荒野に祈る。   作:四角系

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文字数が1万超えたので分けました。


22.「フォトスフィア」

 数多の犠牲を出して守られたルーンドライヴは、やっとアースガルズに取り付けられ、未完成のゴーレムは完成へと至った。

「さて、古代の超兵器、完成だな……」

「アースガルズは兵器ではありません、わたし達の仲間ですッ!」

「わかってるって姫さん、で……こいつは今何ができるんだ?」

「両腕に搭載された対消滅バリアジェネレイター……原子から物質を破壊するバリアが出せます。出力不足で本来の威力を発揮できなかったようなのですが、今現在であれば最大出力で山のひとつふたつは軽く消滅します」

「……とんでもないね。守護獣並の戦力を有する、ってのも納得だよ」

 一行はアースガルズを見上げ、アースガルズは一行を見下ろす。

 

「フォトスフィアの絶対領界(ソルデリーター)も、アースガルズのバリアで突破できるんじゃないかな?」

「そいつはいいじゃねえかッ! 姫さん、ここはひとつ頼んだぜ。こいつ姫さんの要求しか聞かないしよ」

「もうッ、調子いいんですから。真面目に真摯にお願いすれば、アースガルズは聞いてくれます」

「邪心が見破られてんじゃないかい? ごく稀にだけど私の言うことも聞いてくれるよ。な、アースガルズ?」

 ニコレットがそう言ってアースガルズを見上げたが、アースガルズは無言でニコレットを見下ろすのみで、それ以上の動きを見せることは無い。

「……こんな感じで、よく知らないけど母親と仲がいい大人、みたいな扱いをしてくるんだ」

「ああ、道端で会った時「覚えてる?」って聞かれるけど全然覚えてないやつな……」

「まあとにかく、これで目処は立ったわけだし、準備が済み次第、フォトスフィアに向けて出発しよう!」

 ハンペンのその言葉に頷いて、一行はひとまずばらけて、消耗品の購入や装備の点検などに駆け回ることになった。

 

「ニコレット!」

 振り返れば、ジェーンがこちらへと駆けてくる。バリアシェルターの奔走で汚れた着の身はすっかり元通りになり、ブロンドの髪はマクダレンが饗応したのだろう、枝毛ひとつなく綺麗に巻かれていた。

「これ……あげるわ。庇ってもらったのは違いないんだし」

 そう言って差し出されたのは、ボルドーの色の丸いサングラス。なるべく似たような色とかデザイン探したんだけど、色はこれしかなかったの、と巻き毛を指先で弄びながら、ジェーンは視線を右往左往とさせている。人に贈り物をする経験があまりないのだろう、緊張がありありと滲んでいた。

「ありがとう、ジェーン。嬉しい、大事にするよ」

「自分のこともそのくらい大事にしてよねッ! あんたが傷付いたって悲しむ人はいるのよ!」

「うん」

 似合うかな、と微笑んでみれば、あたしのセレクトなんだから当たり前でしょ、と返された。新しいボルドーの視界は見慣れない色で、浮き足立つような不思議な気分になる。フォトスフィアまでは長旅になるだろう、危険な旅ではあるが、新しいものを見るのは、いつもわくわくする。そういう気分の門出には、ぴったりの気持ちだった。

 

 

 数日遅れてコートセイムへとやってきた商人達から、消耗品や防寒具を買い集め、荷物はアースガルズの掌へ詰め込んだ。

 孤児院の子供たちが北へ歩き出したアースガルズを見送って、手を振っている。ジェーンは一行へ満足気に小さく手を振り、その後ろでマクダレンは例をした。ニコラも、無事に歩き出したアースガルズを見て、ほっとした顔をする。

「──守らなければ、なりませんね」

「……うん」

 子供らが砂塵に隠れて見えなくなった頃、セシリアが呟いて、ロディがそれに頷いた。砂塵の中に雪が混じり、視界が白く吹雪いていく。

 歩きで行くよりも遥かに早くとも、日は沈み夜を越えなければならない。アースガルズのバリアにより魔獣が襲いかかる心配は無いものの、危険なのは夜の寒さと凍傷だ。一行は毛布の中に身を寄せあい、時折セシリアの杖から出る炎で体を温めながら、北へと進んでいく。

 やがて不意にニコレットが「見えた」と言った。吹雪の晴れ間が半球のドームのような障壁を覗かせる。

 

「フォトスフィア……『新しい月』の、兄弟のような人工衛星だ。衛生兵器を搭載してから三番目の月として空に浮かべる計画があったけど、その前に戦争が集結して、ずっとあそこにあるんだ……」

「あの半透明のバリアが、でしょうか?」

「そうみたいだね。見てみて、雪が触れてるのに積もってない。あれに触った途端、肉体は分子レベルに分解されて、あたりには焦げた肉のにおいがふんわり……」

「イヤな言い方するなっての。───何か対策される前にあれを壊してさっさと突撃しようぜ!」

「はい。アースガルズ、お願いします」

 

 セシリアがそうアースガルズに頼むと、アースガルズは歩き出し、フォトスフィアへと向かっていく。握った拳の半球が淡く輝き、それを振り抜くと、硝子の割れるような音と共に、絶対領界(ソルデリーター)は崩壊し消滅する。

「やりィッ! 流石ゴーレムだぜッ!」

「ここからは私達の仕事だ。行こうか」

「はいッ! ───アースガルズ、必ず生きて帰ってきますから。待っていてくださいね」

 一行はアースガルズから降り立って、雪の地面を踏みしめながら、地に堕ちた月へ駆けていく。それを、アースガルズがじっと見送った。

 

 

 フォトスフィアの内部へと侵入して直後のこと、前方の空間が歪み、一行の前に青いローブの魔族か姿を現した。

「魔族かッ!? 何しに来やがったッ!」

「……涙のかけらはこちらだ。着いてくるがいい……」

「……何のつもりだい? 親切に案内なんて、素直についていくと思ってるのか?」

「怯えているのか? お前達は臆病なのだな」

 ザックが、剣の柄に手をかけた。ハンペンがそれを諌め、ロディとニコレットは、青いローブをじっと見据えている。

 

「フォトスフィアの浮上準備が進められている。与えられた役目だけを成し遂げろ。余計な事に囚われるな……」

 青いローブの魔族は、そうとだけ言い残し、廊下の奥へと消えていく。

「……確かに、涙のかけらが向こうにある。───どうにも、彼の中身が見えないな。中身が不透明というか、そもそも存在しないのかもしれない。判断材料が少ないし、一先ずここはついていくしか無さそうだ」

「そうですね……、」

 セシリアが、胸元で手をぎゅうと握った。

 

 視界の端にちらつく青いローブを追いかけるようにして進めば、動力源らしい部屋の中央で、青く輝く命の光があった。セシリアは震える手でその光に手を伸ばし、そっと胸に抱く。

「やっと、また出会えました……もう、手放したりなどしません……」

 セシリアが涙のかけらを首から提げた時、再度空間が歪み、青いローブが姿を現す。一行は戦闘態勢をとり、ローブから飛び退いて距離を離した。

「悲しいものだな。もう少し信用してもよいものを」

「残念ですが、あなたからは隠しきれない悪意のにおいがします。あなたを信用しきることはできません」

「第一、オイラたちを涙のかけらまで案内して、目的は一体なんなのさ?」

「知れたこと。マザーを討ち果たすためだ───フォトスフィアは間もなく浮上を開始する。このファルガイアを滅ぼすためにな。その前に、このフォトスフィアを支配するマザーを倒さねばならん。マザーは身体の修復に涙のかけらから送られる星のエネルギーを吸収していた。そのエネルギーの供給が途絶えれば、例え矮小なヒトの力であっても、マザーを討つことができよう」

「一体何故マザーを……? きみたちにとっては親のようなものだろう?」

「───だが、その親に、我ら魔族の故郷の星、ヒアデスは滅ぼされたのだ」

 青いローブはそうとだけ言い残し、その姿は空間の中に消えていく。

「魔族の星も、マザーの手にかかって……そうか、通りでね。ここに来てから魔獣はおろか魔族にすら襲われていない、とっくに侵入に気付いてもいいのに」

「……わたしたち、一体何と戦っているのでしょう。まるで何かに糸を手繰り寄せられるように、誰かにとって都合のいい展開へと、向かわされている気がします……」

「……連中の目的と俺たちの目的は一致してるんだ。そのために協力してくれるってんなら、掌で踊るのも吝かじゃない。マザーだけじゃない、全ての魔族を討つまでな……ッ!」

 見据えることのできない不気味な気配を闇に感じながら、フォトスフィアの中心へ進む。

 

「待った」

 ニコレットが立ち止まる。視線の先には巨大な機械───一体のゴーレムが、沈黙しながら立っている。

「これは、リリティア……?」

「あの日連れ去られてここに置かれたのか。……動いたりしないよな?」

 一行が動く気配のないリリティアの足元を通り抜けようとした時、それを遮るかのように突如リリティアが動き出し、刹那、きらきらと空気中で何かが光り始めた。

「畜生、やっぱり動くか! 連中のやりそうな事だぜ、そりゃ使えるもんは使うよなッ!」

「これは……ダイヤモンドダストだッ! そうだ、確かリリティアはあたりを一瞬で凍らせることができるッ! オイラたちも凍っちゃうよ!」

「もしかすると外の吹雪も、リリティアの能力を使ったのかもしれないな」

 ニコレットのARMがリリティアの膝と両腕の稼働部位を撃ち抜いて、破壊した。リリティアは地面へと沈むが、尚もこちらに襲いかかろうと蠢く。

「逃げよう」

 ロディがそう言って、一行は走り出した。自動開閉式の扉は一行が通り過ぎた瞬間に閉まり、温度差によって付着した水滴が一瞬で凍り付き、扉は開くことも不可能になったが、それだけに留まる。

「やれやれ、これじゃ後戻りもできないね」

「どうにかなるさ」

 いつもの調子でザックが言った。「まあ、あんまり悲観的になってもね」とハンペンが同調し、先へと進み続ける。

「ゴーレムは、元は人間の味方だったのでしょう? 何故襲いかかってきたのでしょうか」

「再起動ついでに頭の中もいじられたんじゃないかな。ゴーレムは元から、善悪の判断は命令した主の判断に任されちゃうのが課題だったしね」

「心を奪われちまえば、人も魔族も関係ないのさ。心を失った力は、卑しき力と堕ちるが如く──騎士の心得の一つだな」

 不意にザックがそんなことを言ったものだから、思わず立ち止まってザックを見る。

「きみ、騎士の心得なんて知ってるんだね」

「気にすんな。昔聞いたことがあるってだけだ」

 難しい顔をして、立ち止まることなくザックはすたすたと歩き去るのを、慌てて小走りに追いかける。これ以上追求されたくない、という空気が背中から滲んでいた。

 

 やがてフォトスフィアの中央部へと続く扉に辿り着く。おぞましい気配がのたうち回るようにして、扉の向こうで手招きをしているようだった。

 扉に手をかけて、目配せをした。それぞれがそれぞれの決意を胸に秘め、頷き合い、そして、それを押し開いた。

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