荒野に祈る。   作:四角系

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27.「ゲートジェネレイター」

 用途不明の機械の排熱と蒸気が立ち込める、鉄壁の空間は蒸し暑く、エルゥの遺跡といった建築様式とは程遠い、無機質で温かみのない空間は、ここが魔族の拠地であると強く意識させる。

 ひとまず全員の無事と荷物の有無を確認し、各々の武器といくつかのベリーは無事だったことを見初めてから、先へと進んでみることにした。時折魔獣らしき影が過るもののそれらは襲いかかるでもなくこちらを見てはすっと消え去る。監視役か何かなんだろうね、とハンペンが言った。

 

 

「───天才は忘れた頃にやって来た───ってゲェッ!! 話す前から銃口を向けるのをやめろぉッ!」

「おや、ごめんよ。条件反射で」

「撃つなよ、撃つなよ……オレはオレの話を聞いてくれない奴には容赦しねえからな───兎に角ッ! 話を聞けよッ!」

「わかった、わかった。何の用だ?」

 大穴を隔てた向こうに靡く朱色のマフラーが象徴的な魔族───ゼットは、ニコレットの動向に気を使いながらつらつらと口上を並べ立てる。

「自分で言ってて悲しくなるが、今日の任務はオマエらの足止めよッ! オマエらに引導を渡す必殺必中の策が仕上がるまで、このオレに付き合ってもらうぜッ!」

 そう言って一行をびしりと指さしたゼットは、掻き消えるように姿を消した。ザックが大きな溜め息を吐く。

「何が起こるやら……」

 

 それから、往く先々で現れるゼットの妨害を防いだり突破したりしながら、それなりに順調に進んでいく。

 道中トチ狂ったゴーレムに襲われ、デジャヴを感じながらら応戦し、辛うじて破壊に成功した。

「───ディアブロまでもがこうも簡単にショックのパーとなッ!? ……ええい、ならば次なる大作戦よッ!」

 ゼットは扉に逃げ込んで、ガコン、という重々しい施錠音と共に、扉横の電子ロックの灯りが灯された。

「この扉の解錠には「パスワード」がいるんだぜッ! せいぜい近年稀に見る機械音痴っぷりでそこで右往左往してるがいいッ!」

「ちょっと退いてて」

 ニコレットが一行を退かせると、ARMを電子ロックへと向けて、至近距離で弾丸を撃ち込んだ。五発撃ち抜かれたところでビガガ、という嫌な音と共に、扉は勝手に開かれる。

「まさかの超暴力的解決かよッ!? ちったあ考えるアタマってのを持てよッ!」

「……どうせパスワードが「パスワード」って打つとかそういう頓智でしょ?」

「ギクッ……ええい、ままよッ! 見破られちゃあしょうがねえッ!」

 

 図星か、という誰かの呟きを後に、一行は開いた扉を潜り抜ける。先程までの暑苦しい空間とは打って変わり、ひやりとした空気とだだっ広い筒状のドームで、追い詰められたゼットが振り返り、おのれ、と激昂した。

「こうなったら奥の手よッ!! アルハのおっさんがくれたパワーをとくと見るがいい───いくぞォッ! 怪力招来ッ───!!」

 ゼットを中心にして何らかのオーラが広がっていく────刹那、ドームが大きく横揺れし、その場にいた全員がよろめく。ドームの中心にあるなんらかの機械装置が起動し、ぎし、ぎしと空間に軋むような衝撃を響かせている。

「ジェネレイターが起動しているだとッ!? 指差し確認を怠りやがったなッ! 責任者は何処のどいつだァッ!」

「───我だ」

 空間を歪めて現れた青色の騎士に、ゼットが狼狽える。

「ッ!? ジークのダンナ……ッ!?」

「ゲートジェネレイターのフルドライブだ。エネルギーの充填も終わっている。あとは転送先の座標を設定するのみだ」

「ダンナッ! そんなことしたらこの場に……ッ!」

「擬似ブラックホールが発生するだろうな」

「……なるほど、ハッタリではなく本気というわけか……」

 

 いまひとつピンと来ていない一行を他所に、ジークフリードは槍を構えた。

「ニンゲンは脆い。だが付け上がらせると、思いもかけず力を発揮することもある。我らが(マザー)を討ち果たしたようにな───だからこそ、この場で確実に決着を付けねばならんのだ」

「───ワケのわかんねえことをグダグダと並べやがってッ! 御託はいい、とっとと終わらせるぞッ!」

「───……良いだろう。超重力の顎が開き切るまで、暫時、我に付き合い願おうかッ!」

 

 

 空間の軋み続ける音が絶え間なく響く。寸刻の鍔迫り合いの後、ジークフリードは槍を支えにしてよろめいた。

「……ここまで退けられるか。だが───貴様らもここで終わりだ」

「何をするつもりか知らないが、このままじゃお前だって唯じゃ済まないぞッ!」

「確実に命を絶てる兵器があるのなら、もっと早い段階で使ってもいいはずだ。それをしないってことは、発動に厳しい条件があるか、魔族の体でさえ耐えきれない負荷があるか……というところだろう」

「───その通り。擬似ブラックホールはあらゆる物を咀嚼し、飲み込む虚の穴……無論、この我とて無事では済まないだろう───だが、我は潰えぬッ! 何故なら我はこの世界の支配者たる存在ッ! ここで終わるはずがないッ!!」

「……自儘だな。きみの支配が始まれば、きみの望むファルガイアの天も地も、汚れてくすんだものになるだろう」

 

 何色ともとれない光が一行を照らし出す。エネルギーの大渦が荒れ狂い、一点に向けて吸い込まれるような流れを『見る』。

「───無茶言うなよ、ダンナ……オレの命を……いや、自分の命をなんだと思っていやがる……ッ!」

「御託はいいッ! 道化者、転送先の座標を設定しろッ! ニンゲンの生存できぬ地であれば何処でも良いッ!」

「───ええい、自棄のやんぱちッ!」

「相棒ッ!」

「まかされた!」

 端末に向かおうとしたゼットの顔目掛けて、疾風を纏ったハンペンが飛んでいく。そのまま目の辺りに爪を立て、額を齧りながらしがみつき、ゼットが叫び声をあげた。その叫びに気を取られたジークフリードの隙を着いて、ロディが体当たりでジークフリードを突き落とし、青い騎士は巨大なエネルギーの渦中へと落ちていく。その寸前に、ジークフリードから伸びた鋼糸が自我を持ったようにロディの腕へと巻きついて、巻き添えにせんとする。ロディは咄嗟に柵を掴みそれを阻止するが、巻き付かれたままの鋼糸は殊更締め付けを強くした。

「ダンナッ!?」

「ロディッ!!」

 引き剥がされたハンペンがザックの肩まで戻り、ゼットはザックと睨み合う。セシリアは杖を構えるも、直線上にゼットがいることで動けない。

 ニコレットはロディの場所まで駆け寄ると、その体を支え、ジークフリードにARMを向け、発泡した。しかしその軌道は発生を始めたブラックホールへと軌道を曲げながら吸い込まれ、ジークフリードに当たらない。

 ニコレットは舌打ちをして、ロディの腕に巻き付いた鋼糸を外そうと試みる。

 

「───いい判断だったな。僅かな勝機に活路を見出したか……。その力、『希望』と言ったか? だが残酷なものだ。時として希望は、絶望までの時間稼ぎに過ぎぬ」

「そっちこそ、みっともなくこっちにしがみついてんじゃないぞッ!」

「ククク、我が鋼糸を外すことは、そのARMの力であっても叶わんぞ……共に亜空間の旅行を楽しむか? 我らが同胞(はらから)よ───お前は、我らが写し身だ。お前はこの世界に相容れぬ存在……違うか?」

「く、う、ぅ…ッ!」

「ロディ、耳を貸しちゃいけない……!」

 じきに、ロディが掴む柵がみし、と嫌な音をたてた。根元から曲がり始めた鉄柵はブラックホールに引っ張られるようにしてみしみしと曲がり続け、踏ん張ることが難しくなる。

「我とお前の運命がひとつに繋がれている以上、誰もこの舞台からは降りられぬ。行く末を享受するがいい───強者であれば、運命が導いてくれようぞッ!」

「───いいや、行くのは、おまえ一人だけだ。ジークフリード……ッ!」

「何を……───ッ!?」

 

 ロディが、鋼糸の繋がれた腕に、自身のARMの銃口を向けた。躊躇なく引き金は引かれ、限界まで威力を上げられたそれは、ロディの腕を一撃で千切り飛ばす。支えをなくしたジークフリードが落ちる────だが、ロディもニコレットも、それが目に入ってはいなかった。千切れた腕の断面の、銀色の金属面、飛び出した配電コード、赤色であれどヒトのものとは違う、言わば水銀の血液。────魔族のものとよく似た、機械のような無機物の身体。

 ニコレットは咄嗟にロディの千切れた腕を掴む。手袋にじわりと水銀が滲んだ。

「───う、あっ、あ、あああッ、あああ───────ッ!!!」

「ロディッ! ロディ!! やめろッ!」

 パニックと痛みで暴れるロディを、ニコレットが押さえ付ける。浅い呼吸を繰り返し過呼吸になるロディに駆け寄ったセシリアとザックが息を飲んだ。

「そんな、どうして、ロディ……ッ!」

「自分の腕を犠牲にしやがったのかッ!? 馬鹿野郎、俺はもう、そんなの沢山なんだッ!!」

「応急処置しなきゃッ! ベリーでもなんでも───」

 ロディの腕の様相に気が付いたハンペンが押し黙る。ロディは目の前にあったニコレットにしがみつき、強い力で握られたコートはびりびりと裂けていく。

 

「────ロディ。大丈夫だ」

 強く抱き締められてそう囁かれた。ロディはぱたりとニコレットを掴んでいた腕を落とし、目を閉ざす。呼吸はあった。気絶しているだけのようだ。

「ジェネレイターが暴走しちまってるッ……! ここからじゃどうしようもできねえッ!」

 端末を覗き込んだゼットが叫んだ。ロディを抱えたままここを出ることも間に合わないのは、一行も頭では理解していた。

 

「お願い……お願いします、涙のかけら、お父様、お母様ッ……───力を、貸して……!」

 それでも、希望へと縋り付く。セシリアの握った胸元の青い石が、セシリアの願いに呼応するようにして眩く輝いた。

 

 

 目を開けた時、見覚えのある景色に取り囲まれていた。アーデルハイドの大聖堂の中央で寝そべっていた一行は、起き上がってロディを探す。

 ロディはニコレットに抱えられて大聖堂で倒れていた。やはり片腕は無く、断面から金属部品が飛び出しているのを見て、セシリアとザックは息を飲む。

「そ……そんな、ロディが、……どうして……ッ」

「───ニコレットッ! 知ってたのかッ!? ロディの身体が、魔族と……ッ!」

「知らなかったよ」

 

 大聖堂が、しんと静まり返った。ニコレットはロディを胸元に抱きながら、絞り出すように告げる。

 

「知らなかったんだよ……」

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