荒野に祈る。   作:四角系

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17.「巨人のゆりかご」

 ロゼッタの酒場で赤い宝玉を囲みながら一行は困り果てていた。ロゼッタの港に停泊していたスイートキャンディ号は直ぐに戻るからという言伝を残してどこかへと行ってしまった。ジェーンからお礼にと受け取った赤い宝玉も、買取屋に持ち込んでも「巨大な赤い石である」という結論以外得られなかったし、売ろうにもこのまま旅に持ち歩こうにも困る代物である。

 ジェーンにこれを売れる筋を紹介してもらえばよかったな、とニコレットが言えば、「その情報ひとつにも金をせびってきそうだぜ」とザックが返し、それっきり一行には酒場は喧騒で沸き返っているのに自分たちが黙り込む、奇妙な沈黙だけが残された。

 

 泡の浮いた温いビールを口に含みながら、ニコレットは考える。そも、これは一体なんなのか。『見て』みようにも、何らかの意味の無い文字の羅列のようなものが時折浮かんで消えるだけで、これ自体には何のエネルギーも効力もないことは証明されてしまった。

「……どうしようね、これ」

 何度目かも分からないハンペンの言葉が、再度反芻される。セシリアはうんうん唸りながら完食したヤキソバの皿を眺め、ザックに至っては思考を諦めて水で薄めたワインをちびちび飲み始めた。

「なーに湿気た顔してるの、あなた達?」

「……エマ博士ですか? 一体どうしてここに……」

 唐突に投げかけられた言葉はアーデルハイドのARMマイスターであるエマのものであり、それは紛れもなくエマが何故かロゼッタにいるという状況に他ならなかった。

「そりゃあ、決まってるじゃない。かわいい妹分が元気にやってるかなって見に来たのよ」

「きみがそういう物言いをする時は、大抵腹になにか抱えてる時だ。一体何が目的なんだい?」

 つれないわねえ、とニコレットの肩に絡ませていた腕を離したエマは、「それよ」と言って机に置かれた宝玉を指さした。

「それはね、通称『赤い邪心』って呼ばれる、とある遺跡を開くための鍵なの。これには『蒼い良心』って呼ばれる相方がいて、それはなんと、じゃーん! ここにあるってワケ。私はその赤い方を探してたんだけど、なんとあなた達が持ってるって言うじゃない! ジェーンちゃん経由でスイートキャンディ号の船長に足貸してもらったから、丁度いいと思って、ついでにあなた達にも手伝って貰おうかと」

「何を手伝うの?」

「遺跡踏破よ、遺跡踏破。そういう訳だから、チーム組みましょ。」

「……なんか、最近こういうのばっかりだね」

「使い道が見つかったんならいいじゃねえか! こんなデカい石っころ、何時までも持ってたって仕様がないだろ」

 ヴォルカノントラップは海の真ん中に浮かぶ絶海の孤島の中にぽつんと一つだけ建てられた遺跡であった。そこへ向かうためにスイートキャンディ号を利用させてもらった訳だが、どうにもバーソロミュー船長の幼児趣味──ペドフィリア────もっと有り体に言うと、ロリコンのどストライクだったらしいジェーンは彼に惚れられてしまい、結果都合の良い足として活用されているらしかった。

 ニコレットは仮にも一度婚約を交わした仲ではあるので彼を一瞬不憫に思ったが、それも直ぐに霧散した。

「目的地は、『巨人のゆりかご』よ。この宝玉はそこの扉を開くために使うってわけなんだけど、なんとそこにはゴーレムが眠っているらしいわ!」

「───ゴーレム、ですか?」

 セシリアが反応する。どうしたの、と問われれば、いえ、と首を横に振るも、何かを言いたげにして、結局何も言わないとしたようだった。

 兎に角、この嵩張る荷物を買い取ってくれるならと、一行はエマの依頼を受けて、巨人のゆりかごへと向かうことになった。

 

 

 巨人のゆりかごは、巨大な仰々しい扉と、それ同じく巨大な遺跡で、長らく誰もその中に踏み入らなかったことを感じさせた。扉には二つの半球の穴が開き、エマが懐から取り出した赤と青の宝玉をその半球へと嵌め込むと、金属音と機械音が響き、地響きを鳴らしながら扉が独りでに開く。

 

「さ、護衛頼むわよ、渡り鳥さん」

「───聞いてないよッ!?」

「宝玉を買い取った時に色つけてあげたじゃないの。その分が護衛の報酬よ。」

「受け取ったらアウトじゃないか……」

 ザックの肩で大袈裟に呆れたハンペンは、すごすごとザックのコートの襟の中へ潜り込む。戦闘があればそこに潜り込んだ方が安定が得られるというのは通例の話だった。

「……よし、進もう」

 ARMを抜いたロディが、全員に向けてそう言った。一行はそれに頷いて、各々の武器を構えた。

 

 

「それにしても、結構あの子たちと長くやってるのね、ニコ」

「そうかな? まだ一ヶ月と少しくらいだけれど」

「あら! ニコの十余年くらいの渡り鳥生の中で、あなたがパーティを組んでたのって総合してどのくらい?」

「えーっと……」

 旅に出た初年の時で最後だった。何かトラブルがあったという訳では無いが、結局のところ一人で動く方が動きやすくてやりやすかったのだ。

 何となく気恥ずかしくて黙っていれば、エマはしたり顔で、ね、と言った。

「しかし、ゴーレムか。まだ動くものなのかな?」

「動かないでしょうね。ゆりかごというのも、ここにあるゴーレムは生まれてから一度も動いたことがないのが由来だそうよ」

「おおい、そっちで駄弁ってないでこっち手伝えっての!」

 遠くからザックが、警護機械の斬撃を鞘で受け止めながら叫んだ。ごめんよ、と声をかけ、警護機械のコアを撃ち抜けば、一瞬のうちに機能停止した。

 

 確かにゴーレムは、生まれてから一度も動いたことがないという説の通り、傷一つない綺麗な体をしている。

 胸部と両腕に取り付けられた半透明の球体は、ロディの掲げたランタンの灯りを反射して、つるりと輝いていた。

「──さてッ! 辿り着いたわゴーレムのところまで! エラいぞ、君たち! そして私もエラいッ!」

「……なんで博士がエラいって判断になるのか、甚だ疑問だけどね」

「そこのネズミくん! 早速ゴーレムを調べるから、ちょっと手伝いなさい。あとニコもよ! 何か見つけたらすぐ『見て』ちょうだい!」

「うわあッ、乱暴だなあ! ネズミ使いが粗いったらないよッ!」

 渋々といった様相で、しかしハンペンもゴーレムという古代文明の遺物について興味津々だったのだろう、ザックの肩から降りてゴーレムへと近付いていった。ニコレットもサングラスを取って、ざっとゴーレムを眺める。体内に様々な機関があることだけは把握できたが、エネルギーの流れは見えない。動かないというその理由も、見る範囲ではわからなかった。

 

 それから暫く後、エマが全員を招集し直したのは、この遺跡で夜を過ごすことが決定して、寝床を確保した後のことだった。

「とりあえず、現時点での調査結果は簡単に纏めたわ。大きく区分して、報告内容は二つね」

「ほとんどオイラが身体を動かして、そこでひっくり返ってるニコレットが『見て』まわって調べたものだよ。みんな、清聴するようにッ!」

 一方ニコレットは、『目』の連続使用によって起こる頭痛と酔いに耐えながら、隅の方で蹲っていた。遺跡内のエネルギー機構を弄って、ゴーレムに燃料を送り込んだ時、偶然『見て』いたニコレットの頭に叩きつけるような情報量が流し込まれ、それに酔ったのだ。ロディが心配そうにニコレットの背中を摩って結構経つが、未だ応えられそうにない。

 

「……第一に、機体名称は『アースガルズ』。込められた意味は『神々の砦』───両腕に搭載されたバリアの共振発生装置がその名の由来と思われるわ」

「要するに、腕からバリアが出せるんだね」

「第二に、保存状態がすこぶる良好であるということ。エネルギーは無事に供給されているしシステムもオールグリーン、つまり、何故目覚めないのかについては正直さっぱり分からないということよ」

「………、アースガルズ……」

 セシリアがゴーレム───アースガルズを見上げた。ザックは希望を込めた声色で言う。

「つまり、こいつが目覚めさえすりゃ、対魔族に大幅戦力アップじゃねえかッ!」

「眠り続けている彼を、戦いのために目覚めさせるというのですか? ……彼は、戦いのためだけに必要とされているのですか?」

「……セシリア、」

 漸く回復したニコレットが、セシリアの名を呼ぶ。セシリアはそれに答えず、しずしずと俯いた。

「誰も、何かの目的のためにだけ、存在を許されているのですか? それではあまりにも、悲しすぎます……」

「……姫さん、剣は敵を斬るために、槍は敵を突くために造られている。ゴーレムが作られた理由も、似たり寄ったりだ。……姫さんの優しさは、この世界にとっては貴重なものかもしれないが、だけどこんな世界だからこそ、半端な優しさは甘さになりかねない」

 ───残念だが、今の俺たちには、その甘さを享受できるだけの余裕が無いってのも、事実なんだ。

 ザックの声がゆりかごの中に響いた。セシリアはそれに黙り込み、同じように、誰も何も返せなかった。

 

「ニコ、回復したわね。じゃ、調査の続きといくわよ」

「えッ……!? そ、そんなぁ……」

 静寂はエマが切り裂いて、狼狽えるニコレットの首元をがっちりとふん捕まえると、そのままずるずるとアースガルズの足元まで引っ張っていく。ハンペンにもそのまま調査の続行を言い渡し、ハンペンとニコレットの悲鳴が響き渡った。

「……人遣いが粗いというか、なんというか」

「もう依頼料以上の働きをしていると、思うん、だけど……」

「だよな……姫さんも手伝いに行ったらどうだ?」

「えッ? ううん……私では何の役にも立てませんよ、きっと」

 

 

 調査は数時間に渡って続き、とりあえずの中断が告げられた頃はすっかり夜中だった。遺跡内で日差しが届かぬ場所とはいえ、体内時計が眠れ眠れと告げている通り、初めにロディが船を漕ぎ、それに便乗するようにしてザックがロディと共に簡易的な寝床へと戻っていった。セシリアは眠気に耐えるようにしてしばらく見守っていたが、やがてハンペンに促されて共に眠りにつき、エマとニコレットだけが最後まで起きていたが、唐突にエマが「適度な睡眠はパフォーマンスを高めるわ」と言いながら眠りについて、結果的に、ニコレットだけが取り残された。

 眠ろうにも目が冴えてしまって眠れないと判断したニコレットは、ギターケースの中から暗い緑色をした瓶を引っ張り出し、勿体なさげにそれを開ける。特別な時に飲もうとして先送りにし続けてきた、高い酒だ。ジェーンほどではないがむしゃくしゃしていて、とにかく飲みたい気分だった。

 グラスを外部から引っ張りこんできた水道で水洗いし、ストレートで酒を呷る。アースガルズの鎮座する台座に腰掛けながら、舐めるように酒を飲んだ。

 

「──お酒、飲んでおられるのですか?」

 しばらくすると鈴のような声で話しかけられて、ニコレットはそちらを見る。起き上がったセシリアが、可笑しそうに微笑みながら、ニコレットの隣へと腰掛けた。

「飲まなきゃやってられないよ、……なんてね。全く、エマは私を便利なレントゲンか何かだと思ってるみたいだ」

「ふふ、仲良しでしたものね。あんなに慌てるニコレットさん、初めて見ました」

「エマは小さい頃から私の姉のような人だったから、今も逆らえないんだ。幼少の頃の力関係というものは恐ろしいよ……」

 グラスの中身を飲み干したニコレットは、片付けてくる、といって立ち上がった。セシリアはアースガルズを見上げて、ぽつりと呟く、

 

「──……このまま眠り続けることが、あなたにとって一番、幸せなのかもしれませんね」

 ニコレットが戻ってきた気配がするが、セシリアは振り返らない。

現在(いま)のファルガイアも、千年前と変わらない……戦いばかりが繰り返される、不毛な世界……。あなたはそんな世界に目覚めて、一体何を望むというのですか?」

 眠るゴーレムは答えない。ただ、そこにいるだけだ。

「あなたは何も望まなくとも、きっと誰かに望まれます。あなたが戦いの道具であることを望まれて……、誰かに望まれた自分であることは、まるで本当の自分を否定されたようで、自分自身を嫌いになってしまう……」

「───公女であることを望まれるのが嫌いかい?」

 振り返れば、サングラスを通して、月のような双眼がセシリアを見詰めていた。セシリアは息を飲む。動いてしまえば、口を開いてしまえば、己の全てを見透かされてしまうかのような居心地の悪さが、何故かそこにあった。

 セシリアはひとつ、彼女に向かって頷いた。守護獣神殿で聞いた声を、頭の中で繰り返す。

 

 ─────公女様自らが世界を救う旅でございますか。いやはやまったく、恐れ入りますな。

 

 ─────貴方様の価値は、アーデルハイド公女としての価値。そのくらいの責務は全うして欲しいものです。

 

 ─────自分が愛されていないということに、随分前からわかっていたはずです。

 

 ─────だからこそ貴方は、誰かに愛してもらうため、危険な旅に自ら出ることを申し出たのですね。

 

 ─────誰かに心配されたくて、誰かに愛されていることを確かめたくて。あなたに『セシリア』としての価値があることを確かめたくて。

 

 もうひとりの自分がほくそ笑む。耳を塞いでも、声は頭の中に響いている。

 

 ─────誰も貴方のことを愛していないもの。

 

 ─────貴方自身も、誰も愛していないんだもの。

 

 

「………ニコレットさんも、そうだったではありませんか。わたしのことを、随分前から、公女だと勘づいておられたではないですか?」

「きみが公女だと気付いたのは、きみが「城に剣士がいる」と言ったときだった。城に誰がいて誰が居ないのかを把握しているほど、城に出入りしているひとりの娘さんとあれば、まあ、可能性はあるだろうなと思った。その程度のことだったけれど」

「そんなに前から………よく見ていらっしゃるのですね………」

「それで食ってるからね。逆に言えば、それしか取り柄がないのさ」

 そんなこと、とセシリアは首を横に振る。それと同じだよと、ニコレットはセシリアに微笑んだ。

 

「きみが公女であってもそうでなくとも、私にとってきみの価値というものは変わらなかった。魔法‪が得意で、ちょっと大食いなお嬢さんだ。私がそういう人間であるということもあるが、きっときみが変えてしまったのは、きみ自身が見る世界への目だ」

「世界への、目?」

「きみは何を見ている? きみ自身へ向けられる目? きみ自身の価値か? それは、きみの心で歪んでいたりはしていないかい?」

 セシリアは、己の胸をそっと押さえる。動悸がする。自身は公女であり、『セシリア』としての己には価値がないと、人々は常に『アーデルハイド公女のセシリア』というフィルターを介して己を見ているのだと、そう思っていた。───果たして、それだけだっただろうか?

 ロディは、己の身分を知っても、何も変わらなかった。ニコレットもそうだ。ザックは身分を明かした時、激昂して己を責め立てたが、それは彼の性分によるものだった。エマは護衛として己を頼ってくれたし、ハンペンはその溢れる知識と知性でもって、セシリアや皆を支え、道を指し示してくれた。───それらは果たして、己が『アーデルハイドの公女のセシリア』であったからだろうか?

 

「本当は………、わたし自身が、わたし自身のことを『アーデルハイド公女のセシリア』としか、思っていなかったから………?」

 口に出して言えば、それはすとんと胸に落ちるような、妙な納得感があった。

「わたしが、わたしを好きでなかったから………、」

 気が付いた時には、両の眼から大粒の涙が溢れて、頬を濡らしていた。悲しみと温かさが胸のほとんどを占めていた。手の甲で擦ろうとする手を制して、ニコレットがセシリアを抱きしめる。

 

「───私は、……私たちは、きみのことが好きだよ。ロディもハンペンも、口にはしないけれど、ザックも、『アーデルハイド公女』のきみだけではなく、『セシリア』が好きなんだ。きみの肩書きはきみのほんの一部の側面でしかないけれど、きみもまた、自分自身の側面しか、見えていなかったんだね。そう言われ続けてきたのだから」

「……ニコレット、さ、……っひ、っく、う、ぅ………!」

「自分のことを好きになろう。私たちの好きな『セシリア』を、きみも好きになるんだ。できるよ、きみなら。例えそれが責務であったとしても、きみ自身の願いが、この世界の平和を、なんて願えるような、優しい女の子なんだから……」

 

 セシリアは、ニコレットの背に手を回し、しがみつくようにして黒いコートを強く握りしめる。

 大きな音と振動が、セシリアの泣き声に次いで響いた。セシリアが顔を上げて、アースガルズを見詰めると、無機質な双眼が、金色に光る。

「わたしの声が───聞こえているのですか?」

 それに応えるようにして、振動が響く。声ではないそれは、正しくアースガルズの声で、ニコレットは信じられないような気持ちで、立ち上がったセシリアとアースガルズとを見た。

「大切なものを守る───あなたは、ファルガイアに息衝く小さな命の声も、聞こえているのですね。わたしは、……わたしも、」

 セシリアは、そう言って、ニコレットの驚いた顔を見て、くすりと笑った。濡れた頬を拭って、ニコレットへと向き直ると、その名前を呼ぶ。

「ニコ、と、お呼びしてもいいですか?」

「──……勿論、いいよ」

「ありがとう、ございます。わたし───公女としてのわたしは、国やファルガイア、大きなものを守りたいと願っています。でも、ほんとうのわたしは、それよりもずっと小さくて、それよりもずっと確かなものを守りたいと、……そう、願っているんです。」

「そっか。とても素敵なことだよ。──私は、きみの守りたいと願うものを、きみの世界を通して、ずっと『見て』いるから。だから、大丈夫だ」

「心強いです、とても……ほんとうに。───アースガルズ!」

 

 セシリアが、凛として響く声で、ゴーレムの名を呼び、それに呼応するように、アースガルズはセシリアを見下ろした。

「わたしの大切なものを、守るお手伝いを、お願いできますか?」

 大きな振動と共に、アースガルズの胸部のコアが光り輝く。傷一つないそれは自身の光で明るく輝いて、まるでひとつの星のようだった。動かないと思われていたその体はゆっくりと、しかし着実に動き出し、セシリアへと手を差し伸べる。セシリアは朗らかな笑顔で、その指先を包むように、両手で握り込んだ。

 

「ありがとう、……これからよろしくお願いしますね、アースガルズ」

 

 何事かと飛び起きたザック達は、動き出したアースガルズを見て、信じられないといった面持ちで、セシリアとニコレットに見入っていた。デジャブのあるそれを見て、セシリアがくすくすと笑って、ニコレットも笑う。

「──どうしてッ!? ありとあらゆる手段は昨日のうちに試したはずなのよ! なのに今になって動く理由は何ッ!?」

「彼と、すこしお話をしました。───目覚めたのは、彼の意志です。誰でもない自分自身の心で、アースガルズは目覚めることを望んだのです」

「それは、その、突発的な……なんと言うか、思い込みの類ではなく?」

「なく。───仮にそうだったとしても、彼は私の声を聞いて、私は彼の声を聞きました。それでいいではありませんか?」

「知性派のオイラにはにわかに信じられないけど……これは、現実を受け入れるべきかな。」

 エマは考え込んで、ザックは細かい話は抜きだと一括する。

 

「俺たちは力を手に入れたんだ。対魔族戦を想定された『絶対たる力』だッ! やつらの本拠地に攻め入ろうって時、こんな心強い超兵器はないぜッ!!」

「いいえ、アースガルズは兵器ではありません。わたしたちの、仲間です」

「大きな仲間ができたね」

 ロディがそう言って、セシリアは微笑みながら頷いた。

「アースガルズ! あなたの大きな手を、貸して欲しいのです。わたしの守りたいものを守るため、……あなたの守りたいものを、わたしも守るため。目覚めたあなたが、兵器として扱われない、平和な世界を作るために……!」

 

 一緒に行きましょう、アースガルズ。

 

 

 どこへ向かうべきか分かっているかのように、アースガルズはセシリアへと手を差し伸べて、セシリアはその手に乗った。

「ニコ、」

 そうして、アースガルズの手の中でニコレットへと手を差し伸べると、ニコレットはふっと笑んで、セシリアの手を握る。ぐいと引っ張りあげられて、セシリアと共にアースガルズの掌に座り込む。

 アースガルズは歩き出し、ゆりかごの扉が開かれると、朝日がかのゴーレムの目覚めを祝福するかのように差し込んで、暁の空を照らしていた。

 

「───ありがとう、ニコ。わたし、やっと自分の願いがわかったような気がします。───これからもどうか、『見て』いてくださいますか?」

「うん、セシリア。勿論だとも」

 その言葉に、セシリアは心から嬉しそうに笑って、それは公女や巫女としての彼女ではなく、そのままの『セシリア』だったのだろうと、そう思った。




ガールズラブ要素、ここがピークです。
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