2000年 2月2日 雪
かなり強くなった自負がある。
まだまだだけどさ。五条悟に勝ちたいなぁ。関わりたくないから会わないけどネ!
生意気五条なら勝てるかもしれないけど、覚醒五条くんにはまだ勝てないっしょ、さすがに。
てなことを考えながら、暇だったから木に登って高笑いしてたら人に見つかった。
っておまぇぇ!!??
ガチビビったわ。知り合い。それも俺が一方的に知ってる人だった。
高身長、モデル体型の明るい髪色をしたロングヘアーの女性。
「どんな女が
と現時点12歳の俺に訊いてきたのは、
特級術師【
あれだ。任務も受けずにあっちふらふらこっちふらふらしてる変な人だよ。
呪霊のいない世界を目指してて、間接的に夏油を闇堕ちさせた張本人。
あそこで「ありだ」って言うのはナシでしょ~、って思ってる。
まあ、呪霊無くすには非術師を皆殺しにする方が簡単なのは事実なんだけど。
まあ、とにかく。バチバチに術式使ってる所見られたからめっちゃ焦ったんだけど、何とか交渉(嘘)して事なきを得た。
あとは、体術教えて貰うことにした。
いや、いくら身体能力強化でごり押ししたって技術ないとダメじゃん……って言われたし。ぐうの音もでねぇぜ。
おっら!!パンチ!!キック!!!飛び膝蹴りぃぃ!!
ふぅ……
無理。
2月3日 俺の心は雨模様
お前、体術の才能ゼロなのウケる、的なニュアンスのことを言われた。
俺は激怒した──必ず邪智暴虐な特級術師を懲らしめなければならぬと決意したのだ!!
いや、あの方強すぎませんか。伊達に特級じゃないね。ごめんね、サボり癖のある放浪人とか思っちゃって。
それはともかく、才能は無いけど、ある程度の技術は身に付けられるだろう、ってことで、一通り教えて貰った。
長年の森ボーイのお陰で筋力量については問題なかったし、どうせ呪力で強化するならそれに合わせた体術を教えよう、って言われたぜ。まあ、呪力で強化してるわけじゃないんですけどね……。言ったらややこしくなるんで言わなーい!
どうやら、俺の術式は身体能力強化と思われてるらしい。これは地味に好都合。
げへへ! 精一杯技術を盗みとってやるよぉぉ!!
2001年 2月3日
一年が経過し、俺はようやく九十九先生から認めて貰えた。
完璧とは言い難いけど、形にはなった。
実戦でも有効活用できるし、これで俺の戦力も増えたもんだ。
ちなみに俺は弟子ではなく生徒らしい。
曰く、『女のタイプが相容れないから弟子にはしない』らしい。ひでぇ。
そんな特殊な性癖持ってないから。
あれか? 俺もケツとタッパのでかい女って言えば良かったわけ? 俺、二番煎じって嫌いなんだよね(怒)
人のセリフパクるとか【一刻】で爆裂四散させてやろうかと毎回思う。
だって、な?
生き様で後悔したくないでしょ?
【一刻】ッッ!!!!! グハッ。
☆☆☆
特級術師、九十九由基はある日呪霊が多数出現しては消える、と噂の森に調査をしに来た。
普段任務は受けずに研究をするため放浪する九十九だが、その時は何の気まぐれか二つ返事でオーケーを出した。
これには腐った蜜柑こと上層部も困惑である。
何か裏があるのでは? その森にもしや何らかの特級呪物が隠されているのか!? などと、九十九本人が聞けば『ムカつくから皆でボコろう』とでも言うだろう。
「はぁ……何で任務受けたんだ……」
九十九は頭を掻きながらゲンナリした様子で森を歩く。絶賛後悔中である。自分でも何故受けたのか分からない、といった様子である。
「まあ、呪霊の消失。研究にはちょうど良いか」
受けたものは仕方ない。放り出すにもいかないため、九十九は任務を研究と称したことで、精神を安定させる。
呪力からの脱却。
呪霊のいない世界を作ることを目的としている九十九だ。必然的に、呪霊の研究も必要になる。
有力な情報は見込めないだろう。どうせ特級が呪霊を食っているのだろうと予測しつつ、気を引き締めた。
「……ん? ……人間の子ども……? 呪力は感じるし、術式? というか何で高笑いしてるのあの子」
そこで彼女は木の上で高笑いをする少年を発見する。
奇しくも第一印象はやべぇやつだったそう。
九十九は、恐らく最近の現象の原因はこの少年にあると見て、少年のいる木に向かっていった。
「げっ」
九十九を見た少年は、苦々しく顔を歪めた。まるでイタズラが見つかった子どものようである。
九十九は初対面で「げっ」と言われたことに少々傷つきつつも、少年が木から降りてくるや否や、キザに笑ってお決まりなセリフを口にする。
「やあ少年。どんな女が
「うーん、スレンダーな長身美女ですかねぇ」
「なるほどね」
九十九は驚きもせずに即刻好みを口にした少年に笑みが深まる。しかし、同時にこの子とは相容れないな、と感じた。なぜかは知らない。
「少年よ、君は一体何者かな? 内に秘める莫大な呪力に身のこなし。まだ呪霊だって言った方が信じられるね」
「む、失礼な。れっきとした人間ですが? それに、何者かって言われたところで、孤児院から追い出されてある日突然変なものが見えるようになって、変な力に目覚めただけですよ」
「それは、だけとは言わない」
九十九は苦笑する。
少年から感じられる莫大な呪力だが、制御できているし本人の性格も特段可笑しいわけではない。
この年齢にしては些か賢いと思ったが、まあ早熟なのだろうと九十九は判断した。
(ふむ。すでに特級を屠れるだけの実力は付いてると見て間違いなさそうだね。しかし、勿体無い。あれが身体能力強化系の術式だとしたら、ただ力でごり押しするのは限界が来る)
九十九は判断した。間違いなく特級術師としての才がある少年を潰させはしないと。
呪術師としての教育を受ければきっと少年は化ける。
(高専嫌いだし頼りたくないけど……)
「そうも言ってられないか。
……少年、ここを出て「あ、遠慮させていただきます」まだ全部言ってないんだけど」
一瞬で拒否されたことに、九十九は眉を潜める。
機嫌が悪くなったことを敏感に察知した少年は、ぶんぶん手を振って慌てるように言った。
「いや、あの、ここから出るつもりは無いんですよ。いずれは出ますけど、今は森暮らしで満足してますし、怪我するのは嫌なので」
その言葉で、九十九は少年が呪術師になることを望まないと判断した。
しかし、莫大な呪力は呪霊たちの餌となるだろう。単なる身体能力強化では限界が来ると九十九は判断し、一息嘆息するなり言う。
「少年。私が体術を教えよう。少年の術式は純粋な身体強化と見た。ごり押しはいずれ限界が来るよ?」
「へっ? 良いんですか?」
「うん、子どもを放っておくわけにはいかないしね」
いずれ社会に出た時に、森暮らしとのギャップで過ごせなくなるに違いない。そうなれば、私が高専へスカウトしよう。
という悪どい打算もあって、九十九は貴重な時間を少年のために使うことを決意した。
「私の名前は九十九由基。少年、君の名前は何かな?」
「俺の名前は石楠花伊織です。よろしくお願いします」
これが九十九由基と少年──石楠花伊織との出会いだった。
☆☆☆
一年後。
「よし、これで伊織に教えるべきことは教えた。後は好きに過ごしていいよ」
「ありがとうございます、九十九先生!」
九十九はにこりと笑う。
(さすがに体術の才能がゼロだった時は思わず爆笑しちゃったけど。案外何とかなるものだね)
九十九が弟子と呼ばないのは、単に価値観の相違である。それと、特級である九十九が弟子認定をしてしまうと、伊織を完全に呪術の世界に引き入れることになる。それを危惧してのことだった。
(道草食いすぎたなー。そろそろ研究に戻らないと)
「伊織、私はもう行くよ。何かあったらここに連絡するといい」
九十九は、自身の電話番号の書いた紙を渡す。
そして、最後にふとこんなことを訊いた。
「伊織はその身に余る強大な力を何に使うのかな?」
「え、自衛ですけど」
「過剰だよ」
呆れ半分、納得半分で、九十九は今度こそ伊織の前から姿を消した。
その場に残された少年はというと、じっとその場で考え込む。
それは、さも九十九の問いかけについて思案に耽──
(あれ、九十九由基って、シリアスなところは真面目なおねーさんで、ギャグパートの時は絡みやすいバカっぽい人じゃなかったけ?)
──ていなかった。何の関係もないことだった。
ちなみに、ずっと九十九が真面目だったのは、子どもの前でいい格好をしたいお姉さん心である。
九十九由基の口調が分からねぇ……