うちはの生ける炎   作:律可

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天啓

 六月二十日

 

 前が見えないほどの豪雨。

 若君の通夜。

 親族しか参加できないはずだが、呼んでいただけた。

 マダラ様に「お前には喪服は似合わない」と言われ、「うちはの日常着も喪服みたいなものじゃないですか」と返した、ような気がする。

 

 ◇ ◆

 

 六月二十一日

 

 若君の葬儀。

 一族中の人間が参列していた。

 タジマ様やヒカク様に「大丈夫か」と聞かれ、「何がでしょうか」と返した。

 ような気がする。

 イズナ様が泣きはらした目をしていた。

 

 ◇ ◆

 

 六月二十二日

 

 わたしは大丈夫だ。

 

 ◇ ◆

 

 六月二十三日

 

 母に「やっぱり燃やしてあげましょうか」と言われる。

 

 ◇ ◆

 

 六月二十四日

 

 マダラ様がわたしの様子を見に来た。

「顔が白いぞ」と言われたので、わたしはもともと色白ですと言った。

 中断していた修行を再開させるとマダラ様から申し出があった。

 喪中では、と尋ねたところ、タジマ様から「喪に服す暇があるなら修行をしなさい」と言われていると発覚。

 それはどうなんだろう。

 三日後にまた会うことになった。

 

 ◇ ◆

 

 六月二十八日

 

 昨日、割と大きめの出来事があったのだが、日記をしたためる気力がとてもなかった。

 というわけで昨日何があったかを書こうと思う。

 

 まず目が覚め、「今日はマダラ様との修行の日だな」と思い出した。ので起床しようとしたのだが、できなかった。

 床から起き上がれなかった。わたしの上だけ空気の重さが百倍になったようだった。「何事」と思ったがずっとそうしているわけにもいかないので、布団から這って出た。

 全身が鉛のように重く、そういう妖怪みたいに身体を引きずりながら自室を出るとそんなわたしを見た母が「あら」と言った。あらじゃないが。

 人形を持ち上げるようにわたしを起こした母が食卓につかせてくれたが、全身ぐにゃんぐにゃんだしそもそも食欲がゼロだ。わたしは一体どうしてしまったんだろう、戦うことができなくなったら本気で困るなと考えていると、母がわたしをじっと見て何か言ったのだが、うまく聞き取れなかった。

 曖昧な表情をしていただろうわたしに母が困ったような、何かを決めたような顔をして、多分なのだが、わたしを殺そうとした。

 母は火遁だけは印を組まずに発動できるのだが、あ、これ燃やされる、死ぬな、と気付いた。

 気付いたところでどうしようもなく死を待つばかりのわたしだったのだが、その瞬間、かなり強めに戸が叩かれた。

 で、マダラ様の声で「ケイカ!」と呼ばれた。

 母がわたしを放置したまま普通に応対に出て、招かれたマダラ様が普通に入ってきて、食卓でぐにゃぐにゃになっている(後から言われたが、死体じゃないとおかしいくらい蒼白だったらしい)わたしを見て小さく悲鳴を上げた。

 それからのことは薄い膜が張ったように遠い記憶なのだが、母がマダラ様に「生きているのが苦しいくらいにつらい様子だから、この子を燃やしてあげようかと思って」と言い、マダラ様が完全に絶句していたのは覚えている。

 死んだイカかタコみたいなわたしをマダラ様が抱えて外に連れ出した。母はそれを止めなかった。

「マダラ様、わたしを抱えられるくらいには大きくなったんだなあ」と感慨に浸るわたしが連れていかれたのは宗家で、速やかに医者に引き渡された。

 マダラ様はわたしから離れなかった。

 なんでかタジマ様まで様子を見に来た。

 診断の結果、肉体的な病ではなく精神的なものだろうとのことだった。

 気鬱の深刻なやつ、らしい。

 自分がそこまで精神的にやられている自覚はなかったので、はあ、そうですか……となっていたのだが、タジマ様に何とも言えない顔で「トウカさんが夫を亡くした時、今の貴女のようになっていました」と言われ、臥せったままタジマ様を二度見してしまった。

 マジかよ、あの母がそんな真人間みたいな反応を?

 そのあと母はどうだったんですか、と尋ねたところ「数日で回復して、今のようになった」と教えてくれた。

 今=敵味方問わずに灰燼に帰す生ける炎だが、まあ回復したなら何よりだ。

 じゃあわたしも放っておいたら数日で元に戻るでしょうか、と尋ねてみたのだが、それには浮かない顔だった。こればかりは心の問題だから何とも言えないと。

 肉体的な負傷ならまだしも、心の問題で戦場に立てなくなるのは本当に嫌だ。なんだか弱者な感じがするし、そもそもわたしはマダラ様を守らなくてはならないのに。

 それが最後に若君と交わした約束なのに。

 若君のことを思い起こすと謎の吐き気に襲われるので、正直あまり思い出したくない。

 とにかく今日はもう休みなさい、と言われたのでありがたく宗家で厄介になっている次第だ。

 自宅に帰ろうかとも思ったのだが、マダラ様に「絶対に帰さない。絶対に」と強く腕を握られたので断念した。

 

 ◇ ◆

 

 六月三十日

 

 未だに宗家にいる。

 そして立てるようになった。

 ここ数日、褥からロクに起き上がれない寝たきり老人生活だったので、立てるようになっただけで「快挙!」という感じだ。

 わたし以上にマダラ様たちが喜んでいた。

 マダラ様、そしてイズナ様は何度もわたしの様子を見にきては甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。

 いいんだろうか、マダラ様はもはやうちはの跡継ぎだが。

 わたしに張り付くマダラ様に、タジマ様もヒカク様も何も言っていないようだったので、宗家的にはオッケーなのかもしれない。

 マダラ様に、冗談で「一緒に寝てくれたらすぐに元気になるかもしれませんね」と言ったら、少し考えたあとに布団に入ってきてくれたのでテンションが上がった。

 調子に乗って正面から抱きしめてみても逃げなかった。

「あつい……」と言って真っ赤になっていたので暑かったのだろう。それでも離れていかなかったマダラ様は情の深い子だ。

 そういうところが若君に

 

 やめよう

 

 ◇ ◆

 

 七月五日

 

「いい加減に家に帰ります」「帰るな、帰っちゃだめだ」の押し問答の末、マダラ様を伴って実家に戻ることになった。

 伴って、と言っても、わたしが母に害されないと判断したらマダラ様は宗家に戻る約束で、だ。

 というわけで警戒しているマダラ様と一緒に実家の門を久々に潜ったわけだが、母はあまりにいつも通りに「おかえり」とか言っていた。

 娘を燃やそうとしていた人とは思えないと愕然とするマダラ様に、まあこの人はこんな人なんで……と謎のフォローをしつつしばらく三人で過ごした。

 マダラ様はずっとピリピリしていて、母の一挙一動にびくついていたのが言っちゃなんだが面白かった。

 後ろ髪を引かれている様子ながらも、マダラ様は数時間で宗家へ戻って行った。

 幾度も「何かあったらウチに来ていいんだからな」と言ってくださって、照れ隠しもあり「マダラ様ってわたしのこと結構好きですよね」と言ってみたところ押し黙られ、そのまま帰られた。

 余計なことを言ったのかもしれない。

 

 追記。

 なんか目に違和感があると思っていたら、写輪眼が発現していた。

 

 今!?

 

 ◇ ◆

 

 七月六日

 

 流石に黙ってるのはよくないよな……と昨日の今日で宗家に赴き、「なんか写輪眼が出ました」とタジマ様たちに報告しに行った。

 タジマ様の反応も「今かよ」という感じだった。

 タジマ様曰く、写輪眼は大きな喪失や怒りを経験した者に多く顕れるらしい。

 理屈がわからなくて怖い。

 つまりわたしは、若君が亡くなった喪失感から写輪眼を得たのか。

 なんにせよ、わたし自身が強化されたことには変わりないと写輪眼を発現させた状態で修行などしてみたのだが、「わたしにはこの眼、宝の持ち腐れでは」という気持ちしかない。

 発動しているだけでじんわり疲れるし、何より写輪眼特有の「見切り」がわたしの戦闘スタイルと相性がよくない。

 見えなくても全部燃やせばよくないか?

 わたしの弱点である体術の未熟さを多少なりともカバーはできるかもしれないが、弱みを埋めるより強みを伸ばしていきたいタイプだ、わたしは。

 あと幻術も苦手なままだ。

 写輪眼、マジで意味ないかもしれない。

 

 ◇ ◆

 

 七月十日

 

 マダラ様が激拗ねしているので「どうしました」と問い詰めたところ、わたしに写輪眼が出たのが面白くないらしい。

 うちはの男は写輪眼が出て一人前というか、写輪眼が出てからが本番みたいなところがある。

 その理屈でいくとマダラ様はまだ半人前だ。

 いいじゃんマダラ様まだ子どもなんだから、十二歳とかそこらでしょうよ今。

 そういえばわたしはもうじき十五になるのか。

 最近自覚したが、わたしは日付とか人の年齢とかを覚えるのが苦手だ。数字に弱いのかもしれない。我ながら馬鹿っぽいな、大丈夫か。

 十五になる頃に若君に嫁ぐかどうか考える、と宣言していたのだったか。

 彼はわたしを本気で娶る気だったのか。当人が他界している以上、わたしの意思がどうだろうと若君の妻になることは永遠にないが。

 

 やっと若君のことを考えても体調を崩さないようになった。

 正確に言うなら、

 若君のことを思い出す→体調不良になりかける→なんでかマダラ様の顔が浮かぶ→持ちこたえる

 を繰り返している感じだ。

 たまにイズナ様の顔もセットで浮かぶ。

 出演料とか払った方がいいのだろうか。

 

 ◇ ◆

 

 七月二十日

 

 マダラ様との修行の日。

 マダラ様とふたりきり、こうして修行するのも何回目だろう。

 師弟になったあの日から何も変わっていない気すらするのに、宗家の子はもうマダラ様とイズナ様しかいない。

 最近、マダラ様とイズナ様に死んでほしくない、とよく考える。

 千手を滅ぼしたとしても敵がいなくなるわけじゃない。

 若君がかつて語ったように、千手と手を結ぶべきなのだろうか。

 そんな方法、いくら考えてもわたしじゃ思いつきそうにない。

 

 全部燃やしてしまえれば楽なのに、マダラ様達にはいなくなってほしくない。

 困ったものだ。

 

 ◇ ◆

 

 九月一日

 

 十五歳になっていた。

 当日も普通に戦だったため祝うどころではなかったが。

 諸々落ち着いた頃にマダラ様イズナ様から言祝いでいただいた。素直にありがたい。

 我ながらここ一年で成長したと思う、肉体と戦闘能力が。知能は知らん、自分ではわからない。

 マダラ様がわたしを見ながら、どこか複雑そうに「ますます大きくなったな……」と言ったので「乳の話かな?」と思い「わたしの乳がですか?」と返したらメッチャ怒られた。

「恥じらいを知れ」だそうだ。

 お前はもう十五で、いつ縁談の話が出てもおかしくはないのだから乳がどうこう言うなと。

 恥じらいどうこう以前に「いつ縁談の話が出ても」のくだりに動揺し「まさかまたわたしの嫁入りの話が出ているんですか、ねえ」とマダラ様の両肩を掴んでしまった。マダラ様はビビっていた。

 マダラ様曰く、別にそういうわけではないが、うちはの女なのだから十五にもなればいつその手の話が本格化してもおかしくない。らしい。

 言われてみればその通りだ、わたしもう十五じゃん。

 周囲の女うちはは花嫁修行をしている時期だ。女友達がいなさすぎてピンときていなかった。精神的には十歳の頃から変わっていない気がするのに肉体だけが無駄に成長してしまっている。

「嫌なんですが、わたし、どこかの男に嫁がされるんでしょうか。嫌なんですけど」とマダラ様に訴えてしまった。

 オレに言うな、諦めろとでも言うかと思われたマダラ様はしばらく黙り込んだのち、ちっちゃい声で「ほんとは兄さんがよかったんだよな」と言った。

 なにが? なんて? と困惑していると、続けて「オレが何とかする」と言ってくださった。

 マジ? 信じますよ?

 

 ◇ ◆

 

 九月三日

 

 戦場で死にかけたりなんだりしているうちにわたしの身体は傷付いて、ふさがりはしても消えない傷跡があちこちにある。

 特に腹部の傷がひどい、千手に斬られたんだったか。

 よく生きてるなわたし。ナイスガッツ。

 幼いマダラ様はこの傷を見て「オレが嫁に貰ってやる」と言ってくれたんだったか。

 責任感が強いと言うか、情が深い。若君の嫁にしないためではあっただろうけれど。

 しかしマダラ様がそう言うほどに醜い跡であることには違いなく、こんな傷のある女、誰も貰おうとはしないのでは? 心配しなくても嫁がなくて済んだりしないか?

 嫁入りの何が嫌って、戦場に出られなくなることだ。

 母は気ままに戦場で災厄を撒き散らしているが、父が生きていたら止めていたかもしれない。

 わたしの旦那だって、わたしが戦おうとしたらきっと止めるだろう。家のことをしなくてはならないし、何より子を産み育てなくてはならないし。

 

 第一線に出ている今でさえ若君達を亡くしたのに、家の奥に籠るようになっては余計にマダラ様たちを守れない。

 もしかして大人しく若君に嫁いどいた方がよかったんだろうか。あの方なら話が通じただろうし。

 でもなあ、死んじゃったからなあ。

 あとどうしても彼と夫婦になるイメージが湧かない。

 今となっては言っても詮無いことだけども。

 

 ◇ ◆

 

 十月二十日

 

 マダラ様が縁談がどうこうとか言うから警戒していたが、誰からも嫁に行けなど言われることもなく普通に暮らしている。

 マダラ様がなんかしてくれたんだろうか。

 ていうかマダラ様にわたしの縁談にどうこう言う権限があるのだろうか。

 マダラ様が宗家の跡継ぎとなった今、戦闘要員として一線にいるわたしの処遇に口を出す権限は確かにありそうだ。

 戦道具として優秀なわたしを誰かの妻として家に留めるのは一族のためにならない、とか、タジマ様あたりに上申してくれているのかも。

 だとすれば有難いんだが、なんだろうなこの違和感というか胸のざわつきは。

 そりゃ初対面の頃に比べればだいぶ大きくなったとはいえ、マダラ様はまだ小さい。腕だって大人に比べれば細っこくて、胸囲に至ってはわたしの三分の一くらいしかない気がする。

 もうかなり大人なわたしの行く末を、幼いマダラ様が左右できることへの腹立ちだろうか。宗家の跡継ぎと分家の娘だ、そもそもの身分差があることはわかっているが。

 

 という話を何をとち狂ったか母にしてしまったのだが(雑談できるような友がわたしにはいないのだ、もはや)「マダラ様にずっと子どもでいてほしいのね」と言われて動揺した。

 

 ◇ ◆

 

 十二月二十四日

 

 マダラ様お誕生日。

 昨日、当然の顔でマダラ様がうちに来て一泊したのでウケた。来るなよ。いや来てもいいけど。

 枕を持ってきていなかったので「ご自分の枕はいいんですか」と尋ねてみたのだが、もうなくても眠れるらしい。

「今夜は一緒に寝てくれるのかな」と若干ワクワクしたが、一人で別室に行ってしまった。別室と言っても客間のような立派なものじゃないし、狭いのに。

 タジマ様達に泊まりに来ること言ったんでしょうね、と確認したら、むしろ行ってこいと送り出されたらしい。なんでだ。

 

 マダラ様はもう、そこらの大人より強い。わたしよりは弱いが。敵の大人を屠れるだけの実力がある。同じ年の頃の若君より強いかもしれない。

 このまま、誰にも殺されないまま大人になってくれるのだろうか。

 

 成長してほしいけれど大人になってほしくない。

 ずっとかわいいマダラ様でいてほしい。

 この感情はなんなんだろうか。

 

 ◇ ◆◇ ◆◇ ◆

 

 三月二十五日

 

 春だ。

 戦の季節である。

 寒さに弱いマダラ様にとっては過ごしやすい季節になったが死にやすさ度は爆上がりした。

 マジで死なないでくれよなという気持ちでマダラ様を見守っているが、なんとなく最近、マダラ様の戦闘技量が上がった気がする。

 今までも順調に上がってはいたが、なんだろう、これまでとは違う違和感がある。

 本人に聞こ、と思い、「なんか最近強くなりました?」と聞いてみた。

 嬉しそうな顔をしたマダラ様が「あいつとの組手の成果が……」とか言い、すぐに失言に気付いた顔をして黙った。

 

 わたしという師匠がありながら誰よそいつ!?

 

 と思ったため「組手したんですか、わたし以外の女と」と言ってみたところ即座に「女じゃない!」と返された。

 女じゃないのか、にしても誰だ。マダラ様が組手するような相手って。

 タジマ様たち重鎮直々に鍛えられているはずだが、彼らをあいつ呼ばわりはしないだろう、流石に。

 マダラ様と組手ができるほどの実力者で、かつあいつ、とくだけて呼ぶような仲の良さがある相手。

 誰だ、友達か? マダラ様に友達を作れるような甲斐性は無いと思っていたのに裏切られた気分だ。

 マダラ様に四六時中張り付いているわけではないし、修行の時以外に何をしているか詳しく知っているわけじゃない。友達くらいいるのだろう、かつてわたしに若君がいたように。

 その友達との交流を通して鍛えられている感じなんだろうか。

 喜ばしい。

 喜ばしいが「誰よそいつ」という感情が消せない。

 マダラ様も師匠離れの時期が来たということなのだろうか。

 ぶっちゃけ火遁以外のことでわたしが教えられることなんてもうないし……。

「あなたはわたし以外からでも多くを学べるのでしょうね。わたしが師としてついていなくても、もう大丈夫なんでしょう。いいんですよ、わたしに義理立てしなくても。よそに師匠でも友達でも好きに作ってください」と告げた。

 本心だったが、拗ねてるように聞こえたかもしれない。その証拠にマダラ様がおろおろしていた。

 友達を作るのは構わないが、やっぱり師匠を作られるのは面白くない。

 

 ◇ ◆

 

 三月二十六日

 

 マダラ様が真剣な顔でやってきて、唐突に

「オレにはお前だけだから」

 と言った。

 立てないくらい爆笑してしまった。

「お前はいっつもそう」とマダラ様を激怒させてしまった。

 ごめんマダラ様、あなたを笑ったわけじゃない。

 わたしだけってあなた、タジマ様とかイズナ様もいるでしょうよ。

 と言ったら「親族は別枠」的なことを言われた。

 血が繋がってない枠だとわたしがオンリーワンということだろうか。

 さすが我が弟子、人脈を広げる気がないそのコミュニケーション能力のなさ、わたしにそっくりだ。

 昨日匂わされた「組手するくらい仲がいい友人」は結局どこの馬の骨なのか不明なままだが、まぁわたししかいないと言うなら良いだろう、そこは深く追求しないで。

 マダラ様はわたしが笑ったことにお冠だったがわたしはご機嫌だったので、まぁメシでも食ってけよと思い家に連れ込んで手料理を振る舞った。

 わたしが母以外に料理を出すのはかなり珍しい。若君ですら確か食べてない。

 大人しく食べていたしおかわりもしたので口に合ったのだと思う。

 かわいいなぁ。

 

 ◇ ◆

 

 四月十七日

 

 タジマ様に「最近、マダラが貴女のところへ通い過ぎでは」と気遣わしそうに言われた。

 そう? そうか……? と真剣にここ数ヶ月のマダラ様とのメモリーを振り返ってみたが、そこまで会う頻度が上がっているとは思えない。

 確かに若君が他界してから、わたしを気遣ってかよく様子を見に来てくれるようにはなったと思う。だが「通い過ぎ」と心配されるほどではないはずだ。

 と思っていたらタジマ様が「昨日も貴女のところへ行く、と言って、夕刻まで戻ってこなかった」と仰った。

 

 昨日はマダラ様と会ってすらいない。

 

 一瞬にしてあらゆる可能性が脳裏を巡り、だが「昨日はマダラ様と会ってません」と言うべきではないとわたしの第六感が囁いたため「わたしとたくさん修行したいと思ってもらえるのは嬉しいことなので大丈夫です」とかなんとか優等生な返事をしておいた。

 タジマ様は「貴女がいいなら」と納得してくださったのだが、一方わたしは全く納得していない。

 わたしに会う、と言って家を出て、わたしに会わずに何かしている。マダラ様が。

 何か秘密裏にやりたいことの隠れ蓑にされているのだろうか。わたしが。このわたしが。

 シンプルに腹が立つが、しかし割と誠実というか誤魔化しの類をしないマダラ様がそんなことをするとは考えづらい。なにかよっぽどの理由があるんじゃないか。

 わたしじゃない、マダラ様と組手をした「あいつ」とやらが関わっているのだろうか。

「あいつ」はうちはの子ではない?

 どこの子と仲良くしているんですか、

 マダラ様。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 川辺にふたりの少年がいる。

 組手を終えた彼らは座り込み、汗を拭いながら会話をしていた。

 忍びの技のこと、未来のこと、共有する夢のこと、

 気になる女の子のこと。

 

「お前、女にモテねーだろ絶対」

「は……はぁ!? なんぞ急に、モテなくなくないわ!」

「なんて?」

 顔を赤くして慌てる友達にマダラは笑う。忍びとしての実力で自分に僅かに勝る相手への溜飲が思わぬところで下がった。

「んなダッセー髪と服で? 誰がモテるってェ?」

「男は中身ぞ! 見た目じゃねーだろ!?」

「中身に自信あんのかよ。あと見目も大事だろ、まずは」

「うっ……、……いや、」

「あ?」

「そんな風に言うってことは、お前の周りの女子が男の見た目ばっか気にしてんだろ。オレはそんな子にモテても嬉しくないからいいんぞ」

「あァ!? ふざけんな、ケイカはそんな女じゃ」

「ケイカ?」

「────」

「誰ぞ、それ」

「…………」

「なあ」

「…………」

「……………………」

「……………………」

「……お前、その子のこと好きなんだろ」

「なっ、な、な、す」

「茄子?」

「…………!!」

「痛い痛い! 痛いんぞ! 殴るな!」

 無言で引っ叩いてくるマダラからしばらく逃げていた少年だったが、しばらくして二人は黙って身を寄せ合い座り込んだ。

 周囲に誰一人いないにもかかわらず、声を潜めて囁き合う。

 男友達と、女の子の話をするのは初めてだった。

「……ケイカっての、マダラのなんなんだ?」

「…………。ししょ……幼馴染、だ。親同士が知り合いで……」

「幼馴染かあ。なんかいいな……甘酸っぱい……」

「甘酸っぱくはない」

「かわいい?」

「……………………かわいい」

 きゃぁ! と少女のような声を上げて少年はひっくり返った。両頬に手をあてている。

「お、お前がそんなん言うなんて……。はーっ、へえ、よっぽどかわいいんだな」

「……まあ、顔はいい、確かに、顔は」

「なんぞその含みのある言い方は。性格悪いってわけじゃねえんだろ?」

「悪かねえけど、変だ。変な奴なんだよ」

「ヘン?」

「大抵むすっとした顔してる。かと思ったらオレを馬鹿にするとき爆笑するし」

「なあその子性格悪くないか」

「悪くねえ、よくはないだけだ」

「お、おぉ。でもお前バカにして笑うんだろ」

 腑に落ちない顔をする友達に、マダラは何か言い返そうとしてやめ、沈んだ様子で膝を抱えた。落ち込んでいる時の柱間に似ている。

「マダラ?」

「……馬鹿にするっつーか……ガキ扱いしてくるんだ、ずっと……。たいして歳、変わんねえくせに……自分一人でどんどんあちこちデカくなりやがって……」

「ガキ扱いしてくる年上のお姉さん!?」

「な、なんだ急に」

「年上なのか、ケイカって人」

「ああ、まぁ」

「年上のお姉さんとイチャイチャしてんのか」

「イチャイチャはしてねえよ!」

「でも幼馴染なんだろ?」

「幼馴染つっても……手合わせしたり、修行ばっかで」

「お前とやり合えるくらい強いのかその人」

「強い」

「かわいくて、普段むすっとしてて……自分をバカにする時は笑ってる、強いお姉さん……」

「な、なんだよその目は」

「……羨ましいんぞ……ずるいんぞ、なんだそれ、ズルぞ」

「ズルってなんだ」

「そんな都合のいい女の子がいるはずない! 作り話じゃないのか」

「なワケねえだろ、昨日だって会って手合わせしたし、最近はたまに手料理食わせてくれる」

「手料理を!?」

「流石にもう一緒に寝たりはしてねぇけど。小さいガキじゃないってのにことあるごとにオレを抱っこしようとしたり添い寝しようとしてくるんだよ未だに」

「…………」

「イッテェな!?」

 無言で鎖骨のあたりを殴られたマダラは怒りを込めた目で友を睨んだが、完全に据わった目で見返されて怯んだ。その目のまま、少年は地を這うような声で言う。

「……まさかとは思うが…………」

「なんだよ……」

「そのケイカさんて人、スタイルもよかったりしないだろうな」

「……………………………………乳と尻がでかくて腰は細い」

 少年はマダラへ掴みかかり、小競り合いは小一時間続いた。

 

 

 

 

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