緒に。神社に俺が勝てるように祈ってきた。2つも行ったんだし文句ないよね。やっぱり味方は多い方がいいじゃん。お土産ここに置いておくからね、いつでもどうぞ。
大会ももうすぐです。俺をずっとそばで見守っててください。
この物語、そろそろ終わりに近づいています。
2章としてこのまま続けるか、次回作へ移るかはまだ検討中です。
最後になんですが今週を終えたら急激に私生活の方が忙しくなるので投稿頻度はしばらくの間落ちます。
新たな作品でヒロインにするなら?
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Poppin’Partyの誰か
-
Afterglowの誰か
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Pastel*Paletteの誰か
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ハローハッピーワールドの誰か
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Roseliaの誰か
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Morfonicaの誰か
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RAISE A SUILENの誰か