うちはの生ける炎   作:律可

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初陣

 三月二十五日

 

 というわけで明日、戦場デビューだ。

 戦に出るわたしを心配している人ランキング堂々の一位は若君で、二位が意外にもマダラ様、三位に他の弟君たち、四位にタジマ様と続く。

 母は四十二位くらいだと思う。

 初陣で死ぬ率の高さを知らないはずがないだろうに、母はわたしのことを全然、まったく、ほんの少しも心配する素振りを見せなかった。

 あまりにもいつも通りなので「あの、わたし明日初陣なんだけども」と話しかけてしまった。

 母は「そうね、頑張ってきてね」と言った。

 わたしが戻ってくることを確信しているのか、戻ってこなくてもいいと思っているのか。

 流石にそれを聞く勇気はないぞ、と思った時、「あなたはこんなところでは死なない」と母は言った。

 前者だった、流石に後者ではなかったぞとテンションが上がった。

「あなたはわたしの子だから、きっと火に愛されている。あの方ともいつか会える。その日まで死ぬはずがないわ」と続けられ、上がったテンションが地に落ちた。

 あの方って誰だ、いや知っているから言わなくていい。

 胡散臭さと微かな憧憬を感じている、おそらく母以外は知らない神様だが、加護があるならありがたく受け取っておきたい。

 だが受け取るのは加護だけでいい。「あの方」を語る時の母のような狂気を得たくはない。

 

 若君が、約束はできないと言っているのに再三「気を付けてくれ、無事に戻ってきてくれ」と言ってくる。

 わたしと同日に初陣になるマダラ様にその心配を向けた方がいいのでは、と言ったらマダラのことは血を吐きそうになるほど心配してる、お前のことも死にそうに心配だ、と返された。

 他人にここまで心を砕けるのは一種の才能だと思う。

 わたしが死体で戻ってきたらさぞ落ち込むだろうし、何より初陣で死ぬのは格好悪いか流石に、とも思う。

 マダラ様もなんだかんだで嫌な気持ちにはなるかもしれない。

 あの兄弟のため、というわけではないけれども、五体満足で帰ってこれるように頑張ってこようと思う。

 なお母も同じ戦場に立つはずだが全く心配する気にならない。確実に無傷で帰ってくるだろうからだ。

 

◇ ◆

 

 三月二十九日

 

 五体満足で帰還。思ったよりすぐ戻ってこれた。

 戦場のヤバさ以上に実母のヤバさを目の当たりにした初陣だった。

 戦場は戦場で最悪だったのだが(想像以上にばんばか人が死ぬ、死んだ人は邪魔でしかない、血と泥と死臭で息をするだけで不快、案外暇な時間もありそれはそれで嫌など)母が本気で戦っている姿を初めて見て、なんだあの人、怖、と心底感じた。

 母が集落でも周りから若干距離を取られていることは知っていた。男衆に交じって戦う異端の女うちはだし、愛想はいいが自分から集団に交じりに行く人でもないので特に気にしてはいなかった。

 あれは距離を取る。怖いもんな。

 母がうちは随一の火遁の使い手とは聞いていたし見せてもらったこともあるにはあったが、戦場で見た母の炎は凄いなんてものじゃなかった。

「火の神です」と自己紹介されたとしたら「そうでしょうね」としか言えない、そんな姿だった。

 母が出てきた途端、うちは一族が蜘蛛の子を散らすように逃げた。うちはがだ。

 一拍遅れて敵も退避しようとして、その一拍が致命的だった。

 そこからはただ一方的な暴力だった。

 ①母が炎を放つ。

 ②相手は死ぬ。

 以上。

 離れた場所から見ながら、なんじゃありゃと思った。

 わたしもそこそこ火遁は使える方だとは思っていたが次元が違う。

 忍界全てひっくるめてもあれだけの火遁の使い手はいないだろう。

 感嘆すると同時に、あれだけの火遁の使い手たる母がいてまだ千手に勝ち切れていないのは、単に千手が手ごわいからだけでなく、母が戦力として使いづらいせいもあるのだろうなと気付いた。

 火力が強すぎて、味方も、土地も傷つけるのだ。

 しかも聞いたところによると、母はその火力を抑える気がほどんどないようだ。身内が危険に晒されようとおかまいなしに炎で周囲を蹂躙しているらしい。

 それはもう敵じゃないか?

 それでも母が戦場に居ることを許されているのは、手放すには戦力としてあまりに惜しいからなのだろう。

 瞳術もなしにうちは一族と渡り合い続けているあの千手を滅ぼすため、うちはは母を利用するしかない。

 その母は千手のことどころかうちはのことも、本音ではどうでもいいのだろうが。

 戦う母を見ていて確信した。

 あの人は周囲を燃やせればそれでいいのだ。

 灼熱の中に一人立つ母は美しく、無邪気に楽しそうだった。

 その気持ちが、少しわかる気がしてしまった。

 

 ちなみにマダラ様も無事に生還されたらしい。別部隊なので守るもなにもなかったが何よりだ。

 これで若君が無事じゃなかったら笑えない、と思っていたが若君も無事だった。

 落ち着いたら挨拶にでも行こうか。

 あちらから来そうな気もするが。

 

◇ ◆

 

 三月三十日

 

 本当にあちらから来た。若君とマダラ様、二人セットで来た。

 若君は「二人とも無事でよかった」と計十二回言った。

 マダラ様は子どもらしからぬ神妙な顔をしていた。その顔で「お前が無事でよかった」と言った。わたしに。

 正直びっくりした。思ったより好感度を稼いでいたのだろうか。

 マダラ様もご無事で何よりです、と返した。本心だった。

 

 しばらく三人で雑談した。戦とは関係のない、雑談としか言えない話をだらだらとした。

 なんとなく、このうちの誰かが死んでいたら、こんな無為なことすらできなかったんだなと思った。

 若君が席を外しているとき、マダラ様がぽつりと「弟を戦場にやりたくない」と言った。

「兄さんがオレを心配してた気持ちが初めて心からわかった」とも。

 どう返すのが正解だったのか未だにわからない。

 わたしには兄弟はいない。若君たちが弟を想う気持ちを芯から理解することはできないだろう。

 マダラ様はそれきり黙ってしまい、わたしとしたことが「何か返した方がいいのでは」と考え「そうですか」「弟さんを戦場にやりたくないんですね」「ですがそれは難しいでしょう、あなたがそうだったように」と言った。

 オウム返し+話の否定、という考え得る限り最悪の返答だった。まだ壁に話しかけた方がマシだ。

 案の定マダラ様は怒りすらしなかったので、「いや流石にこれは」と思い、「千手と手を取り合い、戦そのものをなくせば弟さんは戦場へ行かなくて済みますね」と付け足した。

 

 我ながら実現可能性の低い提案をしてしまった。しかもさも「わたしのオリジナルアイディアです」みたいな澄まし顔で言ってしまったがこれは若君の考えだ。思想の盗難も罪になるのだろうか。

 マダラ様はとてもびっくりした顔をして、その顔は年相応の気の抜けた顔だったのでそれはよかったのだが、わたしに「できると思うか、そんなことが」と言った。

 ぜってームリだと思う。

 とは言えなかった。

 できるかできないかで言えば不可能だろう。いつからそうなのかわからないほどの昔からうちはと千手は争い合っている。祖の時代から争っているなんて話すらあるほどだ。

 マダラ様は無垢な瞳でわたしを見ていて、このタイミングで「いや無理でしょ笑」とは死んでも言えないよな、と考えていると彼は「……その考えに、賛同するやつがいると思うか」とわたしに尋ねた。

 あなたの兄さんだよ……と思いそう言おうとしかけ、しかし若君本人が「この考えは弟にすら言えない」と言っていたことを本人を飛ばしてマダラ様に伝えていいものだろうか。

 悩んだ末、「すぐ近くにいると思いますよ」と言った。

 胡散臭い占術師みたいな表現になってしまったが、マダラ様は聡明だし「兄さんのことか」と気付くだろう。

 そこで外していた若君が戻ってきたため、マダラ様とのその会話は打ち止めになった。

 あとはマダラ様の好物が稲荷寿司だとか、今後の人生のどこで役に立つかわからない情報を教えられるなどして時間が過ぎた。

 マダラ様はどこか心ここにあらずという感じだったが、若君が気にかけていたので大丈夫だろう。

 兄弟愛というのは麗しい。一人っ子のわたしにはピンとこないところもあるけれど。

 

◇ ◆

 

 三月三十一日

 

 昼食の最中に気づいて箸を落としそうになったのだが、「マダラ様の近くにいる」「千手との和解を望む者」=つまりこのわたし、うちはケイカだ!

 みたいな感じになってなかったか、昨日。

 あのタイミングで意味深に「それはあなたの近くにいる人です」なんて言ったらそう受け取る方が自然だ。

 これはやらかしたか? と浮足立ちかけたが、かといって宗家にダッシュし「誤解なんです! わたしは千手と和解なんて夢物語だと思ってるんで! 千手を皆殺しにするまでわたしの夜は明けないんで!」と叫ぶのもどうかと思うし、マダラ様に「は? そんな勘違いなんてするわけがないだろうが、馬鹿か?」とか言われた日には自分がマダラ様に何をするかわからない。

 それにわたしは千手と和解したくないわけではないのだ。憎くは思っていないから。

 ただ、無理だろうなあと思っているだけで。

 内心は戦に倦んでいて、けれどどうしようもないから何も考えないようにして戦場に出ている者は探せば結構いるのかもしれない。その層が多数派になればあるいは、とも思うが、問題はその時にはもう色々と手遅れになっていそうなことだ。

 緩やかな衰退に向かう忍世界を留めるには、やはり若君の言うように争いをやめ和解するしかないのだろうか。

 そういう、他人とわかり合うとか手を取り合うとかみたいなのは正直苦手だ。

 これは勘だが、マダラ様も苦手だと思う。

 といってもマダラ様はまだ幼いので、これからコミュニケーション強者に成長する可能性も秘めてはいるけれども。

 

 千手との和解は無理だと思う、思うが、そうなればきっと若君とマダラ様は喜ぶのだろう。大切な家族が死なずにすむ世界になるのだから。

 夢物語だとしてもそれは良い夢だと思う。わたしにできることはおそらくないが、影ながら応援したい。

 

 などと考えていたら夕刻になりタジマ様に呼び出された。

 なんだよ……最近は敵以外は焼いていないし怒られる筋合いはないぞ……とビビりつつも参上したところ、怒られるどころか褒められた。

 要約すると「初陣にもかかわらず実に堂々とした立ち居振る舞い、まるで歴戦の者の如くであり、戦場で揮われた火遁は流石の一言に尽きる」だそうだ。

 堂々として見えたのは戦場よりも母にビビっていてそれどころではなかったからだろう。

 火遁についてはありがとうございます。初めて「敵」に火遁を行使したところを見られていたのだろうか。

 あのとき近くにタジマ様はいなかったと思っていたが、いらしたのか。それとも部下からの伝聞だろうか。どちらでも構わないが。

 褒めるためだけに呼んだのかと思っていたら、今後のわたしの意思確認でもあったようだった。「引き続き現場に出すつもりだけどオッケー?」と聞かれたので「オッケー」と返した。

 実際はこんなフランクではなかったが内容としては同じだ。

 

 これを書くと自分が狂人のようでイヤなのだが、敵とはいえ人間を傷つける不快感よりも、広い場所で思うさま火遁を揮える喜びの方がわずかに、ほんのわずかになのだけれど、大きかった。

 また戦場に出たい。

 ただこれだけは確かなのだが、わたしは人を殺すのは好きではない。

 殺すのが好きだから燃やすのではないのだ。火が好きで、燃やすのも好きで、燃やした結果人が死ぬのだ。

 うちはの者として戦場に出ている以上許されないが、極論、敵を燃やせるならその敵が死ななくても構わない。わたしが見たいのは「火が燃える」という過程であり、結果死んだ、という終わりには興味がない。

「火遁をブチかませるのが楽しいので戦場怖くないですよ、だから心配しなくていいんですよ」と若君に言おうか言うまいか悩んでいる。

 多分ドン引きされるだろうなという思いと、それで若君に嫌われるのはちょっとなあ、という思いがある。

 嫌われるのを回避しようとする相手なんて若君くらいしかわたしにはいない。

 そんな貴重な相手を引かせることもないだろう。

 

◇ ◆

 

 七月八日

 

 気持ちのいい快晴。青い空白い雲、輝く緑。弁当でも持って散策に繰り出すにはいい日和だろう。

 だというのに戦。

 ここ最近ちまちました小競り合いが多い。

 規模の小さい戦いにはわたしのような若輩が駆り出されることが多い。大規模な争いに比べればまだ危険度が低いので、死なせずに経験を積ませることができるからだ。

 主戦力をいたずらに疲弊させたくないというのもあるだろうが。

 ただ、危険度はあくまで「まだマシ」であって安全なわけではない。死ぬときは死ぬし、実際、わたしと同い年くらいの分家の子がわたしの傍で死んだ。

 いくら他人とコミュニケーションを取るのが下手なわたしでも、戦の最中は同胞を守ろうとはしている。今回は守れなかった。

 いちいち同胞の死に動揺していたらその隙を突かれて今度は自分が死ぬので「死んだ! はい次!」くらいの意識の切り替えが必要だ。

 

 写輪眼を開眼している同胞が死んだら、その眼が敵に渡らないよう遺体を燃やすか、最低でも眼を潰せと言われている。

 わたしの傍で死んだその子は写輪眼は持っておらず、遺体を家族のもとへ返してあげられればよかったのかもしれないが、無理だった。

 戦場で死んだら遺体はたいてい戻ってこない。持って帰るだけの余裕がないからだ。身も蓋もないけれど、遺体は重くて嵩張り、腐敗して異臭を放つ。持ち帰りに適しているとはとても言えない。

 せめて、と身体の一部を切り落として持ち帰る場合もあるが、今回はその余裕もなかった。

 追撃してきた敵を焼きながら、なにやってんだろうなぁわたしたち、とは思った。

 それはそれとして火は美しい。どんな用途だとしても火は火だ。

 

 夕飯は遅くはなったが自宅で食べることができた。

 昼間に敵を焼き、刺し殺しもした手で米を洗い、野菜を切り、肉を焼く。

「食べ物は粗末にしてはいけない」「命を頂いているのだから」と教わるのに、同じ口で千手死すべしと言う。

 千手一族も同じなのだろうか。同じようにうちはを殺し、同じ手で食事をして、うちはを呪っているのだろうか。

 わたしたちは一体何をやっているのだろう。

 

◇ ◆

 

 七月九日

 

 昨日の日記のわたしが感傷的でびっくりした。うちは・センチメンタル・ケイカに改名した方がいいくらいのセンチメンタルっぷりで恥ずかしい。

 わたしたちは一体何をやっているのだろう、ってそりゃ戦をしているのであり、戦というのは参加者全員クソバカの終わってる祭典だ。参加したくないのであれば黙って引っ込むか死ぬか戦自体を終わらせるかであり、若君は、それともしかするとマダラ様は最後の選択肢を選ぼうとしている。

 わたしにはそれだけの希望も熱量もない。

 ただ、いつか戦が和解によって終わる日が来るとしても、その日までにうちはが負けて滅亡していては意味がない。

 うちはが存続できる程度には戦で活躍しようと思う。どうせ千手は手ごわい、わたし一人が頑張ったところで滅ぼせはしないのだから。

 

 夕刻にマダラ様がわたしに会いに来た。

 修行の日でもないのに珍しいと思い出迎えたら怪我をしていて驚いた。

「怪我してるじゃないですか」と言ったら「それはお前もだろうが」とキレ気味に言われた。

 なんならわたしの方が重症なのでぐうの音も出ない。

 マダラ様はかすり傷と言い張れる程度の負傷だったが、わたしは「あと一瞬避けるのが遅れていたら片腕がもげていたぞ」と同じ部隊だった人に言われた程度だ。

 わたしはもうじき十歳になる。火遁という体格に関係なく使える得意技があって油断していたが十歳というのは成長途中であって、大人より小さくて細くて力が弱いのだ。

 ただでさえ千手はうちはより身体能力に富むのに、その千手の大人に接近を許してしまった。接近戦だとわたしは弱い。そこをもっとちゃんと自覚しないと次かその次あたりの戦でわたしは死ぬだろう。

 柄にもなく神妙な顔をしていたらしく、マダラ様に「辛気臭い顔をするな」と怒られた。

 確かに沈んでいてもなんにもならんと思い「うっかり殺られかけましたよ」とできるだけ軽薄に言ったところ「へらへらするな」とまた怒られた。どうしろってんだと思いマダラ様をつねったがマダラ様はそこでは怒らず、黙ってわたしにつねられていた。

 なんなんだ。頼むから被虐趣味に目覚めたとか言わないでほしい。わたしのせいだった場合、若君に合わせる顔がない。

 尚その若君は今、集落にはいない。わたしやマダラ様が駆り出された小競り合いとは別の戦に出ている。

 

 マダラ様はわたしの傷を検分し、「無理はするな」と言い置いて帰った。

 わたしの様子を見に来ただけだったようだ。

 マダラ様、わたしの母より優しいかもしれない。母がわたしの傷を見た第一声が「血が止まらない時は傷口を焼くといいわよ」だったことを考えると慈愛に満ちている。

 ただ母のアドバイスには「確かに」と思った。

 今後、負傷時は積極的に焼いていきたい。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 うちはケイカの最大の長所はなにか。

 そう問われれば大抵の者は「火遁の才」と答えるだろうし、彼女の幼馴染である宗家の長男は「自分を持っているところ」と返すかもしれない。

 マダラは「ふてぶてしさ」だと思っている。

 彼女と頻繁に関わるようになり、会うたびに思うが、ケイカはいっそ腹立たしい程に堂々としている。常に。

 口数少なく表情も平坦で、鷹揚かと思えば気は短く、マダラは何度彼女に頬をつねられたかわからない。

 別に避けようと思えば避けられるし、やめろ、と宗家の者として強く言えばケイカは二度と頬に触れることすらしなくなるだろうとは思う。

 文句を言いつつもつねられてしまうのは、彼女が手加減をしていることがわかるからだ。

 つねると言っても痛みはほとんどない。子ども同士のじゃれ合いにすぎない。

 そしてマダラと対等にじゃれ合おうとする子どもは、家族を除けばケイカしかいなかった。

 

 マダラはケイカを好きではない。

 好きではないが、傷ついたり死んだりはしてほしくないと思っている。

 まだ彼女より大きな豪火球も出せていないし、何より、あの優しく甘い兄がきっと泣く。

 ケイカのことを「あったかいおねえちゃん」と呼ぶ末弟のイズナも泣くだろう。

 

 初陣が決まった時、ケイカは軽く「そういえば十日後に戦に出ます、わたし」と言った。

 あまりに何でもなさそうに言うものだから、同日に初陣を控えていたマダラはがっくりした。生きては戻れないかもしれないと肩に力を入れていた自分が馬鹿のように思えた。

 

 だから彼女が軽くはない怪我をして戻ってきた時、自分でも驚くほど動揺した。

 なんだお前、殺しても死ななそうな顔をして、そんな、一歩間違えたら死んでたような傷を負って帰ってくるのか。

 兄さんにあんなに思われているくせに。

 オレの師匠のくせに。

 

 ケイカは年上でも子どもで、少女だ。

 宗家の子として守られる自分よりもよほど死にやすい。

 そう改めて思い至り、マダラは、心底早く大人になりたいと思った。

 大人になって、強くなって、どんな敵にも負けないようになる。自分の意志を通せるようになる。

 家族を守れるようになる。

 

 そうしたらケイカのことも、ついでに守ってやってもいい。

 

 

 

 

 

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