パン屋の娘とリベンジ少年   作:-つくし-

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時間を見つけては少しずつ書いていました。
まだ忙しいですが来週にはピークは終わりそうです。


第19話 予選

 気がついたら大会前日を迎えていた。

 

 旅行から帰ってきた後の日々は一瞬だった。

 

 只管にバスケに打ち込む日々、それは普段の生活となんの変わりもないが今までにないくらい集中して取り組んだ。

 

 約1週間の状態は常にゾーン(極限まで集中力が上がった状態)に入っているかのようだった。

 

 プレー中は周りの音は全然聞こえず、自分の感覚だけが研ぎ澄まされた。

 

 シュートタッチは俄然良好、ディフェンスも疲れることなく足は常に動き続けている。

 

 ただここにきて不安になってきたのが膝の状態だ。

 

 最近のハードワークのせいで予想以上に膝に負担がかかっている。プレー中はアドレナリンのおかげで痛みを感じることはないが、終わった後に少し痛みが来てしまう。

 

 でも今ここで怪我することなんて許されない。やっと掴んだチャンスを取り逃したくないから。

 

 膝に細心の注意を払いながらも常に全力プレーで味方を引っ張る。それが今の俺にできる最大限の仕事だと思う。

 

 泥仕事でもなんでもする。ディフェンスのハードワークだって厭わない。

 まあディフェンスが1番の持ち味だが。

 

 オフェンスだって行けって言われたらどんどん行くつもりだ。

 

 勝つためなら自分の犠牲を払ってでも。

 

 正直に言うと大禪と花咲川では戦力の差はある。

 

 ベンチ層が厚いのは大禪だ。

 

 そして花咲川はというと、控えの選手が出てからガクっと戦力ダウンしてしまう。

 

 花咲川バスケットボール部は創部3年目ととても若い。3年目にしてここまで揃ったのが奇跡みたいなものだ。

 

 大禪はというと創部は俺らの10倍以上にも上る超有名高校だ。全国のキャプテンクラスのやつらが優勝を求めてやってくる。

 

 その分ベンチ層も厚い。俺らでは太刀打ちできやしない。

 

 スタメンの誰かを掻いてしまったら一方的な展開にだって十分なりうる。

 

 それでも負けるとは思っていない。明確な戦力差はあるものの若いチームらしくがむしゃらに戦う。

 

 従来のやり方に囚われない俺らのバスケットはまさに外のシュートを中心とした現代的なバスケットスタイルだ。

 

 スタメンでだったら互角以上に渡り合える自信がある。

 

 ディフェンスに難があるものの、オフェンスの爆発力は高校屈指のスコアラー、夢生

 

 普段は温厚だけどハッスルプレーで味方を盛り上げ、俺たちのゴール下を守る花咲川の守護神、心穏

 

 ハンドリング、ボール裁きに定評のある先輩

 

 The・縁の下の力持ちキャプテン

 

 そして俺、錚々たるメンツは揃っていると思う。

 

 大惨事さえ起こらなければ絶対に勝てると信じている。

 

 今日の部活はセットオフェンスの確認と最後のゲームをやった。

 

 セットオフェンスは俺を起点としたものも追加された。

 

 監督曰く「ディフェンスだけじゃなくてオフェンスの爆発力も申し分ないから生かさない手はない」だそうだ。

 

 正直ディフェンス徹しさせて欲しい気持ちもないことにはないが、シュートが入ればメンタル的にも安定するためこれはこれでありだと思った。

 

 ゲームはスタメン 対 控え でやった。普段は戦力差を無くすために均等に分けるのだが最後の調整のためそんなことはしなかった。

 

 控え組を存分にボコして俺らはフリーシュートにはいった。前日っていうのも相まって今までの和気藹々とした雰囲気でなく全員が虎視眈々とシュートを打ち始めた。

 

 初戦は余裕で勝てるだろう。俺らの見据えているところは決勝リーグだった。

 

 東京のウィンターカップ予選はすでに決まっている8校でトーナメントをし勝った4校が決勝リーグ、負けた4校が5~8位リーグへと進出する。

 

 俺らの初戦の相手はその8校の中だったら比較的弱めのJ高校だった。

 

 名門だが最近は補強に失敗して良い選手が取れずにいるらしい。

 

 決勝リーグも難なく2勝はできる。大禪高校は……。

 

 そんなことを考えているうちにフリーシュートは終わり荷物、身支度を整えストレッチをしミーティングへと移った。

 

「明日落としたらもうウィンターカップへは行けない。まずは初戦をしっかり突破しよう」

 

 監督は若干緊張しているのか体の揺さぶりが止まっていなかった。

 

 

 

 

 その後疲れを取るためにすぐに解散、各自家へ帰って行った。

 

 俺はというと今公園にいる。

 

 今まで落ち着いた調子で語っていたが実際のところガチガチに緊張している。それを紛らわすためにシュートを打とうってなったのだ。

 

 陽も落ちかけだが全然できる範囲内だったから問題なかった。

 

「冷たっ!!」

 

 頬に何か冷たい感触を感じた。明らかに風ではないし頬には水滴がついている。振り向いてみるとそこにいたのは

 

「あははっ!」

 

 アクエリアスを持った沙綾だった。どうやらバンドの練習の後偶然見かけたらしい。

 

 沙綾合流後も只管シュートを打った。沙綾が来たおかげで効率よく励むことができた。

 

「明日は勝てそうなの?」

 

「ヘマさえしなければ余裕かな。相手には悪いけど」

 

「明日見に行ってもいい?」

 

「もちろん、ポピパのみんなも連れてきていいし」

 

「りょうかいー」

 

 沙綾と話していると自然と気が楽になる。緊張もだんだんとほぐれていくようだった。

 

「明日は行けないけど、決勝リーグは絶対見に行くね」

 

 明日の予選は平日に行われる。そのため沙綾たちは普段と変わらず授業がある。

 

「うん、待ってるよ」

 

「ねえ、明優。……良かったらダンク見せてくれない?」

 

 意外な要望がきた。未だかつてこんなこと言われたことなかった。

 

「いいよ。じゃあそこに立ってボールをこんな風に真上に高く上げて」

 

 俺は指を指してゴール下付近に立ってもらうように促した。

 

「こ、こんな感じ?」

 

「うん、それでいいよ。俺が上げてって言ったらボールを上げて。そして上げた後は急いでゴール下から離れてね」

 

「うん」

 

 そう言って俺は沙綾から離れた。

 

 助走をつける。秋風がとても冷たい。最高速までく来た。この位置なら

 

「上げてっ!!」

 

 沙綾はボールを真上に上げた。経験者かと思うくらい絶妙な高さ、タイミングだった。

 

 ガシャン

 

 俺は沙綾との連携でアリウープ(高く投げられたボールをジャンプして受け、着地せずにそのままゴールにぶち込む)を決めた。

 

 今俺は沙綾のことをゴールから見下ろしている。沙綾は俺の方を見て口をあんぐりとさせていた。

 

「これでいい?」

 

「うん!すごかったよ」

 

「沙綾のパスが良かったからね。パスが良くなきゃできてないよ……ッ!!」

 

 俺はその場でしゃがんでしまった。膝の痛みが突然来たのだ。テーピングとサポーターをもう外してしまったからだろうか。

 

「大丈夫!?」

 

「……うん、ッ!いや歩くのかなりしんどいかも」

 

 跛を引きづりながらじゃないと歩けなかった。

 

「でも沙綾のせいじゃないから。元々膝が悪いって言ってたしょ?最近熱入りすぎてちょっとね」

 

「……でもっ!」

 

「じゃあ、肩貸してくれない?もう家に帰るよ」

 

 俺は沙綾に支えられながら家に帰った。家に着く頃には痛みは引き、俺一人でも歩けるくらいには回復した。

 

 帰り道、沙綾は何度も謝ってきた。沙綾のせいじゃない俺の管理が甘かったから気にしないで、と何度も言ったが1歩も引かなかった。でも責任は感じて欲しくないので無理矢理俺のせいにしておいた。

 

「ありがとう沙綾。もう大丈夫だから」

 

「ううん、無理はしないでね」

 

 と釘を刺された。でも無理しないと勝てない相手だ。

 

「明優は風呂入ってきていいよ、今ちょうど沸いたみたいだから。私ご飯作るね」

 

「じゃあ、ありがたくそうさせてもらおうかな」

 

 俺は沙綾のご厚意に甘えてお風呂に入ることにした。公園に行く前に沸かしておいて正解だった。

 

 お風呂に入って体を入念に解した。足も腕もガチガチだった。

 

 お風呂から上がるとすでにご飯が出来上がっていた。

 

「わぁ!!」

 

 今日は俺の好きな物だらけだった。味噌汁に焼き魚、サラダにご飯。俺は焼き魚も野菜も大好きなのでとても嬉しかった。

 

「いただきます!」

 

 俺はそれを見た途端に食べ始めた。

 

 横では沙綾が笑顔で見つめている。

 

 この感じ、なんか夫婦みたいでくすぐったい。

 

 いつかはこれが毎日のように……。

 

「ごちそうさまでした!!」

 

「お粗末さまでした〜」

 

 俺はものの10分でそれを平らげてしまった。最近忙しさでまともな食事が取れてなかった分、余計に美味しく感じた。

 

 

 

 

「洗い物は俺が自分でやっとくからもう家に帰っていいよ、もう暗いし良ければ送っていく?」

 

「そうさせてもらうかな。でも膝が心配だから明優は家にいていいよ」

 

 心配させちゃいけないから今回は家で待機することにした。

 

「でも……帰る前にその」

 

 沙綾はなんだか何か言いたそうだった。

 

「なに?」

 

「抱きしめてくれませんか?」

 

 沙綾にしては珍しい抱擁の要求。むしろこんなにお願いされたのはあんまりないんじゃないか。

 

「わかったよ」

 

 俺はすぐ沙綾を抱きしめた。この瞬間俺と沙綾は互いにコドウを感じ合った。

 

 沙綾のコドウはトクントクンと優しいものだった。戸山さんからので慣れているのだろうか。

 

 一方俺はバクバクだ。未だに慣れずにいる。抱きつくまでは平然を装えるが抱きついた後に恥ずかしさが来てしまい、胸の高鳴りが止まらなくなる。

 

「明優、暖かいね。香澄とは違う感じで、なんだか安心する」

 

「……俺もだよ」

 

 沙綾と温もりを共有している、この時間が限りなく愛おしかった。

 

 

 その後、沙綾を見送ってから早めに寝た。

 

 明日のためとあの温もりを忘れたくないから。

 

 

 

 

 予選リーグは難なく突破した。

 

 試合に描写はないのかって?この試合は1クォーターだけしか出番がなかった。

 

 俺らスタメン組は1Qで28-7と大量リードを奪い次のクォーターはベンチメンバーで乗りきったのだ。

 

 結果的に81対67と少々冷や冷やする時もあったが無事に決勝リーグへと駒を進めることができた。

 

 これは創部以来初の快挙らしい。まあ3年しか経ってないしね。

 

 決勝リーグは今週の土日、そして来週の土曜日の計3日間で行われる。

 

 もちろん大禪高校も圧倒的な力を見せつけて決勝へと進んできた。

 

 おそらく主力は出ていない。糸井はベンチで談笑していた。

 

 アイツらと当たるのは最終日になるだろう。最終日にトップ同士が争うからだ。

 

 俺らの試合には花咲川の全校生徒が駆けつけるようだ。初のウィンターカップがかかっていて全校生徒の期待も高まっていたようだ。

 

 幸い都内でもかなり大きい体育館で試合をすることになったから観客は余裕で入れるだろう。

 

 今日は決勝リーグ第1戦目、K高との対戦だ。

 

 今日も今日とでテーピングでガチガチで固定しサポーターも履いて準備万端だ。

 

 K高とは楽な試合運びで勝利することが出来た。

 

 心穏のリバウンドからの速攻をきっかけに相手が俺らのペースについていけず面白いくらいに点が決まった。

 

 そしてなんと言ってもキャプテンがこの大1番の試合で爆発。

 

 普段はあまり打たないスリーポイントもこの日は合計6本も決め、1人で37得点。86点のうちの大体3分の1を占めた。

 

 夢生と心穏もそれなりに点数を稼いでいた。

 

 一方俺はというと点数はあまり取りに行かなかった。その代わりにディフェンスで大きく貢献、得点はたったの7得点に終わってしまったがスティールは8とNBAでも稀に見るような数字を出した。

 

 ブロックもこの日は3とディフェンスが冴え渡っている日だった。

 

 オフェンスに関してはまだ也を潜めている。オフェンスまでしたら膝が悲鳴を上げてしまうだろうから。

 

 

 2日目は少々苦戦を強いられてしまった。相手は210cmの留学生を擁するR高。その高さに苦戦しながらも何とか勝利を収めることができた。

 

 いくらディフェンスが上手い心穏でも20cm差もある相手を抑えるのは困難で前半戦は大量に失点してしまった。

 

 後半はディフェンスをマンツーからゾーンにし中央を固めることによって簡単にはパスを出させないようにした。

 

 留学生以外は大したことなく後半は一方的な展開が続き、蓋を開けてみれば78対65で勝利していた。

 

 この日のリーディングスコアラーはポイントガードの先輩。スクリーンを巧みに使いゴール下に積極的にアタックして行ったけっか23得点を挙げていた。

 

 他のメンバーもバランスよく点を取ることができ、理想的なスコアリングだった。

 

 ちなみにこの日、大禪高校はK高に30点差を取って快勝。前日のR高戦も20点差以上をつけて勝っている。

 

 やっぱり自力が違いすぎる、試合を見てそう思った。

 

 ベンチから登場してくるメンバーも粒揃い。いくらファールトラブルで控えを出そうと隙が全くなかった。

 

 膝はまだ大丈夫なはずだ。もう少しもっててほしい。次の試合までは絶対に。

 

 

 

 




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