強面サングラスの夜蛾正道は、上層部からの指示により突如発生した大規模呪霊消失事件の現場へと赴いていた。
「やはり残穢が残っている。これ程までの強力な術式……いったい誰が……」
(考えられるのはふらふらと放浪している特級術師『九十九由基』。だが、『あれ』が意味もなく広範囲に渡り呪霊を祓うことは無いだろう。だとすれば、呪詛師によるテロ、及び陽動。もしくは、登録されていない未確認の特級か)
いずれにせよ由々しき事態だと夜蛾は気を引き締める。
(私の任務は調査だ。一先ず情報を集める必要があるだろう)
「今回の任務。一筋縄ではいかないな」
まず、夜蛾は情報を集めようとした。
しかし、夜蛾は聞き取り調査に絶望的に向いていない。
何故か。
顔が怖いのである。
聞き取り。
それに応じてくれるかは、第一印象で全てが決まる。
無害そう、だとかイケメン、美女。
容姿が優れていれば、対異性特効的に効果を及ぼす。
しかし、夜蛾の顔はお世辞にも無害そうには……とても見えなく、イケメン……と言われれば首をかしげる。一部層に人気がありそうな強面顔だ。
とてもじゃないが堅気には見えない。『ヤ』から始まるその筋の人と見られるのが関の山である。
それを把握しているからこそ、夜蛾はその一歩先を行く。
夜蛾の術式は【傀儡操術】。
無生物に自身の呪力を込めることで『呪骸』を作り出す術式である。
夜蛾の『呪骸』はファンシーなぬいぐるみである。
あら、これには敵である呪霊もほっこり……とまあ冗談はさておき、この『呪骸』に盗聴器を埋め込み、ありとあらゆる場所に潜入させる。索敵と情報集めである。
無作為に抽出した情報の中から、有用な情報を取り出す。案外あちらこちらにヒントは眠っているのだ。
そして、夜蛾は残穢や呪力を探ることで、呪術的な方面をカバーする。
ちなみに残穢とは呪力や術式の痕跡のことである。地面などに薄ぼんやりと光るのが特徴。経験ある術師は無意識に残穢に気づくことができる。夜蛾もその一人だ。
3日程経った。
夜蛾は有力な情報をようやく発見することができた。
「なるほど。最近近くの森で怪しい動きがある、と。爆発音や不気味な声……。調査する情報として充分だ」
☆☆☆
「いえーい!! 伊織ちゃんのぉぉ、三分クッキング! この兎肉をぉ……串でぶっ刺す! そして焼く! 以上! なんと……三分以下で済んだ! あら、奥様、時短ですわよ、うふふ」
「…………」
奇しくも九十九と同じ第一印象を抱いた夜蛾。
こいつはやべぇ、と。
☆☆☆
森の住民に出会った夜蛾は、見た光景が信じられなく2、3分ほど固まっていた。
(中学生……? この子から莫大な呪力を感じる。というか漏れ出ている。呪霊を呼んでいるのと同等の行為だぞ……?)
夜蛾は、この呪力のまま現時点まで生き残っていると仮定した場合、かなりの術師であると判断した。
粗末な一張羅に顔立ちの整った優しげな雰囲気を感じさせる少年。
しかし、行動と言動から大幅にマイナス点が加点されるであろう。
(一先ず、話を聞く必要がある。呪霊消失事件とも関わりがあるに違いない)
だが相手は子どもだ、と警戒されぬように呪力を消して近付いていく。
幾ら自分が強面でも初見で逃げられることはないだろうと。
しかし、それは大きな誤算だった。
確かに『初見』ではある。実際に見たのは初めてなのだから。
しかし、伊織は『夜蛾正道』という存在は既知であったのだ。
(げぇ!? 夜蛾正道!? 学長じゃん、何でここにいんの!? あ、そっか、周辺の呪霊消し飛ばしたからか。あっははー☆
よし、逃げよう)
そこからの行動は速かった。
「天線刻術【一刻】」
「なっ!?」
伊織が術式を行使するや否や、莫大な呪力が伊織から吹き出る。──否、呪力ではないエネルギーなのだが、夜蛾は分からない。よって、呪力と認識した。
突如事を起こそうとした伊織に夜蛾は驚愕する……がしかし、それも一瞬。
呪術師としての長年の経験が効いた。
瞬時に戦闘態勢へと持ち込む。
(ただの子どもと侮ってはいけない。ここは全力で捕えさせてもらおう!!)
だがしかし、夜蛾の長年の経験は無駄だった。
「アデュー!!」
「……!?」
伊織はくるりと方向転換し、途轍もない速度で逃げに転じたのだ。
これには、さすがの夜蛾も困惑。
呆気なく逃がしてしまった。
☆☆☆
(消息が掴めん……っ!!)
夜蛾は一向に少年に対する足掛かりが掴めずに、歯痒い思いをしていた。
そもそも、初対面であるはずなのに逃げ出したことが困惑の一途を辿る原因となっている。
「ここまで手掛かりが無いとは」
『呪骸』による捜索を行ったが、音沙汰が無いのである。
それもそのはず。伊織は【四刻】を常時発動させながら生得領域に籠っているのだ。見つけるのは至難の技であるし、仮に見つけても4.4kmの索敵範囲を持つ伊織だ。夜蛾がたどり着く頃にはすでにいないだろう。
えげつない性能を持った一方的な鬼ごっこである。
しかし、ここで夜蛾は思いもよらぬ幸運を掴むことになる。
「……!? この呪力は特級呪霊か!?」
夜蛾は、肌がひりつく程悪意を持った呪力を感知した。
かなり近い。特級呪霊の可能性が高いと判断した夜蛾は、すぐさま現場へと向かう。
そこでまたも度肝を抜かれる光景を目にするのだ。
☆☆☆
「ふっはっは!! 遅い、遅いぞ特級呪霊君! てか、お前特別だから特級なんだろが、一月に二回くらいは襲われてんだけど? なあ、教えてくれよ、俺はいつになったら平穏な生活を送れるんだよッッッ!!」
ズパンッッッ!! と空気が揺れる音が辺りを包む。
伊織が視認できぬスピードで振るった拳の衝撃波だ。
(なんてことだ)
夜蛾は少年が特級相手に舐めプをしながら一方的になぶる姿を見る。
夜蛾とて一級術師。特級呪霊との戦闘経験はある。
しかし、ここまで容赦なく余裕を持って特級呪霊と戦うことができるだろうか。
否である。
それは最早特級術師としての領域だからだ。
「いいぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛くくくく゛なぁぁ゛ぁぁぁ゛」
「あぁ? 行くなって? じゃあ、お前が逝けよ」
特級呪霊は果敢に攻め入るものの、伊織は全てを紙一重で避ける。恐らくわざとであろう。
そして、呪霊がギリギリ耐えられる威力のパンチを繰り出し続けている。
普段の伊織であれば、こんなことはせずに一瞬で屠るだろう。
しかし、最近の逃亡生活により彼の気は立っていた。
つまり、ストレスが爆発している状態である。
伊織は呪霊相手にニヤリと笑うなり、人差し指と小指を合わせる。
「そうだ、折角だから見せてやるよ。つい最近ようやく取得できた必殺技をなぁ」
伊織を中心に莫大な呪力が渦となり、何らかの形を形成し始める。
(まさか……!? 使えるというのか! 呪術の最高到達点! 目指すべき最強の御技を!)
「領域……(あ、やべ、夜蛾いるじゃん!?)て、展延!」
莫大な呪力が伊織を包み込み、鎧となる。自身の領域を纏わせる技である。
(……さすがに無理か)
夜蛾はホッとした。決して自分の先を行っている存在への嫉妬ではない。
普通に住宅街の近くであることを懸念しただけである。
(もう、普通に倒そう)
「おらっ!! 黒閃!!」
呪霊に向けて放った拳に纏っていた呪力が黒く染まる。
その拳は呆気なく呪霊を影も形もなく消滅させた。
☆☆☆
12月31日 曇り
高専に入学しろ。オマエに拒否権は無いと言われました。
さよなら俺の平穏。
またな、皆。
俺たちの戦いはこれからだぜ!(いや、本当にな。しかも不本意だし)
家入ちゃん好きだよね。ヒロインにしちゃって…良い?
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良いよ
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ダメだよ
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別の人がいいな。歌姫ちゃんとか
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ここは冥冥様!?