俺は自分が最強だって疑うことを知らなかった。
誰彼もが俺を持ち上げる。六眼と無下限呪術の抱き合わせ。相伝の術式を完璧に引き継いだ五条家の天才。
しょーじき、そんなクソどうでもいい奴らのおべっか貰っても嬉しかねーけど。くだらねぇ人間に従う気もおきねーし。
だから呪術高専に入ったところでクソつまんねぇ日々が待ってるんだろうな、とやる気もなんにもおきなかったけど。
──傑と出会った。
俺一人で最強じゃない。俺たち二人なら最強なんだと初めて仲間に。親友に出会った。
……ま、俺たちをクズ呼ばわりする変な女もいるけど。
そんな折に、変な女こと硝子から聞き捨てならねぇ言葉を聞いた。
「もうすぐ先輩が帰ってくるんだよね」
「先輩ぃ? 歌姫と冥さん以外に誰かいたっけ? ねー、傑知ってる?」
「あぁ、悟はもう少し人のことを覚えようね。ええと、石楠花先輩だったけな。一級に落ちた準一級術師だよ」
「ブハッ、一級に落ちるとか雑魚じゃん! そんな雑魚、覚える価値ねーだろ」
なんだ木っ端術師かよ、つまんねー。
つか、どうやったら一級落ちんの? あー、それは歌姫もだったわ。ごめんごめん。
「やめよう悟。後輩に立つ瀬を奪われた先輩が可哀想じゃないか」
「それもそうだな」
そうして二人で笑っていた俺たちは、浮かび上がる程の怒気を携えた硝子に気が付かなかった。
「言っておくけど、あんたらみたいなクズどもより先輩の方が強いから」
「「は?」」
帰ってきたらボコボコにしてやろうと俺と傑は決めた。
☆☆☆
疲れた。まじもう無理ぃ……。
呪霊の巣窟、富士の樹海から帰還した俺は、ヘロヘロのまま高専への戻ってきた。
ようやくだ。ようやく戻ってきた……。
やっと五条悟に会えると楽しみにしていた時に立て続けに入った任務。恨むぜ夜蛾の野郎。
任務、任務と俺は社畜じゃねーんだよ。どっちかというと、文明に触れている今より森暮らしの方が楽しかったまである。
森暮らしのイオリってぃ、とか呼んでクレメンス。
そんなくだらないことを考えながら寮までの道を歩いていると、待ち望んだ白髪の頭が見えた。
まさか……悟ちゃん!?
すぐ後ろには、闇堕ちした外道こと夏油傑と家入ちゃんの姿が。おー、やっぱり君らも入学してたのね。やっぱり家入ちゃんはマジで美少女だわ。大人ルックの隈ありもなかなかに乙なモノだけど、高専の時の硝子ちゃんが一番かも。
すると、あちらも俺のことに気づいたようで、約2名(五条と夏油)がニヤけた笑みで近づいてきた。
「あっれぇー? 一級落ちた雑魚先輩じゃーん! 調子どぉ? 雑魚任務にクタクタになってるようだけど」
「初めまして石楠花先輩。私は夏油傑です。こちらは五条悟。何かと
両者ともに味の出た罵倒だな。
漫画で慣れすぎててダメージゼロですわ。
「おー、君らが期待の一年生か。雑魚だけどよろしく」
「ちっ……」
俺の返答に苛立ったように五条は舌打ちをした。
夏油は何も口にしていないが、静かにキレている雰囲気がある。君らさ、少しは隠そうとしなよ。底の浅さがバレるぞ。
「おいーっす。ども、お久しぶりです、センパイ」
「よっ、家入ちゃん。元気か? 動物のお世話で大変だろ?」
「……ブハッ! はははっ!! ……やー、大変ですね。大きなお猿さんのお世話は」
皮肉を込めたメッセージに一瞬、虚を突かれた家入ちゃんだったが、俺の意図に気付き、爆笑しながら乗ってくれた。
五条と夏油はキョトンとしていたが、徐々に意味を理解していったのか、般若のような表情で俺を睨んだ。
「「殺すッッ!!」」
やっべ、ちょっとからかったつもりだったのに思ったより沸点低かった。
あれだなー、ここはわざとヤラれて雑魚アピールでもしておこうかなー。
でもなー、家入ちゃんに無様な姿見せるの嫌だしなー、
うしっ、どうせ五条は無下限で効かないし殴ったフリでもしとおくか!!
馬鹿二人がいよいよもって殴り掛かりそうな雰囲気だったので、俺は先んじて攻撃を仕掛けた。
「【一刻】」
どうせ止めるだろうからと、5割ほどの力で強化した。
足先に呪力を込めて飛び出すように五条に接近する。
あれ、もう殴るモーションに入ってるよ?
気づけよ? ……気づくよな? 君まだ術式の自動対象選択できないでしょ??
当たるよ? 当たっちゃうよ?
あっ!! 止まらねえええええええええええ!!!!
ああああァァァ!!!!!!!!
「グボァッ!!」
五条は俺のパンチを受けて、錐揉み回転して吹っ飛んでいった。
ふぅ、いい拳だった。
……現実逃避とか言わんといて。
あの、家入ちゃん、爆笑しすぎ。
家入ちゃん好きだよね。ヒロインにしちゃって…良い?
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良いよ
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ダメだよ
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別の人がいいな。歌姫ちゃんとか
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ここは冥冥様!?