荒野に祈る。   作:四角系

18 / 34
18.「コートセイム」

 アースガルズの起動を見届けたエマは、一足先にアーデルハイドに戻ると言って、そのまま帰っていった。一通りのゴーレム研究によって新たに得られるものがあったらしい、また何かあったら連絡するわ、というある意味爆弾級の置き土産を残して去り、特にこき使われた一人と一匹は大いに震え上がった。

 

 早速アークティカへ乗り込もうと提案したザックだったが、エマの指導によりゴーレムについて何倍も詳しくなったハンペンが、それに否を返す。

「ゴーレムがザックの言う超兵器だったとしても、内部出力と外部出力が釣り合ってるかは別の話だよ」

「そりゃ一体どういう意味だ?」

「つまり、アースガルズがどれだけ強い力を持ってても、それを出力する手立てがないってこと。エネルギーの総量的には申し分ないどころかオマケが来るほどではあるけど、長らく動いていなかったどころか、千年前は生まれてすらいなかったんだ。」

「そんなの、この巨体で薙ぎ払っちまえばどんな奴も………ああ、もう、わかった、わかったっての。そんな目で見るなよ姫さん、コイツ自身を兵器みたく扱ったりしないって」

 「わかっていただけたなら嬉しいです」

 要するに、とハンペンが場を仕切り直す。

 

「作りかけなんだよ、アースガルズは。このままでもある程度のパフォーマンスは期待できるけど不慮の自体に対応できないと困る。完成させるにもパーツが足りないってわけ」

「彼の守りたいものを守るためにも、未完成では困りますね……」

「ううん……エマ博士は自分の研究でしばらく忙しくするって言ってたし、誰かエマ博士以外でゴーレム研究とかそういうのに詳しい人、いない?」

 ううん、とロディが唸った。ニコレットも顎に手を当て考える。ふと、とある人物が頭に浮かんだニコレットは、あ、と声を挙げた。

 

「ゴーレム、というか、エルゥの技術について研究熱心な研究者なら、ひとり心当たりがある」

「本当かッ!? 誰だ? 何処にいる?」

「ニコラ・マックスウェルだ。確かコートセイムに居を構えているんじゃなかったかな」

「マックスウェル……って確か……」

 ジェーンの父親だ、とニコレットが言った。三人と一匹の脳内には忽ちジェーンを男にしてそのまま成長させたような守銭奴が浮かび上がったが、それを受けてニコレットは苦笑する。

「彼には旅に出る前も後も、ずっと世話になり通しだな。ARMマイスターでもあるから、一度ロディのARMも見てもらうといいよ」

「うん、わかった。───次の目的地は、コートセイムだね」

 

 

 北の大地から流れ込む冷えた空気が、時折雪をちらつかせながら吹き荒ぶ。砂漠の大地にありながら、実態は乾燥した寒帯であるコートセイムも、時期が時期であればアークティカ領から飛んでくるような粉雪が、身を劈くような寒さを運んでくる。

 しかし、すれ違った商人から話を聞くに、ここ暫くはどうも異常気象が続いて、アークティカは常に吹雪き、その雪はコートセイムとアークティカを挟むようにして連なる山脈で阻まれてはいるが、それも時間の問題ではないかと噂されていた。ザックはそれを聞いて、複雑そうな面持ちでしばらく黙り込んだが、やがて何事も無かったかのようにコートセイムに向けて歩き出す。

 

 コートセイムはシスターや渡り鳥の大人たちもちらほらといたが、それ以上に子供の数がやたらと多い。大きな家が一件と、小さな家がちらほらと連なる、村と呼ぶにしても小さすぎる集落のような場所だ。

 ロディはその中でも最も大きなひとつの家から今も尚もうもうと煙を吹く煙突が長く伸びているのを見付け、あれがARMマイスターでありジェーンの父親の家であると悟った。

 ハンペンはコートセイムの子供たちから「喋る賢いネズミ」として、とあるネズミ嫌いの少女以外からは一躍人気を集めた。同じように子供たちからの関心を集めたのはアースガルズだ。巨大なロボットと言える様相に男の子たちは大盛り上がりで、よじ登ったり観察したり駆け回ったり、新たな遊び場としてアースガルズを活用した。心做しか、アースガルズ自身もそれを楽しんでいるようであった。

 

 セシリアはアースガルズと、ザックはハンペンと、それぞれ子供の遊び相手になる横で、ロディとニコレットはニコラの元へ向かった。

 地下への扉を開けて梯子を降りていくと、熱心に作業机に向かっていた優男風の男が振り向く。男はニコレットを見初めると、嬉しそうに笑んだ。

「ニコレット! 久しぶりだね。あれからARMの調子はどうだい?」

「やあニコラ、久しぶり。その節は世話になったね、お陰様であれから目立った不調もないよ。───今日はちょっと、別件で来たんだ」

 ニコラはロディを見て、初めまして、君は? と訪ねる。

「ロディ、です。ロディ・ラグナイト」

「ラグナイト? それにそのARM、もしかしてゼペットじいさんの……!

 ───ああ、すみません。ゼペットじいさんには六人の弟子がいましてね、私はその中の一人だったんですよ。弟子は新愛を込めてゼペットじいさんと呼んでいたから……もう十数年も会っていないけれど、彼は元気ですか?」

「じいちゃんは、………亡くなりました。魔獣にひどい怪我を負わされて、それが原因で」

「そう、……そう、ですか。師のことですから、老いてなお盛んであるとばかり……でも、君という孫に恵まれたんですね。それはいいことですよ」

 ニコラはロディのARMを見詰めて、懐かしそうに目を細めた。

 

「そのARMは、ゼペットじいさんが発掘して調整した、ゼペットじいさんの最高傑作でした。………それで、ニコレット。別件とは今度は何を持ち込んでくれたんだ?」

「そうそう、ゴーレムを最近発掘してね。だけど未完成なんだ。最後のひと押し、ニコラならなにか心当たりがあるんじゃないかと」

「ゴーレムだってッ!? この間エマがリリティアを掘り当てたのだと聞いたけど、まさか近年に引き続き二台目が現れるなんて……もしかしてそれもエマが?」

「その通り。こき使われたよ」

 想像に難くないね、とニコラが笑って、笑い事じゃないよとニコレットが肩を落とす。

「最後のひと押しか。生憎だけど、私の持っているエルゥの知識にそういうものはないんだ───でも、それ以外のものであれば、最後のひと押しを手伝えると思う。」

 

 その前に、私の別件を手伝って欲しいと、ニコラはニコレットとロディを見ながら、そう依頼した。依頼料は別件の結果次第でありながら確実なものだというそれは、コートセイムを南下した場所にある森の、とあるエルゥの遺跡だと言った。

 

 

 後に発見したニコラがバリアシェルターと名付けたその場所は、停止していたエルゥの遺跡を発見、再起動し、特許を得てニコラが独占・私物化している絶対安全の地下防護施設だという。千年前の大戦時代から避難場所として活用されていたのではと推察されるそこを見て、ニコレットが感心した。

「へえ、すごいな! 私の『目』でも奥まで見渡せない」

「フフ、そうだろう。外側からならあらゆる攻撃も透過も不可能な壁だ。子供が迷い込んだらコトだから、内側からは簡単に開けられるけれど」

 虹彩認証でバリアが開かれ、途端に奥まで見渡せるようになった。ニコラは開いたバリアから奥へと進み、とある一角へとロディを案内する。

「これは、師の残したカートリッジのひとつです。これを君に託すことが、私なりのゼペットじいさんへの恩返しなのだと思って」

「ぇ……でも、そんな……じいちゃんの形見みたいなもの……」

「いいんですよ。ゼペットじいさんが生きていれば、きっと彼もこうしたでしょうから」

 ゼペットの遺したARMの強化パーツは、驚くほどしっくりとロディのARMに馴染んだ。きっと、このために作ったのかもしれませんね、とニコラは微笑んで、ロディは照れくさそうに頬を染める。

 

「さて、私の用事は済ませたから、次はニコレットの用事だ。ゴーレムを見に行こう」

 コートセイムの外で子供たちの遊び相手になっているアースガルズとセシリアを見上げ、ニコラは驚き、ゴーレムの命令を聞く汎用性と範囲の広さに関心を示した。子供たちを離れさせ、立ち上がらせたアースガルズを隅々まで見て観察し、確かに未完成であると見初めた彼は、一行に向き直るとこう言った。

 

「師の遺したものは、カートリッジの他にももうひとつありました。───私たちゼペットじいさんと六人の弟子は、とある塔に集まってひとつの共同研究をしていた。その名も『飛空機械』───その名の冠すとおり、空を飛ぶ機械を我々の手で作り出そうとしていたのです」

 それには強大なエネルギーとそれに見合う出力装置が必要だった、とニコラは語る。ハンペンが目を見開いて、「つまりその出力装置とアースガルズを、くっ付けちゃおうって算段?」と尋ねた。

 ニコラは不敵に微笑む。その顔はどこかジェーンの面影を感じさせた。

 

「ですが、結局、我々は散り散りになって、共同研究が日の目を見る日は来なかった。我々には『空を飛ぶ機械を作る』という夢を叶えるために必要な技術が圧倒的に足らなかったのです。……しかし、我々は諦めていません。いつか、それを完成させるに足る日が来るまで、今日までの研究成果を守護する塔に、出力装置───ルーンドライブと名付けたそれと共に、眠らせているのです」

「それは………今、どこにあるのですか?」

「風の海の墓標と名付けた、罠の張り巡らされた塔です。ケイジングタワーを参考に我々で作りまして。我ながらかなりの難易度を誇りますが、あなた方なら突破できるのではないかと」

「でも……いいのかい? そうまでして守りたい研究結果でしょ?」

「いいんですよ。過去の研究がどんな形であれ実を結び、それが誰かの役に立てるのであれば、こんなに嬉しいことはありません」

 

 ニコラはそう語って、一行の地図へと次なる目的地を指し示した。崖際に建つその高い塔は、ゼペットと六人の弟子の集大成であり、内部は細くうねるようにして隙間に大量の機構が詰め込まれていることから、アースガルズによる内部への侵入は難しいとして、身一つで攻略することになった。

「罠が盛りだくさんっつっても、ニコレットの目があれば余裕だろ! なあ?」

「ダメです、ザック! 何でもかんでもニコに頼り倒しでは、いざと言う時困ると言ったじゃありませんか!」

「まあ、いざって時は頼ることにして、なるべく自力解決をめざすってことでいいじゃない」

 自らの力で勝ち進んでいこうとする子供たちを見ながら、ニコレットは頼もしい気持ちでありながらも、どこか寂しさの風が胸の中を吹いた。

 それは、言わば「虫の知らせ」と呼ぶものと、よく似ていたかもしれない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。