キョン!東西冷戦再開するわよ!   作:邪骨

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AIのべりすとで一人大喜利大会をしていたら、たまたま上手くいったので連載してみます。


キョン!東西冷戦再開するわよ!

「キョン!東西冷戦再開するわよ!」

 

 ある日の昼下り。いつもの如く、用もなく部室に集まっていた俺らに、涼宮ハルヒはそう言った。

 最初はまたいつもの冗談かと思ったが、テレビでニュースを見たら、そんな考えも吹き飛んだ。

 

『臨時ニュースをお伝えします。臨時ニュースをお伝えします。午後3時半頃、ウクライナがアメリカ軍の侵攻を受けているとの情報が入りました』

 

 慌ただしく台本を捲るキャスターの姿が、そこにはあった。俺は自分の目を疑ったね。ハルヒも長門も朝比奈さんも、三人揃って同じリアクションをしていたっけ。

 

「どーなってんの? 何でいきなりこんなことになるわけ?」

 

 ハルヒは口を尖らせてテレビ画面を見つめていた。

 おいおいハルヒ、またお前が何かやったんじゃないのか?そういった疑念が浮かんだが、すぐに確信へと変わった。コイツのくだらない思いつきで世界が改変されるのは、いつもどおりのことだったからだ。

 

「……これは」

 

 長門がつぶやき、険しい表情をしているのを見て、ようやく俺は理解した。

 

『えー……繰り返しお伝えします。ただいま入りました情報によりますと、ウクライナにおいて戦闘が行われている模様です。現地にはアメリカ軍も展開しており、交戦状態に入っているとのことです。詳しいことはまだ分かっておりません。なお、ウクライナ政府当局者は、この事態についてコメントを控えております……』

 

 戦争が始まるのだ。しかも俺たちの国である日本にもその影響が出るだろう。

 

「これって……どうなるんでしょう?」

 

 朝比奈さんの疑問は当然だった。

 

「さあ……アメリカとロシアが勝手にドンパチやってるだけでしょ? また適当な国を使って代理戦争よ。あたしたちの知ったこっちゃないわ」

 

 涼宮ハルヒはどこまでいっても他人任せな姿勢を崩さない。

 

「…………」

 

 長門は無言のまま、じっとテレビ画面を見つめている。

 

「ねえ、みくるちゃん。今日からしばらくバイト休めるかしら?」

「え……はい、たぶん大丈夫だとおもいますけど……。どうしてですか?」

「決まってるじゃない。行くのよ、キエフまで」

「おい待てハルヒ。まさかお前、参戦するつもりじゃないだろうな!?」

 

 今さっき「あたしたちの知ったこっちゃないわ」と言ったばっかりだろ。あと朝比奈さんを戦地に連れて行くな。

 しかし俺の言葉などどこ吹く風で、ハルヒは鼻息荒く立ち上がった。

 

「もちろん行くわよ! あたしたちだって無関係じゃいられないんだもの! あたしたちは世界の異変を調査するためだけに存在しているようなもんなんだから!」

 

 言ってることがメチャクチャだ。異変の原因はお前だよハルヒ。

 

「で、東か西か、どっちの味方になるつもりなんだよ」

「それはこれから考えるわ!」

 

 ダメだ。こいつにまともな作戦立案能力があるとは思えん。

 

「いいか? よく聞け。まずは情報収集が必要だ。戦うにしても逃げるにしても、そのための準備がいる。今の俺たちにできることは何もない」

 

「そう? あんまり難しく考えなくても、どっちかの陣営に付いちゃえば何とかなりそうな気がするんだけど。例えばソ連側についたら、捕虜になった時に待遇が良くなったりして」

 

 そんなわけあるか。

 

「それにね、もし戦争が始まったとしても、きっとすぐ終わると思うのよね。だってこの戦争って、どっちも本気でやり合う気がないみたいだし」

「どういう意味だ?」

「ウクライナの連中が仕掛けたんなら、もっと早く反撃されてるはずでしょ? だから、これはお遊戯みたいなものだと思うの。つまり、俺たちは冷戦を再開するぞっていうポーズなのよ」

「……」

 

 俺は閉口した。

 

「……まあいいわ。とりあえずキョン、あんたはSOS団全員に召集をかけて。今日中にキエフに向かうから準備しておくこと! いいわねっ!」

 

 有無を言わせない命令口調で言い放ち、ハルヒは勢い良く部室を出て行った。残された俺と長門と朝比奈さんは、互いに顔を見合わせて肩をすくめた。

 

「……というわけです。行きましょうか、みなさん」

 

 朝比奈さんはいつになく落ち着いた声で言った。

 

「……」

 

 長門はそれに対し無言だったが、すっと立ち上がって部室を出ていった。

 

「キョンくん、早くしないと置いて行かれちゃいますよっ」

 

 朝比奈さんに急かされ、俺は慌てて鞄を手に取った。

 

「あ、そうだ」

 

 ドアの前で振り返ると、朝比奈さんは不思議そうな顔をしていた。

 

「なんですか?」

「いや、なんでそんなに落ち着いてられるのかなと。もしかして朝比奈さん、こうなることが分かってたんじゃないですか?」

「……禁則事項です♪」

 

 朝比奈さんはにっこりと微笑むと、いつもの常套句を口にした。

 

「……はあ」

 

 俺は釈然としない気分で朝比奈さんとともに学校を出た。

 

「それじゃあ、準備ができたらまた後で」と別れ際に長門。

「待ってるわ。みんな、ちゃんと来るのよ。集合場所は例の喫茶店!来なかったら承知しないからね!」

 

 ハルヒはそれだけ言うとさっさと校門から出ていき、その後ろ姿はあっと言う間に見えなくなった。

 俺は小泉の不在を呪った。あいつはもしかしてこうなることを知っていたから、今日学校を休んだのではあるまいな。だとしたら大した先読みである。いや、ただの偶然だろうが。

 仕方なしに坂を下り、自宅に帰り、憂鬱になる。これからハルヒ率いるSOS団の連中と戦争をしにいくことになるのか。考えただけで胃痛がしてきた。

 

 制服を脱ぎ捨て、着替えてから居間へ。テレビをつけるとちょうどニュースをやっていた。

 

『アメリカ政府は、ウクライナにおいて戦闘状態に入ったと発表しました。繰り返します……』

 

「……」

 

 俺は黙ってチャンネルを変えた。

 

「キョンくん、何してるのー?」

 

 妹が台所から出てきた。

 

「ちょっと出かけてくる」

「どこに?」

「……友達に会いに。すぐ戻るよ」

「ふーん。行ってらっしゃい」

「......ああ」

 

 妹はそれ以上追及してこなかった。そのことに少し安堵しつつ靴を履いていると、「あ、あのね」と声をかけられた。

 

「うん?」

「これ……」

 

 手渡されたのは何の変哲もない一枚の紙切れだった。

 

「何かあったら使って」

 

 俺は妹の目をじっと見つめた。

 

「ありがとう、助かるよ」

「う、うん。でも、お守りだから。絶対持ってなきゃいけないの。なくさないでね。絶対に。約束だよ?」

 

 念を押すように言われ、俺はもう一度礼を言って家を出た。

 ああ、鬱陶しかった妹も、こんなときは頼もしい。

 俺は駅前まで自転車を走らせ、そこからバスに乗った。

 三十分後、俺はSOS団御用達の喫茶店でアイスコーヒーを飲みながらハルヒたちを待っていた。

 

「......」

 

 10分ほど待っただろうか。ドアを開ける音。誰か入店してきたみたいだ。

 

「......」

 

 その人物の正体は、我らが宇宙人長門だった。

 

「やはり今回の異変は、涼宮ハルヒが原因」

 

 長門は俺を見て開口一番そう言った。

 

「やっぱりってことは、心当たりがあるのか」

 

 そうだとは思ったが、そうなのか。

 

「アメリカ軍に潜入していた情報統合思念体からの報告で、突如としてウクライナと戦闘状態に陥り、これまで休暇を楽しんでいた兵隊たちが突然戦場に出現したのを観測している。このようなことができるのは、涼宮ハルヒだけ」

 

 俺は眉間を揉み解した。

 

「それで、原因は分かったのか」

「分からない」

 

 長門は首を振った。

 

「少なくとも、わたしには見当がつかない。情報が足りない」

 

 俺は無言で長門の顔を見た。長門は俺の反応など気にせずに言う。

 

「涼宮ハルヒは、自分が楽しいと思ったり、興味を持ったりすると、それがどんなことであれ周囲に影響を及ぼす力を持っている。それは知っていると思う」

 

「……ああ」

 

「涼宮ハルヒがこの状況を望んだことは確か」

 

 俺は店内を見回してみた。俺たちの他に客はいない。マスターもカウンターの奥で暇を持て余していた。

 

「……ハルヒのことだから、自分の意思とは無関係に状況に巻き込まれてるってこともあるんじゃないか? ほら、よくあるじゃないか、そういう映画とか」

「ないとは言えない。だが、今回に限って言えば、涼宮ハルヒの意思は明確」

「というと?」

「涼宮ハルヒは、キエフに行きたいと思っている」

 

 俺は思わず腰を浮かせた。

 

「戦争真っ只中の中心地に、自ら足を踏み入れたいと思っている」

「それは......」

 

 俺は黙るしかなかった。

 

「情報統合思念体は、今回の事象に積極的に介入するつもりはないということだけ伝えておく。我々は世界が滅亡するようなことがないかぎり、観測に徹する」

「そうかよ」

 

 俺は席に着いた。

 

「……それでいいのか」

「現状では、何もできない。ただ、わたしたちにとって好都合なのは、この異常事態にあなたが巻き込まれていないこと」

 

 長門は珍しく微笑んで見せた。

 

「あなたの身に何かあれば、わたしたちは涼宮ハルヒに対抗する手段を失うことになるから」

 

 なんだ、結局俺頼りかよ。まったく憂鬱だな。

 それからしばらくの間、俺と長門は喋ることもなく、向かい合って椅子に座っているだけの時間を過ごした。

 

 午後6時15分、我らが団長、涼宮ハルヒがようやく喫茶店に現れた。もちろん、いつものように朝比奈さんを連れて。

 

 ハルヒは店に入るなりキョロキョロと店内を見回し、「古泉くんはまだ来てないの?」と訊いてきた。

 

「まだだな。お前が最後だぜ」

 小泉のやつめ、いよいよ本当に来ないつもりだな。

 

「そっか。あたしも連絡したんだけど、どうにも電話に出ないのよね」

 

 そこまでしてついてくる気がないのか小泉よ。お前も来て俺と同じく胃痛に苦しめばいいのに。

 

「まあいいわ、小泉くんには後日罰ゲームを与えるから」

 

 南無三小泉。俺は初めてお前に同情するよ。

 

「さて、みんなパスポートは持ったわね?ウクライナまでの飛行機は運行停止中だから、まずはルーマニアまで飛ぶわよ」

 

 ハルヒは高らかにそう言った。

 

「キエフまでは、どうやって行くんですか?」と朝比奈さん。

「電車よ」

 

 ハルヒは胸を張って答えた。

 

「じゃあ、空港まで行きましょう」

 

 ハルヒの号令で、俺たちはぞろぞろと店を後にした。駅前でタクシーを捕まえようと思っていたのだが、どこへ行っても車が見当たらない。交通規制でもされているのか、道路を走っている車はほとんどなかった。駅前ロータリーを歩いていくと、道の向こう側から一台の乗用車が走ってくる。

 運転手の姿はなく、車は勝手に動き回っているようだ。まるで見えない誰かが運転しているかのように。

 そしてその車の窓から、にゅっ! と手が突き出された。手は車内に向かって何やらジェスチャーをしている。

 ハルヒはそちらに向けて大きく手を振った。

 車が俺たちの前で停まる。後部座席のドアが開き、そこからひょっこりと顔を出したのは―――

 俺は目を疑うことになった。

 そこにいたのは、俺の妹だったからだ。

 黒髪を横で束ねているサイドテール。迷彩柄のジャケットを着て、これまた迷彩柄のズボンを穿いている。

 

 俺は今眼前で平然と行われた変化に目を見張った。待て、待て、おかしい。妹は良い子に留守番をしているはずだ。しかも妹は小学6年生だぞ。なぜ車を運転している。

 

 妹は助手席側の窓を開けると、ハルヒに話しかけ始めた。英語である。俺は耳を澄ませた。

 ハルヒも英語で応じる。内容は聞こえないが、会話が成り立っていることは分かる。

 やがてハルヒがこっちを向いて、「キョン、乗って」と言った。俺は混乱しつつもハルヒの傍に行き、妹に話しかけた。

 

「妹よ、なぜ車を運転している?」

Huh? I'm sorry, (ああ?すまねえが、)I don't speak Japanese.(俺は日本語がわかんねぇんだ。) Anyway, welcome comrades.(とにかく歓迎するぜ、同志たち)Let's kill the American public together.(一緒にアメ公をぶっ殺そうぜ)

 

 駄目だ、話が通じない。今ここにいるのは、ハルヒによって何かしらの役割を押し付けられてしまった妹モドキということなのだろう。俺はとりあえず妹の隣の席に座ることにした。

 

「なあ、この子は誰なんだ?」

「あたしが連れてきた助っ人」とハルヒが言う。

 

「名前はジョンソンよ」

 

 ああそうですか、と言いたいところだが、残念ながら妹の名前はジョンソンではない。しかしハルヒのこの何一つとして疑問を覚えていない顔を見るに、もうハルヒの中では妹はジョンソンなのだろう。

 俺が唖然としている間に、ハルヒは後部座席に乗り込んだ。

 

「さあ、出発よ!」

 

 ハルヒの号令一下、車は走り出した。長門と朝比奈さんはハルヒを挟む形で座った。妹は俺たちのことなど眼中にないように、黙々とハンドルを握っている。

 

「なあ、この子、免許持ってんのか」

「はぁ?当たり前でしょう?ジョンソンはロシアの凄腕スパイなんだから」

 

 何を言っているんだこいつは、という顔をするハルヒ。何を言っているんだは俺のセリフだし、いつの間にかロシア側で参戦することになっていた事実に慄いたが、もう何も考えるまい。

 妹は流暢な英語で何やら訳のわからぬことを喋っているが、「kill」だの「America」だの聴き取れるから、どうせろくなことではない。

 

「……あの、どうしてその子を連れてきたんですか」と朝比奈さん。

「だって、通訳ができるじゃない。これから先、言葉の壁にぶち当たるかもしれないからね。それに、なんか強そうだし」

 

 俺には妹の強さが分からなかった。どう考えてもなんの訓練も積んでいない女児が強いわけがなかった

が、ハルヒの影響を受けているハズだから、本当に強い可能性もある。

 

「でも、日本語は話せないんですよね?」と朝比奈さん。長門は無言だ。

「え?ああそういえば……まあいいわ、適当に喋らせておけばいいでしょ」

 

 ハルヒの設定の粗さが際立つな。

 

「それより、もっと楽しいことを考えましょう!まずは、キエフに着いたら何をするか考えないとね」

 

 お前は戦争をしに行くんじゃなかったのか。俺はハルヒの移り気の早さに驚愕した。

 

「まずは何と言っても、美味しいものを食べなくちゃいけないわ。それから、綺麗なお城にも行きましょう。それと――」

 

 ハルヒは指折り数えながら、

 

「何より、みんなで記念写真を撮らないといけないわよね」

 

 それは、確かに楽しげではあった。

 だがしかし、妹の軍人設定が生きている以上、いまだハルヒの参戦欲がなくなっていないのがわかる。そう思うとやっぱり楽しくなかった。

 

「じゃあ、まずは――」

 

 ハルヒのくだらない戦争旅行計画を聞かされること一時間と少し。

 嫌なことに、俺たちは無事空港に着いてしまった。タクシーを降りてロビーに入ると、そこは何故か閑散としていた。カウンターの前で、誰かと話をしている制服姿の警官がいるだけだ。

 

「あたしちょっと行ってくる」

 

 ハルヒは言って、俺たちにここで待つように言った。

 受付に走って行ったハルヒは、人数分の搭乗券を持って戻ってきた。

 

「はい、これ」

 

 ああ、いよいよ乗ってしまうのか。ウクライナに戦争をしに。俺は手渡されたチケットを眺めた。二枚の片面印刷の紙には、出発時刻と行き先が書かれてある。その文字を読むだけで、俺の気分は暗くなってくる。

 

「どうしたの? 行かないの?」

「……行くよ」

 

 ハルヒは不思議そうに首を傾げている。

 

「じゃあ早く来なさいよ。飛行機に乗り遅れるじゃない」

「そうだな……」

 

 俺が黙って立ち尽くす横で、長門と朝比奈さんも同じようにチケットを見つめていた。まあ、ジョンソンと化した妹だけは陽気な様子だが。

 

「…………」

 

 そしてハルヒと妹を除く3人は、無言のまま搭乗ゲートまで進み、ドイツ(フランクフルト)行の飛行機に乗り込んだ。どうやらドイツを経由してルーマニアまで行くらしい。俺たちは通路側の席に並んで座った。エコノミークラスだが、まあいいだろ。窓際にはハルヒと長門が座り、廊下側の座席には朝比奈さんと俺が腰かけている。妹は俺たちから少し離れた場所に座っていた。

 

「はあ......」

「......」

 

 ため息をつく俺の隣には、相変わらず無言で読書に勤しむ長門の姿があった。昨日と同じ本を読んでいる。今日もまた、こいつの頭の中には何が詰まっているのだろう。こんなイカれた状況だというのに、全く大したやつだぜ。

 

「もうすぐ離陸するわよ!」

 

 窓際の席から身を乗り出して、ハルヒが叫ぶ。

 そんなことを言われても、ここからでは外の様子など見えないのだが。

 シートベルト着用サインが点灯すると、ほどなくして機体が動き出した。滑走路に向かってゆっくりと加速していき、やがて轟音とともに地面を離れる。

 長門の向こうから見える景色が一変した。地上の風景が後方に消えていき、代わりに夜空が広がっていく。雲海を抜けると眼下には見渡す限りの輝きが広がり、地平線の彼方まで続いていた。

 

「すごい! 見てみなさいキョン、すっごいわよ!」

 

 興奮して騒ぎ立てるハルヒの声を聞きながら、俺はぼんやりと考えていた。

 これからどうなるんだろうなぁ。

 ハルヒはいつになったら満足してくれるんだ? 俺は生きて帰れるのだろうか?ひょっとしたら妹は一生ジョンソンのままなのか? しかし、そうやって考え込んでいるうちに、飛行機は徐々に高度を上げていく。機体は安定飛行に入り、何の問題を起こすこともなく、順調に航行している。

 

 俺はいつしか眠ってしまったらしい。次に目が覚めたときには、もう着陸態勢に入っていた。

 外は載ったときと同じような夜空。俺の腕時計は朝の7時だが、時差を考えると当然のことだろう。

 空港に到着した俺たちは、入国手続きを終えてロビーに出るところだった。

 

「ねえ、なんか変なこと書いてない?」

 

 ハルヒが声を上げた。

 

「え?」

 

 ハルヒの手にあるパスポートを覗き込むと、「国籍:ロシアです」という文言が目に飛び込んできた。俺も自分のパスポートを確認してみたが、なんと俺の国籍までロシアになっていた。

 

「なんで?」

「知らん」

 

 俺だって知らない。

 

Hahaha, don't worry about it, Haruhi.(ハハハ、心配することはないぜ、ハルヒ。)It's a passport that I forged to enter the country.(それは俺が入国用に偽造したものだ。)Because if they find out that a Japanese national(国籍が日本の人間が、俺たちの軍隊に) is in our army, they'll kill us.(居るってバレたらコトだからな)

 

 サングラスをかけた妹が、誇らしげにそんなことを言った。

 

「ふーん、偽装なのね」

 

 俺には妹の言っていることが理解できなかったが、ハルヒの反応を見るに、きっと碌なコトではないのだろう。

 ハルヒはあっさり納得すると、パスポートをスーツケースの中に放り込んだ。

 

「それで、これからどこに行くんだ?」

「とりあえずホテルにチェックインしてから市内観光をするわよ。その後は自由行動。あんたたちは好きにしてていいわ」

 

 そんな悠長なことを言っていていいのか?お前は戦争をするつもりだったんじゃないのか。まあ、俺としては平和が一番なので、今の調子が続いてくれるというなら構わないが。

 

「涼宮さん、ちょっと待ってください」

 

 朝比奈さんがおずおずと手を挙げた。

 

「あの……あたしたち、どこに泊まるんですか?」

「ああ、そのことだけど……」

 

 ハルヒは顎に手を当てて考える素振りを見せた。

 

「考えてなかったわ」

 

 おい。

 幸いなことに、ジョンソンが部屋を押さえてくれていたらしいので、そこへ向かうことになった。まったく、妙に都合が良いな。

 俺たちはタクシーに乗って移動を開始した。運転手はドイツ語しか話せないらしく、行き先を告げるのに難儀したが、なんとか聞き取ってくれたようだ。

 

 ジョンソンが予約していたのは、とあるシティ・ホテルの一室だった。ツインルームで、広さも十分。まあ、こんなものだろう。

 部屋に荷物を置くと、俺がシャワーを浴びている間に妹と長門が何やら話し合いをしていた。

 俺が浴室から出てくるころには、妹の姿はなく、長門だけがベッドに座っていた。

 妹は? 訊くまでもなく、答えはすぐにわかった。窓際のテーブルの上にメモ用紙が置かれていたのだ。そこにはたった一言、こう記されていた。

 

〈From Johnson〉

(ジョンソンより)……。

 俺はため息とともにメモ用紙を手に取った。裏返すと、ボールペンで走り書きされた英文があった。

 

―――Don't worry, I'm just going for a little walk.(心配すんな、ちょっと散歩に行くだけだ。)|And, Kyung, don't get carried away just because there are all these beautiful women.《キョン、美人がいっぱいいるからって調子に乗るなよ。》

 

 英語の成績の悪い俺でも、まあ何とか読み解くことが出来た。それにしても、妹のクセに(本人は赤の他人と思っているのだろうが)生意気だ。

 

「ったく、余計なお世話だっつーの」

 

 呟きつつ、俺はメモ用紙を丸めてゴミ箱に投げ入れた。それから一時間後、俺たちはホテルを出た。外はすっかり夜だ。ちなみに、長門は同行を拒否したため、一人ホテルで留守番だ。

 俺はコートの襟を立てて首元を覆った。

 

「さあて、これからどうしようかしらね」

 

 ハルヒは腕組みをして、うーん、とうなった。

 

「そうねぇ……」

 

 そして、俺と朝比奈さんの顔を交互に見比べる。

 

「…………」「……」

「あっ!」

 

 ハルヒが手を叩いた。

 

「そういえば二人とも、お腹空いてない?」

「あん? いや別に」

 

 と答える俺の横で、朝比奈さんが小さく首を縦に振っていた。

 

「実は私、朝ごはん食べ損なってて。お昼は飛行機の中でサンドイッチ食べただけでしたから」

「じゃあ、どこかに入って何か食べる? もちろん、あたしのおごりでいいわよ。何がいい?」

「えっとぉ」

 

 朝比奈さんは俺の顔色を窺った。

 

「俺は何でも良いよ」

「だったら、この近くに美味しいドイツ料理屋があるって聞いてます。そこに行きましょう。ね、ハルヒちゃん」

「うん、いいわ。よし決定! 行くわよ、みくるちゃん」

 

 ハルヒを先頭に、俺と朝比奈さんが後ろに続く形で歩き出した。

 夜の街を歩くのは嫌いじゃないが、こんな時ばかりは少しだけ落ち着かない。何故って、やはり戦争が脳裏をチラつくからだ。

 

「なあ、本当に戦うつもりなのか?」

 

 前を進むハルヒに問いかけた。

 

「当たり前でしょ」

 

 ハルヒは振り返りもせず、断言した。

 

「SOS団として、地球の危機を見過ごすわけにはいかないわ」

「しかし、その危機は俺たちが解決しなきゃならんほどの規模か?俺ぁそんなことはないと思うが」

「怖じ気づいたのね?情けない奴。それでも男? 団長命令よ、戦いなさい。団員の分際で逆らう気?」

「そういう問題じゃなくてだな……」

「キョン、あんたが心配なのはわかるけど」

 

 ようやくハルヒは立ち止まってくれた。俺と向き合い、

 

「あんまり考えすぎるのもよくないわよ」

「……お前が気にしていないようなんで、安心したぜ」

「あたしだって不安がないワケじゃないのよ」

「そうなのか?」

「当然でしょ。今さら言うまでもないことだけど、アメリカと戦うことになるとは思わなかったわ。でも、やるしかないわ。それしか方法はないんだから」

「……」

「もし、仮に、あたしたちが負けちゃったとしても、それはそれで仕方ないじゃない。どのみち、いつかは戦わなきゃいけなかったのよ。それが早まっただけだと思って諦めればいいの。それに……」

 

 ハルヒは微笑を浮かべて言った。

 

「いざとなったら、また逃げれば済む話だしね」

 

 俺は無言のまま肩をすくめた。コイツの頭の中では、どんな完璧なストーリーが出来上がっているんだ?脚本が穴だらけだぜ。元はと言えば、お前さんが戦争したいだなんて言い出したからなんだぞ。

 まあいいさ。ここまで来た以上は、もう引き返せない。

 

 せいぜい頑張ってみることにするよ。

 

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