転生特典が強すぎなのでひっそり生き…たかった…   作:恋狸

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今回めちゃ長いです。

文章力の無さをボロクソに言われているので、三人称に力を入れたら筆が止まらなくなりました(上達したとは言ってない)


11話 針山小学校簒奪呪霊事件

 反転術式を他人に施すことができる貴重な人物。

 それが家入硝子である。

 

 反転術式とは、基本負(マイナス)のエネルギーにより発生する呪力をマイナス同士で掛け合わせることにより正(プラス)のエネルギーに変換することで可能とする技である。

 ここで注目すべきは、反転術式と術式反転。一件似てるようにも見えるこれらだが、実際は別物である。

 反転術式はあくまで呪力操作の技術であり、術式反転はその技術を応用した中に存在する。

 

 呪術師は才能の世界と言うように、反転術式を扱える貴重な才を持つ存在の絶対数は少ない。そして、それを他人に施すことのできる人物はさらに少なくなるだろう。

 

 つまり家入硝子は、呪術界にとって貴重な人材であり呪詛師からはその命や能力を狙われる率が高いのだ。

 

 本人の気質がダウナーゆえに世を儚むだとか、そんな面倒な考えはないから危機感の欠如が窺える。

 

 そんな硝子は、高専に入学する前はパンピーであった。その才を見出されるまで、自分にしか見えぬ異形の生物に戦々恐々とした気持ちで逃げ惑っていたのだ。

 右も左も分からない硝子は、4級程度の蠅頭ならまだしも、3級以上の人に害を出す呪霊を祓うことなどできやしなかった。

 

 本人も漠然と『あぁ、これは死ぬな』と表情には出していなかったが内心思っていた。予感でもなく、ただ事実としてこのまま狙われ続けるならば死ぬに違いないと達観した感情で思っていた。

 

 アンニュイな感情を携えていた硝子の人生を変えることになったのは、小学生の時に出会った一人の少年である。

 

 

 彼は呪霊から逃げる硝子を見るや否や、颯爽と駆け寄ってきた。

 

 硝子は彼も()()()()なのだと理解したが、巻き込むわけにはいかないと、彼からも逃げた。

 

 しかし、彼は人智を超えた速度で硝子に追いつき、あっという間に呪霊を祓った。決め手は腰の入った良いパンチだった。

 

 礼を言いたい硝子を置いて、彼は何かに気づくと走り去っていった。目を丸くして戸惑う硝子だったが、まあラッキー程度に納得しておくことにした。

 

 そんな硝子は毎年のように呪霊に襲われては、彼に助けられる日々を送っていた。なぜ危険を犯してまで自分を助けてくれるのか、損得勘定と楽しさで動く硝子には全く理解できなかった。

 なにせ、彼が性善説で生きているような人間であったならばまだ納得できたのだ。しかし、硝子のプロファイリングでは、むしろ面倒なことはしない、もしくはしたくない。目立ちたくない。

 

 人を無償で助けることと合っていない。

 

 結局、硝子が出した決断は、過度なお人好し。どんな力を使ってでも人は助けるが目立ちたくない。どこかちぐはぐさが窺えた。

 

 それでも命の恩人であり、助けを求めた自分を救ってくれたのだ。

 硝子は少年に感謝とそれ以外の微かな感情を胸に秘めていた。

 

 

 そして硝子は高専で彼と再会することになるのだ。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

(って言ったって、まさかあの五条悟に殴りかかるとは思ってなかったけどね)

 

 あの瞬間は、硝子の脳内フォルダーに殿堂入りすることになった。人を舐め腐った態度を取る生意気なやつが鼻血を出して吹っ飛ぶというのは、硝子にとって爽快以外の何物でもなかったのだ。

 あれを平気で実行する伊織も伊織だが、どこか拍子抜けしたように拳を『あれ?』と見つめていたことから、殴ったのは……いや、当たったのは本意ではないのだと硝子は察していた。

 

 

(センパイには久しぶりに会ったけど、ぶっ飛び具合は変わってないみたいだなー。ま、再会してからすぐに任務で一緒になるとは思ってなかったけどさ)

 

 本来硝子は呪霊を祓う任務に就くことは非常に少ない。それは、前述の通り反転術式を扱える者の貴重さゆえである。

 そんな硝子が駆り出されるということは、危険度は高い──治療が必要になる──と判断された場合なのだ。

 

 五条と夏油のコンビにそれを当て嵌めて良いものかは、上層部も懐疑を持っているようだが、硝子が前線に出ていることは大きな意味を持つ。

 そしてその監督役の石楠花伊織もまた、実力を隠した賢さポンコツの癖者である。

 

 硝子は伊織を煽るだけ煽って意気揚々と散策に乗り出した五条と夏油に冷めた視線を送り、伊織に問いかける。

 

「センパイ、どうします? あいつら行っちゃったけど」

 

 五条や夏油と接するような口調で、と伊織に言われた硝子だが、恩人に接する分態度は若干柔らく敬語も解けない。珍しい硝子の純粋な笑みには、さしもの五条も目を剥いて驚くであろう。

 

「うーん、あの馬鹿どもは放って警戒しながら進もうぜ。こういう現場を見ることも家入ちゃんの勉強になるでしょ」

 

 あぁ、なんてまともな先輩なのだろうと硝子は比較対象であるクズ二人の好感度を更に落とした。

 

 しかし忘れてはいけない。

 

 この石楠花伊織という生物も、森の中では大熱唱しながら裸で踊ったり、木の上で叫んだりと数々(二人)の人物を引かせてきたイカれた野郎なのだ。

 伊織は高専に入学しマシになったわけではない。

 

 

 皮を被っているだけである。

 

 

 取り繕おうと努力しているだけ成長している、と捉えることもできるが、些かそれはポジティブすぎるであろう。人の本質はそう変わるものではないのだ。

 

 

 

 そんなキャラの濃い二人は、呪力渦巻く廃校となった──針山小学校に足を踏み入れた。

 

 

「なんか、こういう本物の呪霊被害に遭った現場とかに向かうと、ホラー映画がバカらしく思えません?」

 

「現実とフィクションを同じにするなってことなんだろうな。偽物と分かって見るならそれなりに楽しいぞ」

 

「え〜、夢がない〜」

 

「そんなもんだろ。血生臭い呪術師にキラキラした夢を見てもな」

 

「それはそうですけど」 

 

 先輩、後輩というよりは友だちのようなノリで会話しながら先に進む。ちなみに二人に油断は全くなく、硝子は周囲の警戒、伊織は術式による呪力感知を張り巡らせていた。

 

 

「呪力感知に反応がない。多分、未完成の領域内に籠もってやがるな」

 

「ということは最低でも一級は確定ですか」

 

「どうだろうな……。ここまで巧妙に自分の呪力を隠す奴だとしたら特級もあり得る」

 

 硝子はあからさまに顔を強張らせた。

 伊織が強いことは知っている。だが、特級を祓えることができるほどの実力を持っていることは知らないのだ。ここはあのクズどもに頼ったほうが良いのではないか。硝子はそう思ったが、祓う気満々の力強い視線に頭を振って諦めた。

 こういうところで意思が強いことは、短い付き合いの硝子でも察することができた。

 

 

「あー……何となくどこに領域があるのか分かるわ」

 

「え、マジですか」

 

「マジマジ。あと、その場所がちょっと面白い」

 

 もう領域を感知したのかと硝子は驚く。

 そのまま伊織についていき、二人は寂れた教室に辿り着いた。

 

「お、やっぱりあったか」

 

 伊織は画面の割れたテレビを指さした。

 

「まさか……貞子みたいなあれが呪術的に意味を持つんです!? くーる、きっとくるー、ですよね!?」

 

 伊織は苦笑しながら頷いた。

 これには伊織も驚いた。自分の領域内に籠もる呪霊は一定数いるが、どれもが森や湖など自然に特化した場所で領域を作成していたからである。もしくは、病院などを丸々乗っ取って領域を作ることもあった。

 だが、今回はどれにも満たない極めて特殊条件下にある。

 

「多分、貞子が放映されたせいで、想像する人が増えたんだろうな。その恐怖の呪力が実体化した可能性がある」

 

「それは……厄介というか」

 

 両者苦笑いだ。

 貞子でなくとも、昔からホラー映画でテレビ画面から霊が出てくるのは鉄板であったが、二人ともホラー映画をあまり見ない弊害が出た。……特に害はないのだが。

 

「入るか。本当は家入ちゃんを置いておきたいんだけど、校内にも干渉できる呪霊だったら面倒だから俺の側にいた方が守れる。……ちっ、こういう時のための人数だろ、あの馬鹿ども……」

 

 今から二人を呼び出したところで伊織の言うことを素直に聞くとは思えないし、あの二人だけで呪霊を対峙させるのは先輩として不安があった。ゆえに、絶対とは言えないが安心である自分の側に硝子を置くことにした。

 

 硝子は硝子で伊織の守る発言に軽く照れたりはしたもの、危険度は高いのですぐに表情を引き締めた。

 

「入るぞ……」

 

「はい」

 

 伊織がゆっくりテレビの液晶部分に触れると、吸い込まれるように体全体が引き寄せられた。

 硝子も慌てて液晶に触れ、その場から影も形もなく消えた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 領域内は悪趣味なことに、人の体の破片が至るところに浮いていた。これが死んだ者の末路だと言わんばかりの冒涜具合に、硝子は気分を悪くし、伊織は怒る。

 

「クソだな、呪霊は。本当に害悪」

 

 この世に存在していけないものなんて無いのだと、とある漫画のキャラクターは言った。

 しかし呪霊は、呪霊だけはこの世に存在してはいけないのだと伊織は憤った。

 

 すると、そんな伊織たちを煽るように高い笑い声が辺りに響く。

 

 

ヒャヒャヒャヒャ、アヒャ、イヒヒヒヒヒ!!!!!!!!!!!!!

 

 不気味で気持ち悪い笑みに、伊織は不快げに眉を寄せ、硝子は領域内の呪力の濃さに顔を青くした。

 一定量の呪力が無ければ恐怖と圧迫感に気絶してしまうのだ。この領域の不完全な術式付与が却って気持ち悪さを助長していた。

 

 

「家入ちゃん、俺の側から離れるな。……天線刻術【五刻】【六刻】」

 

 刹那、伊織と硝子を囲むように青色の円が現れ、その範囲以外で無差別的な呪力の爆発が起きた。

 

(そんなに威力強いわけじゃないからあんまり使いたくないんだけどな……。今のところ呪霊を炙り出す程度にしか使えないの草生える)

 

 五刻は物理を除く呪力への干渉を防ぐ結界である。つまり、遠距離術式のためだけに存在する結界。耐久度はゴミである。

 六刻は特殊範囲内で呪力を膨張させて爆発させる。威力は人に当たれば痛い、程度で済む最早爆発でなく爆竹である。

 

 しかし、伊織の炙り出すという目的は達せられた。

 

 爆発に驚いた呪霊が姿を表したのだ。

 

 

「なにあれ……。きっしょ」

 

 硝子が吐き捨てるように言った。

 伊織もそれに同意する。

 

 その呪霊は肉片を切って無理やり貼り付けた人間大のボールのような歪で怖気のする姿をしていた。

 まるで新作の服を自慢するかのように笑う呪霊に、伊織の負の感情はマックスメーターを更新し続けていた。

 

 

 先手を取ったのは呪霊だった。

 こちらを舐めているのか、ただの呪力で作った紫色の塊を飛ばしたのだ。

 

「センパイっ」

 

「大丈夫」

 

 硝子の切羽詰まった悲鳴に、伊織は呪力の玉を片腕で弾き飛ばすことで答える。

 

 伊織は硝子がいるためにその場から動けない状態になっている。圧倒的に不利だ。

 

(まじかー。五刻で作った結界が一撃で壊れたぞ、おい。耐久ゴミにも程があるだろ)

 

 咄嗟に呪力強化で凌ぐことができたが、伊織はヒヤヒヤしている。思ったより使えない術式だったのだ。

 

「センパイ、私も術師です。自分の身くらいは自分で守れます。私に構わないで戦ってください」

 

「やだ」

 

「え!?」

 

 すぐに即答されるとは思っていなかったのか、硝子は目を剥いて驚く。なにも伊織は硝子の力を信用していないわけではないのだ。

 

 

「多分、この呪霊は遠距離型の術式を持ってる。一撃必殺の可能性がある以上離れるのはお互いに不利益だ」

 

「それでも動けないんじゃどうしようもないんじゃ……。って、やばっ!?」

 

「なっ!?」

 

 ふいに硝子がその場に蹲った。なんらかの攻撃を受けたことは明白である。

 

 伊織は警戒していた。しかし、呪霊の術式は視界に映らないタイプだったようだ。

 

「ヒヒヒヒヒヒ、アヒャアヒャ!!!!」

 

 呪霊が嬉しそうに飛び跳ねる。ぐちゃぐちゃとした肉片が辺りに飛び散るが、気にした様子はない。追撃を仕掛けない辺り舐めているのは間違いないようだった。

 

「家入ちゃん! 大丈夫か!?」

 

「だい、じょうぶです。右足が全く動かないです。恐らく相手の術式は体の自由を奪う、もしくは神経系統に干渉する術式でしょう」

 

 攻撃を食らったというのに冷静に話す硝子に伊織は面を食らう。そして伊織は彼女の心の強さを感じた。

 

 同時に、守ると言ったくせに攻撃されてしまった自分への怒り、硝子を傷つけられた怒りに、実力を解放することにした。

 

 

「家入ちゃん。今からの光景はナイショで頼む」

 

「え……」

 

 硝子が見たのは、謎の印を両手で結ぶ伊織の姿だった。

 

 

 

【領域展開】──

 

 

 

──回刻輪廻・断截(かいこくりんね・だんさい)

 

 

 

 視界が塗り潰される。

 気色の悪い肉片だらけだった領域はあっという間に、伊織の領域に押しつぶされていった。

 

 白一色だった。

 そしてその空間に浮く大時計が一つ。針はどこにも無かった。

 

 

「センパイ、それって……」

 

「そ、領域展開」

 

 硝子は伊織が、噂に聞いていた呪術の極地に到達していたことを知り驚く……とともに興奮した。その極地は未だ五条と夏油ともに到達していない領域。つまり、この瞬間五条悟を上回ったことがわかったのだ。敬愛するセンパイが一番だと知った硝子は嬉しいのだ。

 実際の実力差はどうなってると言えば、術式無しならば伊織のボロ負け。術式有りならば伊織は余裕を持って勝てる。()()()()()()

 

 

 

「あれ、センパイ。あの呪霊は……」

 

 硝子が辺りを見渡すと、呪霊は未だ健在のようだった。傷一つついていない体に硝子は歯噛みし、焦ったように伊織を見た。

 

「あー、大丈夫。俺のこの術式って必中であっても必殺じゃないから」

 

「どういうことですか?」

 

「んだね、この時計を見てくれれば分かると思うけど、俺の術式の核心は時間にある。常に時間は回っている。途切れることなく人間の定めた二四時間を繰り返し回っている。【回刻輪廻・断截】は、その時間の流れを断ち切る技なんだよ。簡単に言うなら時を止める」

 

 術式の開示だ。念には念を入れて伊織は領域の注ぐ呪力を縛りによって増やす。

 明かされた情報に硝子は口をパクパクと開く。

 

「そ、それ最強すぎません?」

 

「いや、全然。一定の呪力量……まあ、五条には跳ね返される。しかも領域に引きずり込んでから時を止めるまでラグがあるから、本当に強い術師はその間に簡易領域なり、なんなり対策される。だから、対呪霊専用の術式なんだよな。つっかえねー」

 

 そうは言っても充分に最強ですけど、という言葉を硝子は飲み込んだ。それと同時に伊織はまだ実力を完全には解放していないような予感を覚えた。

 

 しかし、それにツッコむことなく硝子は助かったから良いや、と楽観的に考え、自分の実力不足も足を引っ張ると反省した。

 

 

「それじゃ──よし。片付いたし帰るか」

 

 伊織が微動だにしない呪霊をタコ殴りにして祓うと、領域が解除され、いつの間にかテレビの前まで戻っていた。

 

 疲れた様子を見せない伊織に硝子は頼もしさと不甲斐なさを感じて、頷いた。

 

 

 これにて針山小学校簒奪呪霊事件は終息した。

 

 

 この結果に猛烈にキレた二人は無視することにする。

 

 

 

 

 

 

 




ネーミングセンスについてはノーコメントでお願いします。

本作、軽微な鬱表現はありますが、基本ハッピーラッキー主義なのでエグいやつは無いです。……多分。

家入ちゃん好きだよね。ヒロインにしちゃって…良い?

  • 良いよ
  • ダメだよ
  • 別の人がいいな。歌姫ちゃんとか
  • ここは冥冥様!?
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